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激嵐

「E級冒険者であるこの私はどうしたらいいのか、まだ聞いていないぞ!」


 集まった冒険者に向け、壇上で偉そうにも指示を飛ばすジョーに私が声を掛ける。

 奴の言った調査指示はD級以上の冒険者に対する指示しか無かった。

 やれやれだ、どうやらE級の存在自体を忘れているらしい、なんて傲慢なことか!

 あまつさえ家に帰って寝てろなどと叫び出した。

 ふっ、単に自分の低能さ故に忘れていただけのことを認めたくないらしい。

 などと考えていると、私の隣でぽかんとした表情を浮かべていたリガスが、驚いた様子で声を掛けてきた。


「びっくりした……カミラさん、まさかジョーさんと知り合いなの?」


「ふふん、もち――あっ、いや、初対面だが!?」


 しまった。

 そもそもジョー達にバレない為にリガスとパーティを組んだのだった。

 こんなことで私の正体がバレて冒険者界隈から干されでもしたらたまったものではない。

 ちょっと気を付けないといけないな。反省できるからこその天才なのだ。

 そんなわけで私が全く知り合いじゃない、と伝えると、リガスは少し残念そうな表情を浮かべながら呟く。


「う~ん、そうか……カミラさんが知り合いなら、俺もジョーさんと話せるかと思ったけど……」


「ええ……本気か?あんなのと話してどうする気だい?単なる馬鹿じゃないか」


「いやいや、だってあの『激嵐のジョー』さんだよ!剣士なら誰でも憧れる冒険者じゃないか!」


 何だその二つ名、あいつそんな恥ずかしい名前で呼ばれてたのか。

 などと呆れる私に、リガスは自身の聞いたであろうジョーの活躍を語っていく。

 水流を発する魔剣でマンティコアを討伐した、だの、前人未踏の迷宮第四層まで潜って生還し、尚も前線を更新し続ける冒険者の鑑だと。

 確かに、いつぞやマンティコアを討伐したのは事実だし、第四層まで潜ってきたのも事実だ。

 ま、それは私も同じなのだがな!

 褒められる対象がジョーというのは気に食わないが、私が先導した偉業を褒め称えられるのは悪い気分ではない。

 もっと褒めて良いぞ!


「こら、クソガキ」


 リガスの話を聞きながら悦に浸っていると、不意に背後からコツン、と頭を突かれた。

 むっ、この私の頭を突くとは無礼な。

 眉間に皺を寄せながら振り向くと、そこには先程まで壇上で指示を飛ばしていた筈のジョーが立っていた。

 どうやら指示は終わって、今はギルド職員が詳しい事件の概要について話しているらしい。

 ふむ、しかし何故ここで私達に声を……と、考えたところ、天才の私はすぐさま一つの結論に辿り着いた。


「なるほど、察するにさっきE級を忘れていた無礼を謝罪に来たということかな!よろしい!許してやろうじゃないか!」


「てめぇのその自信どっから来てんだクソガキがよぉ!危ねぇからさっさと帰れって言いに来たんだよ!!」


 私の結論に、眼前のジョーが激高して叫ぶ。

 むう、そんなに怒らずとも良いではないか、今の私は女の子なんだぞ。

 尚もジョーは強い口調で私に言う。


「大体な、ギルドの方もE級は出来ればしばらく待機で……って言ってなかったか?」


「言われたが明確に禁止されているわけではないだろう、つまり、参加しても良いということだ!」


「良くねえから遠回しに指示出されてんだよなあ!?」


 いちいちリアクションのデカい男だ。

 私がそんなジョーにうんざりしていると、それまで背後でソワソワとしていたリガスが不意に口を開いた。


「あ、あの……ジョーさんですよね!すいません、うちの神官が…!」


「ったく……いや、いいけどな……坊主は?一緒のパーティか?」


「はい!リガスといいます!まさかこんな近くで話せるなんて……あっ、ジョーさんは俺の憧れなんですよ!尊敬してます!」


「お、おう……マジか……へっ、まあそう言われて悪い気はしねぇな、ありがとよ」


 言いながら恥ずかしそうに鼻を掻くジョーと、キラキラした眼差しを向けながら声を掛けるリガス。

 こいつら私に対する時と態度が違わないか?

