第十八話 子供達の表情
やる気が出なくて、ストックがやばたん。
仄かな光。小鳥の囀り。いつもと同じで、いつもと違う朝がやってきた。あとはこれに海ちゃんが混ざればだって可能性感じたんだーという風になりそうだ……。
と、寝ぼけながら頭の中で思考を続ける。
『一体なんの思考をしているんだい?』
『何だ神様……聞こえてたのか』
最近念話の音漏れがひどい。
『そんなイミワカンナイ話しないで起きなよ。朝ごはんできてるよ』
『絶対お前ラブ◯イバーだな……』
イミワカンナイのイントネーションがイミワカンナイのイントネーションだった。何を言っているのか分からないと思うが俺も何を言っているのかイミワカンナイ!
俺は神に促されてベッドから起き上がる。そして、白を基調とした小綺麗な部屋を見回した。
「慣れないな……」
どれも高級なものばかりだ。ベッドも柔らかく、照明の魔法具も高級品だ。机だって本棚だって、漆も塗って綺麗である。しかし、ガウェインが高いものを好まないせいで……好まなくてもあれだけ高いものだったが……別荘は質素なものであった。
それと比べては、溜息が出る。
『いい物がある方が良くない?』
『慣れたものがあった方が良いだろ。アニメだって、制作会社に馴染みがある名前だったら見る気になるだろ? 京◯ニとか』
『分かるような分からないような……微妙な例えだね。まぁ、使い慣れた機材の方が仕事が捗るみたいな感じかな?』
神様も仕事に何か機材を使ってるんだなぁ。と、感想を抱いて俺は昨日説明された食堂に向かう。
しかし、向かうと到着は別である。
真っ白の廊下で立ち尽くした。
「どこやねん。ここ……」
エセ関西弁が出るぐらいには参ってしまった。無駄に広くて分かり辛い上に、廊下のデザインも大体同じである。これでは一向に着く気がしない。
「あれ? ストーリア何してんのー?」
「…………えっと……………………おはよう」
誰だっけ?
「イヴ。別に何でもいいけど、朝食の場所はそっちじゃないよ?」
「そうなのか。場所分からないから教えてもらえるかな?」
「あいあいさー!!」
朝からテンションマックスである。子供パワーは凄いものだ。
鼻歌まじりにスキップをするイヴの後ろをついて行く。一応のために場所を覚えようと途中で部屋割りなどを聞いていたのだが、全くわからない。
この棟は自室などが多いらしいため、まず別の棟に移動なのらしいがその棟がどこに存在するのか微妙である。あとで解決策を練ろう。
徒歩五分でやっと食堂のような場所に着く。
「ここで食べるんだよー」
「昨日も思ったんだけどさ、何で食堂なの?」
貴族達などだと、長いテーブルに家族全員が座って一斉に食事を摂るというイメージがある。自分は貴族だった記憶は無いが、この家の大きさなどから考えればありえなくもないのだが。
「それはねー…………何でだろう?」
「いや、知らないよ」
小首を傾げ、可愛らしく自分の頰に人差し指を押し付けるイヴ。こう見るとカティと対照的に子供っぽさを感じさせられる。イヴの方が年上なのは内緒だ。
「それはここの使用人達と一緒にご飯を食べるから、だったと記憶してるよ」
「あ、アーくんおはよー」
噂をすれば何とやら。カティの登場である。カティはイヴを見て、一瞬不機嫌そうな顔を浮かべた。
「イヴ……起きたら僕を迎えに来るんじゃなかったのかい?」
「あ、忘れてた」
カティはきっと、この反面教師のお陰で真面目な性格になったのだろう。そう思える場面であった。
「カティ、今回は俺がイヴに道案内を頼んだからイヴが悪いって訳じゃないよ」
「そうか……まぁ、確かに一概に悪いとは言えないか」
俺たちのやり取りを見て、イヴが心底助かった、と安堵の表情を浮かべる。
「つーか、イヴ、カティ。さっさと飯食べようぜ? 流石に腹減った」
二人は俺の提案に、可愛らしいお腹の音で反応した。流石兄弟である。
食後はいつも通りに鍛錬を行うため、二人に鍛錬を行うのに良さそうな場所を聞くと昨日の森が提案された。因みにだが、やはりあの森はプライベート森林らしい。いや、本当、プライベート森林って何?
