娘が飼いたいと言ってきたペットが魔王だった
「ねぇ、お父様。お願いあるの」
「ほう、無欲なお前がかどんなお願いだ」
「飼いたい子がいるの」
そうかそうか。
ようやく10歳の我が娘リーゼも年頃の娘達のように、可憐で可愛いペットに興味を持つようになったか。
ニコリとも笑わない鉄仮面令嬢だの、甲冑に無表情で頬ずりする甲冑令嬢だのと言われ続けてきた。
娘の評判に気が気でなかったが、これで私も安心できるというものだ。
「入ってきて」
ソレは、娘に促されて書斎に入ってきた。
うんうん、みつめるだけで相手を射殺しそうな釣り上がった紅い目。
人間を軽くひねり潰しそうな太い腕。
今は昼間だというのにソレの周りだけ光が切り取られたかのような漆黒に満ちたオーラを放っている。
どうやら、凛々しいペットらしい。
…………。
「ゥ゛ン゛ン?!」
いやいや、なんか頭に角、生えてない? オーラ禍々しくない?
「我をこんなところに連れてきて何をするのかと思えば、我を飼いたいだと? 相変わらずお前は不遜で面白いな、リーゼ」
あれ、敵国の魔王じゃね?!
「今すぐ捨ててきなさい」
リーゼに耳打ちする。
「でも……」
「魔王である我を差し置いて我の花嫁に指図するか……その不敬万死に値する」
「ヒッ……?!」
っていうか今、さらっと花嫁って言ったな……。
私のみていないところでなんてフラグを立てているんだ、この娘は。
その放蕩娘は何を思ったか、魔王のほうへとことこと歩き。
「めっ!」
魔王を叱っていた。それも愛らしい顔で。
リーゼ、あんな顔するのか。
お父さんの前ではそんな顔、してくれたことないよね。
「おおリーゼよ、わかったからそんなにむくれるな そのむくれ顔も可愛いのだが」
「ごめんなさい、は?」
「ごめんなさい……そこの者、済まなかったな その不敬リーゼに免じて許す」
「あ、はい」
その高圧的な態度はやめないんだ……流石は魔王。
謝りながら相手を許したの、初めてみたよ。
「ねぇ、お父様、飼っていい?」
「いいわけ……」
いいわけないだろうと言いかけて、魔王をからとてつもない殺気が放たれていることに気づいた。
――断ったら、リーゼ以外末代まで呪うぞ。
そんな幻聴が聞こえた気がした。
「いいわけ……ある! 大歓迎だよ」
「やったーー!」
「我も魔王の仕事があるからな たまにしかここにはおれぬが……」
分かっていたけれど、居座る気マンマンだ この魔王様。
「そうなの……?」
リーゼはしょんぼりしている。
「おお、しょんぼりするな! リーゼ。 ……そうだ良いことを思いついたぞ。 ここを我が拠点の一つとしよう ここと魔王城の空間を繋げてしまえばずっと一緒だ」
「わーい!」
申し訳ありません、我が王よ 私、魔王側に付きます。
* * *
ガリンセル王国と魔帝国の戦争は以外な結末を迎えた。
公爵家であるアレイクシア家が魔王と繋がっており、和平の橋渡しをしたのだ。
当初、王国の貴族達は、アレイクシア家を裏切り者と罵った。
だが、自分より身分の低い貴族に頭を下げてまで、和平に奔走するアレイクシアの領主の姿をみてその熱い想いに貴族達も考えを改めた。
……まあ、アレイクシア家以外皆殺しと和平のどちらがよいと思う?
などと魔王が言い出した為、アレイクシアの領主はなんとしても和平に持っていくしかなかったのだが。
幸い開戦して間もない頃だった為、王国側の犠牲も最小限に済んだ。
アレイクシア家は、王から褒美を受け取り、王国を滅びから救ったとして後の世に語り継がれることとなる。
* * *
数年後のある日。
「ねぇ、お父様、飼いたい子がいるのだけれど」
「何?! 今度は魔王とかやめてよね」
「それが魔帝国と和平をしたせいで失業した勇者なのだけれど マーくんとは前世からの魂のライバルみたいで」
「マーくん?! それはともかく捨ててきなさい!」
瞬間、私の首筋に剣が現れる。
どこから現れたのか、豪奢な鎧に身を包んだ勇者が目の前にいた。
「親父殿、捨ててきなさいという言葉は勇者である私を侮辱している それはよくない」
「いきなり現れて親父殿とか言い出す変質者に侮辱云々言われたくない!」
「お父様許してあげて、この人、私の為に怒っているの 素直じゃないのよ」
「え?」
「い、いや別にリーゼ様に無理を強いているのをみて我慢できなかったとかそういうわけではないぞ」
顔を赤くして、そっぽを向く勇者。
……わかりやすいな。
そのとき、書斎の空間が捻じ曲がった。
「ん? 勇者ではないか?!」
最悪のタイミングで現れるね……魔王様。
「魔王!貴様に決闘を申し込む」
「ほう、察したぞ勇者。我が花嫁に手出そうというわけか どうやら今世でもお前とは争う運命にあるらしいな」
「ふ、ふん 貴様のような存在が許せないだけだ 別にお前と一緒にいるリーゼ様の事が心配なわけではない!」
「えっと、二人には仲良くしてもらおうと思っただけなのだけれど」
リーゼ……。もう遅いぞ。
二人の魔力が高まる。
ってここでやるの?!
その日、アレイクシア家のリフォームが始まった。
「もう勘弁してくれ……」
おしまい。