魔境の力
今回から少し長めに書きます。更新遅かったらすみません。クオリティを上げていく為に頑張っていきます。
「ノアール君、一番最初が僕でごめんね? これも作戦らしいんだ。」
「…別に構わない、でも……殺す気でいく。」
「! …みんなその覚悟だと思うよ。」
ジョートを見ていて気付いたものがある。なんだあの装飾品、どっから持ってきた? この戦いに余計な物を持ってくるとは考えづらい、最悪なのはあれらが魔道具だという可能性。
魔道具は魔力を流すだけで魔法と同じような効果を発生させることが出来る。
でもそんな高そうな物を? …ジナートか……
変化はそれぐらい、盾を使い、魔法を使う、少し厄介だが一日で使いこなせるような物でもないだろう。
「じゃあ審判は俺がするな! それじゃ…」
「…卑怯とは言わないでね。」
「始め!」
開始と同時に俺たちは同時に動いた。俺は剣を地面に突き刺し、ジョートは俺に真っ直ぐに突っ込んできた。しかも予想以上の加速で。
お互い意表を突いた動きだった。だが、お互い動きが乱れることはない。
俺は土を掘り出し剣ごと蹴ってぶちまける。土煙で身を隠しながら戦う作戦だ。そしてそのまま剣で防御する態勢に。
それに対してジョートは盾を掲げて土を防ぎそのまま突進してきた。
このまま力で押し込めば魔法が使いづらくなる。そう考えてジョートと衝突した瞬間、
「ガッ!?」
俺は宙に弾き飛ばされた。
腕に小さな痺れを感じさせながら背中から地に落ちる。
肺から空気が叩き出される。追撃に備えて直ぐに立ち上がるが無理矢理立ち上がったせいでむせるし、視界は揺れるしで最悪な気分だ。
追撃は来ていなかった。ジョートを見ればこちらを見ながら青ざめている。
この力は予想外だったってことか?
あの速度も力もおかしい。いつもより数段高い。あんなもの一日でつけられるものではない。
でも、もしそれが出来てあの四人も同じように強化していたら?
『殺す気で止める覚悟』
そんな言葉が頭を過った。嘘では無かった。殺される、殺されるかもしれない。そこまでするか?
でもトトアの回復魔法だってある。
それにしたって首が飛んだらお終いだ。
剣に自分の顔が映る。
殺すか殺されるか。そんなことを考えているのに俺の口元は笑っていた。またあの時みたいに自分の体じゃないみたいだ。
強張る体から力が抜ける。
心臓の鼓動がいくらか速くなった。
最初からやることは変わっていない。俺はこれを魔境に入るための試験の様に考えていたじゃないか。
ゆっくり剣を構える。
こんなんじゃどっちにしろ魔境で死ぬ。ジョートも決意したように俺を見ていた。でも、若干緊張している。
ジナートは俺に実剣を振られても冷静だった。あの時の俺は寸止めなんかするつもりは無かったのにだ。
なら俺も実剣を前にしてビビらないくらいやってやろう。
剣を静かに構え直した。正眼の構え。加えて笑みも深くなる。
あのスピードは魔法を使ったミニア程では無かった。しかもジョート自身あのスピードに慣れていないみたいだ。ならジョートに動いてもらった方がいい。
問題はあの力だ。俺を大剣ごとぶっ飛ばした。なら流すしかない、流せるようになるまで攻撃を受け続けるしか無い。
俺があのスピードとパワーを見極めるのが早いか、ジョートが俺を殺すのが早いか。
ようやくジョートが動き出した。またあの突進、右にかわして牽制に剣を振る。
やっぱり速さには対応できる。
そして問題のパワーだが、ジョートの単純な振り下ろしを剣で受け止め吹っ飛ばされた。勢いを殺して着地。すぐさま追撃が入る。
その後幾度も攻撃を受けた。
剣で受け止め若干の拮抗の後蹴り飛ばされる。
剣ごと盾で殴り飛ばされる。
剣を弾かれ腹に蹴りが突き刺さる。
…………
「ノアール君、はぁっ、まだやれるの?」
「はぁっ、はぁっ、……。」
小さく頷く。最初から吹っ飛ばされる前提で戦っていたのでダメージはそうでもない。だが大剣の制御にかなり体力を割かれる。正直手を放したら終わりなので文字通り死ぬ気で握っている。
「そう、タフだなぁ。ッつ!」
いつもはジョートに言われたくない言葉だが様子が変だ。右太腿を押さえている。それを見てすぐさま距離を詰めた。
初めての拮抗状態、しかし俺の体が浮きそうになる。どうやらジョートは今、腕の力だけで俺と張り合ってるようだ。本当にいくら力を入れてもびくともしない。
嫌な戦いだ、ジョートはもっと技術を持っていた。この攻撃だって軽く受け流してカウンターまで入れてくるだろう。
それが今は力に振り回されて体を壊しかけている。今も苦痛げな表情を浮かべ俺の攻撃を押し返そうとしている。
ふと、違和感を覚えた。力を使いこなせず、体を壊し、それでも俺を殺して止める。……何か変だ。
いや、行動の原理自体は変じゃない。変なのはこの行動への躊躇いの無さ。何かが躊躇いを失くさせている?
