いざ休日
「……って感じで、本当に凄かったんだよ!ジョーさん!本当にあれぞA級冒険者って感じだ!」
「はぁ~~!?私の方が凄いんだが~~!!?」
バジリスクを倒した翌日、私達はいつも通りギルドの広間にて顔を突き合わせていた。
結局、あの調査依頼はどうにか達成できたらしい。
らしい、というのは私が不覚にもバジリスクによって石化させられていたからだ。
話を聞くに、それからジョー達が駆けつけて他に数体いたバジリスク達を撃破したらしいのだが…
「いやいや、カミラさんはジョーさん達の実力を見てないからだよ。凄かったんだから!あれぞAランクパーティだね!」
などと、すっかりリガスはジョーに心酔しているようだ。
は~、全く、腹が立つ!
私だってあいつなんぞに後れを取らない……いや、あいつよりも優れている筈だ!
だというのに私よりもジョーなんかを……まあ……だが神官とは補助と回復に回るのがメインの職業であるし?
その有能さは見る目の無い凡人には見抜けまい!ふん!
愚鈍な戦士に私の才能を見抜けないのも、ある意味では当然だ。仕方あるまい。
が……それはそれとして、あれだけジョーに関して明るく話すリガスを見ると、なんだか心にモヤモヤするものを感じるな……
まるで私といる時よりもジョーといる時の方が楽しいみたいじゃないか。
くそっ!気に食わないな!私は天才なのに!リガスにはこの私とパーティを組めることの幸福をもっと噛み締めていてほしい!
そんな私が眉間に皺を寄せているのに気付いたのだろうか、慌てたようにリガスが話を逸らす。
「あっ、ええと、それより……カミラさん、体は大丈夫?」
「はっ!この私が一度や二度の状態異常を引きずるとでも!?今すぐにでも第二層に潜れるさ!」
「いや、流石にやめとこう!みんな今回はあれだけ頑張ったんだから……少なくともカミラさんは数日ちゃんと休むべきだよ」
「むう……そうか……」
「うん、今回はギルドから特別手当も出たことだし……少しくらいそれ使ってゆっくりしてもバチは当たらないさ」
そう、今回の依頼で迷宮の異変の原因を発見したこと、Cランク相当の魔物であるバジリスクの一匹を撃破したこと等が評価され、特別に手当が出た上にDランク冒険者への昇格を果たせることとなったのだ!
ついでにE級冒険者が無茶をしないようにだとか、ギルドの言うことはちゃんと聞くようにだとか、色々と小言も加えられたのだが……ま、そこはどうでもいいだろう。
ともあれ、そういうこともあって今、私達の手にはそこそこの金がある。
私の場合、前の姿の頃からもっぱらこの手の金は貯金に回しているのだが……
私はううん、と、唸りながら首をひねる。
今回のバジリスク討伐では、天才の私といえども反省するべき点がほんのちょっぴりだけあった。
一つは自身の神聖力の管理。
トゥーラが回復の泉から水を汲んでいなければ、些か困ったことになっていただろう。
もう一つは石化……ないし状態異常への対策の無さ。
あれだけポンポンとパーティメンバーが石化させられては、私も延々と回復に回らざるを得ない。
が、神官が常に回復をし続けていなければならない状態など、負け戦と同じようなものだ。
じりじりと神官の神聖力とアタッカーの体力が減っていき、なんとも気持ちの悪い敗北を味わう羽目になる。
正直、その辺りの対策は迷宮第一層の敵など余裕だろうと考え、私が舐めプしていた部分もあるのだが、今回のことで考えを改めた。
いくら浅層といえどもイレギュラーは起こるのだ。
そしてこれらの問題に対する解決策として、一番手軽なのは……
「それじゃあ、どうする?カミラさん?今日のところは解散して、宿かどこかでゆっくり……」
「待て、リガス!」
解散ムードで椅子から立ち上がろうとするリガスの手を、私は咄嗟に握りしめる。
どのみちパーティ全体の問題なのだし、折角だ。この男にも手伝ってもらおう。
と、驚いた様子で見つめるリガスに、私もじっと見つめ返しながら口を開く。
「リガス……私と付き合ってくれないか!?」
――――――――――――――――――
「付き合っ……えっ!?」
眼前でこちらを見上げる、カミラさんの表情に思わず驚いて答える。
付き合ってくれって言われたよな……言われた……!
