心配ごとは、ひとつだけ。
美空、ちゃんと家に帰ったかなぁ。
電車の扉が閉まった後も、涙を浮かべながら大きく手を振ってくれていた美空のことが気になってしょうがない。
電車の中から送ったメッセージには既読もつかない。携帯すら見ていないのだろうか?
父の転勤でアメリカへ行くことが決まった時、私の心配ごとは美空のことだけだった。
そして、飛行機に乗った今でも私を悩ませるのは美空だ。
小さい頃からずっと一緒で、嬉しいことがあれば楽しそうな顔で私に話してくれた。その顔を見ると、私も楽しくなった。
悲しいことがあれば、辛そうな顔で私に話してくれた。その顔を見ると、私も悲しい気持ちになった。
だから、私は美空を元気付けるために全力を尽くした。
美空が笑ってくれなければ、私も笑うことができないから。
私にとって美空と離ればなれになるのは、もちろんとても悲しいことだ。
でも、それ以上に、私がアメリカに行くことで美空が悲しい思いをすることが、辛くてたまらないのだ。
できることなら、私はずっと美空と一緒にいたかった。
しかし、来年からやっと高校生になる私1人で日本に残ることは、両親が許してくれなかった。
飛行機の中では、美空にメッセージを送ることもできない。
アメリカに着いたら、美空に電話をかけてみよう。
そう考えながら、ぼんやり窓の外を見ていると、何かの明かりが雲の中を飛んでいるのが見えた。
他の飛行機だろうか?と思ったが、その明かりはどんどんこちらに近づいてきているようだ。
そしてそれはついに、私が乗っている飛行機と並走し始めた。
明かりの正体はなんと電車だった。
電車が飛行機と同じように、空を飛んでいるのだ。
呆気にとられて、窓に手をついた。
と、思ったら私の手は窓をすり抜けてしまった。
そして次の瞬間、私は空を走る電車の上に座っていた。
そこから飛行機を見下ろすと、私が座っていたはずの席では、私が眠っていた。
「夢・・・なの?」
自然とそう呟き、そして自分の呟きに納得した。
そうだ、これはきっと夢に違いない。
電車が空を飛ぶはずがない。
これが夢だとわかった瞬間、私がこの電車で何処へ行くのかは決まっていた。
「美空に会いたい!!!」
私の叫び声と共に、電車は動き出した。
これが夢だとしても、私は美空にもう一度会いたいのだ。
悲しそうな泣き顔ではなく、最高の笑顔の美空に。