表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「黒い天使長編『死神島』」シリーズ  作者: JOLちゃん
7/16

「黒い天使・長編『死神島』」⑦

「黒い天使長編『死神島』」第七話。ついにサバイバル・デスゲーム最大の難関であるフォース・ルールが発動し、50人という大人数の<死神>の投入が始まる。サクラ、拓たちは本土にいるユージと連携しながら、その対策に追われていた。そして時間となり、二隻のボートと二機のヘリコブターが島に接近し<死神>が上陸を始める。それを水際で食い止めようと、参加者たちが一丸となり武器を取り戦いはじめる。絶望的かと思われた参加者たちだったが、サクラと拓は必勝の作戦を立て<死神>たちを迎撃していった。だがそんな中、参加者の中に紛れ込んでいた内通者によって、逮捕していたサタン、村田は再び自由を得、混乱の中姿を消すのだった。

  3


 紫条家 本館



『成程…… <死神>はこれから増えるのは確実、さらにもう一回イベントがあるっていう事だな』


 サクラと拓が交互にサタンの放送の件をユージに説明した。元々フォース・ルールは分かっていた事だから驚きもない。ただ、最後のイベントが入念に用意されていることが照明された。

「で? ユージのあんまりよくない話ってなんじゃい?」

『タイムリーだ。そのフォース・ルールでいう<大死神>たちだが、お前たちの考えている以上に戦闘力があるかもしれない』

「根拠は?」

 拓が尋ねる。スピーカーフォンだから皆と通話可能だ。


『まだ完全に確定とはいえないが、CIAの外部組織がこの件に関わっている可能性がある、少なくとも数ヶ月訓練を受けただけの俄仕込みじゃない、本場の訓練を受け実戦経験のある連中が混じっている可能性はある』


「ホンマ?」と飛鳥。


「どういう経路でCIAが絡んでるって分かったんだ?」

『俺を襲った連中が、CIAが雇っていた外部組織の連中だった』

 単にいつも通りユージが狙われただけじゃないの?とサクラと飛鳥はツッコんだが、拓はすぐにユージの言葉の意味を理解した。CIAは直属の組織だけでなく複数持っている。そのうちのどこかがゲームに誘われたか雇われその連中がもし<大死神>としてやってきているとすれば戦闘力は拓に匹敵する。


「逆に、もし<大死神>にCIAが混じっているとすれば逆に味方にできる?」


『可能性はある。もし暴走でなく潜入任務のためこのゲームに参加しているなら本部からの命令で味方になる可能性はある。今CIA本部のラインでそれを探っているところだが、お前のほうで動いて対処できるならやってくれ』


「面倒な事あっさり言うなぁ~」


 それは結局<大死神>と接触しつつゲーム運営本部にバレないよう味方にできるかもしれないという事だが、そもそもCIAという特殊な諜報機関の外部組織が大局的な判断をできる立場にはない。それに第一<大死神>がCIA関係者と決まったわけでなく、仮面もつけているのだから見た目では分からない。むろんユージもバックアップするが肝心の大襲撃までそんな猶予がない。結局は現場にいる拓が判断せざるを得ない。拓がため息交じりに愚痴ったが、実際の所言葉で言うより遙かに大変な事だ。

「そんなメンドクサイ事いわず助けに来いっつーの!」とサクラは怒鳴る。

『ところでサクラ、もう一つの用件だが……スピーカーフォンにしてるな? 周りには本当に拓と飛鳥だけか?』

「??」


『今から言う話を、冷静に聞けサクラ』


「!?」


 聞きなれない言語に三人は顔を見合わせる。だがサクラはこの言語を知っている。


 地球の言葉ではない。

 この言語を完璧に喋れるのはユージとサクラ、JOLJUと後二人。片言で喋れるのかは拓を含め地球上10人程度しかいない。

 この言葉で話すということは、万が一にも第三者に聞かれてはまずい最重要レベルの情報ということだ。サクラと拓が使っている携帯電話は特別製で携帯電話というより万能な衛星電話といっていいが、国家レベルの組織が本気になれば通話を拾うことは可能だ。そんな些細な、危惧するに値しないほどの可能性すら考慮しなければならない情報ということか。


『今回の狂人鬼のウイルスを解析してみた結果……タニィルン・ウイルスのDNAが検出された』


「えっ?」

「何だと!?」

 愕然とするサクラと拓。

『狂人鬼のベースの強毒性狂犬病を、さらに短時間で発狂させ異常な生命力を生み出しているのはタニィルン・ウイルスだ』


「…………」


 驚きの余り、愕然とするサクラ。


 だが拓はその言葉で得心した。普段は封印されているサクラの能力、あらゆる生命体を殺し支配するタニィルン・ウイルス。タニィルン・ウイルスは一度体内に入るが最後、脳幹を支配される。そしてサクラの命令しか応じない人形と化し、一度感染すればサクラ本人でも感染を解くことは出来ない。夜行性であることもそれで納得できる。

 この<タニィルン・クイーン>の力はJOLJUによって封印され、今のサクラは使いたくてもでも使えない。だが、感染者にとってサクラが特別であることも代わらない。


『推測だがお前、狂人鬼には襲われてないだろ? それはお前の<クイーン>の力を感じ取っているからだ』


「……そういえば……」


 思い返せば、確かにサクラ個人が襲われた事はない。サクラが襲われたと思っていたときは必ず同伴者がいたしサクラ一人の時……たとえば昨夜カメラを操作しサタンを挑発した時など全く狂人鬼たちはサクラを襲ってこなかった。

 そう考えれば、異様に速い狂人鬼化発病の進行やサクラだけが割と襲われていない事実とも符合する。もしかしたら今朝の埠頭でのサタンとの戦いに狂人鬼がやってこなかったのは事前にサクラがあのあたりを徘徊しサクラの<匂い>が残っていたかもしれない。

「馬鹿な! 1970年なんてサクラちゃん生まれてないぞ!」

『だから使用されたのはタニィルン・ノーブルのウイルスだ。お前のほど強力じゃないかわりにデーターはSAA以外にも持っている可能性があるし分析もできる』


「…………」


 それだけでサクラは理解した。


 タニィルン・ウイルスは二種類ある。クイーンとノーブルでそれぞれ役割も強さも違う。一番大きな差は、クイーン・ウイルスは完全不変で今の科学力では分析もコピーもできないがノーブル・ウイルスは元々情報収集用のウイルスで変異するし構造も比較的単純だ。タニィルン・ノーブルは100年前から地球にきていた。どこかでそのデーターが取られていても不思議ではない。


 だがこの事は、いい点もある。もし奴ら狂人鬼にタニィルン・ウイルスがあるならユージが言った通りサクラは狂人鬼に襲われる事はないし、多少タニィルン・ウイルスに耐性のある拓も大丈夫かもしれない。そして、賭けではあったがサクラの血の投与は正しい処置だったということだ。


『状況は分かった。俺にも考えが浮かんだ。メール機能は生きてるのか』


 ユージの言葉が英語に戻った。伏せておきたいのはタニィルンのことだけだ、後のことは気をつけるほどじゃない。

「拓ちんのは液晶が割れてる。何で?」

『この後JOLJUと合流して……もろもろ関係各所と相談した後作戦案を送る。そうだな、一時間もかからない。後は実行するだけだ』

「……なるほど……心強い心強い、ふっふっふっ♪」

 サクラにはユージの考えが分かった。

「カモフラージュは用意しとく」

『任せる』

 こうしてユージとの会話は終わった。


 大体話は理解していた拓と、ほとんど理解できていない飛鳥が黙ってサクラを見ている。


「で……結論的にいうと……どうなるんや? ウチら」

 飛鳥は英語も喋れるわけでないのでちんぷんかんぷんだ。

「あいつのいうことを前提にすると……だ。俺たちの生存確率と勝機は大幅に増えるって事だ。問題はこのイレギュラーをいかにゲーム運営側にバレないようにするかということだな」

「そのためには、ちょっと演技も必要ね」

「演技?」

 拓と飛鳥は分からず顔を見合う。やれやれ、とサクラはため息をついた。

「もしユージの作戦案があたしの考えてるものだったら、ユージも言ってた通りその作戦自体他の人間には気付かれないよう用意しないといけないし、そんな作戦があるなんてことを皆に知られるワケにはいかない」

「そのためには……みんなにも嘘をつかなきゃいけないな」

 ただでさえ一部の人間たちは拓やサクラ事を警戒している、離反や裏切りの可能性はゼロではない。困った事に周りは頭のいい連中ばかりだ。

「素直に言ってはどないや~?」と面倒くさそうに言う飛鳥。だがサクラは頭を振った。

「忘れた? サタンが何って名乗ったのか」

「サタン……? 村田がか? なんかヘンなこというとった?」

「ヤツは自分を<サタン・ルシファー>って名乗った。そして柴山は別の大悪魔の名前がついてた。……ということはどういうことか分かるかネ、飛鳥クン」

「全然」

「つまり……」

 答えたのは拓だった。拓は携帯電話を上着に仕舞い、低い声で言った。


「他にも<サタン>がいる可能性があるって事だ」


 そう……もしサタンが唯一人であれば柴山には<サタン>の名前がついていない。もし柴山だけがサタンの影武者ならナンバー2とかダミーとかフェイクとかそういう言葉を使ったはずだ。


 それに敵の何者かが、村田が捕らえられたバージョンの録画を流した。<死神>の可能性もあるが別のサタンの可能性もある。


「まだ内通者がいる……かもしれない」

 拓がそう締めくくった。自分の中で絶対の確証はない、下手に疑うような行動をとれば仲間が離反するだろう。サクラがいつもより寡黙なのもきっと色々考えているからだ。


「ま、でもいいこともあったな」

「?」

「ユージが作戦案送ってくるまで、俺たちも昼寝ができるって事だ」




 東京 お台場。


「これが今のところ分かっている情報だ」

「成程……了解です」

「だJO」

 お台場の中にあるカフェで、ユーシとセシル、JOLJUの三人が昼食を摂りながら話し合っていた。もし一般人が見れば仰天するだろう…… 日本でも人気のある白人美少女音楽家と若い男……これだけでもスクープだが、そこにはさらに小さな愛嬌たっぷりのエイリアンがいるのだが、誰も…… 店の店員ですらその異常性に気付くものはいなかった。


 JOLJUが、この場に<非認識化>の力をかけているからだ。


 セシルとJOLJUもいくつか報告する情報があったが、ユージはそれよりまず先に対処すべきことがある、と言って打ち切り、今さっきサクラ、拓と話した事を伝え、テレビ局で混乱はなかったか尋ねた。

「報道局は慌ててたJO。でも収まったみたい」

 それは多分ユージ襲撃の件だ。ここから数キロと離れていない。当然自動小銃の銃声は聞こえたはずだ。海外危険地帯を取り扱ったことがある人間であればあれが銃声であることは分かるはずだし実際、セシルの耳にもあの銃撃戦の音は聞こえていた。だが幸いその点は公安部と警察庁が押さえ込んだらしい。

「でも、これでテレビ局側関係者も状況が変化したのは気付いただろうな」

「私とJOLJUはそれを観察する、という事ですか」

「ああ。そして俺は島に行く」

「えっ!?」

「JO!?」

「一時間くらい行くだけだ。こいつのテレポートで行って、<死神>をできるだけ駆除してすぐに帰ってくる事にした。方法は考えた。そこでいくつか問題があってセシルに確認したかったんだが」

「なんでしょう」

「ベネットのこと知っているか? 後この連中の事も……」

 そういうとユージは携帯を取り出し、米国から送ってもらったさっき射殺したCIA関係者のデーターをセシルに見せた。セシルはすぐに分かった。

「チーム・スズメバチの戦闘部門です。担当は日本と中国で組織は全員で15人くらいだったかと思います。あ……でも二人は知らない顔ですね。多分さらに臨時スカウトしたのかも」

 セシルは音楽家という立場を最大限に利用できるCIA本部直属の情報連絡部門に属している。主に日本とヨーロッパ、アジア都市部の担当で連絡役も仕事のうちだから潜入組織については詳しい。むろんそのことはユージも知っている。

「マフィア担当ではないな?」

「彼らの担当は政府関係や軍の秘密組織、元政府・軍関係者の民間企業です。暴走し政府の命令に反することはしないですが、作戦のためなら平気で犯罪を犯す、そういうグループです」

 ユージは頷く。現地に潜入しているCIAはそういうものだ。マフィア担当であれば、たまたま偶然が重なっただけという見解もできたが、これでその可能性は消えた。先の襲撃は間違いなく今回の事件絡みだ。

 そして、作戦目標に深く関わっている場合、正体が悟られないよう本部と連絡が途絶えることがままある。その代わりチームのチーフには戦略眼をもつ人間が任され、独自の判断が許されることになっている。極東支部局長のベネットですらすぐに連絡がとれず把握できないのはそのためだ。


「ベネット局長は人格者じゃないですけど優秀だと聞いています。私の立場では会った事ないんでなんとも……でも政府には忠実な方です」

「ベネットが裏の主催者の線はないか」

 もしそうだとしてもベネットの傍には常にアレックスが眼を光らせている。行動科学課の局長であるアレックスの眼を出し抜くことは出来ないだろう。そう考えれば少なくともベネットは白と思っていい。


 ユージは「ふむ」と考える。セシルは紅茶を一口、JOLJUはハンバーグをパクリと口に運んだ。

「私は他に何をしたら?」

「聞いた話なんだが、CIAには<任務中断・本部確認>の暗号があって君はそれを発信できるって聞いたがどうなんだ?」

「あ、アレのことか……。はい。私はその発信者の一人です。私だけではないですけど……よく……というか、どこで知ったか気になりますよ。これ、本当にCIAの極秘情報ですけど……まぁでもユージさんなら不思議じゃないか……」

 ユージは基本FBI捜査官だがNY市警察やNSA、CIAなど色んな機関に出向するし情報網も沢山持っている。ただし中身は知らない。


「歌です」


「歌?」

 セシルは頷き、周りを見渡し声を潜めた。

「通常ありえない人間が米国国歌を歌う……サビだけでも冒頭だけでもいいんです、そして<YES>が入ります。歌い出しの前に呟けば任務確認、歌い終わった後なら任務中断です。対象は私じゃなくてもよくて、ありえない人がありえない場所でやればそれが秘密暗号です」

「ほう」

「例えば……私の場合だと私はクラシックと声楽ですから普段テレビでは歌いませんけど、バラエティー番組なんかに呼ばれた時流れの中アドリブで歌ったりしますね。後多いのはスポーツの国際試合です。国歌斉唱があるでしょ? あの国歌斉唱がサプライズ人事とかで政治家や芸能人が出てきて歌えばそれは指令なんです」

「不自然でさえあれば誰が歌ってもいいわけだ。巧い手だな」

 これは歌う人間が秘密指令だと知らされていなくても<サプライズ演出>としてしまえば成立する。歌っている人間は(セシルは局員だから意味を知っているが)それがどういう意味かは知らないしCIAと全く無関係の人間なら疑われる心配はない。

「他に、アメージング・グレースは本部で問題発生。アベ・マリアは作戦中止です」

 どの歌もアメリカ人が口ずさんでも違和感ない歌だ。

「じゃあ今回は国歌かアベ・マリアかな。ベネットと相談して決めて君に連絡する」

「了解です。でもユージさん、私、次の仕事の出番は午後のワイドショーの生放送だから……3時前後になってしまいますけど大丈夫ですか?」

「それは仕方ない。だけど日本本土にいる関係工作員には効果はあるだろう。それにその時間には俺もこっちに戻っているはずだから一緒に動けるはずだ」

 そう言ってユージはコーヒーを飲み干し、「もう一つ頼みがあるんだが」ともう一つの案件を取り出した。こちらはいたってシンプルな質問だ。


「武器が欲しい。第一級戦闘装備一式、米国軍の刻印のついていない未登録のやつだ。そうだな、映画の『コマンドー』並のフル装備が欲しい」


 『コマンドー』……80年代のA・シュワルツェネッガーのアクション映画だ。これと同等の装備ということはロケットランチャーに手投げ弾に爆薬、自動小銃にショットガン、SMGになる。対人用というよりは対エイリアン用くらいの気合の入れ方だ。


「自宅にあるジャン」

とスパゲティーで口元をベタベタにしながら言うJOLJU。

 ユージはガンマニアであり、さらに特別な存在なのでクラス3の免許を持ち、自動小銃などの銃火器を持っているし、非常用に未登録の武器をいくつか持っている。

「火力が足りん。それにこれは捨ててくる銃だ。大事な俺の銃が使えるか。日本のFBI支局にはそれほど火器はないし米軍だと足がつく。だがCIAやNSAは各国にこっそり武器庫を持っているだろう? 米国に戻る時間はないんだ」

「場所は教えられませんから私が取ってきます。一時間以内に用意できると思いますけど希望はあります?」


「H&K M417カービン、エイムポイントスコープにグレネードランチャー付きで弾は180発、グレネード5発。ベクターTDI40口径、弾はAP特別弾で4マガジン、メーカーはどこでもいいからソウドオフ・ショットガンで3インチマグナムの撃てる12G。ダブルオー弾20発とスラッグ弾20発、後44マグナムの弾が50発、DEのマガジンも。C4爆薬2キロと発火信管が5セット。50口径セミオートライフル、後は大型バトル・ナイフがいるな、投げナイフも5本くらい。武装ベスト。防弾チョッキはいらん」


「…………」


 あまりの武装内容に言葉をなくすセシル。


「ユージはプレデターとでも戦うのか!?」とトマトソースを噴きながらつっこむJOLJU。

「ほ……ホントです。というか武装だけで20キロは超えますけど……そしてどうして防弾チェッキはいらないんですか? こっちが必須じゃ?」

「重いし邪魔になる。それにどうせ撃たれないから必要ない」


 ……なら銃を減らしたら……とセシルは言おうと思ったが引っ込めた。ユージはこれだけの銃火器を背負って戦う事による負担のリスクも撃たれる危険性も全く考えていないのだからユージ的には正しいチョイスなのだろう。しかし米軍のスペシャル・フォースでも一人でこんなに装備をもって戦う人間はいない。そして、もしかしたらこれだけの装備をユージが使うのであれば<死神>が60人近くいても全滅させられるかもしれない。


「相手が<死神>ならユージは<魔王>レベルだJO」


「しかし突然ユージさんが現われて<死神>を倒していったらゲーム運営側が不審がるんじゃないですか?」

「そこの点も考えてある。そのためにはセシルの歌が必要になるわけだ」

「分かりました。武器は揃うと思います」

 あまり深くは聞かない、それがCIAのルールの一つだから作戦の方はいい。


 そうと決まればすぐに移動を開始する必要がある。それらの武器はセシルが持っているわけでも大使館にあるわけでもない、東京のどこかにあるCIAの秘密アジトにある。足も必要だ。


