まどろみ
「よし、こんなものか……ふふふ、大収穫だな!」
私は上機嫌でそう口にしながら、拾い集めたメタルスケルトンの骨を背嚢に仕舞い込む。
依頼の討伐対象であるメタルスケルトンの骨はギルドに高く買い取ってもらえるし、討伐証明にもなるから私達のランクも上がる。
ランクが上がれば、そのうち迷宮の未踏破地域への調査依頼なんかも優先的に回してもらえるようになる筈だ。
その時が今から待ち遠しいな。
などと、気分良く大量の素材を眺める私の背後で、他のスケルトンの素材を回収していたリガスが呟いた。
「そういえば、この棺って何か入ってたりしないのかな?」
「えぇ……か、棺ですよ……開けたら罰が当たるというか……中からすごく強いアンデッドが出てくるんじゃ……」
「ふふん、安心しろトゥーラ、その棺桶からは何も出てこないとも!」
私は棺を囲んで話す二人の間に割り込み、意気揚々と説明する。
そもそも、この棺に関しては前にジョー達と来た時にちゃんと調べたのだ。
結果は空。
残念ながら、棺には何も入っておらず、ボスモンスターが出てくることも無ければ宝があるわけでもなかった。
元から何も入っていない空の棺だったのか、それとも私達が来る以前に誰かに宝を持ち去られたのか――あるいは、中に入っていた何かがひとりでに外に這い出たのか。
真相は謎だが……ま、とにかく何も入っていないことは確かなのだ。そんなものに頭を悩ましても仕方あるまい。
「そもそも、ダンジョン自体がどういったものなのか未だにわかっていないのだ。この宝物塔はいかにも人工的な建物ではあるが――果たしてこれは本当に人が作ったものなのか、作ったとしたら誰が何の為に作ったのか?とかだな」
「迷宮の神秘というやつですね……カミラちゃんは、そういうの調べたりするんですか……?」
「ふふん、探索の為に必要な知識なら一応は学ぶが、別に謎を解き明かしたいとは思わないね!私がしたいのは神具を手に入れて私の名と名誉を世界に知らしめることだけさ!」
「いかにもカミラさんだなあ」
「ですねぇ……」
と、私が目標を声高らかに宣言すると、リガス達は呆れたように微笑を浮かべながら、拾った骨を背嚢に詰め始める。
はっ、どうやらこの私の崇高な目的が理解できないと見える!
まあ天才の目指すところは凡人には理解できないものな!仕方のないことだ!
ともあれ、未だ目指す頂は遥か遠く、今の私はメタルスケルトンの骨を持ち帰るだけで精一杯だが……
「ま、これでも十二分の成果と言えるだろうさ!一度キャンプに戻って、休んでから地上に戻ることとしよう!」
「私もです……もう魔力がすっからかんですよぉ……」
「ふふん、なんだなんだ、情けないな……ま、私も神聖力が尽きかけてるわけだが……」
「……まさか今戦えるのって俺しかいない?」
私とトゥーラの会話に、リガスが振り向くと、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で問いかける。
確かに、まあ、うん、メタルスケルトン戦で神聖力を殆ど使ってしまったし、思えば帰り道のことは忘れていたが…………なんだ……うん、頑張れリガス!
そういう気持ちを込めて、私が美少女として出来る最大限の笑顔をリガスに向けて、親指をグッと立てると、リガスは一際大きい溜息を吐いた後、こころなしか力無く背嚢を持ち上げるのだった。
―――――――――――――――――――――――――
「やや、お戻りになられましたか!神官様達……どうかなさいましたかな?」
「はぁ……はぁ……な、なんでもないです……」
「死にそう……」
「はひ……へぇ……な、なんだ?情けないぞリガス……こ、この程度で……私は天才だから大丈夫だがな、ふ、ふふん!」
結局、墓場からキャンプまで戻る道中でも何度か魔物に襲われ、その度にリガスが撃退していた。
とはいえ、流石に一人に任せるわけにもいかないので、トゥーラは杖で、私はメイスで僅かながら応戦していたのだが……
結果として皆、満身創痍とも言える状態だ。
キャンプで出迎えてくれた鎧女のヌンも、慌てて消耗した私達を回復の泉へと促す。
泉の水を汲み。ごくりと飲むと、冷たい水が乾いた喉を潤し、体に活力を与えてくれる。
衰えた神聖力も瞬く間に回復していくのが分かる。
これがあるから回復の泉というのは助かる!
が、泉の水によって肉体的な傷や、消耗した魔力・神聖力が回復するとはいえ、精神的な疲労はまた別だ。
私達は水を飲むと、すぐさま背負っていた背嚢をキャンプの前に降ろし、その場にへたり込む。
「つっ……かれたぁ~~~……」
思わずそんな声を出してうなだれる私達の姿を、ヌンがしげしげと眺めながら、問いかける。
「ははあ、余程の危険地域にまで冒険に出掛けたようで……第二層まで来るのですからE級というわけでもないのでしょうが……あまり無理してはいけませぬぞ?」
「ふ、ふふん……時には危険に身を投じなければ得られないものというのもあるのだ……貴様らのパーティこそ、冒険には出掛けなかったのか?」
私達より遅く出発した筈のヌンのパーティは、今、私達より先にキャンプに戻って休んでいるようだった。
キャンプの前で談笑する何人かの冒険者の顔には、そこまでの疲労の色は見えない。
「は、拙者らはまだ第二層に不慣れなもので……此度は初日ということもあり、手近なところを軽めに探索して戻った次第です。やはり命あっての物種ですからな!」
「正論だね、カミラさん」
「明日は休みにしましょうよ……」
「っは~!だらしのない奴らだな!泉の水でしっかり回復したろうに……まあ、それはそれとして、明日地上に戻ったら休日を取ることにはしようか……ふぁ……」
私は疲れた口調で口々に文句を言う二人に対しそう返しながらも、自分でも相当に疲労が溜まっているのか、思わず大きく欠伸を漏らす。
これではいかん、と、寝ぼけた目をこすりながら、最後の力で背嚢をテントの中に仕舞い込むと、私達はそのままテントの中で横になった。
「……ゆっくりと寝て疲れを癒しなされ、神官様、良い夜を」
テントの外でそう呟くヌンの声を耳にしながら、私達はうとうとと、深い夢の中に落ちていくのであった。