第二十四話 想いの果てに
リアが前回までのお話で使った技以外は出さない縛りです。下手なりに伏線を張って来ましたので、どうせアレで勝つんだろ。とニヤニヤしながら見てください。
黒い森。血塗られた森。
そんな真っ暗な世界にも希望が見え始めていた。初めはたまたま出くわしただけ、次はカンザキが俺のせいでやられたため、最後はリリシア達を助けるため。
利己的な考えと偶然が重なっただけの、この物語にも希望がやって来た。
誰かを助けたい。助けることで自分を救いたい。
それは俺の願いだ。誰かが俺の作戦に乗ってくれる道理はない。だと言うのに、カンザキは、カティは、イヴは、ギルドの人たちは、それぞれ違う意志を持って俺の作戦に乗ってくれている。
「分かりました。やりましょう」
俺の一言でおっさんが拳を強く握った。どうやらおっさんもやる気の様子である。俺はその様子を見ながら一言。
「おっさんは俺たちの速度についてこれる?」
「無理だ」
希望が遠のいた。
「……狼の方を頼みます」
「んぁ!? 待て待て、たかだか五歳の子供に大物なんか任せられっかよ!」
側から見ればこれから俺が行おうとしてることは、かなりの愚行だ。ある程度の作戦は練ってきたが、これは時間通りに行動できなければ意味が無いし、演技力も必要である。
それを全部俺一人でやる。
「ここは俺に任せて……」
そう言おうとした時だった。隣に立つ二つの影が言う。
「いや、僕もいる」
「イヴも!」
「…………分かった。行こうか」
左右に立つ二人の表情を見て、俺は頷く。二人は子供とは思えない程に、いや、子供だからこそ恐怖を感じないのだろうか? 真っ直ぐに前だけを見ていた。
それを見せられては頷くしか無かったのだ。
「おい、だからリアの小僧……」
ギルドの人たちには感謝している。だが、やれる人が俺たちしかいないのなら、
「ここは俺たちに任せてください」
仲間と走り出す。
「作戦タイムは終了かぁ? こちとら律儀に待ってやったんだ。おもしれぇモン見せてくれよォ?」
踏み出した先には、不気味に微笑む闇森人。ジョゼフ。
「あぁ、目にもの見せてやる……よ!! 加速ッ!!」
それに応えるように俺も口角を上げて口で笑う。そして、再加速。いつも通りに左手には短剣。右手には片手剣。
「まずは……そこだ! 直刃突!!」
攻撃範囲が短いからこそ速度で補う速さ重視の技。剣の切っ先が漆黒のコートへと吸い込まれるように滑った。
しかし、その程度の速さではまだ足りない。
「遅ぇな……」
ジョゼフは呟きながら俺の右手へとサイドステップを行う。
「じゃあ、次は……水平斬ッ!!」
利き手から逆手へと地面に水平に流れる正確さ重視の剣技。だが、ジョゼフにはまだ届かない。連撃を見越していた奴は今度はバックステップで避ける。
「だから、そんなんじゃ俺には届かねぇって……」
「直刃突!!」
言葉を剣と俺の掛け声で切り裂く。速度も威力も全て今の俺が出せる最高のものだ。
「チッ……だーから、ウゼェんだよ!! そんな攻撃何回やったって……ッ!?」
直刃突をバックステップで避けようとしたジョゼフの表情が変わる。余裕と苛立ちから、焦りと驚愕に。
それもそのはず、ジョゼフの後ろには木があった。つまり、後方への逃げ場を俺が断ったのだ。
「……ふぅ。確かに地形を使うのは上手い、そして、技名を叫んで意識を移動させたのも上手い。だけどなぁ、俺はまだ本気で移動してねぇんだよ!!」
刹那、男の姿が目視できない速度で消えた。恐らくは左右どちらかへ逃げた筈である。木の背丈が微妙に低く、跳びはねて避けるには少しだけ足りないのだ。
それを見越して俺は退路を減らした。
「ぐあっ!?」
悲痛な声が聞こえる。場所は右手。どうやら今回はそちらにジョゼフが逃げたらしい。
そちらに向き直って俺は笑う。
「今の俺じゃ、ここまでが限界。だけど、逃げ場を二手に減らせれば……」
「僕が槍を刺せる」
「イヴの方にも来てよ!!」
最後にいつもの我が儘が聞こえたがそういうことだ。どんなに早くともパターンがあれば。初動が分かれば。最低限絞れれば。
どちらか片方の攻撃が当たる。
「どーせ動きについてこれねぇと思ってたんだがなぁ……タイミングを小僧が作ったワケかよ」
