異世界転生するための面接をしている……はずだった
『異世界転生するための終活をしている……はずだった』の後日談的な位置づけです。
短編ですのでよかったらそちらを先に読んでいただければより一層楽しめます。
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あと設定的に『若者のスペースオペラ離れを嘆く女神様に宇宙船をもらったんだが、引きこもるにはちょうどいい』を流用していますがたぶん未読でも大丈夫の……はず。
「では志望動機をお願いします」
「へっ? ちょっと待ってくれ! 異世界転生に志望動機なんているのか?」
私の言葉に眼前の青年は戸惑いを見せる。
いきなり地上と異世界をつなぐ空間に飛ばされたと知った時には『とうとう俺の時代が来たぁぁぁ!』と歓喜していたというのに。
しかしながらこういうタイプは最近の日本人に多い、とても多い。
「昔と違い、昨今は異世界転生を希望する方が大勢いらっしゃいます。こちらといたしましても、できれば優秀な方を採用したいと考えております。ですので面接という形をとらせていただいております」
「いや、何で面接? 異世界いくのなら実技とかじゃないの?」
「異世界転生はほとんどの方が初めての体験です。もちろんこちらも未経験でもokという募集ですので、現地でのチュートリアルは万全にしています。チートもありますし、実技に関してはある程度のレベルまではサクサク進むことでしょう。ですので貴方の人となりを面接させていただきたく思います」
「だから面接?」
「さようです。日本人は受験から就職まで面接を多く経験しているようなので馴染みがあると思いまして」
「いや、馴染みはあるけど得意とは限らないだろう。それに……いきなり言われたってさあ」
眼前の青年は難色を見せる。
天国についたと思ったら苦手の面接に合格しないと入れないとなったらさもありなん。
「こちらが最低限の適正のある方を無作為に抽出して、そちらの都合を考えずにお呼び立てしたのは事実です。とはいえ異世界転生とはそういったものですし、異世界に行く前に意志確認をする分まだマシな対応かと思います」
「……それはそうかもだけど」
私の言葉は正論だとは思うのだが納得がいかないようだ。
人間という存在は何千年たっても理解不能だ。
「以前、私の上の存在にあたる創造主は当人が嫌がるのにも関わらず無理矢理宇宙に放り出したり、意志確認もせずに別銀河担当の神様に譲渡してたりしましたので、私などはまだ穏便です」
「どんな神様だよ!」
まったくもって同意するところである。
ウンウンと頷く私を見て青年は1つ疑問をぶつけてくる。
「てかあんたは神様じゃないの?」
「私は創造主に創られたドラゴンです」
「ドラゴン?」
「ええ、今回は貴方を驚かさないように人間と似た姿をとっていますが、本来の姿は違います。この地球の守護龍と思ってください」
「……なんかよくわからないけど?」
「私のことは理解しなくても結構です。今となっては単なる面接官です。で、どうしますか? 面接をする意志がなければこのままお帰りいただくことも可能ですが」
「――‼ いや、やるよ!」
苦手な面接とはいえ、ふってわいた異世界転生のチャンスをみすみす棒に振るのは嫌なようだ。
……それなら最初から素直に応じたほうが相手に与える心証がよくなると思わないのだろうか?
