二千年前は…
この世界の歴史についてです
日本でいう、大学の講義室の様な教室に、気だるげなシシツキの声が響く。
面倒くさそうながらも、要点をしっかりとまとめた授業はわかりやすく、また初日のこともあってか、問題児として懸念があったサノ・オウキも含めた全員が、素直に授業に出席をしている。
「これから教えるのは、この世界の歴史だ。この世界の歴史は、君たちのように、異世界から喚ばれた歴代の勇者達の軌跡と言っても過言ではない。まあ、でもその前に、この世界の成り立ちを教えておくべきか」
シシツキは、カリカリと黒板に二千年前と記入した。
ザワリと教室が騒めく。
「二千年前、この世界の人間は1度滅びたと言われている。いや、正確に言うとこの世界の文明が滅びたと言うべきか。なぜなら、千人程度の人間は生き残ったと言うのだから」
シシツキの説明に、ザワッと更に教室がざわめいた。
ありえないという声も聞こえる。
「その理由というのが、初代魔王の出現と言われている」
騒めく勇者達を無視して、シシツキは黒板に魔王の出現と汚い字で書いた。
正直、ちょっと頑張らないと読めない。
もしかしなくても、最初の騒めきは、シシツキの字の汚さに対する呆れの声だ。
「先生、質問です」
「ん?」
ピシッと手を上げたのは、学級委員長をしていたという、三つ編みがトレードマークの少女だ。授業に熱心に取り組み、率先してクラスをまとめる姿をよく見る。
彼女は、シシツキが質問を許可すると、席から立ち上がった。
「二千年前に、初代魔王が現れたということですが、それまで魔王というのは、存在しなかったのですか?」
彼女の質問に、シシツキは苦虫を噛み潰したかのような表情をした。今まで、どのような質問にも淡々と答えてきたシシツキにしては、珍しい反応だ。
「それが、さっぱりわからないんだよ」
「わからない?」
「そう」
シシツキは、魔王と書いた下に、線を引いた。
カッカとその端っこをチョークで叩きながら、シシツキは、うらめしげな口調で、説明を続けた。
「先程も言ったように、この世界の文明は一度滅んでいるんだ。しかも、滅ぶ以前の遺跡も、全くと言ってもいい程残っていない。また、生き残った千人も特に文献は残されていない。だから、二千年以上前の人間がどのように生活をしていて、魔王がなぜ現れたのかということは、今も研究している途中なんだ」
口調から察するに、どうやらシシツキが研究しているというのは、二千年以前の文明に関してらしい。
しかし、その研究も全くと言ってもいい程進んでいないのが現状だ。
「まあ、それは置いておいて、二千年前に滅んだ人間の文明・文化が、どのようにして再構築されたのかと言うと、それは異世界からの勇者のお陰だよ。彼らは、多くの自分たちの文化を伝えてくれた。例えば、この世界の教育・文字・お金・時間などの暦も勇者がつたえたものだと言われている」
シシツキは、調子を戻して、教卓にもたれながら、意気揚々と話し出した。
まるで水を得た魚のように生き生きとし始めたシシツキに、教室の後ろから見守っていたアイカは苦笑した。
こうなると、シシツキは止まらない。
「例えば、初代勇者はまず、文字を伝えた。そして―――」
まさか、初代勇者の事から順に語っていくつもりなのだろうか。
目の前にいる、若い勇者達に辿り着くまでに、何代の勇者が居たと思っているのだろうか。
アイカは、シシツキが授業の終わりを知らせる鐘に気づいてくれることを切に願いながら、彼女も目を子供のように輝かせながら講義をするシシツキの声に、耳を傾けた。
ちなみに、案の定シシツキは授業の終わりを知らせる鐘に気づかず、授業時間の変更を余儀なくされましたとさ。
「いや、聞き惚れていた私も悪いんですよ…。助手なのに…」
詳しい世界観は、追々話の中で説明していきます。
お粗末さまでした。