 まあ、肉体労働の戦士同士だ。

 何かしらで通じ合う部分があるのかもしれない。

 ん?待てよ?この調子なら……


「リガス……ちょっといいか?こう……」


「え?カミラさん何……あ……うん、いいけど……」


 私は思いついたことを伝えるべく、リガスにこそっと耳打ちする。

 と、ジョーは自分がここに来た目的を思い出したのか、ごほんと一つ咳払いをして口を開いた。


「っと……とにかくだ、今回はE級が出張るにはちょっと早い。リガスっつったな。お前も危ないから家に帰っておとなしくしとけ」


「でも……難度の高い依頼をこなせばそれだけ冒険者ランクも早く上がりますよね?俺達は何としても早くランクを上げないといけないんです!」


「そんなに生き急がなくても良いと思うが……まあいい、何か事情でもあんのか?」


「うむ、そうなのだよ、実は……私達の生まれた村は性質の悪い呪いに侵されていてな……」


 私とリガスの生まれた村はある日、とある凶悪な魔物に呪いをかけられ、農作物が育たず、毒沼の満ちる汚らわしい土地に変えられてしまった。

 それ故に私達はダンジョンの最奥に眠る神具でその呪いを解こうと考えている。

 そしてその為にもランクを上げて早く迷宮深部に潜れるようにならなければならないのだ。

 ……という嘘を即興ででっち上げ、つらつらとジョーに語って聞かせる。

 もちろん、なるべく不憫に見えるように俯き、目を逸らしながらだ!

 流石は私だな!演技力に関しても優れていると見える!

 これでジョーが同情して便宜を図ってくれたら良いが――ちらりと目をやり、ジョーを見ると、なんとも苦々しい顔で頭を掻きながら口をへの字に結んでいる。


「なるほど、生まれた村がな……ったく、仕方ねえな……おおい!テレンス!」


 話を聞くと、ジョーは集まった冒険者達の方へ向けて声を掛ける。

 既にギルドからの説明も終わり、冒険者は各々、装備を確認したりといった準備段階に入っていた。

 そんな中、一人の冒険者がジョーの声に反応すると、のたりとこちらへと歩いてきた。

 浅黒い肌にバンダナを巻いた初老の男は無表情のまま、ジョーの隣に並んで話しかけた。


「ジョー?どうした?」


「テレンス、悪いんだけどこいつらの面倒ちょっと見てやってくれ、E級だ」


「ウム……?E級の子守か?なぜ儂が……」


「いいから、お前ぐらいしか任せられる奴いねえだろ!報酬出してやっから!」


 ぶつくさ言うテレンスを納得させると、ジョーはまたこちらに向き直る。


「ってことで、坊主ども!参加するのは良いが、絶対このテレンスに従うようにしとけよ!」


「ジョーさん……ありがとうございます!」


「ったく……無理だけはすんじゃねえぞ、死んだら元も子もないんだからな」


「ジョー……」


 ちょっっっっろ!!!

 は~!雑っ魚!すぐさま信じたじゃないか!あんな雑な作り話を!やはり脳筋!騙すのは簡単だったな!

 思わず笑みをこぼしそうになりながらも、私は真面目な顔でリガスに続いて感謝を述べる。

 いや、実際こうして初心者にベテラン冒険者を護衛としてつけてくれるのは良い采配だと言えるだろう。

 阿呆は阿呆だが、こういうところは素直に認めといてやらなくてはな。

 天才の私は他者の長所や功績自体はきちんと評価するのだ。


「フム……ジョーの奴、何を考えておるのか……まあ良い、準備が出来たら行くぞE級の坊主たちよ」


「はい!よろしくお願い致します、テレンスさん!」


「うむ、私と共に依頼をこなせることを光栄に思いたまえ!」


 そんなこんなで、我々の迷宮調査が幕を上げたのだった。


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[一言] ちょっっっっろ!!! に草を禁じえない
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