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夜の魔物

 夜も更け――と言っても迷宮の中なので夜なのか朝なのかも曖昧ながら、腹具合からして恐らくは夜でしょう。

 ぐつぐつとスープを煮込む音と、数グループの冒険者が話し合う声が聞こえる迷宮第二層の広場では、拙者――ヌンの所属するパーティも夕飯時といったところです。


「拙者は初めての迷宮二層でしたが……本日は無事に探索が終わって何より!上々ですな!」


「だな、これも例の武具屋のお陰だ」


「ああ、思ったよりもずっと良い装備だった。状態異常にも強いし、買って正解だったぜ」


 そう言うと、拙者と共に鍋を囲むパーティの仲間、戦士のホフマンと、斥候のリーがそれぞれ身に纏った装備を撫でます。

 何を隠そう、このパーティの皆は例の武具屋、ブラッディーストライクで出会い、意気投合したのです。

 不思議な魅力があり、何故か引き込まれるあの店の武具の数々を買う為に、迷宮一層でせこせこ金を貯め、ようやく武具一式を揃えたところで二層の攻略に乗り出しました。

 拙者もご多分に漏れず、あの店で買った鎧のお陰で今日は助かりました。

 突如として襲い掛かってきた大蝙蝠の牙をこの鎧は見事に防いでくれたのです!

 それに、この魔石が嵌め込められ、炎の魔力を有した槍。

 特殊な品とはいえ、結局は店売りの物なので、細かい炎の調整などは出来ませんが、それでもアンデッドの多いこの階層では重宝するものです。

 これさえあれば今後の冒険も順調に行くだろう。そんな予感を感じさせてくれますね。

 と、眼前のホフマンがスープを頬張りながら、辺りを見回して口を開きました。


「そういや、俺達以外にも結構な人数があそこの装備使ってるみたいだな、やっぱり良い物ってのは売れるもんだ」


「俺もさっき見たけど俺達以外の他のパーティも結構あそこの装備してるの多かったぜ」


「さもありなん、今後はますます売れるのかもしれませぬな、店長殿も商売繁盛で喜ばしいことでしょう」


 ふと広場を見回すと、確かに他の冒険者の方々も私達と同じような武具を手に持っていました。

 ブラッディーストライク店長が優し気な笑みを浮かべながらも、商売繁盛と喜ぶ様が目に浮かぶようです。

 あの店が特別人気になる前に買い求めることのできた私達は幸運だったのかもしれません。

 と、他の冒険者とあの店と言えば――


「そういえば、あの神官様のパーティはまだ起きてこぬようですな」


「ああ、あの戻ってきて早々に倒れてた連中か、一体どこまで冒険しに行ったんだか……」


「あんだけ無防備にテントから寝息こぼすくらいだもんなあ……折角の冒険の成果を誰かに盗みに入られるんじゃねえかって不安になるぜ」


「むむ、リーさん、いけませぬぞ、冒険者同士の窃盗は厳罰にて」


「わかってる、わかってる、ただちょっと危なっかしいなって話だよ」


 言いながら手をぷらぷらと振るリーさんをじっと見ると、拙者は例の彼女らのテントに視線をやります。

 恐らくは、冒険から戻ってきてまだ寝ているのでしょう。

 確かにリーさんの言う通り、無防備すぎるような気もします。

 冒険者同士での窃盗や強奪は厳罰に処される、とはいえ、バレないように掠め取る輩が出てきて、折角の冒険の成果が全て奪われるということも有り得なくはないでしょう。


「で、あれば――その前に、拙者が殺してやるしかありますまいな」


「……ん?」


「ヌン?お前、なんて?」


「やや、拙者、何か妙なことを言いましたかな?」


 私の発言に、ホフマンさんとリーさんは、驚いたように目を見開いてこちらを見ます。

 はて、何やらおかしなことを言いましたかね……?

 拙者は……あのような無防備な輩は殺して装備を奪うべきだと思うのですが……ん……あれ……?

 いや、いやいや、何を馬鹿な……冒険者同士の窃盗・強奪は罪だと先程言ったばかり……ん……何故……?

 何故、殺してはならないのか?

 殺すべきでは?

 殺して――宝を……あの首飾りを、奪う、べき、では……?

 突如として割れそうに痛む頭を抑え込みながらも、私は傍らに立てかけた炎の槍を握ると、再びホフマンさん達に問いかけます。


「殺さねばなりませぬ。あれを」


「……ああ、ああ、そうだな、殺さないとな?」


「そうだ、そうだよな、俺達は……そうしないといけない」


 良かった。二人も正気を取り戻したようですね。

 そうです。私達はあの神官様を、その仲間を殺さないといけないのです。

 それが――今、下された命令なのですから。



―――――――――――――――――――



「ん……」


 迷宮の闇の中、不意に私はぽつりと目を覚ます。

 寝ぼけながらも、むくりとテントの中で上半身を起こし、伸びをすると、両脇に転がる二人をちらりと見る。

 カミラさんと、リガスさん、どうやら二人はまだぐっすりのようだ。

 けれどもそれも当然だろう。二人共、今回の依頼では何かと色々してくれたのだ。

 片隅で隠れながらちょこちょこ石化の魔術を撃っていた私とは違う。

 

「んく……体も……あまり疲れてないかな……」


 私の場合は魔力こそそれなりに使ったものの、あまり肉体的な疲労は溜まっていない。

 背嚢に入れたメタルスケルトンの骨は重かったし、帰りの上り階段も辛かったけど、それだけだ。

 で、あれば……折角だ、早く目覚めた分、少しでもパーティの訳に立たないと、そう考えた私は、スープか何かでも作ろうかと辺りを見回し、食料品を入れた袋を探す。

 と――違和感に気付いた。

 テントの布地からチラチラと漏れて見える炎の灯……恐らくは、他の冒険者が点けた篝火なり、松明なりの灯なのだろうが……

 それが段々と、こちらに近づいてきている。

 まさか盗みでも無いだろうけど……そうだったらどうしよう……などと考えながら、テントの隙間からチラリと外の様子を伺う。

 すると、ゆっくりと、何人もの冒険者が歩みを進め、こちらのテントを取り囲んでいるのが一目で分かった。

 しかも……冒険者達の手元に目をやると、何人かの冒険者は紛れもなく、武器を持っている。


 尋常ならざる様子を察した私は、慌ててテントの中に戻り、買ったばかりの銀蛇の杖を手に取る。

 すると、私のその動きに気付いたのか、周りを囲んでいた冒険者が、一気にテントに駆け寄り、それぞれが手に持った武器をテントに向けて――


「かっ!硬いブレイク!!」


 ――テントに向けて幾多の刃が降り注ぐ瞬間、私は慌ててテントそのものを強固な石に変化させる。

 と、同時、カン、カンと、硬い刃がこれまた硬い石にぶつかり、弾かれる音が何度も何度も折り重なってテントの中に響いた。

 わけがわからない、どうなってるのか、何が起こっているのか。


「かっ、かっか、カミラさん!リガスさん!起きてくださいよぉ!」


 わからないながらも――私は必死に、隣に寝転ぶパーティメンバー二人の名を叫ぶのであった。

 

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