隊員から一般常識を学ぶ③
討伐任務を終えた0番隊5人の姿は、
少し照明が暗いが、多くの客でにぎわう居酒屋の6人掛けベンチテーブルにいた。 もちろん、0番隊の服を着たままである。
この店は、イアン達3人の行きつけらしく、そこにシュンとリンを連れてきたのであった。
テーブルには、さまざまな料理がおかれ、イアン達3人はエールをのみ、シュンとリンはまだ未成年のためジュースを飲んでいた。
シュンもリンも、楽しそうにイアン達と会話をしている。 シュンとリンにとってはかなり珍しい事である。
0番隊はギルド最強とされており、0番隊の服のまま現れたら注目され、騒がれると思いきや、この店の客層は0番隊を尊敬しているものが多く、邪魔をしてこないのであった。 座っている場所もやや奥で、他客の声も聞こえないため、シュンにとっては居心地が良かった。
◇◇◇
「隊長、この店ってどうっすか? 俺らと一緒なら、邪魔するやつもいねぇーし、いいでしょ」
「うん、悪くない。 この、甘いの美味しい」
行きつけを褒められて、気分のよくなるイアンだった。
「そういや、隊長、甘党なんすね。 今、隊長が食べているのは甘いのじゃなくて、『パフェ』っていうですよ。 てか、甘いものばかりじゃ、隊長大きくなれませんって」
実は、シュンは、料理に名前があるのを知らなかったのだ。 イアンがちょくちょく教えているのであった。 すると、イアンの言葉にシュンが反応したのであった。
「イアン、俺って小さいのか?」
イアンが、シュンの反応を聞いてまずいこと言ったかと思うが、ごまかす事なく言うのだった。
「そうっすね。 隊長の年齢としても、小さいほうっすね。 隊長、気にしてるんすか?」
すると、シュンは納得した顔をしながら言うのであった。
「わからないけど。。 アークが、俺は小さいから、正面から戦うんじゃなくて周りこんで戦えって言われたんだ。 その時、俺5歳だったから、小さいっていうのは年齢で小さいといわれていると思っていたんだけど、どうも身長の事なのかなって。 この前も、王ってやつの隣にいた奴に小柄っていわれたし。 帝会議でもチビっていわれたしね」
「身長は、年を重ねれば伸びると思ったんだけど、リンは去年から伸びてないっていうから違う。 どうしたら身長は伸びるのかと思って、魔力増えればのびるかと思って、この前の帝国軍の任務で試したけど、まだリンより小さいんだよね。 どうしたら、身長ってのびるの?」
すると、シュンの話を聞いていたイアン達は爆笑し、イアンが一気にエールを飲み干すのだった。
「俺らの隊長って最高っすわ! この前の帝国軍の依頼って、あれっすよね、帝になったきっかけの30万の兵を隊長1人で殲滅して、一時休戦になったやつ。 まさか、殲滅の理由が、身長のためって。 まじ、最高っすわ!! 俺、やっぱすきっすね。 隊長のそういうところ」
他隊員2人に目線を向けるとイアン。
「「隊長らしいっす。」」
そんなに、イアン達が盛り上がっている理由がわからない俺は、肝心の身長について知りたく首をかしげている。 リンも同じだ。
すると、長身痩躯の隊員、カイが口を開いていう。
「隊長、身長は」
すると、イアンがカイの口をふさぎ、耳元でなにかをいうと、カイもにっこり笑うのであった。
何をしているか理解できない俺とリンは、まだ首をかしげている。
「隊長、身長はまだ伸びますって。 心配しなくても、俺らとちょくちょく食事にいけば伸びるかもですよ。」
「ふーん、そうなんだ。」
そして、イアンは、いかつい顔に笑みを浮かべていうのだった。
「あと、隊長っていう立場は、隊員の面倒を見なきゃいけないんですよ。 なんで、俺らと食事行くときは全部隊長が払ってください」
「お前らと食事行くと身長が伸びるかもなんだね。 隊長が食事代を払うのが一般常識っていうやつなのか?」
「「「「そうっす」」」
イアン達は嬉しそうにいうのだった。
「うん、わかった」
イアン達の言葉を聞いて、俺は納得した。リンはリンで、シュンが納得しているので特になにも言わず聞いている。
