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石化トラップダンジョン

「へひぃ……助けていただいて、ありがとうございます」


 とんがり帽子を深く被った魔女は、にへらとした笑顔でそう言いながら頭を下げた。

 目元には不健康そうな隈が出来、髪は伸ばし放題でぼさぼさだが、一応ちゃんと体を動かすことは出来るようだ。

 先程まで石化していた彼女だが、状態異常回復の後、しばし休んだことで復調したらしい。

 すぐに治って本人も平気そうなところを見ると、別に長いこと石化してたわけでもないのかもしれない。


「私の名前はトゥーラっていいます……E級の冒険者です……へへ……」


「またE級か。どうやら今日の儂は余程に子守に縁があるらしいな」


「ふふん、テレンスよ、ひょっとしたら幸運値が下がっているんじゃあないかな?私はステータスを計ったら下がっていたぞ!」


「うっ……ご、ごめん」


 顔を抑えて困ったように天を仰ぐテレンスを煽ると、無関係のリガスが何とも気まずそうな表情で謝る。

 そういえばこいつも幸運値1だったな。

 と、そんな話題に食いついたのだろうか。

 トゥーラと名乗った魔女がふへへ、と、気味の悪い笑い声を漏らしながら口を開く。


「幸運値ですか……良いですよね、あれは……確か状態異常にかかる確率にも関係してるとか……」


「ああ、確かにそういった説もあったな。実際どうなのかまでは天才の私でさえわからないが」


「でも、そうだとしたらロマンがありますよねえ……石化にもかかりやすいってことですから……!」


 石化。

 その言葉を口にすると同時に、トゥーラは帽子の奥の目をキラキラと輝かせる。

 やはり回復させた時のセリフも聞き間違いではなかったのか?

 困惑しながらも私はトゥーラに問いかける。


「先程からちょいちょい石化について触れているが……君はその……石化の魔術に関して詳しいのかな?」


「それはもう……!ふへへ、良いですよねえ、石化……それまでハキハキと動いていた生物が一瞬で物言わぬ石へと変わる無情感……!ああ、でもゆっくりと四肢から石化していくパターンも良いですよね……恐怖に満ちた表情で石像と化す人間にはまた別のゾクゾクとする美しさがありますし、私自身が石化する際もやっぱりじっくりと足元からされた方がこう、じわじわと自身の体が冷たく固い石に変わっていく感覚ですか……ふふ、恐ろしくも気持ちよくて、なんだか妙な快感が背筋を震わせ」


 私は軽率に問いかけたのを激しく後悔して頭を抱えた。

 そんな私に気付いているのかいないのか、トゥーラはうっとりした様子で石化の魅力を語っていく。

 ふーん!なるほど、これが変態というやつだな!私には到底理解できん!

 うんざりしながらも、無理矢理にトゥーラのその語りを打ち切って問いかける。


「わかった!わかった!貴様が石化フェチとでも言うべき変態魔術師なのは理解したとも!それで……まさか自分で自分を石化させてあんな沼に沈んでいたなどとは言うまいね?」


「ふへぇ……まさか……自分でやる時はちゃんと数時間で解けるようにして術かけますよぉ……」


 それはそれでどうなんだ?

 と、思いつつも、話を進めるようにを促すと、トゥーラは自身に降りかかった状況について、ぽつぽつと語り始めた。

 元々、トゥーラはポイズントード達が溢れる数日程前にソロで第一層へと潜りに来たらしい。

 そこで探索の最中、この辺りに泉を見つけて休息を取っていたようだ。

 恐らくはこれがテレンスの語っていた回復の泉なのだろう。少なくとも、数日前までにはここにあったらしい。

 そして休息を取り、そろそろ帰るかと腰を持ち上げたところで事件が起きた。


「急にその……ダンジョンが組み変わって……気付いたら私のいるところが沼地になってたんです……」


「フムゥ……予想通りではあるが……ダンジョンの第一層で迷宮が組み変わるとは、珍しいことよな」


「そうなんですか?」


「おやおや、知らないのか?リガス?ダンジョンは深く潜れば潜るほどに不可解な出来事が突如として起こる。裏を返せば浅い層ほどそういうことは起きづらい、ということだ!」


 ましてや地形が多少変わる程度ではなく、森が沼地に変わるほどの組み換えだ。

 沼地自体は第一層にもいくつかあるが、それが突如として現れるなど滅多にあることではない。

 気になる事象ではあるが……まあ、迷宮のそういった謎は今考えたところでそうそう解けるものでもあるまい。

 いくつもの解けない謎と不思議に溢れているからこそ、人を惑わせる迷宮なのだ。

 とりあえずその件の解明は後回しにして、私はトゥーラに話の続きを促す。


「とにかく……それで沼地で何らかの要因が起きて石化したと?」


「えへ……そうですね……とりあえず陸地に上がろうと思ったら……その時にはもう脚が石化していて……」


 そう言いながらうっとりとした表情で脚を撫でるトゥーラ。

 その時の感覚を思い返しているのだろう。

 私も石化されたことは一度や二度はあるがそうはならないぞ……一体何がそんなに良いのだろう……

 変態性癖にドン引きしている私を尻目に、興奮した様子で話し続けるトゥーラだったが、不意にテレンスが人差し指を口の前に立て、皆に静かにするようにというジェスチャーをする。


「どうした?テレンス?」


「しっ……聞こえぬか……?これは……」


 耳を澄ますと、バシャバシャと水の上を何かが跳ねまわるような音に気付く。

 その慌ただしい水音はすぐさま、耳を澄まさずとも聞こえるようになり、喧しい音を辺りに轟かせると、沼地の方向から音の正体が姿を現した。


「またポイズントードだ!」


 リガスはそう叫ぶと、迫りくるポイズントードの群れに挑むべく剣を構える。


「いや待て、小僧……様子が……」


 警戒態勢を取りながらも、テレンスが今にも飛び出そうかというリガスを手で制する。

 その間も、恐るべき速さでこちらに押し寄せ、迫るポイズントードだったが――

 警戒する私達にまるで興味を示さぬ様子で、私達の頭上を飛び越え、脇を抜け、ポイズントード達は猛烈な勢いで周囲を通過していく。


「何だ……?こいつら、この私達を無視して――うわっ!」


 どしん、と、ひどく重たく、低い音が響いたかと思うと、私達の眼前に一つの石像――

 否、石化したポイズントードが振ってきた。

 まさか――

 困惑する私達の眼前に、沼地の水からゆっくりと、黒く大きな影がその巨体をもたげ、姿を見せる。


「――バジリスクだ!」


 咄嗟にそう叫ぶテレンスの声と同時に、私達は即座に背を向けて逃げ出すのだった。


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