弔いの光1
今回からちょくちょく世界観についての説明文が入ったりすると思います。
何かに揺られている感覚で俺は目を覚ました。体は思ったより熱を持っていて頭もぼんやりとしている。
視界も上下に揺られている、とそこで自分が馬の背に乗っていることに気づいた。
「わ、わっ!」
落ちそうな俺を誰かが脇腹を掴んで支えてくれる。そのままバランスが取れるようになるとゆっくり後ろを振り向いた。
「よう! 起きたか、もうちょい体重をこっちに預けろ。そして前を向いてろよ」
言われた通りに後ろに倒れながら前を向く。かなりがっしりした体に支えられた。
「よし。じゃあちょっと今の状況を教えてやる。
あの後お前が泣き疲れて寝た後に、死体は焼いて処理した。害鳥に荒らされるよりもマシだろ? そんでお前も流石に放置は出来ねぇから近くの村に向けて移動中だ。流石にこの日の傾き様じゃ今日中にはつかねぇだろうけどな。」
父さんと母さんの死体について特に言うことは無い。むしろ感謝しなければならないくらいだ。
「あと言い忘れていたが俺の名はジナート。この『弔いの光』って旅団の団長をやってる。よろしくな。」
団長か…、と何の気無しにもう一度ジナートの顔を見る。ジナートもこちらに気づいて俺は顔が気になっていると思ったのか、ずっとつけていたフードを脱いでくれた。
そこで信じられないものを目にした。
「魔族⁈」
反射的に叫んでしまったほど衝撃的だった。その長すぎない灰色の髪の上にはねじれた様な角があったからだ。
ジナートは少し哀しげな顔をする。
「あー…、やっぱりそういう反応だよな…」
俺の反応はこの世界では当然のものだった。
魔族とは身体能力、魔法力がともに優れた戦闘種族である。魔族特有の魔法である闇魔法を使えるがその種族全体の数は極端に少ない。
しかし俺はその希少性に驚いたのではない。それは今から約二百年前の出来事が関係している。
その年にある魔族がとある名乗りを上げたのだ。曰く、『俺が魔王だ』と。そして魔王は全ての国で破壊活動を行った。魔王は聖属性以外の魔法を操り、現在でも最大級とされる十統星魔法すら放てたという。
その破壊活動は三日ほどしか続かなかった。しかし、その短い時間に反して死者は全ての国を合わせて千万を超えたと言う。さらに驚くべきはその全てを魔王単独で行ったと言う事だ。
故にその同族である魔族には今でも厳しい目が向けられている。
「言っとくがこの旅団の全員が魔族だ。」
さらにギョッとする。見たところ十人以上。こんなに魔族を率いてるってことは…
「でも、誤解しないでくれよ。この旅団の存在意義は、そんなんじゃねぇからよ。」
ジナートがニヤリと笑う。不思議と嫌悪感は無く、動揺を掻き消されてしまう。
「俺たち『弔いの星』は逆だ。あの魔王の行いで傷付いた奴等に償いをする為に旅をしてんのさ!」
ジナートは子供が夢を語る様に話し始める。
「簡単なことさ、魔族の尻拭いを魔族でする。魔王が一人で勝手にやったことだ? そんなのは関係ねぇんだよ。魔王が死んだのに今度は数が少ねぇ魔族自体が白い目で見られてる。理不尽だが仕方ねぇんだ。今の世の人は恐れてんだよ、魔族の力自体をな。そうだろう? 魔王だけであんなことができたんだ、残り少数の魔族が出来ないっていう保証はねぇ。」
そう言ったジナートを俺はチラリと伺う。ジナートはニカッと笑い俺の頭に手を乗せてくる。
「もちろん俺たちにはそんな力はねぇよ? でも向こうはあると思ってる。俺たち=強大な力、破壊だ。でも、そんな魔族の俺たちが各地で奉仕活動。魔王の被害を俺たちで直しちまう。そんなことしてああいったイメージを俺達で払拭しちまおうってわけだ。」
そういうことだったのかと息を吐く。魔王は勇者と呼ばれる者に倒された。故に英雄の敵、と反応してしまったが魔王と魔族の関係については考えたことはなかった。
しかしこれならば安心だとばかりにジナートにしっかり背を預ける。
「ん? なーに他人事みてぇな雰囲気だしてんだ? お前もだぞ少年。」
は? と口を開ける。直後髪をわしゃわしゃっとされる。ビクッと首を竦めると「あった」と声を上げる。
「ここだ。分かるか、これ?」
髪の中の頭皮でも髪でもないところが二箇所同時に押された。少し体がムズムズする。
「少年、これはな、多分“角”だ」
そう言われて内心驚いていた。驚きすぎて体が動かない。
「おそらく、人間と魔族のハーフ。黒髪でこの先っぽだとねじれはなさそうだ。だとすると東洋にいる“鬼”ってやつかもしれないな。」
「ちょっと! ジナート! それはまだ言わないって…」
オニ、鬼? 続く会話は耳に入らなかったが、確か母さんは和名でハルコ、漢字…かどうかは分からないが、髪色は同じだし養子という線は薄いんじゃないか? だとすると角は?
俺は思考の渦に囚われ、ジナートと魔族の女は言い争いを続ける。馬はマイペースにパッカパッカと歩き続けていた。