「40分で用意します。ユージさんはその間どうしてるんですか?」

 何気に聞いたセシルの問いだが、ユージの答えは予想外のものだった。

「大江戸温泉にいって温泉入って少し仮眠している」

「体力温存、ですね」

「いや。ただ風呂に入るだけだ。もう一日風呂に入っていない」

「…………」

 実はユージはこうみえて風呂好きなのだ。


 こういうあたりが、血は繫がってはいないがユージとサクラは親子なんだなぁ……と痛感するセシルだった。




   4



 紫ノ上島 波止場。


「よっと……」

 涼は外海へと迫り出した防波堤の先で土嚢を積み上げていた。今、用意した最後の一つを積み上げ一息ついた。太陽は真上に近くなり陽射しが温かい。涼は額の汗を拭う。

 振り返ると、少し離れたところで拓がドラム缶を積み上げ障害物を作っていた。同じような障害物は何箇所も作られている。


 拓は煙草を咥えオートライフルとHK G36Cを担ぎ涼のところにやってくる。


「拓さん、煙草……」


 ふと涼が呟く。拓ははっとして咥えていた煙草を口から離す。

「あ、ごめん。涼ちゃん歌手だもんな……煙草はよくなかった」

「いえ、いいんです。屋外だしどこにも<禁煙>の看板ないから吸っちゃっていいですよ」

 単に拓が煙草を吸うということに驚きつい言葉が出た。真面目な拓と煙草という組み合わせが意外だっただけだ。そう思って涼は思わず苦笑した。なんだかずっと前から知っている気がするが、考えたら僅か三日前知り合ったばかりではないか。

「ありがと」と拓は苦笑し再び煙草を口に咥えた。

「この島じゃ煙草は貴重だからさ。無駄にもできないし中々吸う機会もないし」

「私は大丈夫ですよ。音楽関係者って結構喫煙家も多いンですよ?」

「へえ~ 喉に悪いから御法度だと思っていたけど。アメリカはうるさいよ、高いし。だから来日したときはついつい……ね」

 そう言いながら拓はライフルのスコープを覗く。倍率は8倍……中・長距離用に調整してある。沖合500mくらいのところに簡単な棒にナイロンヒモを結んだ旗が小さなブイの上についていた。サクラが設置したものだ。今は風も波も微小だ。


「涼ちゃん、ブイが見えるかい?」

 すぐに涼は首からかけている双眼鏡を手に取りブイを見た。双眼鏡は年代モノだが十分見える。涼が頷くと、拓は「よし」と頷きその場に座った。

 その時、西の森のほうから大きな銃声が聞こえた。しばらくしてもう一発、さらに一発と聞こえる。サクラが森の中にあるカメラをショットガンで壊して回っているのだ。

 拓はしばらくその銃声を聞いていたが、やがて顔を涼の方に向けた。


「本当にここでいいのかい?」

「どこだって危険なのは変らないんでしょ?」

「だけど」

「それにここは体が小さくて声がよく出る人間が適切だって言っていたじゃないですか」

「…………」

 拓は二本目の煙草を咥えて言った。

「今度はこれまでとは違う。俺は明確に、<人を殺す>。これまでとは違ってね。つまり君の隣りにいる男は殺人を犯す人間で君はそのサポートだ。大丈夫かい?」


 これまで<死神>と交戦し殺してしまったのは正当防衛だ。だが今度は違う。拓たちの作戦は、<死神>たちの装備が最大自動小銃だと想定した上でアウトレンジから狙撃し上陸を阻むというものだ。これまでの防戦のためではなく、明らかに殺意をもって銃を撃つ。


 人を殺す……その行為は言葉で語られるより遙かに精神的に人を追い詰める……そのことを拓は経験でよく知っている。当初はサクラが拓のサポートの予定だったが、サクラは紫条家組の指揮を執らなくてはならない。


「……拓さんが、人を殺す……」

「怖くない?」

「わかりません。今は……なんかそんなこと考えられないっていうか……」

 わからない……本当に分からない。


 ……死ぬのは嫌だ。


 人を殺してでも生きたいか……それ問われれば正直よく分からない。だけど少なくとも自分はまだ死ぬのは嫌だし怖い。

 涼は黙ったまま考えてみた。不安と恐怖のようなものが体の心から込み上げてきた時……それが言葉となって具現かする前に拓がそっと涼の頭を撫でた。


「それでいいと思うよ」

 拓は笑みを浮かべ煙草を地面に押し付けた。

 無理に答えを聞く必要のないことだ。ただ一言だけ……一応拓の性格的に言っておきたかっただけだ。

「俺だって分からない。最初に人を殺した時は分からなかったよ、昔の話だけどね」

「…………」

「今でも法律とか正義とか……そういう理屈や建前では人を殺せない。かといって恨みで殺すこともしない。……誰かを守るため、そのためにその方法しかない時、殺さなきゃ何か失う時……俺は撃てるようになった。今回は、涼ちゃんや皆を守らなきゃいけない。だから撃てると思う。でも……それでも、銃で人を殺すとき怖さを感じない時はないんだ。怖くなくなったら……俺は多分銃を持つ職業を辞める時なんだと思う」

「そうなんですね」

 その拓の言葉に安心したのか、涼は小さく微笑んだ。

「ま……俺の知り合いにはもっとすごい奴がいるけどね。あいつは、一般人からみたら、そこらにいる悪党より悪人かもしれないな。人を殺す事に良心を傷めていないと思う。だけど、あいつの中には絶対のルールがあって……それは自分を愛するものを守るっていうただそれだけの事なんだ。だからあいつは奇麗事を言わない。それでいてあいつは医者だから人一番命の大切さも知っている。面白いだろ? 人を殺す医者なんだ」

「…………」

「世の中、色んなヤツがいるって事さ」

 そういうと拓はペットボトルの水を取った。どうも、完全に涼の不安を取り除くことはできなかったようだ。だが話しておかないと、いずれ彼女がこの日を思い出し、苦悩するかもしれない。その時、この話が少しは彼女の中の苦悩を和らげるかもしれない。


 また西の森でショットガンの音が響いた。


 ……奇麗事は俺も似たような物か……


 ふと、拓はそのことに気付き苦笑した。


 何時来るかはまだ連絡がないが、あの森にはユージが潜む。<死神>たちの装備がいかに整っていてもフル装備して待ち構えるユージには敵うはずがない。ユージは躊躇することなく<死神>を倒すだろう。本来拓たちが追わなければならない殺人を今回代わって行ってもらう……それも事実だ。そこに良心の呵責を全く感じないかといえば嘘になる。ユージは厳密には当事者ではないのだから。


 その時だ。


 遙か上空を飛ぶヘリコプターが視界に入った。すぐに身を潜める二人。ヘリは大きく島の上空を一周すると再び来た海に飛び去っていった。





 紫条家敷地 西の森。


 上空を見上げるサクラ。ヘリは小蝿くらいの大きさだから相当上空高くを飛んでいる。恐らくサクラたちの姿までは見えないだろう。


「ぼちぼち時間か」


 恐らくあのヘリは島の大まかな様子を見に来ただけだろう。だが様子を見に来たということはついに上陸作戦を決行してくるということだ。サタンが指定した1時まで後20分……ボートで来るなら、もう出発しているはずだ。

「面倒くさいなぁ~」

 そうサクラは呟くと、ショットガンの弾を装填しながら次のカメラに向かう。次のカメラで最後になる。これで紫条家の西門から煉獄への道の入り口、紫条家西館までの間の森は完全に運営側は把握できない場所ができる。当然運営側もここに何か細工があると警戒はしてくるだろう。だが拓やサクラたちが現有する装備と時間から考えて、それほど大規模な罠は作れない……と判断するはずだ。まさかここにルール破りの世界最強の死神が待ち構えていることになるとは夢にも思うまい。


 サクラは駆け足で森の中を進むと、最後のカメラを見つけショットガンで盛大に吹っ飛ばした。これで罠は完成、後は戦闘あるのみだ。

 



 紫条家本館 30分前。


 簡単な昼食の後拓は全員を部屋に集め、ついに迎撃作戦案が発表された。


「基本戦略は<死神>を西の森にできるだけ追いこむ! この森にはサクラちゃん必殺デス・トラップが沢山あるからそれで一網打尽」


 ビシッ!とサクラは地図の紫条家敷地内西の森を指差した。西の森は集落、煉獄からの道があり少し丘になっていてになっていて他より見通しもよく広い。戦術用語でいう衢地にあたる。


「向こうはボートとヘリでやってくると思う。煉獄の方は地下通路をバリケードで塞いでしまえば煉獄からの上陸組は必ず西の森を通る。だから一斑は波止場での上陸阻止とヘリの対応になる。俺は波止場を受け持ちます。多分ここが一番激しい銃撃戦になるでしょう」

「ヘリとボート、二重の攻撃にさらされますね」と篠原。

 そう、波止場はこの島でもっとも大きな上陸ポイントだ。船もヘリも上陸できる。当然<死神>が大挙押し寄せてくるのならここが最大の戦場になる。

「だからといって俺たちも大勢で迎え撃つことはできない。火力が違うからこっちの被害の方が大きい。波止場には俺と俺のサポートが一人、後は東側のゲートを閉めてしまって東側ゲート近くの森に一人……ここの人はもし俺が突破されたり東の岸壁側からやってきたら追っ払う、もしくは東館にあるヘリポートの連中が市街地側にやってきたら西館のほうに逃げるよう臨機に応戦する役目です。後の人間は一人だけサタン……村田の見張りに残し強行着陸してくるヘリの対処です。とにかく西の森に追い遣ること、それがダメでも最低今俺たちが築いている本館本拠地とサタンの奪取を防ぐ…… 多少地下に逃げられるのは放っていて構いません」

 説明を終え拓は全員を見た。基本的に異論はないようだ。


 拓は全員を一瞥してから再び地図の波止場を指差した。


「波止場は俺が出ます。ライフルがあるのでそれで狙撃する予定です」

「ライフル一丁で上陸を防げるもんなんですか? 奴らは大挙してやってくるんでしょ!?」と三浦。焦りや動揺を隠しきれず緊張で体を強張らせていた。

 ライフルはあるというが狙撃はもっとも難しい。それに一人一人撃ち殺していったとしても20人以上やってきてそれを防ぎきれるとは思えない。<死神>たちも当然応戦してくるだろう。そうなればどれほどの効果が期待できるのか……ある程度近づけば、<死神>たちも各個に泳いでやってくるくらいはするだろう。

「できればボートのエンジンなりを撃ち抜いて進行不能にして降伏を呼びかけられればと思っています」

「声は届かないでしょう、そんな距離」と河野。

「それは心配ないんちゃうかな? 捕虜の速見がいるし斉藤さんもADやから機材は使えるやろ? 番組用の大型スピーカーとかアンテナとか色々設置すればええねん」

 飛鳥が答えた。すでにその手の使えそうなものはサクラと飛鳥で集めて確保してある。

「阻止限界点は200m……それ以上近づかれれば、どうやっても上陸されます。その時は住宅地に撤退し、上陸間際でできるだけ数を減らしつつ西の森に誘導します。ただ、俺一人じゃ無理だからサポートが一人いるワケです」

「観測者ね」と宮村がニヤッと笑い答える。拓、頷く。狙撃をする場合、2人1組が基本だ。狙撃者はどうしてもスコープで標的にのみ集中するから、周りの状況が分かりづらくなる。他の標的の動きに加え波の高さや風の強さなど知らせるのが観測者の役目だ。

「それと同時に住宅側から狂人鬼たちが襲ってこないかもチェックするってとこかしら」

「そうです。ただ、何度も言いますが俺と一緒にいるということは今回一番の激戦に遭うということです。本当はサクラが適任なんですが……」


「それだと戦力が波止場に集中するからダメなのサ♪ 拓ちんが波止場担当、あたしは館の指揮官担当って事になるワケなんだなコレが」


 サラッと自分がリーダーだ、と宣言するサクラ。この図太さに唖然となる一同。だが拓と飛鳥だけは奇妙さを覚えずに入られなかった。サクラがこんなに親身に他人の面倒を見るなんてほとんどないことだ。サクラは生粋の猫属性で人から指示を受けるのは嫌いだが人に指示し統率するのも好きではない。今回館側で指揮を執ることを自発的に言い出すということはサクラがやらざるを得ないほどの大きな事件ということであり、サクラ本人相当この事件には腹を立てているという事だ。


「できれば小柄で元気があって目のいい人がいい。簡単な弾除けを作るけど体はできるだけ小さく伏せられるほうが弾に当たる確率は減るから」

「…………」

 全員の目線が涼と宮村に注がれる。樺山や斉藤は激戦に耐えられる神経はないし、三浦と岩崎は、背は低いが小太りで眼鏡をかけている。飛鳥はサクラの相棒だから無理。そうなると、すでにこれまで拓と一緒に実戦経験がある涼と宮村しかいない。


「私、やりますっ!」


 挙手したのは涼だった。宮村はニヤニヤ笑みを浮かべ「ドーゾドーゾ♪ 私はサクラちゃんのほうが面白そうだから♪」とあっさり涼に拓の相棒は決まったのだった。


 その後、東側の遊撃者は片山がやるということになり、作戦は始まるのだった。




 

 紫ノ上島 午後13:04分。


 ついに水平線上に三艘のボートが姿を現した。

「拓さん! 来ました!」

 じっと双眼鏡で海を睨んでいた涼が声を上げ振り返る。拓も目視で確認した。5キロほど先に黒いボートに真っ黒な装束に身を包んだ一団が真っ直ぐ波止場に向かってくるのが見える。


 拓は左手側にHK G36Cを置き、自分と涼との間にM14の20連マガジンを6つ置いた。弾補給も涼の仕事だ。

 拓はもう一度スコープの倍率を調整し、コッキングレバーを引き、弾を装填させる。

「三艘か……一艘に10人だとして30人か」

 そういうと拓もライフルを土嚢の上に乗せ狙撃のスタイルをとった。

「涼ちゃん。ティッシュペーパー持ってきた?」

「はい? あ、はい。持っています」

「耳に詰めて。かなり煩いから。後、向こうの弾がこの土嚢に激しく当たるようになったら俺の事は無視してその場に伏せる……忘れないで」

「はい!」

 涼はポケットティッシュを取り出し耳を塞ぐ。それが終ってから拓は「ブイを観察していて、大体右横1mを狙い撃つから。弾がどこに飛んだかよく見ていて」と指示した。

 涼の用意ができたところを確認して拓はまず一発発砲した。弾はブイの右4mほど前方に着弾し小さな波柱を上げた。その事を涼は拓に告げると拓は「ありがとう」と答え、少しスコープを弄った。スコープの調整だ。その様子を見て涼は「ギターの調律みたいですね」と微笑んだ。

「確かに。映画やアニメや漫画なんかだと手に入れたライフルで簡単に当てちゃうけど、実際同じ銃を使っても弾が違うだけで全然命中率は違うんだ。そのくらい面倒なんだよ」

「今の一発だけで直せるんですか?」

「無理だよ。少し修正できるくらいで、あとはほとんど勘と実戦で調整。でも、プロのシューターは大体そうだよ」

「なんだか射撃と音楽って似てますね。私のギター調整もそんな感じかも」

「とはいえたまにすごい化物みたいな天才もいるしね。あいつ、弾の重さと材質だけで大体銃のクセ当てちゃうからなぁ……。ああ、そう考えると確かに音楽家も似たようなものか。セシルちゃん、ヴァイオリンの調律の腕もすごいらしいからなぁ」

「セシル……セシル=シュタイナーですか? あの天才音楽少女の? 拓さんも知り合いなんですかっ!? 嘘っ!?」

 驚きの声で叫んだ涼に思わず言葉を失う拓。

「知ってるの? セシルちゃんを」と間抜けな応対をしかできなかったが考えてみれば涼も音楽業界の人間、そしてセシルは涼と同年代であるのに世界的な音楽家なのだ。もっとも拓にとってセシルはCIA局員でサクラの数少ない友人くらいの認識しかないが。


 サクラと飛鳥が『知り合い』と言った時は「まさか……」と思って話半分に思っていたが拓まで、しかも「セシルちゃん」とちゃん付けで呼ぶほどとは……よほど拓の言葉が衝撃的だったのだろう。涼は一人興奮気味に目を輝かせ考えこんでいる。きっと事件が終ったらなんとか会えないかとか、せめて手紙でも渡してもらえないだろうかとか考えているんだろう。


 拓は苦笑し、30秒ほど彼女に自由な妄想の時間を与えた後に肩を叩いて現実に戻した。赤面する涼の肩を軽く叩いて

「じゃあ今度サクラに頼んでみるといいよ。俺よりあいつの方がセシルちゃんと仲がいいから。あいつら、親友同士だからね」と笑った。

「ほ……本当だったんだ……」

 一体サクラと飛鳥の二人はどれほど顔が広いのか……考えれば考えるほど唖然となってしまう。


 その瞬間、物凄い轟音が鳴り響いたかと思った直後二人が隠れている土豪のさらに右後ろの地面が大きく砕けた。まるで小さな砲撃かと思うような威力だ。

 すぐに二人は現実に戻りボートの方を見る。


「まだ1.5キロは離れているぞ……」

 さすがに拓の距離の感覚は実戦で鍛えたものだから的確だ。

「でも、何なんですか!? 銃撃? あんな遠くから」

「50口径のライフルを持っている奴がいるな。一発だけって事は一丁か……」

 拓はそういうと土豪から出て波止場に身を乗り出し座った姿勢でライフルを構えた。

 これで拓の姿は<死神>たちからはっきりと見える。

「俺が今囮になるから、誰が撃っているか見つけてくれ!」

「拓さん! 危険ですっ!」

「大丈夫。涼ちゃんは見つけてくれ。確実でなくていい、それっぽいとかそれだけでいいから。多分船首にいるはず! 撃っているボートは止まっているはずだ!」

 そういうと拓はオートライフルを慎重に撃ち始めた。当然当たる距離ではない。近づいて来ているといってもまだ1キロ以上ある。むろん拓も当てようとは思っていない。こうやって撃つことで相手を挑発しているのだ。相手の獲物は50口径、1キロは有効射程距離だが不安定な海上のボートの上から撃って当たるはずがない。だが相手も50口径の射手以外にも応戦してくる。


 ……やはり素人が多いのか……。


 挑発されてもプロならこんな状況で撃ちあいを始めたりはしない。


 ボート組に<大死神>はいないのか……。


「いました! 左の船が動いていません! 船首の人が撃っています!! あそこから撃っています!」

「分かった!」

 そういうと拓は一度伏せHK G36Cを取るとボートの方角に向かってフルオートで一斉射撃を加えると、再び土嚢の陰に隠れた。そしてHK G36Cを置きM14を手に取る。