言葉の意味を反芻すると同時に、ふと俺の手を握るカミラさんの手を意識してしまう。
小さくて、温かくて柔らかい。
女の子に手を握られるなんて、いつぶりのことだろう。
思わず心臓が跳ね上がるのを感じる。
元々、狂戦士として他人と距離を取っていた俺だ。
自分で言うのもアレだが、女の子に対する免疫なんてものは無い!
「いや……その、お、俺は良いけど……」
「本当か!?よし、助かる!流石はリガスだ!」
なんとか言葉を返すと、カミラさんはいつも通り、明るく快活な笑みを浮かべて答える。
かわいい。
いや、美少女なのは理解していたが、意識してしまうと猶更かわいい気がする。
いや、いや、落ち着けリガス!
椅子から腰を上げ、ギルドから出るカミラさんに、俺はなるべく平然と、なんとか心を落ち着かせながら問いかける。
「それでその、どうするの?カミラさん?」
「はっ、どうもこうも……決まってるじゃないか!買い物に行くんだ!」
ショッピング。
女の子と二人でショッピングか、なるほど、これはもうデートなのでは!?
思わずそんな考えが頭を過ぎる俺だったが、そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、カミラさんは軽やかに足取りを進めながら、俺に問いかける。
「さて、いくつか見て回りたいところだが……リガスは何か良い店を知っているか?」
「いや、俺はその……武器屋とか防具屋ぐらいにしか、いつも行かないんだけど……」
「おや、良いじゃないか、どこの店だい?」
つい武器屋、防具屋、なんて色気も何もない店の話をしてしまったが、カミラさんは不快な様子を一切見せずに明るく答える。
女の子に慣れた伊達男であれば、こういう時にこじゃれたアクセサリーショップや、カフェの一つでも紹介できるのだろう。
俺には到底無理なのが悲しいところだが。
店の位置を伝えると、カミラさんはふむ、と考えるような表情を見せて、また俺に問いかける。
「で、あれば先にその防具屋に行ってみるか。リガスは何か欲しいものあるか?」
「えっ、い、いや、俺は特に……」
「はぁ?馬鹿を言え、貴様の皮鎧では迷宮二階層の敵の攻撃に耐えきれまいさ、ここで装備を新調しておくべきだろう!」
カミラさんはそう言いながら、呆れたような表情で俺の皮鎧をばしんと叩く。
まさか、自分のショッピングよりも先に俺の装備を新調してくれるつもりなのか……なんて……あれっ、今迷宮二階層って言った?
ひょっとして……と、少し嫌な予感を覚えながら、今度は俺からカミラさんに問う。
「ちなみにその、買い物って言ってたけど……カミラさんは何を買うつもりなの?」
「ううむ、武器はモーニングスターで間に合っているから、法衣だな。せめて軽めの状態異常を弾く程度の性能のものが欲しいところだ」
言いながら、カミラさんは自身の身に纏う駆け出し神官の法衣を手でつまむ。
はあ、なるほど、えっと、つまり……
「付き合ってくれっていうのは……装備の買い出しにってことか」
「は?当然だろう、何だ?他に意味があるとでも思ったか?」
ぽかん、とした表情で頭に?を浮かべながら答えるカミラさん。
なるほどね、まあ、そうだよな。
うん、勘違いした俺が悪いよ。
そうだよ。カミラさんだぞ。
大丈夫、大丈夫、わかってたから、わかってた。うん。
だから全然、残念なんかじゃ無いんだ!ちくしょう!




