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第8話

「アイツ……俺のところのボスは、どうにかして俺を捕まえたいらしい……あの野郎俺を捕まえるために、仲間1人殺しやがった……胸糞悪ぃ……絶対ェ真相を突き止めてやる」

 そう言ったシンの姿に、一緒に任務に就いていた頃の昔の姿が現れて、重なった。

 隣には、危険と隣り合わせであってもシンと過ごす毎日を、楽しく感じていたネオの姿がある。無表情ではなくて、控えめでも笑顔でシンを見つめている。

 ──シンには何か人を惹きつける……夢を見させる力がある。

 先ほど見た夢で仲間の1人が言っていたことを思い出した。

「……確かにそうかも」

 ネオは小さくこぼして、自分の右目に少し触れた。

 そのときに、

 ──カチャ……ゴーン……ゴーン……。

 部屋の中にあった大きな古時計が夜中の12時を知らせた。

「……? なんか言ったか?」

「……何も言ってない」

「確かになんか声が……」

「……具体的にはどうするの? って聞いた」

「あぁ……ブラッディ・シャドウに行く」

「……なんで?」

「あそこにはブラッディ・ワルツを頼みに、色々なギルドの奴らが集まるからな……何か情報が掴めるかもしれねぇ」

「……危険じゃない?……追っ手がいたらどうするの」

「普通の客もいるのに、店ん中で暴れたりしねぇよ。店に迷惑なんか掛けてみろ、今後のギルドの信用問題に関わる。第一、ワルツが飲めなくなるからな……ここからだと遠いか?」

「……そんなにかからない……けど……パックはもうないから、体力は残しておいた方がいい」

「!……悪かったな、ほんとに貴重なのに」

「……それは気にしなくていい……オレが必要だと思って、シンに飲ませただけ」

「……お前はずっと変わらねぇな」

(こいつのこういうところに、俺は救われてきた)

 シンはネオの目を見ながら思った。

「こっからだとどう行けばいい?」

「……まず──」

 ネオはシンへ現在地と酒場ブラッディ・シャドウへの道順とこの辺りの土地を説明した。

「分かった、行ってくる」

「……オレも行く」

「お前をこれ以上巻き込めねぇ。それに……あいつが目ぇ覚ましたときに、どうするんだ」

 シンは怜の方に顔を向けた。

「……朝までは眠ってるから大丈夫……それまでに、戻ってくればいい……それに、ダメって言われても付いて行くから」

 ネオはそう言って、立ち上がると奥の部屋に入っていった。

「頑固なところも変わらねぇのな……」

 シンが呆れている間に、ネオは戻ってくると取ってきた物をシンに片手で渡す。

「んだよ、これ」

「……上着……さすがにその格好は目立つから、これ着て」

 シンは自分姿を確認する。来ているロングTシャツは、腕の所にルイに撃たれたときの穴が空いている

「あぁー……サンキュ」

 新しい黒いパーカーに袖を通して、シンはネオと共に酒場ブラッディ・シャドウへ向かった。


※ ※ ※


 シンとネオは、酒場ブラッディ・シャドウの店の近くまで来て、物陰から客の出入りの様子を伺っている。

 ブラッディ・シャドウは、商店街を横に入った路地裏の目立たない場所でひっそりと店を構えていた。

 2人が来てからさほど時間は経っていないのに、店の中へと続く入り口には、何人もの客が入って行った。

「やけに客がよく入るな……」

「……もうすぐ、ブラッドムーンだから」

「あ?……そういやそんなのあったな」


 ブラッドムーンとは、月食の種類の一つ。

 月食とは、太陽と月の間に地球が入り込み太陽・地球・月の順番に一直線に並ぶことによって、地球の影に月が入って月が欠けて見える現象のことを言う。

 ブラッドムーンは、月が完全に地球の影に入って、月が赤く見える皆既月食のこと。皆既月食のときには、月は必ず満月になっている。

 太陽の光を避ける吸血鬼たちにとっては、昔から月の明かりが彼らの生活を照らしていた。月が最も輝く満月は、その力を一番多く得ることができる。

 月の力と併せて、吸血鬼の生きる糧である血のように赤く染まったブラッドムーンを、多くの吸血鬼たちは特別なものと考えていた。数年に一度見られるこの現象を、楽しみにしている者も多い。


 実は満月は、人間の体にも影響を与えていると考えられている。


 海には満ち潮と引き潮があって、この潮の満ち引きは月の引力によって起こっている。

 潮の満ち引きの差が一番大きくなることを、大潮という。そして大潮は、満月と新月のときに起こる。

 人間の体は70%以上が水分で構成されているために、海と同じように何かしら月の影響を受けているのではと考えられている。


「……それに、今回はテトラッドだって、何年か前からみんな騒いでる」

「テトラッド……? んだそれ」

「……4回連続でブラッドムーンが起こること」

 月食そのものは珍しいことではなくて、1年に2回起こる場合もあって、多い年は1年に3回発生することもある。

 しかし月が完全に地球の影に隠れて、赤く見える皆既月食──ブラッドムーンが4回も連続で続くことは極めて珍しい。

「数百年に一度の……ってやつか」

「……ブラッドムーンは何回も見たことあるけど、テトラッドは初めて」

「俺も初めてだ……まぁ確かに珍しいけどよ、そんなに騒ぐものか?」

「……長生きしてるから、何か変わったものが見たいんじゃない?……テトラッドを迎えるために、ずっと生きてる奴もいるって聞いた」

「……俺には分からねぇ」

(生きる楽しみなんて、考えたことなかったな……)

 シンには、ブラッドムーン──特に、近々迎えるテトラッドを楽しみにしている吸血鬼たちの気持ちが分からなかった。

 シンとネオは様子を伺っていた物陰から移動して、地下にある店へと続く階段の前に立つ。

 2人はさっさと階段を降りて、左へ曲がると奥には店の扉が1枚あった。扉には“WELCOME“と赤字で書かれたプレートが掛けられていた。

「……懐かしい」

 プレートを見たネオは、シンの後ろから声をこぼした。

「最近は来てなかったのか?」

「……ギルドを抜けてから、来てなかった」

「そうか……“OPEN”じゃなくて、この“WELCOME”ってのがマスターっぽいよな」

「……確かに」

 ブラッディ・シャドウは、表向きは普通の酒場をしていて、人間も通うことができる。シンは血のメニューであるブラッディ・ワルツも好きではいたが本心は、誰も関係なく迎え入れるこの店のスタイルが好きだった。

 アンティーク風な扉に付いている取っ手を回して、2人は店の中へ足を踏み入れた。


 中には更に下にあるフロアへ降りる階段があって、扉から入ったばかりのシンとネオの目線の先には、大きなシャンデリアが吊るされていた。店の中は客が多く繁盛している。

 2人は階段を降りて、制服であるマントを羽織っているスタッフが立つカウンターへ向かう。

「ブラッディ・ワルツ、2つ」

 グラスを拭いていたスタッフに声を掛けた。

「かしこまりました」

 スタッフはシンの声に気が付いて、拭いているグラスから目を離し顔を上げる。

「お持ちいたします。どうぞお掛けになってお待ちください」

 スタッフは番号が書かれている立て札をシンに渡して、空いているテーブルと椅子がある方に顔を向けた。

「ども」

「……」

 シンは立て札を受け取って、ネオは会釈しながらスタッフの元をあとにした。

 スタッフは案内した席に2人が座るのを、横目で確認していた。

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