「涼ちゃんは隠れてその船を監視していてくれ。分かりづらいと思うけど船が大体200mくらい進んだら教えてくれ」

「はいっ」

 拓は一斉射撃の後、当然<死神>たちも撃ってきた。だが今度はこれまでと違った拓は土嚢から出ない。


 これは<誘い>だ。こうすることで敵は拓たちが<死神>たちの攻撃の前に応戦できない……と見せかけているのだ。その隙に<死神>たちは前進してくる。拓は相手が有効射程距離に入るのを待つ作戦だ。そして拓の作戦通り<死神>たちはボートを進め始めた。


 拓は30秒数えた。涼が「多分今700mくらいです」と告げる。


 有効射程に入った! 拓は再び身を乗り出すとライフルを土嚢の上に乗せスコープを覗き込む。最初の目標は、まず左の船にいる50口径狙撃者だ。拓が再び姿を見せたのを<死神>たちも確認したのだろう、狙撃者も立ち上がり構えた。


 拓が初めてしっかり照準をつけ狙撃者を狙う。わずか5秒……拓は初弾を放った。だが弾は前方10mほど手前に着弾する。撃ち返してくるがあっちも当たらない。


 拓は慎重に照準点を修正し第二発目を放つ。


「やった……!」


 弾は見事狙撃者の胸に当たり、そのまま海に落ちる。


 そこから両者の激しい銃撃戦が始まった。<死神>たちも一斉に応戦を始めたがまだ<死神>たちの武器では射程外だ。だが拓はすでに有効射程内、大体の距離と弾道位置は確認できた。そして狙撃は拓にとって得意とする分野だ。5発に一発は敵に当たり、6人に当て、3人は海に落ちていった。


 450mあたりで三艘のボートは止まった。これ以上近づけば拓の射撃の命中精度が上がることに気付いたようだ。そう、距離が近づけば狙撃仕様の拓のほうが命中率は上がり威力も上がる。拓の使う306口径ならば500mを切れば防弾チョッキを撃ち抜く威力がある。<死神>たちの基本装備はほとんどがSMGか5.56ミリの自動小銃カービンだ。そして的確に応戦するにはボートを止めなければならない。


 この状況に持ち込むことこそ拓の作戦だ。


 さらに1人、拓が射殺した。そして新しいマガジンを交換すると、今度はじっくり狙いだす。


 エンジンを切ったボートはゆっくりと波に流されていく。この島の周りの海流は円を描くように流れている。ボートの向きが、僅かに横に流れた。


 拓はこれを待っていた。


 僅かに見えるようになったボート後部のエンジン部……そこを目掛け、セミオートで素早く撃ち抜く。容赦なく20連発……<死神>にもボートにも着弾するが関係ない。そしてすぐに一艘のボートのエンジンから煙が上がりだした。

「拓さん! やりました!!」

「次に行く! 距離を教えて!! 一番右の船!」

「ええっと……真ん中の船より大体30mくらい横で、ちょっと距離は近いと思います」

「了解」

 実戦慣れした拓にはそれだけで十分だ。一度ポイントを掴めば後はこれまでの勘で補正できる。

 すぐに12発連続して撃ち込み右の船のエンジンが爆発、マガジンを交換しさらに目標を変え最後の真ん中にボートに15発撃ちこみ、三人被弾させボートのエンジンも破壊した。


 ボートの<死神>たちは、何人かは応戦し、他はあたふたと慌てふためいている。


 ……すごい……まるで映画みたい……。


 拓の戦闘力が高いことはよくわかったつもりだったが、ここまで一方的になるとは思っていなかった。この手際、冷静さ、的確さ……まるで映画のヒーローだ。


「涼ちゃん」


 拓はライフルのスコープで様子を見つつ振り向き涼に促す。涼は用意されたスピーカーマイクを掴むと大きく息を吸い込んだ。

 そして、大声で海上にいる<死神>たちに告げた。


「全員武器を海に捨てて手を上げて下さいっ!! 降伏すればこれ以上攻撃はしません!

降伏して下さいっ!!」


 響き渡る涼の降伏勧告。声は増幅され海に向けすごい音量が発せられる。飛鳥と速見と斉藤が居住区、波止場に島民非常用スピーカー(テレビ局がゲーム用に改造したもの)アンテナと増幅装置を設置したから500mならば声は届いたはずだ。そして涼は歌手で滑舌が抜群にいい。聞こえているはずだ。


 <死神>たちも戸惑いを見せた。聞こえた証拠だ。


 動かない。彼らも考えているのだろう。ボートのエンジンは破壊され、少なくとも高速移動はできない。海上に浮かぶ彼らは今や拓の標的なのだ。予備にオールも用意されているだろうが速度が出ないからやはり標的にされるだけだ。逆に揺れるボートから土嚢に隠れている拓たちを狙い撃つのは不可能だ。


 それは彼らも理解したようだが、武器を捨てる様子はない。


 拓もそうなることは分かっている。


 拓はスコープを構えたまま、小声で涼に言った。


「第二段階になるかもしれない。涼ちゃん、その時君はとにかく物陰に。俺は……」

 そこまでいった時、拓の携帯電話が震えた。マナーモードにしている。拓はできるだけ見えないように懐中から携帯電話を取った。今、この携帯電話にかけてくる人間は二人しかいない。予想通りサクラではなくユージからだった。


「……アベ・マリア?」


『歌だ。有名だろ、アベ・マリア。<死神>たちに聞かせろ。冒頭でも一唱説だけでもいい。そして終ったら<YES>と付け加えろ。それで変化が出るはずだ』


「良く分からんがどういうことだ?」

『詳しくはいえん。じきに行く』

 それだけいうとユージは電話を切った。相変わらず傍若無人だ。歌というのは、拓の傍に涼がいることを知っての事か? とにかく拓は涼にその事を伝えた。当然涼も<アベ・マリア>を知っていたが、ここで一つ問題が起きた。


「あの……誰の編曲版の『アベ・マリア』なんでしょう?」


「え?」


「『アベ・マリア』は……ええっと、確か沢山の音楽家が色々編曲で作っていたと思いますし、英語版やラテン語版とか日本語とか色々ありますけど……」


 残念ながら拓にはちんぷんかんぷんだ。聞きなおそうとユージに電話してみたがもう音信不通だ。『もうじき行く』とか言っていたがもしかしたら本当に今転送準備に入ってしまったのかもしれない。

「さて……どうしたものかな……」

 どうして自分の周りにはこういう連中ばかりなのか……ちょっと本気で考えてしまった拓だった。


 だがその拓の苦悩など、状況は待ってくれない。


 再び遠くから、ヘリの接近音が耳に届く。数は…………一機ではない。複数だ。

「第二段階か」

 拓はM14を引き寄せた。




 紫条家 東館


 屋根の上で、ショットガンを背負ったサクラもヘリの音に気付き空を見上げた。ヘリの姿は見えないが、すぐにこの島にやってくるだろう。


「こっちも作戦開始ね」


 サクラはそう呟くと、屋根から器用に下の階の開けられた窓に飛び込むとすぐに階段を駆け下り三階にあるリビングに戻った。そこには片山と河野を除いた全員が集まっていた。テーブルの上には拳銃にイングラムM10、ライフルなどが集められている。


 サクラは全員を見渡すと不敵な笑みを浮かべた。


「じゃああたしたちも始めるわよ。【<死神>狩り】をね♪」

 サクラの言葉とは裏腹に、全員緊張した面持ちで黙っている。


 サクラの作戦はすでに聞いている。だが本当に巧く行くかは分からない。ここにいるほとんどの人間が正面から<死神>と戦った者はいない……それどころか銃を撃った事もない者ばかりだ。


「ま。あたしたちの基本作戦は【生き残る事】だからダイジョーブさ♪」

「うぅーむ…… この飛鳥様も久しくなかった修羅場や」

 飛鳥は呟きながらイングラムを取ろうとしたがサクラはそれを遮り「アンタはこれ!」と斧を押し付けた。

「この状況でウチだけどうして銃がダメやねんっ!」

「アンタには危なくて使わせられるかぁ!!」

「何いうとんねん! この中なら一番銃を撃った経験あるやんっ」

「だからじゃい! アンタのいい加減な射撃であたしらに弾が当たったらどうする!? おのれだけは死なないンだからこれでやれ!! 大体飛鳥が銃取ったら全員に銃がいきわたらんでしょーが!!」

 サクラはそういい強引に斧を飛鳥に無理やり渡す。面白くない!と不満げに飛鳥は斧を受け取った。それを見てサクラは全員に言う。

「別にあたしたちが<死神>を殺す必要はないから。あたしたちの目標は死なない事、ヘリを壊す事、<死神>を西の森に追い払う事。はい、ミヤムー一言!」


「【英雄になろうと思うな】♪」


 宮村はそう言って一笑すると拳銃に手を伸ばした。それをきっかけに、皆無言で武器を取って行く。


 そう……<死神>たちとの対決はこれからが本番だ。





18/死神たち 1




 紫ノ上島 西の森の中。午後13時31分


 ユージは黒いフードのついた全身黒ずくめの服でしゃがんでいた。女性が丸々入りそうな巨大なバッグを足元に置くと中から大量の銃火器を取り出す。


 バレットM106・50口径、HK M417・グレネードランチャー装着モデル、ベクターTDI40口径、ストリートスイーパーショットガン12ゲージ、バトルナイフ、これにDEとこれら全ての弾に拘束具や医薬品、他モロモロがバッグの中に押し込まれていた。総量は40キロを超えるだろう。


 ユージはタクティカルベストにそれぞれのマガジンや銃を体に装着させながら右手にある腕時計のようなものを見た。タイムリミットを示すストップウォッチで残り57分。ユージがこの島に滞在できる時間だ。この腕輪はJOLJU特製のテレポートマシンで時間になれば強制的にテレポートが実行されることになっている。


 ……始まっているな……。

 

 波止場方面から絶え間なく銃声が聞こえ、ヘリが上空を旋回している。


 ユージは表に出られない。だから待つしかない。不幸な<死神>がこの森に足を踏み入れるのを……。


 全ての装備を身につけ終わると、最後に死神の仮面に似せて作った仮面を被った。その時、遠くから<アベ・マリア>冒頭部分を独唱する大きな歌声が聞こえた。




 紫ノ上島 波止場。


「涼ちゃん!! 伏せろっ!!」

「はいっ!」


 拓は上空から銃撃してくるヘリに向けオートライフルを構えると、スコープを覗く事無く応戦した。上空から放たれたライフル弾は波止場全体に散らばり着弾する。双方とも、狙って当たる距離ではないしヘリは移動しながら撃っている、お互い牽制しているだけだ。それでもまぐれ当たりがないわけではない。涼は当初の予定通り土嚢から出ると波止場東にある倉庫傍に作ったの第二の防御陣地に飛び込んだ。ここならば海側を監視しつつ住宅地の方面、上空にも対応できる。


 涼は防御陣地に飛び込むとまず海側を見た。その時、数人が海に飛び込むのが見えた。どうやら泳いでこっちに向かっているようだ。すぐに拓に報告する。


「そうか」


 400mちょっとなら泳いで来られない距離ではない。だが波の流れがあり島の近くはサンゴがある。そして装備もある。泳いでいる時に攻撃はできないから差し迫った問題ではない。


 ヘリは上空を旋回し、一機は海上に、一機はゆっくりと旋回しながら島に近づいてくる。


 さらに状況は動いた。


 紫条家東側の森の中から銃声が響く。


 あれは片山の狙撃だ。まだ<死神>たちは上陸していない……ということは……。


「拓さんっ! 狂人鬼が!!」

 拓は黙って頷くと波止場先端から波止場東側に移動した。防御陣に入らず電信柱の影に入り込む。


 やがて待つまでもなくフラフラと歩く5人ほどの人間が見えた。皆肌が異常に白く頭髪はボサボサで一部は抜け落ち、体中ボロボロで尋常な様子ではない。これまでは夜遭遇しただけだったが、昼間、こうして見ると正に映画のゾンビのようだ。彼らは拓を見つけると奇声を上げ拓に向かって動き出した。太陽光が刺激になるのだろう、物陰を不器用に移動しながら迫ってくる。明け方サタンとの戦闘で姿を現さなかったのはサクラがウロチョロしただけでなく波止場が完全に朝陽で影がなかったからだろう。


 ついに一団は波止場の入り口付近にまでやってきた。


 一人が片山に足を撃たれる。もう一人は腕を撃たれた。だがその程度のダメージでは痛覚が麻痺した狂人鬼は止まらない。逆にアドレナリンを上げ、より凶暴さが増す。彼らはもはや野獣かと思うような奇声を上げると拓と涼に向かって駆け出した。走り出した狂人鬼を片山の狙撃では止められない。

「ちぃっ!!」

 拓はあくまで旋回するヘリをオートライフル右手一本で狙い撃ちしながら器用に左手で左懐中にある45オートを抜くと狂人鬼たちを一瞥、45オート8発を放つ。2人の頭部が吹っ飛び、残り3人も胸部や腹部に弾を受け足が止まった。再び拓は一瞥、状況を確認すると素早くオートライフルを狂人鬼たちに向け連射、完全に息の根を止めた。

「涼ちゃん、弾!」

 オートライフルとHK G36Cは涼が持っている。拓はM14を小脇に抱え45オートの弾を交換し、丁度それが終えたとき涼がM14の20連マガジンを投げて渡した。それを受け取り装填しつつ上空のヘリを見上げる。


 一機のヘリは海上でボートにロープを下ろしていた。恐らく牽引して運ぶのだろう。この波止場ではない、恐らく煉獄側に。全て計算内だ。もう一機のヘリは紫条家屋敷のほうに飛んでいくようだ。


「結局サクラだけが頼りか」


 拓は海上の様子を見ながら呟いた。悪意はない、これも予想していたことだ。


 片山が潜む紫条家の東の森から住宅地は、狙撃するには最良のポイントだ。頭を撃ちぬくことは出来なくても胴体を撃ちぬくことは、すでに今朝サタンたちとの戦闘で自動小銃に撃ちなれてきた片山ならできたはずだ。だが狂人鬼を仕留める事は出来なかった。意識的か無意識にかは分からないが、これが普通の人間の戦闘だ。


 簡単に、人は人を殺せない。


 今朝のサタンの時はスモークがあり、敵も武装していたから誰か殺したのか分からない。だが今度は明確に、敵として撃つ。<死神>たちは武器を持っているが狂人鬼は病人だと分かった。撃ちにくいだろう。それを拓は責めない。元々計算に入っている。


 結局、容赦なく人が撃てる精神力があるのは拓とサクラだけなのだ。


 どこかでヘリのローター音が聞こえてきた。姿が見えないが三機目のヘリだ。おそらく南側からやってきたのだろう。南側ということは間違いなく紫条家の屋敷に舞い降りようとしている。先の推測が正しければ<死神>たちも自分の人生一発逆転がかかり<殺す覚悟>をきめてやってきている。心理的には<死神>たちも崖っぷちで躊躇や容赦などありえない。


「頼むぞ……サクラ」


 拓のポジションからは屋敷組を守れない。全てはサクラに託される。




 紫条家 森の中。


 東館と本館の間……カメラのない森の中で、河野を除いた全員が集まり輪を作っている。それぞれの手には拳銃やライフル、SMG等の獲物が握られ、そしてその輪の前で、ぴしっと立っているのがサクラと飛鳥だ。


「いいか皆の衆! 俺たちはこれからクソッタレ<死神>どもに一泡吹かせるぞ! お前たちは勇気あるクソッタレだ! 俺はクソッタレの中の最高のクソッタレだ! 俺の言うことを信じて戦えば本土で恋人が待ってるゾ!」


「アイアイサー!」


 ノリノリで敬礼する飛鳥。


「では軍曹! ホイッスルを用意したまえ!」

「いえっさー!」

「ノリノリなのは分かるケドさ、サクラちゃん。時間が勿体無いから海兵隊ゴッコやめてチャッチャとやって」とツッコむ宮村。他の大人たちはツッコむ気すらなく白々としている。サクラと飛鳥は顔を見合い「ちぇっ!」と舌打ちするとホイッスルをそれぞれ取り出し皆の方を向いた。


「んじゃあチャッチャと説明するから。といっても簡単。まずチームだけど女性は東館、男性陣が本館ね。場所は各自に待機場所書いたメモ作ったからそれ見て自由に配置しちゃって」

「これやで~」

 飛鳥はそういいそれぞれに一枚ずつ手書きのメモを渡した。それぞれに待機場所、予想攻撃ポイント、避難先など書き込まれてある。


「じゃあチャッチャと次! 発砲命令はあたしか飛鳥の笛が合図。続けて2回が『撃て』、1回は『射撃中止』、3秒以上なら『防衛専念』、5秒以上は『現場撤退』よ。あたしと飛鳥は遊撃で行ったり来たりしてるから」


 ピッ! と飛鳥が頷きながら小さく笛を鳴らす。笛はテレビ番組用にADが持っていたものを拝借してきたのだ。


「我々に自己判断はなしですか?」

 岩崎が不満げに呟く。篠原は無言だが同意見とばかりに二人を見た。当然だ。この屋敷に残った人間はサクラが異常な天才だとは分かったが戦闘指揮までできると思っている人間は少ない……というより宮村以外は信じていない。サクラのすごい行動力も単独行動だからではないか?


 戦闘のプロではないが、岩崎は犯罪研究家で多少軍事的なことも知識としてはある。


「基本あたしたちに従うこと。二正面作戦になる場合はあると思うけどその時はあたしか飛鳥かどっちかが行く。もしそれでもあたしたちが現場にいない場合は仕方ない。ただ、この3つだけは必ず守る事」


「3つ?」


「1、建物には入れない。2、無茶はしない。3、西の森には近づかない。1と2は自己責任で最悪守れなくてもいいけど3だけは絶対。死ぬわよ」


「サクラちゃんが作ったデス・トラップだらけなのよね?」と田村。

「そういうこと。森に行っていいのは設置した場所知ってるあたしと飛鳥と拓だけ」

 少し変な話だ。それほど自慢のデス・トラップなら場所を知っていても戦闘中の状態でサクラたちだって入るのは危険なはずだし、逆に場所を知っていてなんとかなるくらいなら戦闘訓練を受けているであろう<死神>たちが倒せるものだろうか? そもそもサクラが仕掛けにいった時間もごく短時間だ。色々不審な点もあるが今はサクラの指示に従うしかない。それが拓の命令でもある。


「もし捜査官が戻ってきたらどっちの命令聞けばいいの?」


「とりあえずはあたしのほうが優先ってコトにしとこう。ないとは思うけど拓ちんが<死神>に捕まって脅される可能性はあるからノゥ」


 ……その危険はキミたちのほうがあるんじゃないのか……?