この異様な強化と関係があるのか?
俺の体を衝撃が貫いた。息が止まるのを感じながら原因を見ればジョートの右足、あの痛みで抑えていた方の足が俺の腹にめり込んでいた。
「っグブッ!」
「油断…してたよね? 多分僕のこの力を見て。考え事してたよね。立ち上がれるようになるまで教えてあげるよ。
これは『魔境の力』だよ。
僕の指輪とかネックレス、これが魔境の素材で作られる装備。言っちゃうとジナートさんの物らしくて、僕じゃ完全に力を引き出せてないらしいけど。でも充分だよね、今の状態を見てると。」
膝をつきながら、ジョートの話に耳を傾ける。吐き気を抑え込みながら、話を分析する。
あの右足が治っていたのも装備の力、あの身体能力も装備の力。しかもジナートの私物。どういう意図でやったのか分かるが、本当は俺を殺そうとしてるんじゃないかと思う。
「ジナートさんから装備を受け取ったのは僕だけだから安心して良いよ。他のみんなには話もしてない。」
「…………」
「だから例え僕に負けてもこの事をみんなに話せば納得してもらえるかもね。ただ……、魔境で通用するか分からないけど。」
「…随分饒舌になった!」
手に土を握りそれをジョートの顔に投げつける事で反撃の狼煙を上げる。土を握る動作は見られていたので体をのけぞって躱されたがその間に距離を取る事に成功。
警戒するのはあのパワーと足を回復した力、どれほどの効果があるのか不明だが、俺の大剣は一撃があれば倒せる。
だから次の攻撃は何があっても捌ききる。その為に必要なのは攻撃を制限させる動き。今までの攻防からいつもの戦いの癖が出てる。それにいつも以上の力が相まって、「攻撃を完全に受けきってから攻撃」をしてる。
後、攻撃してくるのはいつも「盾を持っている左手」から。
この二つがあれば攻撃を誘導できる!
「…はぁ……、ジョートォ!!」
「!」
剣を構えて直進、声を張り上げておくことでこれは全力が乗った一撃だと思わせる。
盾めがけて躊躇なく振り下ろした。この一撃は盾を切り裂く事はなく受け止められる。
そしてこの後来るのは俺から見て左からの攻撃、おそらく当てやすい胴を狙う筈。これを短剣で受け止め、勢いがつかないうちに手元に寄せる。
短剣は反射的にいつも日常的に使っている物を抜いた。つまり短剣は二本ある。
俺が大剣から手を離しているのを目敏く見つけたジョートは短剣で受け止められた剣に力を入れた。
俺は咄嗟に大剣を掴み、ジョートの振る剣の動きに逆らわず右側に跳んだ。そこからすかさず突進をかける。
今度は構えられた盾に蹴りを放つ。続けて大剣を振り下ろし盾ごと少し後退させる事に成功した。これで俺の攻撃は完全にジョートに止められたことになる。
つまり次に来るのは剣か蹴り、どちらでも交わす方向は変わらない、ジョートの攻撃を上に跳んで躱した。
そして苦し紛れに見える大剣での攻撃、これを盾で弾かせる。大剣は早々に手放しておいて左手で短剣を握る。
ここからが勝負どころだ、今はジョートの真上、着地のことは考えない。ジョートは空中の俺に対して盾の裏で既に剣を構えていた。突きの構えだ。
この突きが放たれる前に軌道を予測して避けられれば買ったも同然。外せばどこか串刺し。
俺は逡巡する間も無く体を捻る。このまま剣を躱して短剣でジョートを切る。
「はああああぁぁぁ!!」
「っ! フッ!」
ジョートを切った直後手と足に衝撃が走った。手は金属に弾かれた感触。足は形容し難い熱を放っている。
「っづ! がああっ!」
あまりの熱と痛みに俺は獣の様な声をあげていた。
(よりによって足を狙いやがった!」
訳は分からないが俺の攻撃は弾かれジョートの攻撃は当てられた。俺の攻撃は魔境に対して効かなかった。
痛い! 足が痛い! 立てない! 負ける!
