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第3話

「悪い、トイレ貸してもらえるか」

 空腹が続いているからか腹の辺りが少し痛い。シンはトイレを借りようと怜に尋ねた。

「トイレはね、キッチンの後ろの扉だから」

「サンキュ」

 シンは腰を上げて、ゆっくりと立ち上がろうとしたときに、腰とローテーブルの間でガコッと重い物音がした。

「?」

 立ち上がったあとに、シンは自分の腰へ伝わった感触を不思議に思って振り向いた。

 捲れた上着の下には、ルイから奪った拳銃が入っているホルスターが顔を出している。銃がローテーブルに引っかかった音だ。

(しまった!)

「どうしたの?」

 目の前に座っていた怜は、鈍い物音と振り向いたシンが気になった。

 膝を立てて、音が鳴ったシンの後ろ側を覗き込もうとする。

「あっ、いや!別に……立とうとして、腰ぶつけただけだから!」

(コレを見られるのはまずい……!)

 体の向きを変えて、腕を後ろへ回して上着に着ていたパーカーの裾を引っ張る。

「……?」

 不自然に後ろへ回された両手に、怜は疑問を持った。

(……何か隠してる……?)

 怜は立ち上がって、訝しみながら無言でシンに近づく。

 怜が一歩前に足を出すたびに、シンの足は後ろへ退がる。シンの踵と髪の毛が壁に触れて、もう逃げることはできなかった。


「……はぁ、分かったよ。見せるから、ちょっと待って」

(……上手く、誤魔化されてくれ……)

 そう願いながらシンは、背中の裾から両手を離した。

 首と片手を腰へ向けて、おもむろにホルスターに手を掛ける。留め具を外して手に持った。

「?」

 怜は足を止めて、シンの動きを見ている。

「……ほら」

 シンは腰の後ろへ回していた右手を、怜の前に出して見せた。手にはホルスターから外した拳銃が握られていて、黒色のボディが鈍く光っている。

「えっ……」

 ドラマや密着ドキュメンタリーなどでしか見たことがない物が目の前に出されて、怜の頭は上手く認識することができない。

(これって……拳銃……?)