 と、今度は全員が心の中でツッコんだがサクラの子供っぽい反論が聞きたくなかったので黙っていた。


 説明を終えサクラは作戦実行を唱え全員を送り出した。


 そして飛鳥の二人だけになると上空を見上げる。上空のヘリの音、銃声の間隔と距離を計っていた。さっきまでのオチャラけた様子はなく真剣そのものだ。


 ……一機の音が近い……東館のほうが先か……。


 ……ユージは……もう来てる! でもあたしたちが<死神>を追い込まない限りユージの先制攻撃はできない、第三者介入がバレる……。


 ……拓は膠着状態……やっぱりあたしたちが撃退するほうが急ぐな……。


「…………」

「ところでサクラはん。格好つけていうてたけどウチはナニしたらええねん?」

 ポンポンと大斧を手にしながらやってくる飛鳥。実は飛鳥はユージのことだけは聞いたが他のことは一切知らない。

 サクラはショットガンを取ると、ニヤッと笑い東館の方に歩き出した。

「とりあえずヘリでも墜とすか♪ 目標は二つじゃ♪」

「ふむ。しかしヤバいノゥ」

「ヤバい事件はアンタの好みでしょーが。別にあたしらは率先して殺し合いするわけでなし、ヤバいことは我が家の死神と拓ちんの仕事だし」

「アンタの思考はあいかわらずヤバいな。てかホントヤバそうやが」

 予想通り先に下りてくるのはヘリポートのある東館だ。予想通りで内心ほっとした。東館には簡単だが確実な仕掛けをしてある。戦闘力の低い女性陣を東館に配置したのはこの仕掛けがあるからだ。

「ところでサクラぁ~ アンタだけどうしてショットガンなんや? そのチビでフルサイズのショットガンは似合わへんやろ、貸せ」

「今更ナニいってンのよ。ショットガンは扱いが難しい、撃ったことない人間が使えるもんじゃないって何度いうたら分かる。何言ってもアンタには貸さんから安心シロ」

「あっそ。……ところでヘリなんやけど」

「ん?」

「なんか急降下しはじめたみたいやけど歩いていてええんか?」

「にゃにぃっ!?」

 思わず見上げるサクラ。すでに東館のすぐ上でヘリが旋回滞空しているではないか。

「ヤバいっ! 走ろう飛鳥っ!!」

「ヤバいってさっきから忠告しとったやないかボケェェェ!!」

「ヤバいヤバい言ってたんはそのことかいっ!! ちゃんと言え!!」

「おどれが物思いにふけっとるんが悪いンやないかぁぁぁーっ!!」

 駆け出す二人。サクラはショットガンを背負ったが大きくて地面に擦り邪魔で仕方なかった。その姿を見て「フン♪」と鼻で笑いながら走る飛鳥だった。



 紫条家本館


「どうやら始まりましたか」

 差し出された水をストローで吸い込みながら村田悠馬ことサタンは表情を帰る事無く呟いた。目の前には河野がリボルバーを手にしている。


 村田は椅子に縛り付けられ、両手は後ろ手で縛られ全く動けないよう監禁されている。さっきまでは口も封じられていた。ただ、田村の意見で一時間に一度は水だけは飲ませた方がいい、ということで水を与えるため一時的に口だけが自由になった。


「飲んだでしょ? じゃあまた後で」と河野は水の入ったグラスを引き下げ猿轡を手に取った。そして村田の口を塞ごうとしたとき、村田が喋り出した。

「銃声が聞こえますね。どうやら今、13時は過ぎたようですね」

「何を言っても無駄よ」

「そんなに警戒は必要ないでしょう? 僕は逃げられないし……河野さんが僕の見張り役ですか、ちょっと意外ですね。河野さんは銃が扱える方に入るはずなのに<死神>たち対策じゃないんですね」

「分かってないわね」そういうと河野はにやりと不敵に微笑みリボルバーを見せつけた。

「人を撃てるから私がここでアンタを見張っているワケよ」

「怖いなぁ」

「最低の殺人鬼に言われてたくないわ。じゃあ、おしゃべりは終了よ」

「折角だから、もう少し話でもしていきませんか? 銃声、ヘリの音が聞こえていますが……どうもまだ本格的に上陸しているようでないようですし。捜査官とサクラ君が結構武器を集めていましたからねぇ~ 上陸も容易じゃないでしょう。捕まった僕が言うのは何ですが、捜査官はともかくサクラ君は甘く見すぎました。彼らはどうやって<死神>を迎撃する気なんでしょうか?」

「答えるワケないでしょ」

「あはははっ、そりゃそうだ。そうだなぁ~、どうせなら何か質問があるんなら聞いてくれてもいいですよ、特別にお答えします。代償は暇つぶしってコトで」

「…………」

「河野さんだって、今回の事件に興味はあるんでしょ? 多分、捜査官やサクラ君とは別の興味があるんじゃないですか?」

「…………」

 河野は一瞬、東館の方を見た。


 拓とサクラはこの島がネット中継されていて賭けゲームが行われていること、本土でその捜査が進められている事、この島は元々軍事施設だったことは言った。確かにこれまでの事件の辻褄は合うが彼らが全てを語っていないことは河野には分かった。


 河野が一つ気になっていること……それは30年前の連続殺人事件のことだ。


 拓たちは簡単に「事件は、今、住宅地の方で徘徊している狂人鬼化の疫病によるもの」と説明しそれ以上拓たちは過去の事件の追及はやめ現状をいかに生き残るかという方に重点を置いたが……元々ここに集められた人間は30年前に発生した「紫条家連続殺人事件」を解明するためやってきた。河野も十分事件を調査し今回のゲームに参加した。あの事件の原因は確かに拓とサクラが大雑把に解明したが(さすがに米軍が開発した細菌兵器の暴走という点は伏せられているが)それで全てだろうか?


 ふむ……と河野は腕を組み考えた。


 拓はあからさまにいくつかの事実を隠している。だがそれは突っ込んではいけない領域だ、と拓は言った。恐らくあの狂人鬼たちの関する事は一般人に知られてはまずいということだろう、と推測できる。そしてこの島でサバイバルゲームが行われそれが中継されゲームとされている点も理解できる。このあたりのことは拓も簡単に説明しただけだ。だがこれは、やはり一つは一般人が知るには危険な事件案件であるからということもあるが、拓たちの捜査でもまだ分からない点でもあるからだろう。


 ……じゃあ、何を聞くか……。


 彼女だってこの事件を自分なりに考え生き抜いてきた。


 考えてみて、ふと一つの質問が思い浮かんだ。


「貴方、どうしてこんな事件に参加することになったの?」

「あははっ 大金がもらえるからですよ」

 いつも通り笑みを浮かべさらりと答える村田。別に隠そうとする素振りや騙そうという感じはなかった。ごく純粋に彼は答えている。

「たったそれだけの理由?」

「ええ」


 ……この時、違和感を河野は覚えた。


 大金……と言った。本当なのだろう。しかも1億円や10億円程度ではないはずだ。この事件が世界中に捜査機関に知られることは前提だ。サタンの時放送で言っていたが、今回の事件はとサクラを生き残らせFBIに事件の後始末をさせこの事件自体闇に消させる……。だから村田が貰う報酬は一生暮らせる十分な額だろう。だといって50億とか100億とかいう金額ではないはずだ。多すぎる大金は、身の危険に繫がる。FBI含め各国の捜査機関が目を光らせているはずだ。金の流れは身元発見の一番のキーワードだ。


 ……だとすれば、こいつは何が目的なの……?


 もらっても持て余す大金。一生隠れて過ごさなければいけない人生。それだけの代償を払うことになるのに、目の前の村田のこの態度は余裕がありすぎる…… 


 そう考えた時、この村田の存在や発言は違和感だらけだ。


 河野は考えた。


 サイコパスか? なら納得できる。だが彼が本当のサイコパスなら自分の手でも人を殺すのではないか? 終始彼は『進行者』としての役割を越えていない。だといって彼が正常でないことも確かだ。間接的にだが狂人鬼を100人以上作り数人は間違いなく殺害している。


 ……どうしてこんなに平静でいられるの……?


 殺人嗜好者のサイコパスであったとしても、今彼は逮捕されているのだ。その焦りすら全くない。彼はその焦りすらないのか?


 これまで深く考えた事はなかったが、河野は急にこの村田という男に興味を覚えた。

「アンタ、何者?」

「サタンですよ。別名村田悠馬です」

「ウソね」

「?」

「貴方の名前。村田悠馬……本名じゃないでしょ」

「いい観察ですね。そうです、偽名ですよ」

 あっさりと答えた村田に、河野は内心息を呑んだ。ただ単に流れでつい口にしただけのことだ。だがそんな河野の意図を見通したのか、ただ単に馬鹿正直なのか、村田は表情変える事無くあっさり衝撃的な事実を口にした。


 ……村田悠馬という名前は偽名……。


「じゃあアンタの本名は何」


「俺に名前なんてないですよ。本名なんて、意味のないものです。偽りの人生をずっと生きてきたので名前はいくつもありますよ」


「……だからこんなゲームもできるってわけね」

「一つだけ、特別サービスを出しましょうか? これからの24時間は人質合戦です。今僕は捕まっていますが皆さんだって<死神>に捕まる事がある」

 楽しそうに喋る村田。その口調はマスクをつけていたときのサタンとなんら変らない。恐怖も何もない、この精神はやはり異常者だ。


 それより……人質合戦とは……。


「ゲームは次がファイナルじゃないの?」

「ビッグ・イベントは次のファイナル・ゲームが最後ですが『フォース・ルール』の概要が<死神>たちの上陸だけとは言っていません。<死神>が何をするかまでは言ってないでしょ? 皆様を皆殺しにする……それじゃあただの殺戮ゲームです。正しいゲームとはいえないでしょ? 人質ゲーム……楽しみじゃないか」


 フフッ…… 村田は一笑すると椅子に深く座った。


「サービスはここまで。煮るなり焼くなり御自由に。ああ、もし食事を出してくれればもう少しサービスしてもいいですけどね」

「どんだけ秘密を抱えているのかしら? サタンさん」

「そりゃあ……」

 また村田は笑みを零す。


「どうでもいい事から、絶望レベルまで色々取り揃えていますよ」


「…………」

 その僅か一瞬、村田の瞳に狂気の色を帯びたのを河野は見逃さなかった。そして戦慄した。やはりこの男もこのゲームも、異常の中でも飛びぬけて異常なのだ、と。

 


 

   2




 紫ノ上島 東館。


 上空30m……ヘリはゆっくりと下降体制に入った。ヘリの両サイドには武装した<死神>が警戒している。ヘリは微調整しながら東館の庭に併設されたヘリポートめがけ降下しようとしていた。そして、東館の三階に宮村と斉藤、一階に田村と樺山がそれぞれ銃を持って待機し、サクラと飛鳥は庭の森の中に潜んでいる。


 サクラはショットガンをポンプした。目線で飛鳥に合図、飛鳥はホイッスルを咥えた。


 作戦開始だ。


 飛鳥が短く二回ホイッスルを吹く。次の瞬間、サクラが第一発をヘリの胴体目掛けて放った。続けて館組も慎重に一発一発ヘリに向けて撃っていく。だがそれも一瞬のことだ。すぐに飛鳥はホイッスルを一度吹いた。正に<死神>が応戦を始めた直前、サクラを除いた全員が撃つのをやめ建物の中に隠れた。サクラだけはチョコマカと木の陰を移動しながら狙撃を続けていく。<死神>たちも応戦するがサクラは<非認識化>を使っているから居場所は分からない。様子を見て再び飛鳥がホイッスルを二回吹きヘリに攻撃を与え<死神>たちが応戦する前にひっこむ。サクラだけはショットガンで動き回って攻撃してくる。


 銃撃戦が始まって1分足らず……<死神>たちはフルオートで強行に周辺を四方八方乱射し小煩いサクラたちの攻撃を封じる動きに出た。堪らず飛鳥がホイッスルを3秒吹きサクラと飛鳥以外完全に引っ込んだ。それを確認し、ヘリはゆっくり降下を始めた。


 全てサクラの作戦通りだ。


「まずこちらが銃を持ってる、抵抗するって形を作る。あいつ等は上陸するため攻勢に出るだろうからそしたら隠れる。これであいつらは早く着陸して急いで地下に入ろうとすると思う。それで第一段階はオッケーよ」


「で、これからどないすんじゃい?」


 いつの間にか飛鳥のところに戻ってきたサクラは飛鳥に宝箱が4つほどついたワイヤーを手渡す。ワイヤーはかなり長く宝箱は両端ずつに二つずつついているようだ。

「めずらしくアンタが活躍する時よ飛鳥。いい? ヘリが地面近くになったらヘリのローターの頭上にバトルアックスを思いっきり投げる! 宝箱は爆発、ヘリは撃墜……っと」

「ここからヘリまで何メートルあると思うとるねんっ! アホか! ウチがメジャーリーガーに見えるンかボケェ! 飛鳥さまでもそんな腕力もコントロールもないわドアホ!!」

「ちゃんと考えてるワイ。まず一つ、ヘリにぶつけるんじゃなくてローターの頭上飛び越えればいいだけ。ワイヤーの長さは15mだけどそれも問題ない。ここからヘリまで……40mくらいかな、投げる距離」


「届くかいっ!」


「よく聞け。JOLJUからパクったバリアー装置あるでしょ? まずそれを切る。そして、ぶん投げた瞬間思いっきりスイッチ押す」

「どういう事や?」言われたとおりワイヤー付き宝箱を握りながら首を傾げる。

「そのバリアーがメッチャ強力なのはエネルギーが壁を作ってるンじゃなくて反発力を生むから。強い力に対しては強い力で反発する……。で、まぁ簡単にいうけど、アンタがそれを投げた瞬間バリアーを発生させれば、バリアーの反発力に乗ってすっ飛んでいく……とまぁそういうワケ」


「??」


「時間がないから理解しようとせんでいいわいっ! 後でちゃんと説明するからいいから用意しろ! ホラ、もう着陸するゾ!!!」

 サクラの言うとおりヘリはもう地上5mまで近づいている。<死神>たちも戦闘用意の体勢をとっている。乗っているのはおよそ6名、パイロットも入れれば7名か。


「サクラちゃんが囮になるからその隙に投げろ!」


「よく分からんけどよく分かった!!」

 サクラは頷くと走り出した。両手にはグロック19とFBIスペシャルがある。ショットガンより拳銃のほうがサクラは使い慣れている。<非認識化>は使わず、あえて姿を見せ森から飛び出し走りながら拳銃で狙撃していく。<死神>たちは必死にサクラ目掛け自動小銃を放つが小さくすばしっこく実戦慣れもしているサクラを捉える事が出来ない。


 <死神>たちの注意がサクラに向いたその瞬間、「どりゃぁぁぁぁぁぁっっ!!」と大声を上げ飛鳥はワイヤー付き宝箱を投げた。そしてその瞬間言われたとおりバリアーのスイッチを力強く押すと、サクラの言ったとおりバリアーの反発を受けて物凄いスピードでワイヤーはかっ飛んでいった。そしてそれは狙い通りヘリのローターを飛び越えた。だが宝箱には15mのワイヤーがついている。


 サクラは飛んでいくワイヤーを睨みつけた。


 一瞬でワイヤーが静止し、そしてそのままワイヤーはロータリー目掛け落下した。サクラの念力だ。大した力ではない、誰もサクラが念力で操作しているようには見えないだろう。だがヘリのロータリーにワイヤーを落とすには十分だ。


 ヘリコプターの弱点はローターだ。拳銃弾や散弾程度で壊れる事はない。だがワイヤーが一度絡まればワイヤーはあっという間に吸い込まれる。そしてワイヤーの両端には小型爆弾の入った宝箱がついている。爆発の前には無力だ。


 正に一瞬の出来事だった。


 ワイヤーが吸い込まれたかと思った瞬間、ヘリのローター部が爆発しそのままヘリは大地に突っ込んだ。激しい墜落音と爆発音、機体の破壊音が鳴り響き土煙があたり一面埋め尽くす。


「マジ!? 本当に撃墜!?」


 窓際でその光景を見、言葉を失う宮村。他の女性陣もあまりの事に呆然と見つめるだけだった。土煙が納まったときそこにあったのは、黒煙を上げ斜めに地面に突っ込んだヘリの姿だった。


「お~ すげぇ……! さすが飛鳥さまやっ!!」

 一人ノー天気にガッツポーズを取る飛鳥。そこにサクラの罵声が飛ぶ。


「アホっ!! これからじゃ!! 早くスイッチ押せ!!」


「へ??」


 その瞬間、猛烈な銃撃が飛鳥を襲った。だが弾丸は空しく飛鳥の周りで弾かれていく。サクラが心配するまでもなく飛鳥の自己防衛本能は完璧だ。この点だけはボケることがない。飛鳥は得意げに「ほれほれ♪ 撃って来い撃って来い♪」と挑発している。


 <死神>の姿は見えない。機内か黒煙で隠れてしまっている。それに数も多くないようだ。いくら低空だとはいえ地面に突っ込んで墜落したのだ。無傷で済むとは思えない。サクラはホイッスルを二度吹くと再び<非認識化>を発動させとにかく銃撃していく。


 銃撃戦は散漫としている。どっちも正確に狙い撃っているわけではない。


 すぐに黒煙の中から自動小銃を持った<死神>が二人飛び出し、さらに一人が腹部を抑えながら這い出てきた。サクラはすぐにホイッスルを一度鳴らし、自分だけが応戦する。サクラは南東側の森の中を<非認識化>を使って銃撃しているから、姿が見えず<死神>たちには何人もの伏兵が森の中に潜んでいるように感じる。飛鳥がいるのは東側の森の中だ。得体の知れない東の森には行きづらい。そして屋敷側には女性陣が武器を持っている。逃げるとすれば西側の門の方か中央の地下室への道しかない。


 <死神>三人の判断は早かった。


 二人は乱射しながら西門のほうに走り、一人は中央の地下室に入って行った。


「追っ払った……」


 田村はため息をつき、手にしていた拳銃を置いた。これでいい、目的はヘリをあえて撃墜させることで着陸を阻止すること、生き残った<死神>たちは地下か西の森に向かわせることだ。この後<死神>たちが仮に住宅地の方にすすんだとしても片山がいるし、本館には男性陣がいて建物に侵入するのを防ぐ。西館のドアは全て塞いできたし西館に入る気配があればユージが始末する。


 サクラはショットガンとリボルバーの弾を込めながら飛鳥と合流し、早口で次の指示を出した。


「じゃあ飛鳥はこっちで降伏勧告して、そんで抵抗してきたらぶん殴れ! 反応ないときは例のやつね! それが終わったらすぐに本館に来い! あたしは先に行ってるから!」


 それだけ言うとサクラは西の門の方に走り出した。


「せわしない奴なぁ」


 一人暢気に呟く飛鳥。


 一方、サクラが走り去って行くのを確認し宮村と斉藤が一階に向かった。一階のある部屋に、予め大量に用意していたものがあるのだ。


 <死神>たちは出てこない。第三段階だ。


「うしっ!」と飛鳥は気合いを入れ、バトルアックスを握り締めると墜落したヘリに近づいた。パイロットを入れればまだ4人乗っていたはずだ。


 近づきながら飛鳥は「抵抗せず出て来~い! でないと酷い目に遭うでぇ~!!」と大声で警告する。そして飛鳥が機体傍まで来た時だ。<死神>がフラフラと這い出てきて、拳銃で飛鳥を撃った。だが当然弾丸は当たらない。<死神>たちもまさか携帯バリアーなんて超便利道具を持つ人間がいるなんて想定していない。さっきまでの森の中と違い近距離だ。外すはずがないし防弾ベストを着ているでもない。負傷もあり、この不可思議な現象にパニックを起こす。とにかく持っていた拳銃の弾全弾を撃っても平然としている飛鳥を見て、思わず後ずさりした。だが飛鳥は猛然と飛び掛るとバトルアックスの側面で思いっきり<死神>をぶっ叩いた。