冷静になろうとしてもこの言葉が頭を駆け巡る。
呼吸は荒くなり、流れでる汗がひたすら冷たく感じる。
後退りしようとして背中から地面に倒れた。したから影が迫る。
「…はぁ〜〜〜っ。ふぅ、…ノアール君これで立てないなら僕の勝ちって事でいい? その傷も速く治さないといけないし、殺さないから降参して欲しい。僕との決闘は無かったって事にしてもらっていいから。……ノアール君?」
負け。
負けた?
なんで負けた?
勝たなきゃいけない試合だっただろう?
結局自分は魔境に行きたくてはしゃいでただけだったのか?
これまでの稽古は無駄になったのか?
『ナンデネテル?』
…負けたから……
『マダシンデナイダロウ?』
……。
『コレハ死闘デハナカッタノカ?』
……そうだった。
『ナラバコロセ! オマエガモトメルツヨサモ、ステタイヨワサモ、ソノサキニアル!』
コロスッ!
差し伸ばされた手に持っていた短剣を突き刺した。同時に蹴って吹き飛ばす。
これは死闘だ。
あのドラゴンと戦った時の様な命の奪い合い。
死ぬ前に諦めるなんて、降参を求めるなんて、これらはまるで筋違いだ。
俺は知ってる。己の体と敵の油断一つあればその敵を殺せる事を。
俺の諦めていない姿を見てジョートも顔の色を変えた。手に刺さっていた短剣を抜き捨てる。
「…どっちかが死ぬかもしれないんだよ……?」
体を充分にほぐす。あの馬鹿みたいな威力の攻撃を受けたりしてたらこちらの攻撃のリズムを崩されてしまう。
それとこのフロアにある凶器の位置を確認する。大剣は少し離れたところに。短剣は腰元とジョートの方に一本。ジョートは持ってない。
後は隙を作るだけ。
「…ジョート、ドラゴンと戦った時、俺を守ってくれた。それよりも前からジョートの背中には守ってもらってきた。」
「な、何を…」
「…今、正面に立っているのは悲しい、だから一緒に魔境に行こう? ジョートが前にいてくれればもっと安心して戦える。」
「……それは」
「…隙あり。」
静かに抜いていた短剣を最小限の動きで投げる。狙いは顔。その間に凶器を回収しに行く。足から痛みなんてしなかった。
盾で顔を覆っている間にやっておきたいことが一つある。拾った大剣をぶん投げる。もちろんジョートに向かって。更なる時間を稼いで短剣を拾い刃の部分を砕いた。それを拾い集めてポケットに入れておく、一欠片だけは右手に忍ばせておく。
やっとジョートに攻勢を仕掛けられる。剣の間合いギリギリで止まって一撃を躱す。
一気に懐に入り込み掌底を腹の溝に抉るように打ち込む。そして剣を持ってる右手と腕を掴み捻り上げる。強化しても人体の急所や仕組みが変わるわけではないみたいだ。抵抗もなく剣を取り上げる事まで成功したので地面に押し倒す。
「…確かこの装飾品が魔境の装備、この腕輪は?」
「うぐぅぁ、そ、それは!」
「…まぁ、なんでもいい。まだ試合中、相手から装備奪っても問題ない筈。」
指輪とネックレスは簡単に外せたので奪って身に付ける。
「やっぱり慣れない、なんでこんなものつけようとしたのか分からない。
短剣砕いたのに無駄になった。ジョートは持ってない?」
手を捻りあげたまま、ジョートの体を弄る。
「…ない、じゃあこの装備品は返す。それと気絶でも勝ちだよね。」
「ノア……君……。」
首元に手刀を当て気絶させる。息があるのを確認してジナートの方を見る。難しい顔をしていた。
「…ジナート、次は誰? さっさと終わらせたい。」
「…ノア……、お前…。」
「……次は、私です。」
ジナートから視線を外して前に出てきた人影を見る。
ミニアだ。魔境の装備を持っているかもしれないので警戒して観察する。
「…これは連戦、開始の合図はいらない筈。」
「そうですね、こうなった以上ジョートは負けたと言う事にして、私が相手になります。」
静かに剣を構えた。俺も大剣を拾う。
二戦目はこうして合図も無く始められた。




