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宝物塔

 迷宮第一層の森林地帯を通り、中間地点を経由して更に進むと、木々の立ち並ぶ中に佇む石造りの遺跡が現れる。

 その遺跡に入ってすぐの大階段を降りると辿り着く先。

 そこが迷宮第二階層、通称『宝物塔』だ。

 石造りの壁に囲まれ、迷路のように入り組むそこは、正しく迷宮と言うべきだろう。

 私達は今、その宝物塔の入口――最上部から少し入った通路を進んでいた。


「わーっはっはっは!雑魚!雑魚!雑魚め!」


「ちょっ、か、カミラさん!早いって!」


「はっ、問題ないさ!こいつらは神官にとっては!餌!同然!」


 私はそう高らかに声をあげながら、モーニングスターで眼前のスケルトンの頭蓋を叩き割る。

 後ろからリガスの諫める声が聞こえるが、そんなもの別に聞く必要は無いな!

 なにせ相手はスケルトン!そして私は神官!天才の!

 神官の持つ神聖力はスケルトンやゾンビ等のアンデッド系の雑魚を寄せ付けず、その場にいるだけでも優位に立てる!


「更に――ブレス!」


 指先に神聖力を込め、生じた光の玉を通路の角に集まってきたゾンビに向けて放つ。

 すると、一瞬激しい光が瞬き、ゾンビ達が、さながら水に濡れた砂の城のようにボロボロと崩れ去った。

 神聖術には攻撃力のある術が少ない。あっても、ホーリーハンマーのように神聖力を多く使う高位の神聖術ばかりだ。

 が、しかし!アンデッドに対してはその限りではない!

 先程のブレスの術も通常であれば、単に眩しい光が出るだけの術だ。

 が!その光はアンデッドに対しては特効も特効!浴びただけで苦痛にまみれ、のたうち回る……いや、痛覚は無いから別にそうはならないのか、とにかくアンデッドには無敵ということだ!


「ははははは!これが天才神官様の本来の実力と言うもの!さしずめチートな天才神官様の迷宮無双といったところだ!」


「ふへぇ……そのセンスはどうかと思いますけど……」


「何故だ!良いだろう!このタイトルで将来的には私の自伝として……おっと、通路が終わるか?」


 私の最強無双っぷりでアンデッド達を蹴散らしながら通路を進んでいるうち、どうやら通路が終わり、広間に出たようだ。

 広間には既に汚れてボロボロながら、かつては美しかったであろう絨毯が敷かれ、同じくボロボロのテーブルと椅子がいくつか置かれている。

 この階層にはこういった人が暮らしていたような形跡のある場所も多い。

 本当に人が暮らしていたのか、はたまた迷宮が作り出したものなのかは謎だ。


「とにかく、ここで少し休めそう――」


「カミラさん!上!」


「上――うわっ!」


 と、リガスが叫んだかと思うと、次の瞬間、私に抱き着きそのままゴロゴロと転がる。

 なんだなんだ、こいつ急に興奮でもしたのか!?これだから狂戦士は!

 私がリガスに文句を言うが早いか、先程まで私が立っていた場所に、ズシン、と地響きを立てて勢いよく何かが落下する。

 落下してきたものは、固く、黒い剛毛に全身が覆われ、凶悪な豚面に、大きな翼を持った魔物……大蝙蝠だ!

 残念ながらこいつはアンデッドではないので、私の対アンデッド最強戦闘術は通用しない。

 それを分かっているのだろう、私が立ちあがるよりも早く、リガスが蝙蝠に向かって走り出す。

 爪――どうやら、あの魔道具屋の爺さんに借り受けたらしい。

 やっぱり魔剣なんかより神聖武器だ!あの爺さんもたまには分かっているじゃないか!

 ともかく、その爪を勢いよく蝙蝠に突き出すリガスだったが――


「ギィィッ!」


「っと……くそっ!」


 爪が当たるよりも先に、蝙蝠はけたたましい鳴き声をあげ、砂煙を撒き散らしながら、広間上空へと退避する。

 思わずつんのめりそうになりながらも耐えるリガスだったが、蝙蝠はそんなリガスをおちょくるように上空をばさばさと羽音をかき鳴らしながら飛び回る。

 そうしてぐるりと旋回し、獲物に噛みつくべく牙を向ける蝙蝠だったが――


「ブレイク!」


 広間に響いたトゥーラの声と同時、蝙蝠の羽が石化し、そのまま迷宮の床に落下する。

 何が起きたか理解できなかったのだろう、石化し、砕けた羽を尚も動かそうともがく蝙蝠だったが、無情にも羽から全身に石化が広がり、さほどの時間もかからないうちに物言わぬ石像へと姿を変える。


「助かった……ありがとう、トゥーラさん!」


「ああ、やるじゃないか!私ほどではないが!私ほどではないがな!!」


「うへへ……あ、ありがとうございます……!」


 口々に褒める私達の言葉に、トゥーラは杖を握りしめながら、恥ずかしそうな様子ではにかむ。

 トゥーラが握っているのは白木に銀の蛇の装飾が施された魔術師の杖――これもあの爺さんの店で買ったらしい。

 よほどにトゥーラ自身の魔力に馴染むのか、石化のコントロールが以前より巧みになったそうだ。

 元々の魔力が高かったのもあり、だいぶ頼りになるようになったのではないだろうか。私ほどではないが!

