デスゲーム、開始と終了
私は暗い密室に篭り、私主催のデスゲームを開催する準備をしていた。
小中高大と、優秀な成績を残した私は、大学卒業後は国の高名な科学研究所に就職した。
毎日研究に明け暮れ、バラ色の人生が続くと思っていたある日。
私は研究所を追い出された。
私の研究は危険過ぎるという事で、所長からクビを言い渡された。
銭湯で女湯に入るために、人体完全透明化の研究を進めることの何が危険なのか、未だによく分からない。
だが、この私の頭脳をもってすれば、たった1人でも研究を続けることが出来たのだ。
そしてこの私の最高傑作が、今目の前に置かれている。
といっても、それはただのパソコンであり、その中にデータとして存在している。
私は科学については超一流だが、その他の点では一般人よりかなり劣る。
そこで、私はありとあらゆる才能を手に入れようと考えた。
そこで私の発明その1。
膨大な量のデータによる擬似空間の生み出しに成功したのだ。
そして発明その2。
その擬似空間に任意の人間を閉じ込める方法も編み出した。
最後に発明その3。
擬似空間で死んだ人間の才能を抽出し、自身のものとして扱えるようになった。
この3つを組み合わせることにより、擬似空間に才能ある人間を監禁し、デスゲームを開催して殺し合わせる。
そして彼らの才能を私が独り占めにするという策略だ。
かつて万能人と呼ばれた偉人がいた。
その名は、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
私は彼の名前にあやかり、このデスゲームをダ・ヴィンチの監獄と名付けた。
そして今、開催準備が丁度終わったところだ。
今回監獄にぶち込む人間は男女4人ずつ、計8名。
富岡 宗介。
小学生の頃から全国模試で1位を取り続け、知識量は世界一と言われる現役高校生。
高田 康太。
陸上自衛隊二佐。最年少で二佐になり、特殊部隊を束ねる文武両道、最強の男。
三島 雄二。
ありとあらゆるゲーム大会で優勝し続ける、高校生ゲーマー。
西岡 透。
奇抜な発言と奇行で一躍有名になった若手マジシャン。
佐々木 由奈。
全国模試で富岡に次ぐ2番を取り続ける同学年の高校生。生徒会長を務め統率力は日本一。
矢谷 千名。
IQ測定不能と言われる天才アイドル。めっちゃ美人。私の嫁。
青山 麗奈。
日本の財政を建て直した若手官僚。最年少で官僚に。
香山 有栖。
剣道、柔道、合気道。多くの武術を学んだ、忍者の末裔と言われる高校生。
私はこの8人を監獄に入れる用意を終えると、ボタンを押そうと指をだした。
さすがに震えているな。
だが、これは恐れでは無いだろう。
私がダ・ヴィンチに次ぐ万能人になることによる戦慄だろう。
私は震える手で、ゲーム開始と書かれた、タッチパネルのボタンを押した。
『──皆さん、こんばんは。ここは現実世界とは別の世界です』
画面越しにこちらを見上げる8人を見返しながら、私はマイクに声を出した。
『今から皆さんには、生き残りをかけて殺しあっていただきます。最後まで生き残った1人だけが、そこから脱出することが出来ます』
在り来りなデスゲームの内容だが、私の目的とはベストマッチだ。
さあ、殺しあって貰おうか。
『このゲームの名は、ダ・ヴィンチの監獄。それでは皆さん、どうぞ早速殺しあってください』
私はそう言い終えると、マイクの電源を切り、目の前に並ぶ多くのモニターを眺めた。
暗く小さな部屋の壁一面に並ぶそれは、擬似空間内の彼らをあらゆる方面から映していた。
さあ、最初に私に才能を取られるのはだれかな?
私は期待に胸を躍らせながらモニターを眺めていた。
その間、画面内の8人は自己紹介を始めたようだ。
彼らが居るのはとある高校。
その教室に集められ、全員で円形に並び自己紹介をしている。
私はイヤホンを付け、画面の向こうの音を聞き入れた。
「──デスゲームなんてバカバカしいな。あそこまで、私の目的は殺しあってもらうことです! なんて言われると殺し合うはずもないだろう」
……えっ。
「本当にそうよね。脱出するために殺し合うくらいなら、共に生きながら脱出する方法を探すわよね」
…………えっ。
「それに、アナウンスの内容からして、自らの目的を露呈させる辺り、頭が悪そうね」
…………なんだと?
「ギハハッ! ここが現実世界でないのなら、頭の悪い一般人共はいないんだな! やったぜ! 俺は一生ここで暮らすぜ!」
………………はっ?
8人が各々、殺し合わない宣言をし終えると、全員がこちらを向いた。
「と、言うわけで。俺たちは殺しあわないから」
「ギハハッ! こんな楽しい世界に入れてくれてありがとよ!」
「ここなら邪魔も入らないし、私は数学の未解決問題をいくつか解いてみるわ。私達だけのためにこんな世界を作ってくれて、感謝してるわ」
……………………。
……私の計画は、開始5分で頓挫したようだ…………。