「うちは人殺しはせん主義なんや。ほれほれ、さっさと降伏せぇ~! 出ないと……」


 飛鳥は建物の方を見る。そこには酒瓶で作った火炎瓶を持つ宮村と斉藤の姿があった。二人は飛鳥の合図と共にヘリに向かって火炎瓶をいくつも投げつけていく。ウイスキーやブランデーの火炎瓶だから火力は強くないが、残された<死神>たちにとっては十分な脅威となった。火炎瓶が投下されて1分も立たないうちに、一人の<死神>がフラフラの状態で機外に這い出てきて降伏した。残り一人の<死神>とパイロットは墜落の衝撃で意識がなかった。とりあえず飛鳥は意識のない<死神>も含め全員から銃器を取り上げ、ロープで縛り上げると後の始末を田村と宮村に託し、飛鳥もようやく手に入れた自動小銃2丁と拳銃を掴み「んじゃ後任せたで!」と叫び、ヘリから飛び降りると「今回、ウチ忙しいなぁ~ ひぃぃぃ~」と文句を言いながらサクラの後を追って本館の方に走っていった。




 紫ノ上島 南側・煉獄港


 ボロボロの桟橋に、一艘のボートがたどり着いた。<死神>10人を乗せた第四の上陸組で今現在唯一交戦していないグループだ。<死神>たちは全員上陸すると乗ってきたボートを移動させた。ヘリからの無線報告で港からの上陸は難しく、後の2艘もこちらまでヘリが牽引し煉獄に上陸させるとの命令が降りていた。桟橋は1艘分しかないからどけなければ次が入って来られない。


 この中に、<大死神>も二人いた。<死神>たちはまず地下通路のほうから侵入を果たそうとしたがすぐにそれは容易ではないことを知った。奥ではバリケードが作られている上に手前には釣り糸を利用したライントラップが縦横無尽に張り巡らされており、ラインの先にはいくつもの手榴弾がすでにピンが抜かれた状態でセットされてあった。ラインのテンションによってなんとか手榴弾の安全レバーが外れないのを阻止している。これではラインを切ってトラップを解除することは出来ない。


 <大死神>は、このトラップに違和感を覚えた。トラップがあからさますぎてこの通路を通らせない、という作戦がありありとしている。だが相手の人数を考えるとそうすることで地下エリアに<死神>たちを自由に動き回らせないための布石とも考えられる。


 どうせこの上の西館近くの森の中にも隠しシェルターはある。彼らの作戦は一人でも多くの敵を捕獲し、ゲームを盛り上げることだ。現在の情報では敵の布陣は住宅地と東館に集中しているようだ。ならば西館を制圧し、それからゆっくり敵……『人間狩り』を始めればいい。<大死神>はそう判断すると、全員森に向かって進むよう命じた。


 ……そこに、本当の地獄が待っていようとは知らずに……。




 紫ノ上島 住宅地


 拓と涼の二人は依然波止場を中心に海上とヘリ、狂人鬼たちを相手に奮闘していた。


 海上に残ったボートは1艘で、後の2艘はヘリに牽引され西の方に消えた。その1艘も数人打ち倒したが、彼らも体勢を低くし、時々応戦しながら手漕ぎで東の方にゆっくり進んでいく。他、5人くらいは海に飛び込んだようだ。一番拓を悩ませていたヘリは姿を消した。ついさっき東館の方で物凄い轟音が置き黒煙が上がったのが見えたからサクラが一機撃墜したことは理解した。そのためヘリは波止場の拓ではなく屋敷のほうに向かったのだろう。


「拓さん。屋敷のほうは大丈夫でしょうか?」

 涼はあたりを警戒しながら拓に言った。正直、この波止場での山場は終わった。明らかに銃声は屋敷のほうから聞こえるもののほうが激しい。


「サクラがうまくやってくれるよ」

「でもサクラちゃんは拓さんみたいに射撃のプロじゃないでしょ?」

「ああ」

 そう答えたとき、海上からの流れ弾が頭上を通り越していった。すかさず拓は応戦する。だがそれも牽制的なものだ。

「でも、この住宅地と波止場を俺たちで押さえていることが一番重要だからね。<死神>たちは、俺を一番警戒している。その俺が波止場にいることで、奴らは上陸方法や行動は制限される」

「なんだか皆に悪い気がして……」

 涼は少し顔を曇らせ俯いた。


「?」


「皆精一杯戦っているのに……サクラちゃんや飛鳥さんもそうですけど田村さんや斉藤さんや樺山さんや……でも私は拓さんが傍にいて一人安全な気がして……殺し合いはしたくないけど、でも、皆がやっているのに私だけ安全な場所で……」

「そんなことはないよ。俺の傍だから安全だってことはない。銃を撃たなくたって、俺の目として涼ちゃんは十分役立っている。それに降伏の警告や『アベ・マリア』は涼ちゃんじゃないと無理だ。涼ちゃんは涼ちゃんにしかできない仕事をしているよ」

「あの『アベ・マリア』は……何の意味があったんですか?」

「分かる人間には分かる、降伏勧告……かな? ごめん、こればかりは教えられない。だけど、効果は恐らくあったと思う」


 あの歌の後、ボートから海に飛び込んだ<死神>は、恐らくユージが言っていたCIAの関係者だろう。この島にCIAの人間はいないが、拓もユージ同様少しだけCIAに足を突っ込んでいるFBI捜査官だ。恐らく拓と接触してくるはずだ。彼らの対応もあるから拓は波止場を離れられない。


 その時、今度は本館のほうから激しい銃撃戦を音が聞こえてきた。フルオートの銃声が多いから、<死神>たちが降下しようとしているのだろう。強行着陸しようとして撃墜されたばかりだ。その事を考えると、今度は上空のヘリから降下する手段を取る……と、拓もサクラも読んでいる。だから本館組の仕事はとにかく応戦して屋敷や本館近くの森に入れず西の森に追い払うことだ。そのためライフルやショットガン、SMGなど火力の強い物を本館の男性陣に持たせてある。これに片山も加われば火力的にも人数的にもヘリに乗っている5、6人前後の<死神>相手にするには十分だ。そのあたりはサクラがうまくやるだろう。


 予想通り、銃声が段々西に動いていっている。<死神>たちも今は倒すことではなく合流することを一番に考えている事は間違いない。


「しかし」


 拓は苦笑した。


「10人いくかいかないかか、俺が阻止できたのは」

「? 拓さんはもっと当ててたんじゃないですか?」

「遠距離で撃って海に落ちなかったヤツは多分防弾ベストで死んでないと思う、ダメージはあるだろうけど。サクラは好んで人は殺さないから思ったより俺たちだけじゃなんともならなかったって事か。いや、それがいいとか悪いとかじゃなくて……なんていったらいいのかな」

 そう苦笑しながら拓はチラリと西の森の方角を見つめた。

「心配しなくても、<死神>たちは終わりさ。西の森に入ったが最後だ。ただ、後で色々愚痴が煩そうだから」


 拓が何を言っているのか分からない涼。だが拓の様子からして、けして悪い状況ではないということだけは分かった。


 ……しかし、拓さんもサクラちゃんも西の森にどんな仕掛けをしたんだろう……?


 デス・トラップとだけは聞いたが皆目分からない。


 そのデス・トラップも、ついに動き出すのだった。





 紫条家 西館周辺。


 本館方面から西館に向かう<死神>たち。本館近くから降下した4人と東館から逃げてきた3人、合わせて7人だ。彼らは本館突入を諦め西館から地下の本部に向かう事を決めた。

 周囲を警戒……どうやらこの西館の方まで人員は配備されていないようだ。これまでの戦闘経緯を考えても人数的に西館までガードするのが無理なのは彼らにも分かっている。そのためか西館の入り口は全て完全に施錠されていた。試しに正面玄関に手をかけたがビクともしない。


 その時<死神>は不審なものを見つけた。玄関傍に赤く点滅する小さな装置だ。玄関から離れると赤い点滅は消えた。赤外線検知器のようだが、そんなものこの島にあっただろうか? すぐに<大死神>がそれを確認し手の指示で「警戒しろ」と命じゆっくりと西館から離れると変化を待った。だが何も起きない。


 ……トラップの類ではないのか……。


 家具のバリケードなど一斉射撃で破壊できる。だがそれは自分たちがここに集まっていることを相手に知らせ、参加者たちが何かしら手を打ってくることになるだろう。今はそんな余裕はない。


 わざわざ館の中からでなくても納屋やその途中、西の森には地下エリアへの道が残っている。今ここで考えているより地下に潜り込んだ方が有利だ。そう判断した<大死神>は、再び走り出した。


 だが、赤外線検知器は彼らにとって死のトラップが発動した瞬間だった事を、彼らは知らない。


 ユージが西の森を南のやや高くなっている丘の西館が見える場所に移動している。背中にHKM417を背負い、手にはバレット50口径が握っていた。木々の合間に西館の前が見えた。  <死神>たちは周囲を警戒し動いていない。狙撃には絶好の対象だ。


 ついにユージが第一撃目を放った。


 50口径は茂みを突き破り、そのまま一人の<死神>の上半身を吹き飛ばした。


 正に粉砕だ。距離は約600mだが有効射程2000mを誇る50口径だ。この距離で当たれば防弾ベストなど関係なく人体は木っ端微塵となる。


 突然の出来事に驚く<死神>たちに対し、ユージは僅か5秒で次の標的に狙いを定め引き金を引いた。一番奥にいた<死神>の頭部が丸々消し飛ぶ。ここでようやく<死神>たちは狙撃者の存在を理解し散開しようとするが、それはユージが許さない。本館や西館に行かせないよう連射し、牽制する。この弾は当たらなかったが、50口径の凄まじい破壊力で地面は大きく吹き飛び土煙を上げる。こうなれば彼らは西の森に逃げ込むしかない。森の中に逃げ込めば狙撃は困難になる。だがこれも全てユージの作戦だ。すぐにバレット50口径を抱え森の中を疾走する。銃だけでも2丁で15キロを超えているが全く足が遅れる事はない。所定の場所まで戻りバレット50口径を置くと、今度はSMGのベクターTDIとストリートスイーパーを抱え走り出した。




 紫ノ上島 波止場


「雷!? 違う……これ、銃声!?」

 涼は防衛陣地から出ると西の森を見た。拓も同じく森を見ている。

「拓さん! 西の森で凄い音が!!」

「分かっている」

 そう答えると拓は落ち着いた様子で、暢気に煙草を咥えると火をつけた。

「アレが西の森に仕掛けたデス・トラップさ。<死神>たちが集まった頃なんだろう」

「誰かいるんですか?」

「誰かっていうか……」

 拓は説明に困り苦笑した。ユージのことは拓の他はサクラと飛鳥しか知らないし、知らせるわけには行かない。

「死神がいるだけだよ。ただし、正義のね」

「…………」

 森での戦闘は全てユージに任せてある。そもそも戦術や戦闘関係においては拓もサクラもユージに口出しすることは何もない。


 その時だ。


「拓さん! 狂人鬼が!」

「え?」

 拓もライフルのスコープで役場の方を見る。


 見ると数十人といった数で狂人鬼たちが西の森に上がっていくのが見えた。


 ユージの心配はいらない。この島にいる狂人鬼と<死神>全員が一気に襲い掛かっても死ぬことはない。ただ問題は、どうして今になって西の森に向かうのか? 


 サクラに向かっていくなら分かる。襲うのではなくこの場合集ってくるのだが、そうではない。西の森にはユージと<死神>しかいないのだ。


 ……まさかと思うが……。


 拓は煙草を吸いながら考える。


 ……もしかして、狂人鬼は操れるのか? 操る人間がいるっていうのか?


 可能性があるとすればサタンだけだがサタンは拘束している。タニィルンのウイルスが使われているから感染者を操る可能性自体はあり得るが、それならばサクラに反応するはずだ。ユージが西の森にいるからサクラが西の森に足を踏み込むとは思えない、サクラはユージが怖いし、誤射されるのも怖い。


 ……まだ、秘密があるのか……。


 拓は釈然としないまま、煙草を足元に捨てた。




  3




 紫ノ上島 西の森


 森全体が異様な緊張感に包まれていた。


 すでに<死神>たちもこの森に何者かが潜んでいることは知られている。彼らも警戒しながら森を進んでいる。彼らの目的は『地下エリア』に逃げ込むことだが、不幸にも西の森に隠してあるシェルターは森の奥深くになるのだ。煉獄側は閉ざされ、西館は狙撃ポイントになった。住宅地側も狙撃ポイントになるし拓や片山がいる。こうなっては森の中にいる敵を倒さなければ作戦遂行にならない。だが西の森に設置された監視カメラは全て破壊され、相手の人数も装備も分からない。ここにきて<死神>たちは初めて五分の条件での戦闘を余儀なくされたのだ。


 数は圧倒的に<死神>たちの方が上だ。


 ヘリも上空を旋回している。ヘリにも一人<死神>が残り上空からの攻撃もできる。また、丁度海側では二艘のボートが牽引されてきている。海側からも監視できる。包囲網は出来上がっているのだ。<死神>5人はボートを降り、海を泳ぎ海側からも攻めようとしている。完全に計算された包囲網だ。


 だが、彼らは一つ大きな計算違いをしていた。


 彼らが包囲したのは、次元の違う化物だということを。狐狩りならぬ化物獅子狩りといったところか。いかに訓練された猟犬でも獅子には敵わない。


 まず、最初に森で化物獅子の巨牙にかかったのは最精鋭の<大死神>二人をいれた10人のボート組だ。彼らは3人一組、先頭に<大死神>で警戒しながら進んでいた。彼らは気付かなかったが、対象の化物獅子はほんの目と鼻の先、30mのところ、大木の陰に潜んでいた。


 ユージは待つ。


 一気に殲滅できる距離まで待った。散られては元も子もない。


 彼らとの距離が25mになった時、ユージは飛び出した。と、同時にHKM417を連射する。


 最初の連射で4人が頭を撃ち抜かれて倒され、<死神>たちが反応し応戦体勢を取った時にはさらに2人が射殺された。それでユージのマガジンが空になり、<死神>たちは応戦する。だがユージは一旦身を潜めたかと思うと次に現われた時は5mも移動し、左手にベクターTDIを持っていた。そのフルオートの掃射で残り4人も弾を受けた。だが、防弾ベストがある、即死しない。しかしそれもユージの計算の内だ。SMGを撃ちこみ怯ませた所で今度はいつの間に持ち替えたのか右手に握られたオートショットガンが襲い掛かる。


 僅か10秒ほど……あっという間に10人の<死神>が全滅した。


 ユージは休む事無くHKM417とベクターTDIのマガジンを交換、移動する。


 化物獅子は持ち伏せから、積極的な『狩り』を開始した。


 そこからは一方的な戦いになった。


 森に辿りついた<死神>や狂人鬼たちは、次々に狩られていく。ほとんど応戦にもならない。<死神>たちがほんの僅かでも頭や体を木の陰から出した瞬間、撃ちぬかれるのだ。狂人鬼たちもユージの存在に気付き森に入りユージに群がって襲い掛かるがSMGとショットガン、DEであっという間に致命傷を受けその場に倒れていった。


 ついに森の中を制圧したユージは、今度は海側に出た。手にはバレット50口径が握られている。


 最初、ヘリはユージを敵だと思わなかった。仮面をつけ黒装束……<死神>の誰かかと思った。だが、ユージがHKM417につけたグレネードランチャーで牽引していたヘリを爆撃した時、ボートの<死神>たちは頭上に現われた男が敵であると知った。


 ユージは降伏勧告などしない。


 黙って新しいグレネードを装填し、ボート目掛けて放った。大爆発とともに吹っ飛ぶ<死神>たち。<死神>たちも激しく応戦するが、頭を抑えられていてはどうにもならない。結局全員海に飛び込んだ。ユージは容赦なく空になったボートにグレネードを撃ちこみ沈めると、海に散らばった<死神>たちを上から狙撃していく。


 だが<死神>たちもただ見ているだけではない。


 もう一機残ったヘリが海上側に回るとヘリの<死神>がユージに向かって猛烈なフルオート射撃を加えて来た。さすがに身を隠すユージ。その間に生き残った<死神>たちは海岸沿いに煉獄や埠頭のほうにバラバラに散っていく。


 ユージは最後のグレネードを放ったがヘリはそれを旋回し回避した。


 ようやく<死神>たちにも勝機が生まれた。ユージは隙を見てできるだけ埠頭、煉獄側に回ろうとする<死神>を狙撃しつつヘリの攻撃を避ける。ヘリではほとんど絶え間なく弾幕を張りユージが攻勢に出るのを防いでいる。


 ……仕方ない……!