「では志望動機をお願いします」
「えっと、異世界行って、最初からいい感じにやり直したい」
「そうですか。しかしながらそれは異世界でなくてもできるのではないでしょうか? まだお若いですし、やり直すことはできますよ」
「いや、いまさら無理だって」
「しかしながら現実世界でやりもせず諦めている人間に異世界で何ができると?」
私の質問に、
「チートください! チートもらって、無双なんてカッコいいし。あとハーレムなんかもやってみたくて」
「チート、ですか? ではチートがなければ異世界には行かないと?」
「へっ? 異世界にはチートがつきものだろう?」
私の言葉に青年は目を丸くする。
「一概にそうとも限りません。なんの能力も与えられずに転生することも」
「だけど、……そ、そうだ! 知識チートで!」
「記憶を持ったまま転生しても、その知識が異世界で役に立つ保証もありませんよ。そもそも異世界が現在の地球より文明が低いという保証があるのですか?」
「ないの!?」
青年は驚愕の表情を浮かべる。
「ない異世界もあります。……それにハーレムとおっしゃいましたが、……ちなみに今までお付き合いした女性は? ああ、2次元の嫁以外でお願いします」
「…………年齢=彼女いない歴……です」
「なるほど。それでは異性との付き合い方が不馴れだと推測します。異世界に転生したとして、それは貴方の人生の延長線上です。異性とまともに話すことができない方にハーレムをつくることが可能でしょうか? 2次元と違い相手も生身の人間である以上、感情があります。複数の女性の愛着や嫉妬を受けてうまく対処できる自信がありますか?」
「…………」
青年は言葉を無くす。
(これはダメだな)
面接項目はまだあるのだが、ここで切り上げるべきだろう。
「本日はお忙しいところありがとうございました」
「え、ちょっと待って! 異世界に行けるのか?」
「これから上のものと協議してからの合否を判断させていただきます。結果は転生をもって発表に代えさせていただきます」
「そんな当たったかどうかわからないテレビの懸賞のようなことを言われても!」
なにやら青年が叫んでいるが特に相手をしない。
無理矢理お引き取りいただく。
(なんだかなぁ)
白い空間にパイプ椅子だけ置かれた場所に1人取り残されると何やらされてるのだろうと我に返り悲しくなる。
先程も述べたが自分はドラゴンである。
創造主に産み出され、地球の人類にスペースオペラを愛するように導き、宇宙進出に力を貸すよう使命を受けた。
だが地球の民は古来より好戦的でドラゴンを見るや敵と見なし、武器を手に挑んでくる。
……何度倒されたことだろう。
詳しくは神話で倒されたドラゴンの伝承を見てもらえばいい、あれは全部同一ドラゴンの悲劇である。
神話ゆえに人間の都合でドラゴンが悪役だが、私は平和的に人間を導こうとしたのだが野蛮な人間は聞く耳を持ってくれたことがない。
そのせいでこの惑星は思った通りの発展をしない。
ずいぶんと前にこの惑星はダメだと創造主に告げたら人間に倒されるのはまだ生ぬるいなと思うくらいの折檻を受けた。
あれは辛い、本当に辛かった。思い出したくもない。
再度地球の管理を任されるも人類に倒される日々。
途方にくれていたところにドラゴンの取り纏めの龍の聖女のクーデター案に乗ったのだが、これまた失敗。
運悪く――本当に運が悪かった――廃棄処分されずに生き残った私はしぶしぶ地球の管理をしていたが結果は芳しくない。
今となっては異世界ファンタジー全盛だ。
スペースオペラ馬鹿である創造主の折檻の足音が聞こえてくるようだ。
調整室送りはもう真っ平だ。
そんな時に龍の聖女が復活し、再びクーデターをすると言うのだから飛びついた。
成功すればよし、失敗したところでこちらは前科持ち、今度こそ問答無用で廃棄処分。
どちらにせよ苦しみから解放されるなら願ったり叶ったりだ。
とはいえおそらく後者が濃厚で、後ろ向きな希望を胸に日々生きる不毛な毎日だ。
そもそも今回、龍の聖女の協力者として地球出身の引きこもりの詐欺師がついたというのだから真っ暗な未来しか見えない。
関わるドラゴンが軒並み不幸になる当代きってのドラゴンスレイヤーと組んでどうするというのだ。
きっと想像の斜め下の不幸な結果になることだろう。
勘弁してほしい。
私はただ早く滅びてこの苦しみから解放されたいだけだというのに。
……話を戻そう。
現在私は創造主を倒すべく、その戦力のスカウト中だ。
