何を食すか。
[ゆで卵]を食べるとき思うことがある。
恐竜、獰猛な過去の支配者。
そして、鳥はその子孫。
支配者の末裔。
人間はその鳥を完全に使役し、家畜化し上質なタンパク質を摂取するため、卵を産ませる。
そして、茹でる一手間をかけて食べる。
生まれるはずの生命を。
その殻を破る前に。
産んだ当人が気づく間も無く。
慈悲のかけらもなく。
残酷に食す。
うまい。
前時代の支配者を最大限屈伏させた姿が、ゆで卵だ。
そしてなにより、鳥はその事実に気づいている素振りを毛ほどもみせないのだ。
皮肉なことではないか。
前時代の神とも言われた種族の末裔が、
[ゆで卵]としていともたやすく消費され、その事実に気づきもしないのだ。
人間。
ある人間はアスリートとなり、研鑽の重ね肉体の限界に挑戦し、
またある人間は予測不可能なことで世界を笑顔でみたし、
またある人間は、目を見張る発明をし世界を大きく飛躍させる。
かのマトリックスでは人間を電源と表現したが、彼らから本当に搾取すべきは、彼らが産み出すその混沌とした突拍子もないアイディアなのだ。
前時代の覇者とはこれほどまでに脆く、己の現状に気付かない。
こうして私は家畜を飼い、育み、今日もまた美味で不可欠な[ゆで卵]を食しているのだ。
僕の今日食べたゆで卵は、僕の血肉になって僕を支え、
だれかの[ゆで卵]になるのだろうか。