 ユージは獲物をバレット50口径に持ち替えた。その時数人の狂人鬼がユージに襲い掛かったがそれをユージは一瞥すると左手でレッグホルスターにあるベクターTDIを取って排除する。このとき、一瞬だがユージの姿が森の中に消えた。その隙にヘリはゆっくりと旋回し、島を離れようとした。ユージの存在を本部に知らせるためか……それとも再び増援を運ぶためか……。


 それもユージは予期している。


 再びバレット50口径を持つと、去っていくヘリに向かって銃撃した。


 50口径ライフルは元々対車両用兵器だ。1キロくらいなら十分その破壊力を発揮する。しかもヘリは軍用ではない。3発目が着弾し、ヘリが大きくフラつくと残り2発をヘリに撃ちこんだ。弾はエンジン部を破壊、爆発し海上に落ちた。


 ユージはバレットを捨て、再びHKM417を取った。まだ敵数人が射程距離内にいる。


 何人かを撃ち倒した時、突然煉獄の方で大爆発が起きた。


 <死神>たちが、トラップを破壊して強引に地下通路に入っていったようだ。森を抜けられない以上、彼らにはそれしか手がなかった。爆発によって地下通路が塞がるかと思ったが、地下通路は思ったより頑丈に出来ていたらしい。煉獄のほうにいってしまえばカメラがありユージが追う事は出来ない。


 ようやくユージは銃を引いた。


「ここまでか」


 プロが子供相手にワンゲームしたかのように……疲れや罪悪感など微塵もなく、そして勝ち誇るでもなく、ごく日常的な口調で零した。

 もはや生きている<死神>は視界にはいない。海上には15人前後の<死神>が浮いている。何人かは煉獄と埠頭の方に回り生き延びただろう。ユージのHKM417も最後のマガジンだ。


 ユージは念のため森を一回りし、戦闘の終了を確認すると照明弾を打ち上げた。


 JOLJUの転送機のタイムリミットを確認した。後21分だ。


 ユージの仕事はこれだけではない。次の仕事にかかるべく、歩き出した。




 紫条家 本館前


 何が起こったのか、誰も分からない。ただただ激しい銃撃戦の音に呆然としている。

「終わった」

 上がった照明弾を見てサクラは呟いた。照明弾はユージの戦闘終了の合図だ。

 サクラは手にしたショットガンを飛鳥に手渡す。

「ちょっとあたしはユージのトコいってくるから飛鳥、後よろしく~」

「えげつない銃撃戦やったなぁ~」

「だねぇ~ ……半分くらいはブッ殺したンじゃないかしらん。つーか、どんだけ銃器持ち込んだんだユージわ」


 まるで戦争激戦区のような派手な銃撃戦だったが、サクラも飛鳥もユージがやられたとは微塵も考えにない。


 自動小銃に50口径、ショットガン、グレネードランチャーを持って来ていることは銃声でわかった。ユージが来る、と決まったのは二時間くらい前……日本にいたはずのユージが短時間のうちに一体どこでそんなもの入手してきたのかナゾだ。どう考えてもFBI捜査官の装備ではない。


「ユージさん転送機で来とるンやろ? あのうーぱーるーぱー犬もどきの」

「当たり前じゃん。さすがにJOLJUは来てないだろうけど」


 万が一JOLJUがモニターに映れば別の意味で一大事だ。ユージはくる時「時間制限で」と言っていたから転送機を持たせたのだろう。


「このままウチとユージさん、チェンジってワケにはいかへん?」

「無理だろ。携帯型転送機に対応できるのはあたしとユージとエダだけだもん。転送事故で原子崩壊してもしらんぞ」

「……後一日この島におらないかんのか……」

 トホホとため息をつく飛鳥。

「まんざらでもないクセに」

「ふぉっふぉっふぉっ♪」

 飛鳥はドヤ顔で微笑む。なんだかんだと事件は飛鳥の大好物だ。そして飛鳥だけはバリアーがあるから死ぬ心配はない。


 ……この二人に比べればサクラちゃんはまだ真っ当だな……。


 絶対にそんなことはないがサクラは勝手にそう自己完結すると「じゃあ東館の皆を本館に呼んで次の対策に入るから飛鳥まかせた!」と言うと西の森に向かって歩き出した。




 紫ノ上島 波止場


 波止場の方でも西の森の戦いは見ていた。


 海上、東に向かって漕いでいたボートもすでに東側に周ってしまったようだ。拓の射程距離外に行ってしまった。依然5人ほどの<死神>は海の中にいる。珊瑚礁の浅瀬を見つけ、銃を持ったまま静かに立っている。

「終わったな」

 そういい拓は涼を防衛陣地から出した。涼も西の森で起きた銃撃戦に呆然となっている。

「西の森……何があったんですか?」

「死神による<死神>狩りってトコかな。終わったようだ。<死神>の上陸を少しは阻止できたと思うよ。どうやら増援もないようだしね」


 ヘリがやってくる気配も新しいボートがやってくる様子もない。


 終わった気になっている拓の腕を涼は引き、「あの海上の<死神>は?」と尋ねた。


「そうだった」


 拓は焦る様子もなく波止場に立つと、上空に向けてリズムに合わせ三発放った。すると<死神>のうち三人が突然、別の浅瀬に立つ<死神>を射殺し、同じように三発空に向かって放った。これはCIAの暗号の一つだ。つまりあの三人はCIA関係者ということが判明した。念のため「武器を海に捨ててゆっくり来い!」と叫ぶと、二人は黙って従い再びこちらにむかって泳ぎだした。


「どういう事ですか?」

 涼にはまだよく分からない。

「あの三人は降伏者だ。後は片山さんに任せて涼ちゃんはサクラと合流してくれ。大丈夫、本館近くまでは俺も行くから」


 そういうと、拓は「戻ろう」と涼を促し歩き出した。


「拓さんは、どこにいくんですか?」

「ちょっとね」そういうと拓は苦笑した。

「<死神>狩りをした化物と会ってくる。サクラもいくから、しばらく皆休んでいたらいいと思うよ。誰もケガしてないといいけど」

「あれだけのことがあってケガひとつないなんて……今になって震えてきましたよ」

「多分皆そうさ。落ち着いた頃に興奮と恐怖が来るんだ。落ち着いているのはサクラと飛鳥くらいだよ。時間も時間だから、スープか何か温かいものを食べて落ち着いたらいい。まだこれで終わりじゃないけど、栄養と睡眠は取れる時に取るといいし……そうだな、こういう時だから飛鳥を中心にまとまってくれていればいいと思う。アイツはこういう状況に向いているし」

「はい」


 こうして拓と涼も波止場を後にした。途中片山を拾い、三人はやや急ぎ足で本館を目指した。そして拓は全員と合流後、皆の様子を確認した後サクラ同様一人、西の森に向かっていった。




 紫条家本館 4階 午後14時18分


「どういう手品ですか? 今の銃撃戦」


 村田は言葉とは裏腹にまるで表情を変えずいつも通りだ。


 目の前の河野も無言だ。だが河野の方がさっきまでの大銃撃戦に驚いている。トラップとは聞いていたがあれはトラップというものではない。戦争だ。


 ……もしかして捜査官は海兵隊に要請でもしたのかしら……?


 沖縄本島まで距離はない。ヘリの音も聞こえた。推理の答えとしてはそれが一番的を得ている。


「あの様子だと、僕の<死神>もかなりヤバいかもしれませんね」

「そうね」

「………なるほど……河野さんも知らないんですね」

「何が?」

「色々と」

「……かもね……」


 さすがサタン役をやるだけあって一筋縄の人間じゃないわね……。 


 河野はここ1時間ちょっとだが村田と接していて一つだけ確信した。この男は勘も知能も高く度胸もある。異常性は感じるが、完全に狂っているわけでもない。思えば彼を出し抜けたのはサクラだけで参加者組の中で彼を出し抜いたものはいない。ここに集まった参加者たちだって知能指数は130を越えているだろう、普通の人間相手に知能戦や心理戦で完敗することはないのだ。


「一つ聞いていいかしら?」


「一つといわずいくらでも。俺は囚われの身ですから」


「ゲームって言っていたけど、このゲームにおける私たちは何なのかしら? プレーヤー? それとも……」

「生贄、哀れな犠牲者」

「……プレーヤーですらないのね」

 その時だ。村田は初めてさわやかな笑顔を浮かべた。

「少なくとも河野さん。貴方は哀れな犠牲者です。ああ、そうそう、質問はいくつでもといいましたけど……」


 その時、ドアが開いた。そして振り返るより早く銃弾が彼女の頭を撃ちぬいた。


「……結局、一つしか質問できませんでしたね」


 ドタリ……と暴れる事無く河野は地面に倒れた。


「何を話していた?」

「いや、別に。他愛もないことをだらだらと話していただけだよ」

 村田は拘束を解かれ椅子から立ち上がると軽く体を伸ばし、彼女の持っていたリボルバー……皮肉にも村田が持っていたS&W M66を取り戻すと、黙って外に出た。


「それ、返してください。貴方が持っていたら不審だと思われるでしょ?」


 村田はサイレンサー付きのオートマチックを受け取った。


 篠原から。


「フォース・ルールは我々の負けのようです。サクラ君と捜査官も今は別行動でいませんし連中の関心もこちらにはないので今のうちに」


「……ですか。あの二人は厄介ですね……」


 そう言いながら村田は倒れた河野に向かい、三発、背中に撃ちこむ。ビクッと体が反応した。


「殺すならちゃんと殺さないとダメですよ篠原さん。頭を撃ちぬいたって即死とは限らないんです。殺すなら間違いなく殺さないと」

「僕は貴方と違い殺しは専門外なので、すみませんね」

「いえいえ。ではまた」

「はい」

 村田はそういうと立ち去っていく。篠原はそれをただ黙って見ているだけだった。




 地下1F 一室 午後14時28分。


「サクラちゃん、死体見てもどうとは思わないけどさぁ……さすがに引くわぁ~ ドン引きだ。完全に異常者じゃん。サイコパスだ」


「俺も仕事柄、仕方なく人を殺すこともあるけど……気味悪いな」


「異常者じゃん。引くわぁ~」


 サクラと拓は唖然とソレを見ている。


 地下エリア1階の窓も家具もない10㎡ほどの小部屋に<死神>と狂人鬼が大量に積み上げられていた。全部で30人近くある。4名の負傷し捕虜になった<死神>が、目隠しと耳を封じられ立たされている。他に<死神>たちの銃器も積み上げられている。


「終わった。時間ギリギリだ」


 そういうとユージはJOLJUの特殊アイテム<パワー手袋>を取り外す。


「殺した<死神>全員は無理だがこれだけいればいいだろう」


「もしかして持ってかえって記念写真とか撮るンじゃないよね? そんときはサクラちゃん、籍外れて拓の被保護者になるから」


「全力で拒否する」と拓。

「なんだとコノヤロー!」

「誰の代わりに<死神>退治したと思ってるンだお前等。時間がない、とりあえず生きているヤツを選別してテープを巻け。サクラは狂人鬼、拓は<死神>だ」


 積まれている者は全員死んでいるわけではない。重体の者もいる。三人はとりあえず死体、重傷者関係なく急ぎこの部屋に集めてきた。ユージはその間に腕につけた転送機のバンドを部屋の壁に取り付け、設定を調整する。これでこの部屋にあるものは全てアメリカのフォートデトリック基地の特設室に転送される。生きている者は治療し可能なら事情聴取を行う。死体はそのまま身元判明と強毒性狂犬病の研究体になる。ちゃんと目的もあるしサクラも拓もその事は知っている。しかし、海で撃ち殺した<死神>や爆殺した未回収の<死神>もいる。ユージは一体何人くらい<死神>を殺したのか。


「さぁな。40ちょいくらいは倒したんじゃないか? ヘリの乗員数は不明だ。狂人鬼は18人だ」

「ふむ」

「おかしいな」と言ったのは拓だ。

「サクラのところで捕虜にした<死神>が4人、本館で1人、取り逃がしたのが2人だろ? 俺が倒したのは10人、降伏してきたのは3人、取り逃がしは5人前後、ユージの方でも7、8人だろ?」

「ボートに乗っていた人数は散って正確には知らんが、10人は取り逃してない」

「70人近くの<死神>がいるじゃん! ルールでは50人の<死神>じゃなかったんかい!? あの嘘吐き村田め!」

「まだ最後のファイナル・ゲームがあるからその時用の人員もいたんじゃないのか?」

「だろうな。お前たちが予想以上にこれまでに<死神>を倒しすぎたから補充しようとしたんだろう。民間軍事会社で100人前後が訓練受けて70人が行方不明。元々組織にだって<死神>を用意していたとしたら数の帳尻は合う」

「そして一網打尽となった……と。うぅむ、そう考えると世の中は無常だねぇ」としみじみとなるサクラ。「反則したのは俺たちもだけどな」と拓が呟く。


 ユージは拓に「JOLJUからだ」と新しい携帯電話を渡した。データーカードを入れ替えればそれで元に戻る。


「もう時間だ。ホラ、部屋から出ろ。俺は帰る」

「相変わらず無愛想なユージじゃ」


 サクラはこのままこの島で残れ、と言ったがユージは戻ってから捜査があるし黒幕を追わなくてはならない。ユージがこの島に上陸していると知られればゲームや生物兵器研究者は即座にこの件から手を引くだろう。


「ちょっと待った。銃くれ銃! そのHKM417とベクター!」

「これはCIAから借り物だから駄目だ、返却義務がある。ついでにお前等、その<パワー手袋>も返せよ。JOLJUアイテムなんだから」


 JOLJUのアイテムは非公開秘密道具だ。飛鳥も勝手に持ち出したがこの手袋はJOLJUがしっかり「要返却だJO」と釘を刺していた。一般人に知られるのはまずいものだ。拓は素直に返したがサクラは「フン」と言ってポケットにしまってしまった。

「おい」

「JOLJUにはサクラちゃんから言っとくから一つくらい貸しといてもいいだろ。この上から軍手でもすればバレないバレない」

「だめだ」

 そういうと強引にサクラのポケットから手袋を回収するユージ。途端にサクラは駄々を捏ね始めた。


「けちぃーっ! ユージは娘が可愛くないのかぁぁぁー! 相棒が死んでもいいのかぁぁぁー! ユージの馬鹿ぁぁぁぁ~! アホーっ!」


「なんとでも言え」


 そんな二人の騒ぎを横目に拓は回収された銃器の束を漁る。そしてHKMP5KとMP5A5、AR15、ミニウージー、M1カービン、ロングタイプのショットガンとグロック17、357リボルバーを選び、それらの弾をかき集めていく。


「こっちから持っていくのは問題ないだろ?」

「そんなに持っていって使えるのか? お前しか使わないのに」

「サクラちゃんだって使うわいっ!」

「お前は<撃てる>だけで使えるとは言わん。ああ、時間だ。早く外出ろ」

「ユージのレベルで物事計るな!! この自分勝手めっ!!」

そういうとサクラも近くにあったMP5を掴んで退室していった。部屋がほんのりと発光しはじめている。


 ユージは急いで医療バックを拓に手渡し、口早に説明した。


「緊急医療パック、増血剤、感染症用抗生物質、鎮静薬、モルヒネ、A型+の輸血パック、外傷用止血シートが入っている。内科専攻でも使えるはずだ。後、どこまで効果があるか分からないが、SAAの全ウイルス対象のハイ・ワクチンと狂犬病のワクチンがある」


「分かった」


「時間だ。無事帰ってきたら、メシを奢るよ」


「……最後にイヤな死亡フラグ立てていくな……」


 拓は苦笑すると小走りに去った。部屋はすでに全体はっきりと発光し、空間が若干歪み始めている。


 ついに転送が始まろうとした時、ユージがぼそっと言った。

「サクラ。やっぱお前、銃扱う資格はないな」

「は?」

「そのMP5、弾切れだ。しかも俺の銃弾が当たってバレルが曲がっているからゴミだぞ」


「…………」


「そのくらい気づかないようじゃあ銃は使えん」


「うがぁーーーーっ!! 引っ掛けじゃんっ!!」

 サクラは怒り心頭、MP5をユージに投げつけたがユージはひらりと避けおかえしに何かをサクラの顔に向け全力で投げた。「ぶっ!」と顔にモロに当たりそしてコケるサクラ。


 サクラが立ち上がったときには転送が終えユージや死体は一切なくなっていた。


「あんにゃろーっ!! 鬼ぃぃぃーっ!!」

 うがぁーっと喚くサクラ。

「あいかわらず仲良くていいな」と拓が突っ込む。

 だが拓はユージが投げつけたものを見て苦笑した。

「見てみろ、投げつけられたモノを」

「はぁ~? ボロ雑巾じゃ……」

 布切れを掴み上げたサクラは、怒りの言葉を飲み込んだ。それは雑巾ではなくJOLJUの<パワー手袋>だった。ユージなりの愛情表現だ。


「…………」


 サクラは一瞬頬を綻ばせたが、すぐにいつもの表情に戻り「あの乱暴さはなんとかならんのかまったく!」と乱暴に<パワー手袋>をポケットに入れると、ツカツカと外に向かって歩き出した。拓から見て表情は分からないが、サクラの表情は明るく見えた。なんだかんだいってもあの二人は親と娘なのだ。

「さて、いくか」

 サクラたち親子のやりとりを微笑ましく感じている場合ではない。あまり不在にしているのも心配だし問題はまだまだ山積みだ。拓は銃器を背負い医療バックを担ぐとサクラの後を追い歩き出した。

 


 ……戻って早々、「村田の逃走」を聞き事態が急変する…… そうなるとはまだこの時は二人とも知らない。




 19/ニュー・ゲーム 1



 紫ノ上島 本館 午後14時32分


「村田が逃げた」


 その事実はすぐに全員の知る事になった。見つけたのは三浦だ。


「……侮っていた」

 現場には拓、サクラ、第一発見者の三浦、そして検視役の田村がいる。

 拘束していた本館4階に村田の姿はなく、縛っていたロープと河野の遺体が転がっているだけだ。床には血痕と薬莢、そして足跡がうっすら残っている。

「まだ死んで時間は経ってないわ」

 田村が河野の遺体を触る。まだ体温常温、血も止まっていないし乾いていない。そして落ちている9ミリの薬莢もまだ熱を感じる。

「西の森でフルボッコしてた時間……か」

 サクラもヤレヤレと頭を掻いた。

 あの時、拓もサクラも戦闘に気をとられ拘束していた村田の事を考えていなかったし他の人間も同様だ。


 この本館ではサクラの指揮の下、ヘリから降下した<死神>たちを西の森を追い遣り、その後は東館に移動し、サクラと拓はユージの元にいって作業していた。警戒が緩まった事実はある。拓もサクラもあの状況下で<死神>たちに村田を奪還するだけの余裕があるとは思わなかった。


「で、でも銃声なんて聞いてないっスよ!?」


 本館迎撃組だった三浦がそう証言する。


 拓は落ちた9ミリの薬莢を握って言った。

「分かってるよ。サイレンサー付きの銃で河野さんは射殺されている。頭部と背中、どちらも背後からだ。村田を奪還するだけの極秘作業だ。道もある」


 そう、この本館4階のすぐ下には地下エリアに通じる秘密通路がある。サクラと飛鳥が昨夜拓たちに連絡するため使用した通路だ。地下施設2Fを除いては、地下や秘密通路は<死神>たちのほうが精通している。

「私が検視するまでもないですわね。至近距離からの射殺、致命傷は胸部への被弾」

「胸部?」

 拓は小首を傾げた。弾は三発撃ち込まれている。拓は三浦を見、「毛布を」と言った、河野の遺体を包むため用意してきたものだ。拓はすぐに彼女を仰向けにし毛布のうえに乗せた。その時、河野の手がカーディガンのポケットにかかっているのを見つけた。


 拓はカーディガンのポケットに手を入れると、ボイスレコーダーが出てきた。推理小説家の河野だ。持っていても不思議ではない。


 あいにくボイスレコーダーは稼働していない。ボタンを押している間録音できるタイプのようだ。落胆する拓に、田村がそっと近寄り「それを」と手を差し出した。


「頭部の銃弾は右斜め上から下に向かって撃ち抜かれていました。出血の量からして即死はしていない可能性がありますわ。だから背中から心臓に向けての一発が確実な致命傷よ」

「その後倒れた河野にトドメを刺した」

 サクラは血溜りの中から銃弾の欠片を見つけ掴み上げた。倒れた河野を撃ち貫通した弾は床で止まり砕けたものの欠片だ。

「つまり?」と拓。

「河野さんが瀕死状態から完全に死ぬまで、10秒くらいはあったかもしれません。河野さんの意識が撃たれた直前、朦朧と意識があった可能性があります。彼女がもし職業病的反射でボイスレコーダーを押していたとすれば……?」