漆黒のコートごと貫く氷の槍を引っこ抜くジョゼフ。血が漏れていたが、それもすぐに傷口が塞がり、跡形もなくなる。やはりあの回復力を下げなければ俺たちに勝機はないだろう。
俺は次の作戦に入るために、カティ達には見えないようにステータスを開いた。
『時刻は……予定の五分前……頼んだぞ?』
『カウントはボクに任せてリアは目の前に集中してよ。これは神様命令』
次の作戦の要を確認すると、案の定神様からはプレイヤー命令が下る。俺は神様に感謝しつつ『オーケー』と返事をした。
こちらはこちらで、言われた通りに目の前に集中しなくてはならない。それが俺たちの契約なのだから。
「テメェ、今の何だ……? いや、そうか。だからテメェはアイツの話を断ったのか……」
「意味わかんないけど、もしかしてお前達でもこれは開けないのか……」
神様特権スゲェ。とだけ言っておこう。俺はもう一度短剣と片手剣を構える。
「もう一度行かせてもらうぞ……」
「…………」
答えなど期待していなかったが、ジョゼフの性格上軽口を叩くとばかり思っていた。どうやらジョゼフも本気らしい。
俺は今度は無言詠唱をメインに駆け出す。どうせネタはバレているのだから、せめてタイミングを敵に計らせないようにする悪あがきだ。
直刃突、烈波斬、交刃斬……そして、最後にもう一度直刃突。
「……?!」
今度は俺の表情が変わった。ジョゼフは何故か俺を殺さない。理由は多重人格の片方が関係しているとは思うのだが、それともう一つ戦いを楽しむという理由もあるだろう。相手と同じ速度、同じ程度の実力に抑えること。それでそれなりに楽しむ。
だからこそ、次は最高速度は使わずに別な方法で来ると思っていたのだが、
「いや、それは予想外だ」
奴は後ろの木に回し蹴りを決めていた。
「ケッ! 逃げ場がねぇなら作るまでだ!」
ある程度小さい木を選んだとは言え、倒木には何キロもの重さがある。それに俺は直刃突の最中。
「避け切れな……」
タイミングを計って撃った氷の槍が二本、脇を掠める。やはりこの速度には対応出来ていない。二人の援護は期待出来ないだろう。ならば、俺の手札で出来ることは? 剣技で斬るか、魔法で飛ばすか。
だが、どちらも間に合わない。
そうこう考えている内に倒木が目の前まで差し迫っていた。そして、目を閉じようと思った時、
「うっらぁぁ!!」
その雄叫びと共に、頭の上を銀色が通り抜けていく。
「だから、俺らも頼れって……リアの小僧!」
「おっさん……」
そこに居たのは斧を振り上げた中年太りのおっさんだった。
「お前らだけじゃねぇ、俺らもいる。俺らだって殺られたギルドメンバー、そして、カンザキの仇を討ちてぇんだよ!!」
「…………じゃあ、もう一度行きましょう」
「おうよ!」
頼れる仲間をもう一人連れ、俺は剣を握る。左手には短剣、右手には片手剣。もう何度も何度も経験した模擬戦と実践で一番慣れた型だ。
短剣は力が少なくとも振れるため、左手での装備も可能だった。折角習った武器が二本ならその両方を装備しようと冗談半分でやったが意外と好評だったこの構え。
今なら分かる。カンザキに褒められて俺は嬉しくてこの型を極めた。
だから、この刃は届く。
カティもイヴもたった一ヶ月の付き合いの俺のために、危険を顧みずに付き合ってくれた。
だからこそ、この刃を届かせたい。
「うっ……おおおおおおおお!!」
烈波斬、直刃突、水平斬……そして、
『行くよ、リア……キミにこの職業を……』
その声と同時に、俺の視界が絵の具を混ぜたように変わる。そして、更に速度が上がった。
職業のボーナスとレベルアップボーナス。
「っ!?」
息を呑む音が聞こえる。姿は見えないがそれでも分かるものだ。気を抜いて速度を合わせていたと思ったら、急激に上がる速度。その厳しさを俺は味わってきた。
カンザキとの特訓で、何度も何度も俺はその緩急に騙されたのだ。だから、この俺の、俺たちの刃は……
「届けええぇぇええぇえぇええ!!!!!」
もう一度放たれた直刃突。俺が出せる技で最も早い技。その剣と俺たちの想いは、しっかりと漆黒の中へと滑り込み……
『カァァンッ!』
甲高い音と共に砕け散った。
え? 誰が勝つって言ったの?
それと私の誕生日は今日です(どうでもいい