こうして、イアン達は、10歳以上の離れた年下の隊長を自分たちの金ずるにすることに成功したのであった。 彼らの企みは成功したのであった。
◇◇◇
早速、シュンが合意したのを確認したイアンは嬉しそうにいうのだった。
「じゃぁ、ここもよろしくです」
イアンと一緒にシュンを会計に連れていくのだった。
だが、この店はギルドカードが使えず、現金のみで、食事代は他の店と比べて良質のものを提供しているためやや高めである。 そのため、イアン達も行きつけにしているが、これても週1度がやっとである。
なので、イアンはシュンを金ずるにした。 そうとは知らないシュンは、カードが使えないのを知って少し困っている。
「イアン、俺 現金もってないよ。 どうすればいい?」
「俺が、今日は現金で払っておくんで、明日返してくれればいいっすよ。 ちなみに、現金はどうすれば換金できるか知ってます?」
素直にシュンは首を横にふりながら言うのであった。
「現金の換金方法はしらないから、あとでジルにきくよ。 明日、ギルドにきて」
「明日、ギルドにいくっす」
その後、未成年のシュンとリンをギルドまで2人を連れて、別れるイアン達だった。
「じゃあね」
「隊長、じゃあね、じゃなくて『じゃあな』のほうがいいっすよ」
「じゃぁあな」
シュンは、これも一般常識なのかと思い言って、リンと一緒にギルドの中に入っていくのだった。
シュン達と別れたイアン達
「なぁ、イアン、どういう事だ?」
イアンが口元をにやっとしながらいうのだった。
「今まで、隊長達って任務終わったら、さっさと帰っちまったじゃん。 でもよ、これからは違うし、今日いろいろ聞いて、隊長ってすげー面白くねぇ。 だから、隊長を改革しようと思ってな。 まずは、口調だな。 威厳のある口調にさせようぜ。 お前らも協力してくれよ」
すると、カイと中背の筋肉隆々やんちゃ顔のサルも、口元をにやけさせながらいうのだった。
「「ああ、賛成!! 隊長おもしれぇーから、やろうぜ!」」
イアン達3人は、シュン改革にノリノリであった。
◇◇◇
一方、シュンとリンはすでに部屋でくつろいでいた。
「シュンは、イアン達が好きか?」
「イアン達はいい奴ら。 魔力の匂いと質がいいから、隊員にした」
シュン言語の魔力の匂いはわからない、リンは少し考えて聞くのだった
「アークは好きか?」
「うん、アークは暖かい匂いが大好き」
「そうか」
リンは、イアン達とシュンの距離感を知りたかったのであった。 イアン達はリンがシュンに会う前から、0番隊の隊員だった。なので、シュンがどう思っているか知りたくなったし、今後彼らとの関係でシュンがどうなっていくか楽しみでもあった。
◇◇◇
シュンはジルに現金の換金方法を聞くためにジルに会いにきた。
ジルに、イアン達と食事に今後も行く事になるためと、現金が必要になった事を告げると、ジルは大いに喜んだ。
イアンに借りたお金がやや高いなと感じたジルではあったが、それよりもイアン達と今後も行動するというシュンの変化がうれしかったのであった。
ジルは、換金の仕方をシュンに教えるためギルドの1階受付に連れてきていた。
0番隊隊長の登場にさすがに受付にいる人たちは驚くが、特に騒がないように努め、ジルに呼ばれた男性が対応する。 女性陣は、残念そうな顔をするが、この男性は受付長である。
今後、彼がシュンの換金に対応するようにジルが命じるのであった。
ジルからの命令は絶対なので、快く引き受け、シュンの換金を対応する。
ちょくちょく来るのは面倒だろうと、とりあえず金貨100枚を換金させたジルだった。
ジルも少し金銭感覚がおかしいので忘れていたが、そう、シュンとリンに物価を教えていないのである。
そのため、イアン達におごる事で、シュンは散財するのであるが、既に財力があるので困る事はなく、この常識を教えるものは誰もいないのであった。そして、ジルが最初にシュンに換金させてた現金は金貨100枚(100万G)であり、シュンは現金は常にこのくらい持たないといけないと思うのであった。