「なるほど。数秒間ここでの状況が分かるわけか。試す価値はありそうですね。しかし……それよりもサクラがサイコリーディングすればいいんじゃないのか?」

 そう、サクラには透視能力がある。だがサクラは「無理無理」と手を振った。

「MP切れ。昨夜から結構ハードに休憩もなしに色々しているもん。これ以上は頭が痛くなる。ま、二時間くらいで戻るだろうケド」

 そういうとサクラは立ち上がり弾の欠片を捨てた。「どうせ<死神>がやったんだからやる意味もないし」と興無く呟いた。拓もそう思ったが一応ボイスレコーダーのデーターを確認してみた。田村の予想が当たった。今から14分前に録音されたデーターがある。

 再生してみると、河野が村田に質問してそれに答えた直後、物音とサイレンサーをつけてつけた銃特有の篭った低い銃声……そして倒れる河野……その後村田の拘束が解かれる音ともう一人の足音が聞こえる。河野がうつ伏せに倒れたから音はかなり聞こえづらい。何か村田が喋っている。そして再び銃声……そこで終わりだ。


「……ひどいわね……」


 田村は思わず顔を背けた。リアルすぎてそのおぞましい現場が目に浮かぶ。人の死因を探るのが本来彼女の仕事で、人の死には慣れているが、まさか殺される現場をこうしてリアルに聞こうとは思ってもいない。そしてそれは自分が予想していたより嫌悪感を抱く。


 一方、拓とサクラは違った。現場には慣れている。二度、三度と再生し聞いている。


「誰と話している?」


 サクラが呟いた。

「俺の耳じゃ男の声としかわからんな」

「どういうことです? 捜査官」

「村田はどうも助けに来た人間と喋っているみたいです。相手も返答しているみたいだ」

 ただ、雑音と河野の体の下であまりに音が小さく何を言っているかは聞き取れない。

 サクラも首を横に振った。いくらサクラの聴力が常人より優れているといっても機械の音の聞こえ方は同じだ。


「嫌な事実だな」


 拓はボイスレコーダーをポケットに入れ言った。

 拓の言葉の続きをサクラが言った。

「奪還していったヤツが喋っていたってコトは<死神>じゃないってコト。てことは、アイツの手先がまだあたしたちの中にいるって事」

「なんだって!!?」

 声を上げたのは三浦だ。田村は絶句している。

「犯人は男性陣の誰か。この本館担当が男性陣だった。飛鳥が東館に女性陣を呼びに行くまでのわずかな間に犯行を実行している」

「片山さん、三浦さん、篠原君、岩崎さん、捕虜にした速見……だけど片山さんは涼ちゃんと一緒だったから確認すれば片山さんは外れる。三浦さんも違うだろう、通報者だ。最も、<死神>の中でも<大死神>とやらがいるからそいつらは仮面を自分の意志で外せるのかもしれないけど。さらに深読みすればこのボイスレコーダーを利用した混乱劇を村田は演出してひっかけている可能性はあるけど」

「私たちは、疑いなし?」

「可能性がゼロとは言いません。ただ東館からここまで地下通路を使って的確にここにたどり着き、ここのいる男性陣に気づかれることなく上に上がり村田を解放してまた元に戻る……誰にも気づかれずそれをするのは無理でしょう。だからこの場合女性陣は問題ないです。それに検視で頭部は右斜め上からやや下に向けてと言いましたよね? つまり犯人は河野さんより背が高かったはず。今いる男性陣は皆河野さんより背が高い」

「<死神>のトリックだといいんだけどね」

 やれやれとサクラは呟き……ふとある事を思い出し顔を上げた。


「そういえば<こんぴら>の二人、どうなってるか確かめた? 拓ちん」

「いや、まだだけど」

 半狂人鬼化していた<こんぴら>の二人はしばらく森の中に縛っていたが他の狂人鬼たちと違い狂人鬼化することなく理性はないが完全に人間性を失わなかった。なので気絶させ、狂人鬼とは別に納屋に拘束していた。


「じゃあサクラにそっちの確認を頼む。田村さん、貴方は他の皆に河野さんの死を。今は<死神>に殺された、と」

「拓ちんはどこにいくんじゃい」

「捕虜の尋問」

 そう、少しだが今回捕虜となった<死神>がいる。本当の<死神>捕虜はユージが連れて行ったが、そうでない者もいる。組織に潜入して<死神>役をするハメになったCIAの関係者だ。拓でなければ対応できない。


「……まかせた……。田村さん、あたしの方は多分10分後には合流すると思う」

「一人でちょこまか行動するなよ、ちゃんと帰ってこいよ」

「へいへい」

 そういうとサクラは手を振り立ち去っていった。


 だが、サクラはすぐに皆と合流する。何故ならば、<こんぴら>たちも何者かに連れ去られていたからだ。


 事件はまだ終わっていない。




 紫ノ上島のどこか 午後15時00分


 ……ぼんやりする……。


 頭痛もする……吐き気もする……体中じんじん痛い……。


 記憶がなくなったのは…………確かまで夜だったはずだ。あのときよりは体調は少しマシだ。少なくとも、アイツらのようにはなっていない。

 

 ……ケガはちゃんと手当てされている……他にケガはない。


 熱っぽい体を起こすと、上半身裸だった。


 ……服はどうしたんだ……?


 その時になり、ようやく周りの風景に見覚えの無い事に気付いた。


 明るい。室内……だが窓は一つもなく壁はコンクリート剥き出しで埃っぽい。ここは物置か廃墟か……ガレキに鉄パイプ、鉄片、や錆びたチェーン、ノコギリ、ハンマー……。


 この島にこんな所があったか? かなり広い部屋だ。……思考がまとまらない……。


 だがすぐに他の異変にも気付いた。部屋で数人、倒れている。いや、恐らく寝ているのだろう、体を時々よじらせるヤツもいる。


 ……くそ……アイツらじゃないか……。


 だが、隠れる場所も何もない。

 その時だ。見覚えのある顔を見つけ思わず目を凝らした。


「平山……と……近藤……さん……か?」


 部屋の奥で倒れている二人の男……それは間違いなく<こんぴら>の二人だ。


 ……どうなってるんだ……。


 大森はどうしたらいいか分からず天井を見つけた。

 そこに数台のカメラが目に入った。だが今はとにかくだるい。

 大森は傷ついた腕を抱えながらその場に座り込むと再び目を閉じた。





 紫ノ上島 東館 午後15時10分


 拓を除く全員が集まった直後の事だ。

 これまでずっと沈黙していたテレビモニターにサタンが映し出された。


『皆さん、無事フォース・ルールを生き残られたこと……まずはおめでとうを言わせていただきましょう』


「村田ぁっ!!」


 片山がテレビカメラに向かい飛び掛ろうとするのを周りが押さえる。

 そして誰に言われるでなくサクラが皆を代表してテレビモニターの前に進み出た。


「随分早い登場だねぇ~ 村田。服も随分身軽になっちゃって」

 そう、サタンはこれまでと違いグレーのワイシャツに黒いスラックスというオシャレな格好だ。これまでのように仮面はつけているが服装は黒マント姿ではない。

「ついでにその鬱陶しい仮面も外せば?」


『それでは興がないでしょう、サクラ君』


「村田ぁ~ もう正体バレたんだから自分の口で話せバカ。じゃないとここで話は終わり、このモニターぶっ壊す」

『……そんなに僕に会いたいということですか、サクラ君』

 くっくっくっ……サタン、いや村田は背中を振るわせ笑うと、仮面を外した。紛れもない、村田本人だ。村田は髪をかきあげながらも絶えず余裕の笑みを浮かべている。


 すでに河野殺害の件は全員が知っている。全員の目に憎しみが灯り睨みつける。


 一人サクラだけが冷静だ。


「こんなに早く連絡してくれるとは、なんかこの後あるのカイ? ああ、そういえばゲームは第五ゲームまであるんだっけ? もう始まる?」


『随分好戦的だね、お嬢ちゃん。そんなにフォース・ルールで<死神>を殺したことが嬉しいのかな? それとも今なら勝ち目があるからなのかな?』

「どう思う?」

『お嬢ちゃんだけは読めないね、他の無能な大人たちと違って僕でも何を考えているかさっぱり分からない。すごいよねぇ。……すごいといえば捜査官も見えないけど彼はどこ行ったのかな?』

「トイレじゃないの? もしくは風呂かな? 結構動いたから汗かいてるだろうし」


 むろん嘘である。拓は今、CIAの息のかかった捕虜たちと会っている。拓は巧妙に西の森からカメラの死角を通っていったから把握されていないはずだ。


 ただ、一つだけ確定した。この映像はリアルタイムで録画ではない。本館脱走発覚から考えて屋敷内の地下のどこかに彼らの本部があるのは間違いなさそうだ。不思議といえば不思議、滑稽でありさらに恐怖といえば恐怖だろう。この小さい島で殺し合いをしている者たちがそれぞれ同じ屋敷のどこかにいるのだ。


『いいでしょう。まずフォースゲームの結果ですが貴方たちの勝ちです。随分<死神>を殺してくれたものですよ、感服です。おめでとう、人殺しになった気分は……と聞きたいところですが……』


「ちっとも心痛まんね」


『そうでしょうね、貴方たちはほとんど殺していない。一体どこのダレが僕の<死神>を殺して回ったンですかね?』


 恐らくサタンが一番聞きたかったのはこのことだろう。生き残った<死神>たちから謎の男がいて、彼がほとんど壊滅させた事は聞いただろう。ユージはその後すぐに消えたが村田や<死神>たちが知るはずがない。

 村田たちは今、サクラよりもあの謎の男のほうが気になっているに違いない。あの男が島にいる以上彼らも下手に動きが取れない。


『どうなんだろう? サクラ君』

「さぁねぇ~? ああ、正義の<死神>が混じってたンじゃないの? サクラちゃんたちの日頃の行いの役得ってヤツ?」

『答える気はない……まぁそうでしょう。いいでしょう、今は答えずともじきに答えるようになるでしょう。今回は我々の戦いはまだまだ続くという宣言ということで。では、また近いうちに』


 そういうと村田はカメラに向かって笑顔で手を振ると画面の電源が落ちた。


 サクラたちはしばらく画面を見つめていたが、どうやらサタンの放送は完全に終わった、と理解しそれぞれ顔を見合った。


 サクラも「ふぅ~」とため息をつき、さっさとどこかに行こうとしたのを宮村が慌ててサクラの襟を掴んだ。


「ぎゃっ!? ……何すんだ!? ミヤムーっ!」

「説明してよサクラちゃん! 一体何したの!?」

「言ったジャン! 良い<死神>がいて助けてくれたンだって……」

 そう答えたサクラだが、当然周りの目は冷たい。サタンに対してはともかくあの凄まじい戦闘の説明にならない。彼らだって命がけだ。事の真相を知りたいのはここにいる全員も同じだ。サクラは助けを求めるように飛鳥を見たが、飛鳥も気まずそうにプイッと顔を背け逃げた。助け舟を出す気はさらさらないようだ。もっとも飛鳥にだって巧い逃げ口実などないしこの件の主導者は拓とサクラの二人であって飛鳥は部外者だ。


 仕方なくサクラは足を止め皆の前に立った。


「じゃあ説明するけど……」


 と言いサクラは隣室を指差した。


「全員別室に移動」

「どうして?」と涼。サクラはちょっと考えて真後ろにあるテレビモニターを指差した。

「このテレビがあるところでは話したくない。これは考えすぎかもしれないけど、このテレビって相対性……盗聴器とか仕掛けてある可能性もゼロじゃない。この件は絶対奴らに聞かせるワケにはいかないの」

「なるほど」

 涼たちも頷く。大人たちも別室にいけば事情が聞けるのであれば別に構わない。

 全員、だらだらと隣に移動した。念のため片山と斉藤、飛鳥の三人で盗聴器を探してみたがないようだ。この部屋にはカメラもない。

 サクラも集中して聴力を高めたが変な雑音は聞こえない。

 それを確認して、サクラは覚悟を決め話し出した。


「多分、皆の想像と期待裏切って悪いけど……救援じゃないわよ」


「!?」


「日本政府の救援でも米軍の特殊部隊でもない、呼んだのはたった一人」

「……一人……?」

 皆それぞれ顔を見合う。あの戦闘音はとても一人のものとは思えない。SMGから凄まじい大口径ライフル、果てはグレネードランチャーまであった。単純に考えて特殊部隊一個小隊が上陸したと思うのが普通だ。だがサクラは「一人」と言い切った。嘘をついているようには見えない。


「結論から言うと、まだ政府も米軍も何も動いてないわ。この事件は依然アンダーグラウンドよ」

「じゃあ、一人って?」

「皆忘れた? あたしと拓がなんとか連絡が取れたのはたった一度だけ、NYに一回。そして救援に来たのもたった一人だけ」

「ユージさんや~」と飛鳥が言う。サクラが「イイトコもっていくなぁ!」と喚く。

「ユージさん?」

「サクラの父親やで、すずっち♪」


 一同ざわめく。そういえばサクラは一度自宅にかけたと言っていた。なるほど、他に連絡相手はいない。


 ふと宮村は昨夜のサクラは「サクラちゃんの親はFBIで拓の下っ端と違ってコネもあって~」と言っていたのを思い出した。つまり日系の現役FBI捜査官ということだ。戦闘力はある。

「でもNYにいたんでしょ?」と宮村は質問を続けた。サクラはそれに対し首を振る。


「実は拓ちんとコンビ組んでいる関係で来日してたの。暗号留守電を聞いてユージが動き出したってワケ。後は拓ちんとあたしで数回打ち合わせをしてユージは一人この島に来たの。そして西の森で潜んでもらった。今しばらくは島で暗躍している。でも戦闘力はご覧の結果の通りズバ抜けてるよユージは。多分サクラちゃんが知ってる限り世界で一番強い」


 まぁそれは娘の言うことだから世界一は違うだろうが、拓も相棒の強さは認めていたし相当強いことは間違いないのだろう。


 そういうとサクラはどこから取り出したのか、緊急医療パックを背中から取り出し田村に渡した。


「これがユージのもう一つの置き土産。基本医療道具に各種医薬品、抗生物質、米軍特製の狂犬病薬が入ってるって。田村さんなら使い方分かるでしょ? 多分これだけあれば三上さんの怪我はなんとかなると思うけど」

「あ……ありがとう。確認しておくわ」

 まだ田村も他の人間同様完全に事情が飲み込めないが、とりあえずそれを受け取った。

「サクラ君。君のお父さん……ユージ氏は政府やFBIに話は通しているのか?」

 そう尋ねたのは片山だ。サクラは少し考えたから「多分簡単には言ってると思うけど、ちゃんとした報告は戻ってからになるんじゃないかな? フォースルールはとにかく時間がなかったからとにかくなんとかしなきゃっていうことで飛んで来て貰ったし」と答えた。

「でもそれならもっと人員を連れて来てくれても……」と三浦。


「いや。あたしは聞いたことがありますヨ。ユージ……ユージ=クロベ捜査官ですか? サクラ君のお父さんは?」


「まぁね」


「なるほど」と岩崎は頷く。


「死神が<死神>退治ということか」


「サクラちゃんのお父さんのユージさんって有名人なんですか?」と涼。岩崎は頷く。


 岩崎は日本警察関係の専門だが裏社会についても詳しい。<別名死神(des)と呼ばれる伝説のFBI捜査官>の噂も聞いたことがある。多くのマファアやギャング組織を一人で壊滅させてきた男で今や歯向かう者はいないという、アメリカ政府公認の裏世界キラー。それがよりにもよってサクラの義父というのはなんともいいようのない偶然だが、拓の相棒ということならば納得できる話だ。二人とも恐らく唯一の日系移民のFBI捜査官だ。


 それに一人だけというのならば衛星や監視船に見つからずこっそり上陸することもできるだろう。


「村田はユージをしばらくは警戒しているはず、とりあえず本館は河野さんの件があるからこっちの東館にバリケード作るほうが賢明だね。皆でこの部屋を中心に色々調べてバリケードを作ってセーフルームを作る。そして村田が次に何かやってくる前までは休憩ね」


 それだけいうとサクラは飛鳥と涼を呼んだ。


「なんや? 今度は何をやらせるんや?」

「わ、私でもできることですか?」

「これは信用できる相手じゃないと。しかも女の子同士じゃないといかんのじゃ」

 飛鳥と涼の二人は顔を見合う。今度は何を言い出すのか……息を飲む二人。

 そして思ったとおりサクラの提案は場違いな、サクラらしい提案だった。


「サクラちゃん、シャワー浴びたい。見張り宜しく♪ あたしが上がったら今度はサクラちゃんが見張りしておくから」


「……………」


 唖然とする二人。だがさすがに飛鳥は順応が早く「そやなぁ……結構動いたし、バリケード作る逃げ口実にはなるな」と頷くと「すずっちも動き回ったから少しさっぱりしたいんとちゃう? 時間がもったいないし危険やからウチと一緒に入る?」と言った。


 ……この非常時にお風呂……。


 確かに涼も汗や誇りは気になっているが、この緊迫した状況下でそれが実行できるのはすごい度胸と精神力だ。この二人の神経はどうなっているのだろう?


