王都への道中2
日が暮れる前に着いた村はトールラ村という村だった。
父の言った通り、道中は馬車が揺れて本は読めなかったし、停まることもなかったから、持ってきた薬草図鑑も役に立たなかった。
そんな退屈な道中であったために、今の静かで人の少ない村の様子は少し刺激が足りないような感じがした。
「じゃあ、僕は村長殿にご挨拶に行ってくるから、御者さんは貸してくれるって言う空き家の方に」
「かしこまりやした旦那様、では奥様、坊ちゃん、参りやしょう」
その御者さんの話では空き家はきれいな状態に保たれているため掃除の必要はないそうだ。
さらにここにくる途中で父さんの馬車だと知ると、好意で今日獲れた獲物や野菜を分けてくれる人がいた。
「父さんって色んな人に好かれてるんだね」
野菜の積まれた籠を抱えながらホクホク顔で母さんに話しかけると、考えごとをしていたらしい母さんが笑顔で返してくれた。
「…ええ、みんなお父さんが守ろうとしている人達よ」
父さんが守っていると言う言葉に、背筋がピリリッ、と反応した。
「ねぇ、ねぇ、それじゃ、お父さんって英雄様みたいだね!」
そう言うと母さんは一瞬驚いた顔をした後、優しく微笑みながら頭を撫でてくれた。
「そうね、…でもあの人ったらあんまり強くないのよ? 剣は点でダメだし、それにこんな田舎だと魔法もろくに使えないし」
でもね、と母さんはさらに続けて言う。
「みんながあの人を頼っているのよ。それにあの人もそれにバカ正直に応えちゃうものだから」
僕は不思議とそれを格好悪いと思わなかった。
馬車に揺られながら手元の籠の野菜を見る。それぞれ形が良いとは言えなかったが、この野菜たちを父さんに見せたくなった。
「ねぇ、ノアは将来どんなものになりたい? ……ってまだそんなのは早いかしら」
その言葉に対する答えは既に僕の胸の中にあった。
「……英雄様になりたい。誰よりも強くて、誰よりも優しい、英雄……」
母さんはただ優しい顔をして頭を撫でてくるばかりだった。