 と――落ち着いたかに見えた私達だったが、先程の戦闘の音を聞きつけたのだろうか、広間のそこかしこからゾンビの呻き声、スケルトンの骨がカチャカチャと鳴る音、それに蝙蝠の羽音が合唱となって響き始める。


「休ませてはくれないようだな、は、構わんともさ!トゥーラ!蝙蝠は貴様担当だ!私はアンデッド殲滅無双!」


「は……はい!」


「カミラさん、俺は……」


「リガスは適当に頑張れ!」


「あっ、うん……」


 少ししょんぼりした様子のリガスを差し置き、私は手にしたモーニングスターでアンデッドを浄化する作業に戻るのだった。



――――――――――――――――――――――――



 迷宮第二層、宝物塔。

 ここは先程の広場のように、人為的な広間、家具、物、様々なものが存在する。

 それらは人にとっては貴重な宝となる場合もあり、ここまで潜れる冒険者は必死にそれらを地上へ持ち帰ろうとする。故に宝物塔。

 ま、私達が目指すのは迷宮深部だけなので、そこまで宝に惹かれるわけでもないが――有難いのはそんな人為的な部屋が多い、ということだ。

 広間を突破し、迷路を突破した私達は今、また別の広間――噴水のような回復の泉が湧きだす安全地帯にてキャンプを張り、休憩することとしていた。

 迷宮内部とはいえ、安心してゆったり休めるというのは有難いことだ。

 第一層のような開けた場所では回復の泉が湧いていても安心できるとは限らないからな。

 ささやかな幸せを噛み締める、そんな私の眼前で……


「はぁ……」


 リガスががっつり肩を落としていた。


「ええい、鬱陶しいな、リガス!爪の間合いを把握できなくて攻撃スカしたり、それで私に回復してもらったり、盾が無いのを忘れて思い切り敵の攻撃を受けた程度でウジウジと!」


「それだけ失敗してれば普通は落ち込まないかな!?」


「私は落ち込まん!天才だからな!私がダメな時があるとしたら相手が悪いのだ!」


「あの……カミラちゃんのそういうところ……普通の人は真似しちゃ駄目だと思いますよ……?」


 なんだ、失礼だな。私が普通の人間じゃないみたいな言い方をするじゃないかトゥーラめ。

 ま、天才だからな、普通の人間じゃないというのは確かか!うん、なら褒め言葉だな!良しとしよう!


「とにかく、今までロクに使っていない爪に慣れていないのは仕方あるまい!戦闘の中でさっさと適応させれば良いだけだ!良いな!」


「簡単に言うなあ……」


 はあ、と溜息を突きながら、リガスは手にした爪を眺める。

 ま、最悪、爪が使い物にならなかったらあの爺に返せば良いだけだからな、別にモノにならなかったらならなかったで構うまい。

 トゥーラの杖はちゃんと効果を発揮しているのだし、これだけでもあの店を紹介した甲斐はあるというものだ。


「装備って言えば……カミラちゃんの、それはどうですか?」


「ん?うむ、まあ、恥ずかしいのは恥ずかしいが……悪くは無いんじゃないか?恥ずかしいが……」


 トゥーラの言葉に、はた、と、私が今着ている装備のことを思い出す。

 ブラッディーストライクで買った、あの太腿がやたらに出る装備だ。

 一応は上から外套を羽織ってはいるのだが、それでも脚がやたらと見えてしまって少し恥ずかしい。

 まあ、幸いにして戦闘中は意識している暇も無いし、心なしか調子がいい気はするので、特に問題は無いだろう。

 相手がクソザコアンデッドばかりで防御性能を確かめられないのが辛いところだ。は~、私が強すぎて辛い!私が天才なばかりにな!困るな~! 

 などと考えながら、外套の下の装備をチェックする私の背後で、広間の扉がギィ、と音を立てて開いた。

 すわ魔物か、と警戒を強める私達だったが――


「……ややっ!これはこれは!いつぞやお会いした神官様では!?」


「なんだ、ヌン、知り合いか?」


「はい!ふふん、これも縁というものですな!」


 扉を開けて現れたのは、また別の冒険者グループ……この間ブラッディーストライクで会った鎧女、ヌンとその一行だ。

 相も変わらず、やけに仰々しい鎧を着こんだヌンの他、三人のパーティメンバーも皆、ゴテゴテとした装飾過多な装備を着込んでいる。

 恐らくは皆、あの店で買い求めた防具なのだろう。

 ……アレと同じ店を使った思われると、私も仲間のようでちゃんと恥ずかしいな。

 などと思いながら、私達同様にキャンプの準備を始めるヌン達を見ていると、隣で見ていたリガスがまた、はあと溜息をついて呟く。


「やっぱり俺も、あそこの魔剣にしとけば良かったかな……」


 それはどうかと思う。



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