幸い二人が一緒なら……と、涼も同意した。


 今陣取っている東館二階のリビングの近くにあるバスルームはユニットバスではなくちゃんとした大浴槽で一度お湯を張れば順番で入れるだろう。サクラは「その後皆にも入ってもらおうかな」と呟く。


「それなら三人一緒のほうが危なくないし時間も短縮できるんじゃ?」

 と至極当たり前な提案をする涼だったが飛鳥が「あかんあかん」と手を振る。

「サクラは猫やねん。こいつ、誰かと一緒に風呂はいるンメッチャキライやねん。ハダカの付き合いができんヘンな日本人なんや」


 実は飛鳥もサクラの裸は見たことがない。温泉に行った事はあるがサクラは必ず水着持参だ。

「は……恥ずかしがりなんだね、サクラちゃんは……」

「米国人じゃあたしは!! 米国人に混浴の風習はないわいっ!!」

「エダさんとは入るやん」

「…………」

 サクラはもう何も答えず、「んじゃ用意してくるから二人も着替えの用意しときなはれ~」とさっさと部屋を出て行った。飛鳥と涼はそれを見送ってから、「サクラはああいうヤツや。あんま深く考えるだけ損やでぇ」と暢気に言うと、「ウチも着替え取ってくるか。確かバッグにつめてたと思うし」と歩き出した。しかし涼はそう言われてもどうすることもできなかった。なにせ二人と違って着替えなどもってきていない。全員がそうだろう。それでも入浴して汚れと気分転換ができればいい……そう考え直し、タオルを探しにいった。タオルくらいは屋敷に残されているかもしれない。

 



  2




 米国・フォートデトリック基地 午前2時40分


 完全防菌の軍人たちが死体と生存者、狂人鬼と<死神>を見分け黙々と収容していった。


 生存者は狂人鬼の方が多く、9人は重傷ながらも命に別状なかった。<死神>に関しては今のところ生きているのは7人だけで、全員重傷で治療中だ。死体は20体ちかく。


 そんな中、二人だけは防菌服を着ず軽装だった。ユージとアレックスだ。


「もう少し殺さず連れて来られなかったのか? これじゃあ事情聴取も無理だ」


 ヤレヤレ……と頭を叩くアレックス。


「無茶をいうな。俺一人だぞ? そんな上手に殺さず半殺しなんて余裕あるか」

 ユージもユージで面白くなさそうに答える。その言葉を聞き、アレックスはため息をつくだけでそれ以上は文句も愚痴もなかった。


 実は内心呆れ返っていた、ユージの強さにだ。


 僅か30分ほどの時間、圧倒的な数を前に防弾着もなく無傷で、これだけを回収し疲れ一つ見えない体力……アレックスも戦闘力には自信はあるがこの半分もいかないだろう。


 丁度40分前、<死神>、狂人鬼が転送で着き、アレックスとベネットが行動を始めた時、ユージもJOLJUと共に戻ってきた。すでに述べたがJOLJUのテレポートはユージ(とサクラ)だけは基本日数回数関係なく使える。ユージが着替えているうちにJOLJUが<死神>たちの仮面を見て、その場で鍵を作り仮面を外し、狂人鬼には手早く鎮静させていった。


 そして検分するためユージとアレックスだけがこの部屋に入った。この二人は強い抗ウイルス体質で防護服の必要がない。


「SAAのウイルス分析部門を手配しているが、分析結果の詳細が分かるまで半日はかかるだろう。治療薬となるともっとかかる」

「そうだろうな」

「武器から割り出すのも時間がかかる。やはり手掛りは……」そういいアレックスは<死神>の死体のほうを見つめた。

「CIAの線から行くのが確実か」

 <死神>の中に二人、白人が混じっていた。ベネットが確認したところCIAの特殊潜入諜報員であることが判明した。ベネットのほうは別室で極東活動中の潜入諜報員と連絡を取っているところだ。


 ユージとアレックスは特別隔離室を出た。


 ユージはこの後また東京に戻り、黒神グループ関係を調査する予定だ。黒神の蝮が今頃自社の幹部会議を行い<社内のスケープゴート>を決め、その裏付けや証拠を集めている頃だろう。午前中の対面は暗にこの手続きを取らせるためのもので双方この真意を理解の上。これはマフィアや政治家相手に使う手で裏社会ではよくある手法だ。世の中白と黒で裁断するのは二流の人間のすることなのだ。

ウイルスが確認されたのでSAAへの捜査権発動が可能となったからだ。SAAは大統領直轄で報告義務は大統領しかなく緊急時は四軍及び各連邦機関を指揮下に置くことも出来る。これで米国捜査組織からの情報漏えいの心配は減った。そう考えると確かにグルーレスCIA長官はどこでこの件を知ったのか……。


 二人は口を閉じ考えた。少なからず米軍も絡んだ一件だが政府筋は無関係だった。その状況が変わりつつあるのだろうか……?


「あ、見つけたJO~♪」


 その時、廊下の向こうからノートパソコンを器用に頭に乗せJOLJUが駆けてきた。

「何だ?」

「変化見つけたJO」

 そういうとJOLJUはノートパソコンの画面を見せた。そこには紫ノ上島で行われている殺戮ゲームをオンライン賭けゲーム『サバイバル・ビレッジ』の画面が開かれていた。

「何がどうした?」

「ここ!」JOLJUはメニュー欄の一番下を指差した。そこには『殺戮の部屋』とある。

「一時間前までなかった。ついさっきできたばっかだJO」

「そこでは何をやる?」

「賭けだJO」

「このゲーム自体賭けゲームじゃないか」

「それだけじゃなくて……このゲームはちょっと違うんだJO」

 そういうとJOLJUはクリックしページを開く。そこは廃墟となった長方形の部屋で、ゾンビが5人、ぐったりと座り込んでいる。そしてメニューバーの中に、各ゾンビの番号、オッズなどが出ていた。


 ユージとアレックスは、それだけでこの新しいゲームの仕組みを理解した。


「つまり、狂人鬼たちを共食いさせてそれを賭けにする……そういうことか」


 大きなゲームは、後はファイナル・ゲームしか残っていない。このゲームはそれまでのつなぎゲームなのだろう。そして特別会員はリアルに狂人鬼同士の殺し合いが見られる、というものになっている。

「狂人鬼同士は殺しあうのか?」

「空腹限界が来れば襲うかもだJO。でも……これみるかぎり心配ないJO」

 そういうとJOLJUは画面を拡大して見せた。比較的オッズが高い三人のゾンビをクローズアップする。そしてパスワードを打ち込み会員用ページに切り替えた。そこに映されたのは大森と<こんぴら>の三人だった。


「この三人、まだ狂人鬼化してないJO」


「何!?」

 だとすれば……残りの狂人鬼二人が活動し始めれば、この部屋は凄まじい殺戮の場と化すだろう。もちろんこれの目的は会員たちのサービスだろうが、このゲームが続くのであれば拓たちにも危険が増えると言うことではないか? 本当に3人はまだ狂人鬼化していないのならば、もしこの映像を拓たちが見れば、当然救出しにいくのではないか?


「うまいこと考えたものだ。常に参加者を戦闘におもむかせる」

 アレックスは感心し頷く。

「少しこっちに帰るのが早かったか」

 ユージはヤレヤレと呟いた。

「とりあえず動こう。時間がない」

 そういうと、ユージは「ぼちぼち寝-たーいぃぃぃぃJOOOOO」と喚くJOLJUを引張りその場から去っていった。





 紫ノ上島 島・北の地下


 午後14時45分。


 波止場近くの秘密地下施設の一室で、拓と三人の<死神>と一緒にいた。

 拓は電話をしていた。相手はJOLJUで、仮面の外し方を聞いていた。JOLJU曰く電子ロックさえなんとかすれば後は簡単な仕組みだという。拓は針金を用意し言われたとおり鍵を作り、携帯を使ってJOLJUが送ってきた電子コードで三人の仮面を外した。


「……すっきりした」


 三人のうち二人は白人、一人はアジア人だが雰囲気的に純日本人ではなさそうだ。言葉は英語だ。

 拓は一応45オートを突きつけている。仮面を外した後、念のため全員手を挙げさせている。拓はまず自分から名乗り、男たちも順に名乗った。

 やはりCIAの極東潜入局員だった。リック、マーカス、ワンの三人だ。一応電話でCIA本部のデーターと照合したから間違いない。

 そしてCIA本部の方針が変わり全ての任務中断した拓に協力するよう新しい通達が出ているという事を言った。


 突然の事で三人は未だ困惑している。拓も拓でまだ重要な話は切り出さない。どこまで信用できるか現段階では未知数だ。

 溜まりかね、三人の中でリーダー格のリックが拓を睨む。


「我々は君に協力する。だが事情の説明を求める」


 そういうとさらに睨みつけ畳み掛ける。彼らも冷静とはいえない状態だった。


「数年にいたる我々の潜入捜査を全て無にするだけの事情をぜひ聞かしてほしい」

「説明はする。だけど時間がないから簡潔に言う」


 そういうと拓はこの島の秘密、そして事件、米国本土の動きについて語った。最後に本件が大統領命令によって最優先事項である事を告げた。これには彼等も従わざるを得ない。


 拓はアメリカ本土のアレックスに電話をした。都合よくベネットもいた。拓は電話をスピーカー・フォンにする。


「君たちは極東担当<スズメバチ>だろ? どうしてこの島に送り込まれた?」

『彼等は極東における偽装犯罪組織ですよ、ナカムラ捜査官』

とベネットが説明した。

「主に日本と中国で活動している。裏世界の傭兵組織としてな」とマーカス。

 傭兵……といっても極東ではそういう組織は大きな組織の実働部隊として依頼を受ける。そういう流れで彼等は情報を得ていく潜入捜査官だ。


 ……こんな馬鹿げた民間人殺しやFBI捜査官襲撃もするのか?


 ……とは拓もアレックスも聞かない。CIAの潜入捜査官は優先事項次第では殺人も厭わない。逆に殺されてしまう事も、潜入を続けられるのであれば厭わない。そういう組織だ。


『で、お前たちのターゲットは?』


 アレックスが尋ねる。マーカスは口を閉じたがベネットが「話していい」と言ったので不快そうに答えた。


「マカオのクアン・マフィア……」

 拓もそのマフィアは知っている。表向きはマカオのカジノ運営会社だが東南アジアの裏世界で大きく勢力を伸ばしている闇会社だ。だが彼等の本当の狙いはこれではなかった。


「……と、黒幕と言われる中国の南内陸軍区政府軍だ」


「中国の地方軍か。ますます嫌な図式だな」


 ここが最後の黒幕だろう。中国の地方軍、その参加の巨大マフィアがスポンサーとなり、実働として黒神グループが取り仕切り行われたのだろう。


 これまで薄い線で繫がっていた各組織だったが、このラインだけは直結ラインだ。


『つまり……ナカムラ捜査官、君が参加しているゲームは悪魔のウイルスの競売であり、同時に中国の地方軍による実験場って事か』


「そのようだ」


 やれやれとばかりに拓はため息をついた。大まかな事件像は見えたが、自分が当初考えていたよりはるかに恐ろしく大きな国際事件だ。もしここにユージやサクラがいれば「よかった、晴れて米軍が動ける」とあっけらかんと言うだろう。


 だが実際は、米軍は動けない。


 最大の問題点は当初からある<場所が日本国内で被害者はほとんど日本人>ということだ。この紫ノ上島は沖縄本島からさほど遠くない。米軍や自衛隊が動けば企画運営者たちはすぐに気付き、証拠隠滅のためこの島の人間は皆殺しにされ末端は斬り捨てられ黒幕たちは逃げるだろう。結局この島ではギリギリまでゲームを続ける以外拓には手はない。


 ベネットは改めて三人に拓の指揮に従うようにと命令した。


『この情報はクロベ捜査官にも伝えるが、ここまでくるとただ一つ、絶対にウイルスとワクチンを手に入れることだ。クロベ捜査官はそのため動くが、間違いなくその島に持ち込まれているはず、それを手に入れなければ本国はどうにもできない』


 アレックスがそう締めくくる。電話会議はそれで終わった。ようやく事件の本質が分かったリックたち三人も真剣な顔になっている。

「で、俺たちは何をしたらいい?」

「一つやってもらいたいことがある」

 そういうと拓は黒いフード付きマントと仮面を取り出した。仮面は悪魔の仮面だが<死神>のものと違い薄いプラスチック製のものだ。そして拓は置いてあるフルロード・タイプのショットガンを渡した。

「どういうことだ?」

「実はさっきの戦闘でお前たち以外の<死神>を40人近く始末した。俺がじゃない、実はウチの相棒が一時上陸して始末した。だがもうあいつはいない」

「なるほど、俺はその代わりか」

「一番背格好が近いからな。ユージは一人で40人近く倒した。運営側は今ユージの影に怯えている。西の森から紫条家の西館周辺を彷徨っていてくれればそれだけで相手には牽制になるし、もし襲ってきたらアンタが退治してくれれば俺たちはラクになる。ただし、一時間毎に、ここに戻ってくれ。間を取りたいしこっちで新しい命令を伝えたい時はメモを残しておく」

「了解した」


「俺たちはどうなります」


 マーカスとワンが腕組みしている。

「今は休んでくれ。必要なら、またここに来る」

 そういいながら拓は時計を見た。もうじき16時になろうとしている。




 紫条家 東館2階 午後16時00分


「なんだか不思議ですね……こんなに静かになっちゃうなんて」

 涼はクラッカーを口に運びながら呟く。

 ガチャリ……AR15を担いだサクラがその呟きに気づき歩いてきた。


「狂人鬼の本番は夜だしねぇ~ <死神>たちはあんだけフルボッコにしたから早々は動けないだろうし」


 サクラも涼の隣に座ると涼のクラッカーを摘まんで齧った。

 部屋は静かだ。


 そう、今サクラと涼の二人以外全員が眠っている。


 これは拓の発案だ。拓は大胆にも「今の機会に全員休息を取ります。もちろん俺も」と命じた。


 これまで飛鳥を除いたほとんど全員がゲーム開始からまともに眠っていない。拓にいたっては完全不眠不休だ。拓は海兵隊のサバイバル訓練等受けているので4日間寝ないでも動けるがさすがに行動力や判断力の低下は避けられない。他の皆も同様だ。今ならば<死神>たちが攻勢に出る可能性が低く狂人鬼たちが活発になる夜の前のこの時間が、休む事ができる数少なく絶好の機会だ。拓は思い切って全員休息を判断した。その方法も巧緻だ。


 全員……というが、唯一の例外はある。サクラだ。


 サクラはずっと起きている。何かあれば誰を起こすかはサクラの判断で。サタンの放送くらいであれば画面は録画し河野や片山だけを起こす。狂人鬼がやってくるようなら三浦や篠原を起こす。何か島で想定外なことが起きた時は飛鳥と宮村を起こす……。 


 基本はそれで、できるだけリーダーの拓は休ませるのが作戦だ


 16時から16時半までのパートナーは涼だった。


「ホント、見事に皆すぐに寝ちゃって……すごいねぇ」とサクラ。

「職業柄ってことじゃない? 芸能人やADの人たちって忙しいもん。眠れる時に少しでも寝ることがこの業界で生きてくコツだってプロデューサーから習ったよ」

「拓ちんや片山、田村さんも同じクチだな。職業は違うけどいつでも仮眠できないといけないし。ところでスズっちは眠くないのカイ?」

「……今は少し眠いけど、大丈夫だと思う。私、ちょくちょく居眠りしてたから。それにサクラちゃんが持ってきた薬のおかげもあるし」


 サクラが持ってきた薬というのはユージが持ってきた医療パックに入っていた軍用覚醒薬で肉体疲労にエネルギー、カフェイン、強壮薬などが入りアドレナリンを持続させ覚醒効果があり、48時間くらいは眠らなくても動けるものだ。ちなみにまだ誰も飲んでいない。時間がきて起きた人間からそれを飲む。


「本当はスズっちも寝ちゃっていいんだけどね~」

 当然それが一番なのだが、それは拓が許さなかった。サクラが暴走しないよう見張り役として誰か一人つけることにしたのだ。サクラとしては面白くない事この上ないがこれまでがこれまでだけに信用がない。ちなみに涼の次は負傷しほとんど休んでいる三上だ。


「でも」と不安げに涼は顔を顰める。


「あたしたちだけだと分かったら<死神>が襲ってきたりしないかな?」

「大丈夫でしょう」と暢気にクラッカーとコーラでおやつをとるサクラ。

「コレが映ってるからノゥ」とサクラはアゴで目の前のテーブルの上を差す。


 テーブルの上には、多数の戦利品……銃火器が並べられている。自動小銃4丁、SMG6丁、ショットガン2丁、拳銃11丁……


 拓とサクラたちが先の戦いで手に入れた銃火器の戦利品だ。この他に拓とサクラがそれぞれ自分の愛用を身につけていたり一部は隠しているので全てではないがこれだけの武器はほとんど<死神>たちと変わらない。運営側はサクラを拓と同じく特記戦力と把握している。そのサクラが大量の銃を自由に使える状態で起きている以上安易な攻撃はしかけてこないはずだ。もはや立場は互角、だが武器は有限だ。<死神>が倒されればまた銃火器が増えることになる。


 サクラの相方が涼から三上に代わり、その後斉藤に代わった時だ。


 これまで沈黙していたテレビモニターに突然映像が流れた。


 テレビがある部屋と皆が睡眠をとっている部屋は違う。部屋を歩き回っていたサクラが気付いた事が幸運だっただろう。サクラは騒ぐ事無く無言でテレビに近寄り映像を眺めた。


 サタンの放送ではない。どこかの地下室を無人カメラが俯瞰から撮っているようで、画面は四つに分割されている。全体像が見えるもの、そして小さいワイプ窓にそれぞれ人影が見える。

その画面に見て死んだと思っていた大森や<こんぴら>がいる事にサクラは驚いた。しかも同じ部屋に狂人鬼もいる。


 サクラは声を拾われないよう息を呑みつつ携帯電話で画面の録画を始めた。


 その頃にはサクラも冷静を取り戻している。


 ……これがサタンの言ってたミニ・ゲームってヤツか……。


 狂人鬼たちと戦うミニ・ゲーム。サクラたちが賭けることになるのは仲間たち、という事になる。ゲームというからにはこの場所がどこか提示してくるはずだがその様子はない。考える事は二つ、今はこの映像を見せインパクトを与え自分たちに混乱を与えるのが目的である事が一つ、後一つは純粋にサタンたちもまだミニ・ゲームを始めるほど体制が整っていないという事だ。


 ……見つけたのがあたしだったのはアンタたちの計算違いだ、バァーカ……♪


 もし……拓含め他の人間がこれを最初に見ていたらサタンたちの思惑通り大騒ぎになっていただろう。


 サクラは画面を一瞥するとテレビモニターが設置された食堂を出て静かに食堂のドアを閉めた。


 あの映像だけでは何も動きがとれない。騒いでも仕方ない。なら無視するのが一番、今は時間稼ぎのほうが優先……。


 だが、島の状況はこれでさらに悪化したことは間違いなかった。






サバイバル・デスゲームにおいて丁度中間であり、最大のイベントであるフォース・ルール編の「黒い天使長編『死神島』」の第七話でした。ある意味反則技で対応したサクラと拓たちですが、サタンこと村田は逃走……ということで、再び村田との頭脳ゲームが再開することになりました。ストーリー的には、これからのファイナルゲームまでの一日が、シリーズでももっとも濃密な一日間となっていきます。ゲーム運営にも捜査が伸びる中、敵組織も次々と島、本土の両方で色々手を打ってきますし、サクラや拓も狡猾なサタン村田を相手にさまざまな手を繰り出していくでしょう。ということで、これからの24時間が、本当にハードな陰謀劇が繰り広げられ、ストーリーは二転三転し、目まぐるしい攻防が繰り広げられ思わぬ展開が起きるでしょう。まだ敵組織の姿はみえず、村田の正体も分かっていません。今ようやく半分くらいまできたところ、長いシリーズですが最後まで楽しんでもらえたらと思います。今後とも「黒い頓死長編『死神島』」を宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 拓ちんの左右でそれぞれの迎撃や サクラちゃんのヘリ撃墜のすごさがかすんでしまう程 ユージのチート以上のすごさが圧倒的すぎでしたね 油断していたら村田の脱走とまだ仲間内に敵側の 人間がいると…
2022/10/02 09:45 クレマチス
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