第三話 誕生日のプレゼント
俺は、その日を待ち望んでいた。待ち望んでいたが故に、今の時刻は深夜の十一時五十分。そういえばだが、この世界の時間は勿論 (?)現実世界と同じ一日二十四時間の約三百六十五日だった。
太陽や地球……ここの場合は球なのかすらも不明だが……の周期も違うであろうに同じだというのは些か変ではあるが、困りはしない。
『神様、そろそろだな』
『と言ってもなー。MPが多少上がったとしても初級の派系魔法ぐらいしか使えないと思うんだけど』
至極つまらなそうに、水を差す。そもそもこの人生を始めたのは神様だというのにこの温度は一体……。
そんなことを考えているうちに、時刻が0時を指した。
『それじゃあ、待望のステータスをオープン!!』
因みにだが、比較として一秒前のステータスがこちらだ。
ストーリア・グローリー
Lv.3
HP 1250
MP 120
筋力 98
敏捷度 124
器用度 152
魔力 64
魔力耐性 21
そしてこれが、四歳の能力値だ。
ストーリア・グローリー
Lv.4
HP 1480
MP 14950
筋力 121
敏捷度 146
器用度 192
魔力 15463
魔力耐性 24
何だこれ。
『おい、神様。俺のステータス見てみ』
『えー? どうせ、つまらない結果…………は?』
結論から言うと、最大魔力値であるMPと最大魔力出力値である魔力の数値が一万を超えていた。
『こ、これは流石におかしいだろ。神様、つまらないからってチート混ぜた?』
『いやいやいや、ボクがそんなつまらないことすると思う!?』
この結果には神様も驚きのようである。常人の能力値がどれぐらいかは分からないが、この四歳のレベルで一万越えは恐らくおかしい。
『なぁ、ずっと思ってたんだけどこの能力値が上がる幅ってランダムじゃなくて法則性があるんじゃないか?』
『法則性? 例えば?』
『例えば、使った分だけ能力が上がる。とか』
考えてみれば、俺はあまり肉体労働はしないが、スティアやリリシアの手伝いで細かい作業を良くする。これが器用さに繋がっているがために、少しだけ他の能力より強いのでは? と考えられる。
『なるほど。そうだとしたら、キミが魔法を使い始めたのは三歳からだもんね。辻褄は合うね』
事実、スキルポイントもあれだけ増えていたのだからありえない話ではない。
『やべぇ、テンション上がってきた』
『あはは……そうだね。ちょっとチートっぽいけど、これはこれでありきたりだし。そもそもキミの努力の成果だもんね』
どのスキルアーツを身につけようか、と俺がワクワクしていると神様が『そうだ』と、一言。
『ボクから誕生日プレゼントって訳じゃないけど、指示を出すよ。キミ、今の話でちょっと汗かいちゃってるよ? お風呂に入ってきたら?』
『お風呂? 沸いてないだろ?』
普通に考えると、今ではお風呂にお湯は張っていないだろう。時間帯も深夜であるし、変な指示である。
『いやいや、キミの魔法の実験に使えるだろ? 火属性魔法と水属性の練習はあまりできていないんだから』
『なるほどな。そうか、この時間帯にお風呂場で練習すれば水の練習が……盲点だったよ。ありがとう』
俺は神様にお礼を言って、意気揚々とお風呂場へと向かった。普通に考えれば、四歳になりたての子供が一人でお風呂に入るなどと危ないのだが、そこは転生者特権。自意識もしっかりとしているわけだ。
バスタオルなどは、お風呂場にあるため準備らしい準備はせずに歩いていく。真夜中の屋敷は多少気味が悪いが、両親の部屋の前でギシギシと聞こえてきたので何故かやる気が削がれた。
『子供の誕生日に、一体ナニしてんだか……』
『ナニって、そりやぁ、ナニ……』
『黙れ』
うちのお風呂は、勿論温泉や銭湯のように大きい。準備は大変そうだが、そこはエルフの執事やメイドの魔力を持ってすれば楽勝。らしい。俺の魔力も今ではそれに届かずともお風呂沸かしぐらいならば楽勝だろう。
『ん? まさか、大浴場に入る気なの? 確か大浴場の脇に小さい湯船が無かった?』
『まぁ、そうだけどさ。折角ならどこまでやれるか確かめたいじゃん?』
服を全部脱いで、籠にしまう。そして、曇りガラスのドアをスライドして開けるとそこから沢山の蒸気と暖かさが伝わって……
「え?」
来るのはおかしい。
俺は今からお湯を張ろうと思ったのに、これは一体?
周囲を見渡してみると、湯気の中に一つの影が見える。
「リア様?」
「……え? リリ?」
そこには、一糸纏わぬ姿のリリシアがいた。
『神様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!』
『あっはっはっー!! お礼はいらないさ! その笑顔でプライスレス!』
お礼を言いたいわけではない。苦情を言いたいのだ。分かるか? この状況はまずい。何がまずいのか分からないが、まずい。そんな気がする。
「リア様。こんな時間に湯浴みですか? ちょうど私がお湯を張ってましたから良いものを……居なかったらどうする気だったんですか」
「い、いや。その、あの」
何と言えばこの場から退却出来る? 完全に時間帯のせいで不審に思われている。まさかとは思うが、リリシアの入浴時間に合わせてきたのでは? と不審に思っているかもしれない。
だとすれば、謝ればそれを肯定することになり……いや、そうじゃなくて……えっと、あれ?
「取り敢えず、お寒いでしょうしこちらへ」
「あ、うん」
なんか、普通に案内されました。
大浴場の湯船に浸かる。身体の芯まで温まる。温まり過ぎてもうのぼせそうである……。
「そういえば、リア様」
「な、何!?」
俺は思考が読まれたのかと思って慌てる。勿論、そんなことありえないのだが。
「今日でめでたく四歳ですね。誕生日、おめでとうございます」
「あ、ありがとう。実は誕生日だから緊張して眠れなかったんだー」
嘘は言っていない。誕生日のステータスアップが楽しみで緊張して寝ていなかったのだ。間違いではない。
「そうだったのですか。もう、四歳なのですね。五歳になれば、教会に行きますし、六歳は魔法の指導を受けることができます。そして、七歳ではどこかの学校へご入学……のんびりすることができるのは今年が最後かもしれませんね」
「そうなんだ……」
教会は一回向かうだけで良く、魔法は実質もう覚えていると言っても過言ではない。だから、一番気になったのは学校だ。
魔法学校、剣術学校……沢山の種類があるが、どこに行ったとしても。
「お別れになっちゃう」
「そう……ですね」
学校は基本的に寮生活だ。そんなところにメイドを連れて行くことなどまず不可能だろうし、親は勿論家に居るだろう。
「……寂しくなっちゃうね」
俺は、綺麗に光る月を見ながらしみじみとそう言った。それに対する返事はどこからも帰っては来なかった。
お風呂場でエロ展開を期待した諸君。また次があるさb