1ken目
「――!」
注意を喚起する誰かの声。
エアコンの効かない実験室にうんざりして現実逃避気味である“彼”はそれを意識することなく聞き流してしまう。ふと顔を上げたときにはもはや遅く、眼前に恐ろしい色をした溶液が迫っている。それは浴びたらおそらく無事ではすまないであろうことが一目でわかるほどの危険色。
加速した思考の中、「これは死んだかもしれない」などと妙に暢気な考えが浮かび、瞬間――――
彼の視界は黒く塗りつぶされた。
「う、ううん…?」
心地の良い微睡みから醒める。何か長い夢を見ていたような気がする、などと纏まらない思考をしつつ起き上がると、そこは彼の見知らぬ場所。周りには木々が鬱蒼と生い茂り、鳥の囀りが煩いほどに響き渡っている。
これは夢なのだろう、と考えるも頬を抓ると確かに痛みを感じる。ならばこれは現実なのだろうか。一度そう思ってしまうともう“ここ”が現実だとしか思えなくなってしまう。それほどの“現実味”が感じられた。
もしここが現実ならば――――時が経つにつれて事態の異常さを理解し、不安で堪らなくなりながらも、喚き散らすようなみっともない真似は自らの矜持が許さない。彼は心から誓った。あの時の自分とは決別したんだ―――。
そこで突然の頭痛が彼を襲う。それはまるで彼に過去のことを思い出すな、と警告しているかのようで―――。
痛みに耐えきれなくなった彼は再び気を失う。次に目が覚めるときにはこの悪夢のような現実か、はたまた現実のような悪夢からか、解放されることを望みながら…。
これは“彼”、太田謙の時空と愛を巡った壮絶な戦いの前日譚――――
後に“極東の正射影”と呼ばれることとなる青年の描く軌跡を綴った物語の序章である。
最近中学校で女子に話しかけようとすると顔を赤くして避けられるから嫌われてるかもしれないと思い始めた作者ですw
以前なろうでとても有名な作者だったのですが(名前は秘密です)新しいアカウンオを作りましたw(俺の作品を読んだことある人は多いと思いますw)
今作品もよろしくお願いしますw