引きこもりの詐欺師曰く、『神みたいな訳のわからないモノを倒すにはファンタジーみたいな訳のわからないモノに頼るのが一番だ。できれば才能のある人間をスカウトすべきだ。やみくもに採用してもしかたない』と面接をするように指示された。
『言葉づかいや礼儀などは特に気にしなくても構わない。当たり障りのないことを聞き、相手の返答をその反応を見てるだけでなんとなく人となりは察するよ。時々相手が聞かれて返答に困るような意地の悪い質問をするのもいい手だよ。でもって良さそうな人間だけ採用すればいい。――そこで重要なのは焦ることはないと言うことだ。人手不足のブラック企業などは焦るあまり面接にさえくれば合格にし、使えない人間、すぐ辞める人間ばかりになる。それどころか問題を起こして逃げて後始末に奔走することも多々あった。だからもう一度言うが焦るな。焦るとろくなことがない。根気よく優秀な人間を見極めろ。くれぐれもろくでなしを採用するな』
と私が知る限り一番のろくでなしに言われた。
採用後は月の内側につくられた仮想異世界に修行をしてもらい創造主戦に備えてもらう予定だ。
とはいえ現在採用者は0名だ。
なにせ引きこもりの詐欺師から渡されたマニュアル通りに質問すると大抵しどろもどろになり最終的に言葉に窮する。
今日の人間などマシなほうだ。
場合によってはキレたり泣き落としする始末。
確かに最低限しっかりとした人間でないと異世界に送っても何にもモノにならないというのは道理ではあるのだが。
『出来れば異世界に行きたい人間ではなく、現実世界から逃げたい人間が好ましいんだけど。異世界にしか居場所がないとなったほうが困難にもなにくそと立ち向かってくれるんだけどさ』
あの引きこもりの談は確かに正論ではある。
ただ生粋の詐欺師という経歴を持つ彼の言うことを信用して良いものかと、むしろ逆にこちらが騙されているのではないかという疑念が浮かぶ。
かといって現状私のできることが他にあるわけではない。
来るべき反逆の日に備え、戦力を集めるしかない。
――未来って本当に薄暗い。
「橘翔平、17歳。本日はよろしくお願いします!」
もう1人くらい面接してみようかと、召喚して異世界転生への面接しますかと問うと少年は姿勢を正し、元気な声で挨拶をする。
席をすすめると、
「失礼します!」
と一礼してきびきびとした動作で着席する。
おや、この子はどこか違う感じがする。
「異世界転生の志望動機を教えて下さい」
「はい! 俺……もとい自分は幼少の頃から異世界ファンタジーモノが大好きで、いつかは異世界で主人公のように生きたいと日々願っていました。この千載一遇の機会をなんとしてでもモノにしたいです。是非とも自分にチャンスを頂きたいです!」
いきなり呼び出されたというのに心構えが出来ているというか、……出来すぎではないだろうか?
「今の地球での生活は異世界転生の準備期間だと思い生きてきました。例えばチートを与えられなくも知識だけで成り上がろうと歴史や法律、科学、哲学、園芸に料理まで浅学ではありますが日々学んで来ています。兵法からマヨネーズの作り方まで広く対応できると思います」
「知識を学ぶというのは良いことです。生きる上で何が役に立つかわかりませんので多岐に渡って学ぶ姿勢は素晴らしいと思います」
「ありがとうございます!」
「しかし異世界でも人との付き合いが大事になります。知識だけの頭でっかちの子供の言うことを聞いてもらえると思いますか?」
「思いません。ですのでその対策も自分なりに考えております」
「と言いますと?」
「異世界での交流はこちらからすれば異文化との交流と言えるのではないでしょうか? ですので私は語学を学ぶということを建前に積極的に海外の方とコミュニケーションをとる機会に参加しております。そこで言語、風習の違いによる思考の違いなどを経験しています。これらは異世界転生にきっと活かせると思います」
「なるほど」
なに、この人間?
「また異世界転生で王族や貴族、もしくは兵を率いる将軍になることもあるやもしれません。その時に緊張して領民や部下などの大勢の人前で話すことができないなどという恥を晒すことのないように全校生徒や外国人向けのスピーチなども体験しております」
確かに異世界転生への心構えが有る人間を探していたけど、この人間は有りすぎではないだろうか、こっちが引くくらいに。
というか普通、人間って人生を準備期間って思うものなの?
しかしながら話を聞く限りこの少年は異世界行かなくてもリア充的に成功しているのではなかろうか?
