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人間失格の英雄  作者: enoha
魔境に集う者
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キリア10☆


「ノアさんは一旦ここで待ってて下さい。……今お店の中平気か見てきます。」


宿の入口が見える建物の影からそう告げる。ノアさんには一緒に来てもらうより、ここで様子を見てもらう事にした。


下手に母さんを刺激するより、もしもの時に備えてもらった方が都合がいいからだ。


「……何かあったら呼んでくれ、すぐに行く。」


互いに頷きあって俺は宿に向かった。邪魔な髪を後ろで纏めて一本にする。母さん譲りの赤い髪。手入れを欠かさなければ綺麗な髪で、結構気に入ってた。


俺が今ここにいるのは母さんのおかげで、不自由なく暮らせてきたのも母さんのおかげ。父さんは料理好きの偏屈だけど感謝していないわけじゃない。


俺はこれから両親と喧嘩をするわけでも、決別するわけでもない。


男らしくて、可愛くない。反抗期のような、最低のお願い事をしに行くだけだ。




宿には『closed』の看板がかかっていた。今は店を開けていないらしい。閉じられた宿の入口に不安を覚える。


一応あの時、ノアさんに投げられた食器とかは片付けられている。……ノアさんが投げ飛ばされたのは驚いたが。誰にも怪我はなくて良かった。


『……あなたは何も分かってないわ!あの娘も!魔境に行った冒険者の大半がどうなっているのかも!』


『……落ち着け。』


思わず道を歩いていた人が振り返るほどの怒鳴り声だった。それほどの感情が込められているのがわかる声。扉に聞き耳を立てると誰と誰が争っているのか分かった。聞く前からわかっていたが。


父さんと……母さんだ……。


『……だが、キリアの将来は自分で決めさせる。それはあの子が生まれた時に決めたことだろう?』


『それが冒険者でも?!あなたはどうしてそこまで非情になれるの!?』


『それで挫折するなら、それまでだったということだ。』


『そういう問題じゃ無いのよ!知ってる?!獣人が子供を十人産んで、十人とも魔境に向かったら!一人でも帰ってきたら運がいい方だって!』


『それでもだ。あの子はもう子供じゃない。』


『馬鹿言わないで!子供をわざわざ墓穴に進ませる親なんて聞いたことないわ!』


『そんなことをするわけがないだろう。その道が危険なだけだ。……そもそもやりたいことをさせないままでいる方が生殺しだと思わないか?』


『それが唆されたものでも?!それこそあの娘が選んだ道に意味すら残らないじゃないの!』


……こんな……こんな場所に入っていけるのか?


どっちも真剣に考えてくれていて、どっちも間違った意見じゃない。


……やっぱりこの言い合いが終わってから……


「……あそこには君の意見が含まれているの?」


「うひゃあっ?!のっ、ノアさん!」


『……キリア?』


しまった?!なんてことをしてくれたんだと耳元に語りかけてきた人物を睨む。


それを受けても何処吹く風といった顔をしたノアさんがそっと背中を押してくれる。


「こっ、このまま入るの?」


「……俺はここにいるから。……大丈夫、最悪は無一文で魔境に挑むけど、でも、成功するまでここにいるから。実質、失敗は無い。」


「……何その脳筋理論……。」


しばし瞑目して、扉を押す。ギィ、と音を立ててゆっくりと開いていく。ノアさんが後ろに下がって行った気配がした。でも、近くにいる。それがわかるだけでもう一歩前に進めた。


「……母さん、話があるんだ。」


「……キリア」


「私、隠してたことがあって……、ずっと言えなくて……、でも、このまま言わないでいるってことは、ずっと父さんと母さんから信用して貰えないって思って……。」


「……キリア、それはなんだい?」


「……それは」


言え、言え!言わなくては、この人たちに。自分には前世の記憶があるんだと。


この優しい人たちに、『俺』の真実を。


「実は……私は……!」


「キリアっ……!」


その時、体が何か温かいものに包まれた。真冬の毛布よりずっと温かくて気持ちがいいもの……


「……母さん……?」


まだ、何も言ってないのに、何かを許された感じがした。肩に乗っていた氷が勝手に溶かされて、その中身が何かもわかっていないのに。


今、丸ごと抱きしめられていた。


「キリア……、あんたがそれを言ったら私達から遠く離れていくのかい?それとも、それは言わなくちゃならないことなのかい?」


「私は……何も言わずに父さんと母さんの元からいなくなるのだけは間違ってるって思って、だから多分、言っても言わなくてもいいこと、……だと思う。」


「……やっぱり、行くのね、魔境へ」


優しく体を離された。その時どんな顔をしただろうか、少なくとも母さんがかなり困った顔をしていたのを覚えている。


「今日は店を閉めるわ。……だから、聞かせてちょうだい。あなたも今日はそれでいいわね?」


「もちろんだ。座っていてくれ、飲み物を持ってくる。」


「ほら、キリア。こっちにいらっしゃい。」


「……うん。…………ありがとう、ノアさん。」


しばらく執筆が著しく遅くなります。

理由については活動報告に掲載するのでそちらを確認していただけると幸いです。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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