隊員から一般常識を学ぶ④
翌日、ギルドの2階部隊隊員専用の食堂では、私服だがフードを被った少年少女が遅めの朝食をとっていた。
それを見た、隊員のうち一人が、大声で怒鳴るのだった。
「おい、なんでここでガキ2人が飯くってる!」
ドシドシと足音を立てながら2人の所へ向かおうとすると、シュンに会いにきたイアンがその男の首根っこを捕まえるのだった。
「おい! てめぇ、うちの隊長になんかようか?」
その隊員は、顔を青ざめる。 ただでさえ、いかつい顔のイアンが言った一言に驚き尻餅をついた。
「イアン副隊長。。え、隊長って。。」
イアンは、そんな男を無視して、私服でフードを被っている少年少女のいるテーブルへ向かい、対面に座るのだった。
「隊長、今日は遅めの朝食っすね。」
シュンは、椅子に座りながらも足が床に届かないため、ぶらぶら揺らしながら座っている。
リンも同じだ。
「イアンか。 ジルがこの時間までだっていうから、きた」
尻餅をついている隊員、そしてその周りの隊員たちは、イアンの態度に驚きながら小声で会話している。
「イアン副隊長が、隊長っていってたよな。 0番隊隊長が最近食堂にいるっていう噂本当だったんだ」
「ああ、あれが0番隊隊長なのか」
0番隊隊長は、ギルド最強のため皆尊敬しているが、大の人間嫌いで騒がれるのも嫌いという噂もあり、不可侵とされているため0番隊隊員以外誰も近づくことが許されない存在であった。
なので、0番隊隊員以外は、性別は男と知っているものの体形、年齢など素性はまったく知らないのであった。
そんな、周りの様子は無視して、イアンはシュンとリンに言う。
「隊長達、ここで食事するときは、隊長コートと隊員のコートきたほうがいいっすよ。」
イアンが、尻餅ついている隊員の指さしながらいうのだった
「あーいうやつらに絡まれずにすみますよ」
「うん、わかった」
◇◇◇
イアンが来たので、シュンは昨日かりたお金を返すのであった。
「隊長っていうのは、威厳があったほうがいいと思うっすよ。 足ゆらしながら座るのやめません?」
シュンは思案し、片膝をあげ、もう片足は椅子の上であぐらで座る。 アークが椅子に座るときによくする格好をまねたのだ。
「いいっすね。 それ、完璧っす。 隊長できんじゃないっすか。」
「アークが椅子に座るときの恰好をまねたんだよね」
「隊長の育ての親っすよね。 すると、すかさず『真似たんだよね』じゃなくて『まねたんだ』のほうがいいっすよ」
イアンは、会話をしながら、昨日企んだシュンの口調改革も実施するのだった。
その後も、3人は会話を続ける。
シュンが今日はパンには食パンとクロワッサンがあるというのを知ったなど、昨日に引き続きシュンの一般常識というか食の知識の乏しさを知り、教えていくイアン。 また、口調も指導していくのであった。
ただ、イアンの思惑はいい意味で外れるのだった。
シュンの吸収力は凄まじく早く、あっというまに口調はイアンの好みに変わるのであった。
「そういぇばよー。 イアンにもらった飴、おれ、気に入った。 どこで売ってんだ?」
「後で、買ってきますよ。 んで、隊長達この後どうするんで?」
「任務ねぇーし、暇だからちょっくら訓練でもすっかな」
イアンに現金を渡すのだった。
すると、お金をしまいながら、イアンが提案するのだった。
「後で他2人も合流するんで、俺らも訓練参加してもいいっすか? 飴、買って持っていきますよ」
シュンは普段、訓練は1人かまたはリンとのみで、イアン達とする事はなかった。
ある程度戦闘能力があったので、特に必要はないと思っていた。
少し考えてシュンは、棒つきの飴が気に入ったので、断る理由もなかったのでイアンの提案に合意するのであった。
◇◇◇
イアンと一度わかれ、部屋で訓練服に着替えている。
「イアンは、シュンで遊んでいる。 いいのか?」
「イアンはいい奴だし、それくらいいいんじゃねぇ。俺も、いわれっぱなしじゃねーしな」
「どう、この口調」
シュンの無表情はなくなり、ニヤっと笑っていうのだった。
リンとしても、シュンの本性に近い口調なので、違和感がなかった。
それに無表情より悪い笑みを浮かべているので良いとも思った。
「そうだな。 その口調のほうがいい」
こうして、シュンは、イアンの提案通り口調を変える事にしたのだった。
その後、シュン達はイアン達と訓練場(シュン専用)で合流し、模擬戦をしたり、魔法の訓練などをする。 イアン達にとっては地獄のような訓練となったが、シュンの戦闘能力を直に触れられてうれしくもあり文句はいわない。
元々イアンは、他部隊長よりもやや強いレベルで、他2人カイとサルは他部隊の副隊長レベルよりも高い。 リンも暗殺系と偏っているが、シュンの相棒ができるほどの強者で、カイやサルと同等だ。 皆、シュンとの訓練になんとかついてこれるレベルである。
イアン達との訓練は、シュンとしても、リンとしても思いのほか楽しく、良い経験となるのだった。