「んじゃ、俺は鍛錬してるから二人は遊んで来いよ」
「どうせだ。僕も付き合ってやろう」
「おもしろそー。頑張ってー」
どうやら、カティは俺と鍛錬。イヴは応援らしい。子供にとっては、何でも物珍しいのだろう。俺は黙って準備運動から始める。
終わったらカティが倒れ込んでいた。
「……アーくーん?」
「おい、カティ?」
「…………」
へんじがない。ただのしかばねのようだ。
「これのどこが準備運動なんだ……」
顔面蒼白でカティが訴える。確かに言われてみれば、レベル10の基礎能力とレベル4が同じなわけがない。
「じゃ、じゃあ。俺が適当にカティのためにメニュー組むからそれやってみる?」
「わかった。頼む」
「じゃあ、イヴの分も考えてー!」
その後は、昔俺がやらされたスポーツテストのような内容をやることになった。どれぐらいの筋力値があるか、などは流石に分からないので腹筋ならば出来た回数引く十回を三セット。などと、メニューを決めていく。
メニュー決めに一日費やし、次の日。
「待て、リア。これは流石に、きつい、ぞ」
「リーアー。つーかーれーたー」
いつの間にか二人とも俺のことをナチュラルにリアと呼んでいる。これが子供の無邪気さなのだろうか。
「カティは兎も角、イヴはまだ回数終わってないぞ」
カティの性格上、決められた回数は確実にやる。しかし、イヴはまだ子供っぽいためか、疲れた回数で止めてしまう。メニューの見直しが必要かな。と思うところだが、息も切れていないイヴを見る限り悩ましい。
「カティは休憩時間終わったら、次は槍の練習な。イヴは終わるまで見張ってあげるよ」
「わ、わがっだ……」
「いーやーだー」
カティは震える脚で無理やり立ち上がり、イヴが駄々をこねる。別に興味本位で始めただけであろうし、ここで止めさせてもいいだろう。
「分かったよ。イヴは何もしなくて良いからそこで見てれば……」
「仲間外れもやーだー」
ーーどうしろと言うのだろう。
俺が頭を抱えていると、カティが俺の近くに寄って耳打ちをする。
「イヴは魔法みたいに身体を動かさない奴じゃないと無理だよ」
「将来、我が儘な子になりそうだ……」
しかし、耳打ちをお陰で一応の解決策は出来た。未だに土の上でジタバタしているイヴの近くに寄り、俺は話しかける。
「んじゃ、魔法の練習してみるか?」
「する!」
ーーお前どこが疲れてたんだよ……。
魔法の練習とは言ったが、ただ単にそこら辺で魔法をぶっ放すのを許可しただけである。俺はノータッチだ。
それを槍の練習をしながら見ていたカティが疑問に思ったらしい。
「あんな適当で良いのか?」
「いいだろ。魔法は使えば使うほど熟練度が上がるし、総魔力も上がるからな」
前者の熟練度も後者のステータスも、俺自身で実証済みだ。
「そうなのか? 僕は魔法使いじゃないからよく分からないな」
「ん? 魔法使いじゃない?」
記憶が正しければ、初対面でカティは俺に氷の槍を飛ばしてきた。あれは魔法だったと思うのだが。
「氷の槍のことかな? あれは魔法じゃない。精霊術だ」
新出単語である。精霊術ということは精霊が関係しているのだろうが、精霊が実在しているということにも驚きだった。
俺が記憶している種族には精霊が含まれていないため、余計に疑問符が頭に浮かぶ。
「精霊は魔力に漂う。意思そのものなんだ。僕は体内で魔力の変換があまり行えないから、空気中の精霊に頼んで魔法と同じことをしているのさ」
簡単に言えば、魔法使いは取り込み、変換、放出。の三工程で、精霊使いは指示、放出の二工程らしい。そう言われてみるとカティの魔法の出力速度は早かった。二工程ということや、自分だけではなく精霊が魔法を作るため、速度が速いのだろう。
「その技良いなぁ。俺も使いたい」
「そのためには精霊と話が出来ないと無理だ」
精霊と会話かー。神と会話なら出来るんだけどねー。
「もしくは、大精霊と契約だな。全身が魔力で出来てて、意思が人格に近いほどになった生命体との契約で精霊術が使える」
体術や体力で勝てなかったためか、俺にものを教えられて自身が付いているようだ。子供らしく、自慢話で嬉しそうにカティが話をしている。
「カティは物知りだな」
「こ、このぐらい一般常識だ!」
少しだけ無愛想だが、やはり子供は子供らしい。




