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依頼を終えて

 西の空が暗く染まりはじめ、東の空を夕陽が赤く輝かせる時。

 この時間はダンジョンに潜っていた冒険者達が一斉に帰還しはじめ、ギルドも慌ただしくなる時間帯だ。

 そんな人々でごった返すギルドの中を進み、受付まで辿り着くと、受付嬢がぎょっとした顔で我々を見つめ、恐る恐るといった感じで口を開いた。


「ず……随分と苦労されたようですね……」


「まあね……」


 驚くのも当然だろう。片や狂化で膨れ上がった筋肉とマンイーターの攻撃で装備の袖がビリビリに敗れ、鎧までもズタボロになった戦士。

 片やマンイーターの粘液で全身から粘ついた粘液を垂らし、法衣も大部分が溶かされるか裂かれるかして惨めな姿を晒す神官だ。

 受付嬢のみならず、道中の町人や冒険者たちもジロジロと珍しいものを見るかのような目で見てきた。くそ、見世物ではないのだぞ!

 そんな私達を前に、受付嬢は溜息をつきながら呆れた様子で続ける。


「キラープラントの根の採取で大分苦労したようですね、それで根の部分は……」


「ふふん、勿論あるとも!それに……キラープラントだけではない、マンイーターの素材もだ!」


 言うと、キラープラントの根の入った袋と、それとは別にマンイーターの討伐部位の証明となる花弁の一部を詰めたズタ袋をカウンターに出す。

 マンイーターという言葉に訝し気な表情を見せた受付嬢だったが、袋の中身を確認すると、驚いた様子で目を見開く。


「これは……本当にマンイーター!?えっ!?本当に討伐したんですか!?Eランク二人で!?どうやって!?」


「あっ……え……ええと、それは……」


「やれやれ、私達を疑うというのか?天才神官カミラ様の実力であればマンイーター如き屠るのは容易いことだよ!ふふん、どうだい?依頼達成の報酬にも色をつけてもらってもいいのだよ?」


「あっ、それは依頼内容に含まれていないので無理です。まあ実績にはなるのでランクの判定には加味させていただきますね」


 私の自信満々の態度に、受付嬢はさらりとそう言って流すと、依頼達成報酬としてカウンターに銀貨を2枚だけ差し出した。



―――――――――――――――――――



「……あれだけやって銀貨2枚か……」


「分けたら一人につき1枚だね、はいカミラさん」


「うむ……ありがとう……ではなく!!」


 納得がいかん!私は銀貨を受け取って唸りながら頭を抱えた。

 ギルドで依頼達成報告を済ませた後、私達は一度宿に戻り、水浴びを済ませてからとある酒場に集まっていた。

 報酬の分配と今後の話、ついでに夕飯を済ませる為だ。

 しかし……はあ、と大きな溜息をつきながら今しがた手渡された銀貨を見つめる。

 あれだけやって銀貨1枚……マンイーターを倒したのに金にはならずか。

 マンイーター退治の依頼を受けたわけでも、素材の納品依頼でも何でもないので、当然と言えば当然なのだが……それでもこの私の努力と才能が認められないのは納得がいかん!

 やはり女の子となるメリットよりも、女の子になってしまったデメリットの方が大きかったのでは?そんな考えが頭を過ぎる中、眼前に座るリガスが口を開いた。


「カミラさん、今日はありがとう。本当に助かったよ」


「ん?ふふん、まあな、私は天才だからね!」


「はは、本当だね……さっきもマンイーターを討伐したって話になった時、どう答えるべきか迷ったんだけど……カミラさんが庇ってくれたおかげで本当に助かった!」


「ん?庇った?うん?ま、まあな?」


「うん、俺の狂化能力は見ただろう?アレがギルドにバレてたら俺はもうダンジョンに潜らせてもらえなかったかもしれない」


 なるほど。確かに怒り狂った狂戦士というのは厄介だ。

 敵味方構わずに攻撃を仕掛け、しかも素早く、力強く、体力もある。

 当然、ギルドとしてはそんな奴を他の冒険者も集まるダンジョンに野放しにしておくわけにもいくまいし、パーティを組ませるわけにもいかないだろう。

 まあ、その辺り実際どうなるかは私にはわからないが、少なくとも冒険に制約は与えられるに違いない。隷属化の呪いなり何なりで制御されるとかな。

 そうなったら大変だろうが――


「ま、私にとっては貴様が狂戦士として暴れようが、制御されようがどうでもいいさ。かくいう私も相当自由にやっているつもりだしね」


「――そうか、はは、ありがとうカミラさん」


「しかし、わざわざそんな危ない橋を渡らなくとも、貴様ほどの実力があればダンジョン探索以外でも稼ぐ方法は山ほどあるだろうに。このダンジョンに固執する理由でもあるのかい?」


「ああ、そうだね……俺は、このダンジョンに眠る神具を手に入れて、この狂戦士化を治したいんだ」


「――ほう?」


 そこから勝手に語り始めた話によると、リガスの狂化はどうやら後天的に得た物らしい。

 子供の頃、半死半生の怪我を負った際に、旅の魔術師が治療と称して呪いをかけていったそうだ。

 実際それで死の淵から生還したのだとしたら、確かに治療は治療なのかもしれないが、よりによって狂化の呪いとは……そもそもこの呪い自体が相当に高位な術の筈だ。

 恐らく、魔術師は新たに習得した呪いの実験台として死にかけた子供を利用したのだろう。

 余程に高位な魔術師であると同時に、相当に性格の悪い外道らしい。

 ましてや生死を彷徨っている時に肉体に深く刻み込まれたこの呪いは、リガス本人の命とも密接に結びついている複雑なものだ。

 私のような高位神官であっても解くのは不可能……というか、無理に解いたらリガス自身の命も同時に失われるだろう。

 それを回避するには、それこそダンジョンに眠る神具で願いを叶えるしかない。ということか。

 理由はどうあれ、呪いを前にして諦めずにダンジョンの最奥へ挑もうとする気概は立派なものだ。まあ私ほどではないが。


「その為にもランクは上げたいし、狂化をギルドにバレるわけにもいかない。それと……誰かとパーティを組むわけにも……」


「ま、確かに今回は無事に戻せたとはいえ、私も襲われかけたのは事実だからね」


「うん……俺は間違ってカミラさんを手にかけるようなことはしたくないし……パーティは解散すべきだと思う、少しだけ寂しいけどね……」


「……そうか」


「ごめんね、カミラさん」


「いや、いいさリガス、それじゃあ、また」


 そう言って私は腰を上げると、別れの挨拶を済ませて酒場を後にする。

 狂戦士リガスか。

 実際のところ一人でどこまで頑張れるものか、気になるところではあるが……ま、私ももう奴と駆け出し神官カミラとして出会うことはないだろう。

 今回のことで理解したが、女子になってパーティを組んだところで然程のメリットがあるようには思えないからな。

 さっさと宿で解呪を行い、この呪われた首飾りを魔道具屋に売り払うとでもしよう。

 そう考えながら、私は日の沈んだ道を一人、歩いて帰るのだった。

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