「……貴方くらいに行動的な方だとそれなりに地球での生活が楽しめていそうですし、彼女もいるのでは? 転生すれば2度と帰れない異世界よりも地球での生活を謳歌すべきではないでしょうか?」
と何気なくした質問に少年の表情は青くなる。『俺、なにかやっちゃいましたか?』という展開は好きではないのですが、と前置きをして、
「……なぜだかわかりませんが、いきなりモテ期が来たことがあります。自分の希望は異世界でただ1人の女性を愛することですが、女心を知るために少しくらいは女性との接し方を知るべきだと、正式なお付き合いということではなく、軽くデートくらいはしたことがありまして」
ほう、この少年は本当にリア充なのではなかろうか?
異世界に適正があろうとも現世に未練がある人間を連れていくのは忍びない。
そう告げると、
「そんなことはないのです!」
少年はひどく狼狽する。
「自分は……なぜそうなったか本当にわからないのですが、……失敗しました」
「と、いいますと?」
「ハーレムを作ろうとしたわけでもないのです。ただ誘われるがまま、付き合っていただけなんです! ……それなのになぜか女の敵とかクズとかカスと言われるようになりまして」
「……それは一体どうしたのです?」
「わかりません。異世界にまだ見ぬ運命の相手のために、自分は鈍感主人公のように寄ってくる女の子の好意に気がつかない振りをしつつも、かといって好感度を下げないように皆に優しくしていました」
それはそれで人としてどうだろう?
「自分に好意を持っている英語教師に誘われて行ったアメリカ人主催のホームパーティーで知り合って仲良くなった双子の姉妹がウチの高校に留学生としてきた辺りから人間関係がややこしくなりまして」
少年は思い出しながら頭を抱える。
「ジョギング中にいつも会ってたお姉さんには俺がそのお姉さんの犬と遊んでいたら、『へぇ、女の子のなら犬でもいいんだって』って謂れのない非難を浴び」
「ほう」
「幼なじみには『3? 4? 片手じゃ足りないくらいの股を持っているの? 長い付き合いだけど知らなかった』ってクズを見るような目で見られ」
「はあ」
「同じ図書委員の女の子は露骨に避けられるようになり」
「へぇ」
「優しかった英語教師は急に厳しくなり、顔を会わせればお説教されるようになり」
「それはそれは」
「バイト先の女の子は『やんちゃしろって言いましたけど……限度があるっすよ、先輩』と見損なったような感じで言われました」
「なるほど」
「……家に帰れば義理の母と妹と、なぜか我が家にホームステイすることになった双子の留学生にかこまれギスギスする毎日です」
「……それは、なんというか、……こじれすぎましたね」
「どうしてこうなったんでしょうか? 俺、何かやっちゃいましたか?」
「いや、私に聞かれても」
「クラスメイトは遠巻きに見るようになり、知らない女子からは白い目で見られ、寄ってくるのは合コンをセッティングしてくれという女のことしか頭にない軽薄なヤツくらいで」
貴方も他人から見たら女のことしか頭にない人間に見られているのでしょうけど、とはさすがに気の毒で言えなかった。
少年はおもむろに立ち上がり深々と礼をし、
「ですのでどうか異世界転生させてください! やる気はあります! どんな世界でも構いません! チートが無くても頑張ります! あと現世でハーレム展開で失敗したという経験は異世界で必ずや活かせるはずです! 他に目をくれず1人の女の子を愛すると誓います。ですので、お願いします! 異世界転生させてください!」
少年は熱く思いの丈をぶつけてくる。
この少年は引きこもりの詐欺師のいう基準であるところの素養があるように見受けられる。
また地球に未練がないどころか、地球から逃げたいという切実なる希望がある。
「……お疲れ様です。これにて面接は終了とさせていただきます」
……だけどなんでだろう?
「結果は! 結果はどうなんですか!」
「これから上のものと協議してからの合否を判断させていただきます。結果は転生をもって発表に代えさせていただきます」
この少年は絶対に異世界に連れていってはダメだと思うのは。
引きこもりの詐欺師でドラゴンスレイヤーに興味を持った方は『若者のスペースオペラ離れを嘆く女神様に宇宙船をもらったんだが、引きこもるにはちょうどいい』も読んでください。
一風変わった異世界転生ものです。
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