「良く出来てるだろ?」

「えっ」

「モデルガン持ち歩いてるなんて、驚かせそうで言えなかったんだ」

 差し出した銃を、自分の目の前まで引き寄せて見つめる。

「隣の奴とも、コレの仲間なんだ」

 シンは視線を怜の方に向けて様子を窺う。

「……サバゲーみたいな感じ?」

「あぁー、そうそう」

「なんだ、そうだったのか……」

「いきなりでびっくりしたろ?」

「いや……びっくりっていうか……なんか、上手く頭に入ってこなかったよ……」

「まぁ、あんまり見るも機会ねぇだろうしな」

「モデルガンでも、弾って撃てるの?」

「モデルガンは撃てねぇ。撃てるのはエアガン。これは構造とか、そういうのを楽しむやつ」

「そうなの……?」

「あぁ」

「良かったら、触らせてくれない?危なくないなら、持ってみたい」

 怜は純粋な目をシンに向けた。

「……」

 シンはその目を見て少し考えたあとに、壁際から離れてシンの元へ歩いて近づく。

 シンは右手に持っている銃を見て、セーフティがかかっているのを確認する。そのまま怜の前まで移動させて、差し出した。

「……重いかもしれねぇから、気をつけて」

 2人の間には、モデルガンではなく本物の拳銃が存在している。

「ありがとう」

 怜は両手を受け皿にして、シンからの銃を受け取った。

「……ほんとだ、重たい……」

 怜は手を動かして、手に持った銃の表裏を真剣に見ている。

「こんな風になってるんだ……右側と左側でちょっと違うんだね」

「右利き用だからな……左では撃ちにくい構造になってる」

「へぇ……凄い、ちゃんと理由があるんだね。左利きの人はどうするの?」

「左利き用の銃もあるし、今は両利き対応のも出てきてる……俺は直接見たことないけど」

「そうなんだ……こうやって、見た目とか重さ?を楽しむんだね」

「あとはそうだな……分解したり?とかだな。中身のギミックも似てるから」

「これも分解できるの?」

「あぁ……あぁー……けど、改造防止のためにできないやつもある。これはマガジン……弾が入ってるとこくらいまでなら外せる」

「ほんと?どうやって?」

「……貸してみ」

 シンが手の平を上にして、怜の方へと右手を伸ばす。

「ありがと」

 前に出されたシンの手の上に、怜は拳銃をそっと置いた。

 シンは銃を受け取って怜の左側まで移動した。すぐ側に立っていて、右手に持った銃の左側を見せている。銃口は左を向いている。

「親指の近くにある、この小さいボタンみてぇなのを押すと、弾が入ってる弾倉ってのが下から出てくる」

 シンは左手をグリップの下に添えて、怜に説明した通りに、引き金付近にあるマガジンキャッチと呼ばれる小さなボタンを親指で押した。ストッパーの役割が解除されて、弾が詰められている弾倉がシンの左手にストンと落ちてくる。

「うわぁ……これに弾が入ってるんだ」

 始めて見る仕組みに関心している怜に対して、シンは文字通り左手に違和感を持った。

(……? なんか、下の方が重たい……?)

 手に持って弾倉を回転させながら違和感の正体を探る。

「……あぁ、これは偽物だけど、こうやって見ると弾が……」

 そのときに、弾倉に不自然な亀裂を発見した。

 実砲弾が顔を覗かせているのとは反対側に、弾倉の下部には人工的な亀裂が入れられていた。

「んだこれ……」

 亀裂は弾倉の側面に対して横向きに、本体を3分割するように2本の線が刻まれている。

(なんだこのヒビ……なんでこんな所にヒビが入ってんだ? ……ルイのヤツ、セットするときに気付かなかったのか?)

 シンは訝しげに左手に持ったままの弾倉を見つめる。

「そのマガジン?も、分解するの?」

「いや、これは分解はしなくて、弾をセットす……」

 分解……?

「ちょい持ってて」

 怜の〈分解〉という言葉を聞いて、シンは右手に持っていた銃本体を、顔も見ずに怜へ渡した。

「えっ、あっ」

 怜は急に出された銃を、言われたに通り受け取った。弾倉がない分先ほど持ったときより軽い。

 シンは両手で弾倉を持って、狭い側面の部分に爪を差し込む。両手で卵を割るときのように、亀裂に沿って弾倉を開いてみる。

「くっ……」

 開かない。

(あ? 開かねぇな……重さに違和感を感じたのも、このヒビのせいだと思ったんだけどな……勘違いだったか?)

 シンが力を強くしても弾倉はパカッと割れなかった。

 首を捻りながらもう一度弾倉全体を確認するシンを見て、怜は声を掛けた。

「スライドさせるんじゃない?」

「は?」

「テレビのリモコンみたいに、力入れてスライドさせたら、開きそうじゃない?」

「……」

 シンは言われ通りに、広い側面にある亀裂の部分に親指を押し当てて、奥へとスライドさせる。すると、

 スルッ……ストン……。

 亀裂に沿って象られた弾倉は、薄いプレートになってラグの上に落ちた。

「うわ、ほんとに開いた」

 自分で提案しておいて怜は驚いている。しゃがんでプレートを拾って、シンに渡そうとする。

「……んだ……これ……」

 シンは足元に落ちたプレートではなくて、手元に残っている弾倉本体を見ていた。

 側面の3分の2が外れて、下部からは実砲弾──ではなくて、四角い黒色の塊が詰まっていた。

 明らかに普通の弾倉の構造ではない仕組みに、シンは驚く。

(カートリッジじゃ、ない……なんだこれ……)

 シンは弾倉を左手に持って、ゆっくりと自分の耳へあてる。

 ……ッーー……。

 微かに、電子音のような音が聞こえる。

(モーター……? 分かんねぇ、なんの音だ……?)

 そうシンが考えたときに、玄関のドアノブがゆっくりと回された。次の瞬間に、扉が勢いよく開かれた。

 ──バァーンッ!

「「!!!」」

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