第十四話 師匠の教え
俺の申し出にカンザキは一瞬戸惑いを見せた。
いつもと違う俺の態度や、色々な理由があっただろう。しかし、それよりも先に出てきた言葉は、
「やはり、アレはリア殿の本気では無かったのだな」
であった。
「はい。すいません。でも、嘘をついていたわけでもないんです」
事実、剣を使った模擬戦やステップの模擬戦も本気であった。もしも仮に俺が魔法を使ってもいい年齢で、ルールにも魔法禁止が無ければ魔法を使った本気を見せている。しかし、ルールがある以上。俺はルールに沿った本気を出していた。
その意図が伝わるかは不明だったが、カンザキは頷く。
「……そうか。なら、人目のつかない場所が好しそうだな」
カンザキはちょっと待っていてくれと、言い放ちその場を離れた。そして、五分もしないで二枚の紙を持って帰ってくる。
「先生、それは?」
「訓練場の使用許可証みたいなものかな? それじゃあ、クラウスさん。私たちは少し離れます」
クラウスは無言で頷く。それを見て、カンザキが紙を一枚破く。そして、景色が変わった。
白、白、白。
世界が全て白に染まり、次にまばたきをすると場所がギルドではなかった。
「ここはギルド地下。今の転移魔法でのみ移動できる場所だ。ここでなら、例え、魔法でも術技でも、何を使っても壊れず、外にも漏れない」
「ありがとうございます」
もうこれはカンザキにバレているな。そう思いながらも俺は礼をする。
「いいや、私も本気を出すには人目は避けたかったからな…………それじゃあ。模擬戦を始めるぞ?」
「はい」
「ルールは……何でもありの初撃決着だ」
俺はいつものように、Yesを押す。
いつもの十秒の無音。
そして、いつものように時は動き出す。
「「加速!!」」
両者が加速する。
基礎能力でならば圧倒的な差をつけられている筈の俺が、カンザキと同じ速度を見せると、少なからず驚いた表情になった。
「最大魔力出力量の差かな」
当たりだが、口には出さずに駆け出す。距離にして十メートル。時間にしてゼロコンマ一秒。俺の短剣とカンザキの短剣が、二回交差した。
「「交刃斬!!」」
教えることは出来ずとも、カンザキはやはり使えたようだ。やはりカンザキには先生の才能より、冒険者としての才能の方がある。そう、改めて確信した。
だが、それでも俺の師は技を伝える。
「ここまで強いのならば、教えていいだろう。レクチャーその一! 技に使われるな! 技を使え!」
次の瞬間、詠唱も無しにカンザキは直刃突を使ってきた。速度も威力も申し分ない。スキル無しのただの突きではないことが分かる。
「それ、どうやるんですかね!!」
軽いステップで直刃突を避けきる。しかし、カンザキは不敵に笑っただけで何も答えず、次のレクチャーに入った。
「レクチャーその二! 対人戦では、実力以外にも必要なものがある……水平斬!!」
その言葉を聞いて、利き手から逆手に向けて流れる技が来るのを想定した。しかし、それは短剣の技ではなく、片手剣の技だと気がついたのと同時に剣が斜めから振り下ろされる。
ーー小文字のエルの筆記体を逆さにしたような軌道。交刃斬だ!
「ぐっ!」
ワンテンポ遅れながらも、軌道を読むことに成功したのが最大の幸運であった。一撃も喰らわずに、その剣先を避け、受け流す。
無言で技を出せるのならば、嘘をついて技を出すことも可能。そんなことも思いつけなかった。
「……暗転!!」
「レクチャーその三……」
俺は若干焦りながらも、闇魔法の幻惑魔法を発動する。光属性が使えないカンザキでは対応が出来ないだろうという考えだが、その技を見てカンザキはすぐにレクチャーを口にした。
「下位の魔法は上位の魔法で打ち消せる……暗転世界!!」
その言葉と同時に世界が文字通りに暗転する。
「ーーッ! 光球」
「レクチャーその四!!」
内心でまたか、と驚く。
「属性が対抗出来ていても、対抗魔法を使わなければ効果はない!」
暗転に対して、暗転を解除するような魔法があることは知っていた。しかし、それを光球で対応出来るから、いらないだろうと勝手に決め付けていたのが失敗だったようだ。
「終わりだ!」
ーー終わりじゃない!
「…………獄炎、旋風……合成魔法、獄炎神聖風!!」
暗闇の視界の先で、カンザキが息を飲むのが分かる。上級魔法と同じ上級魔法の合成魔法を見て驚いているのだろう。
風が炎を纏い、全てを焼き尽くす。そんな光景を考えていたのだが、
「そのレクチャーはした」
カンザキは冷静に答えた。
「例え、どんな強い魔法でも術技でも。使われているだけの人間は、対人戦では何の意味もない」
次の瞬間。俺は腹部に鈍い痛みを感じ、倒れた。
◇ ◇ ◇
初めの感触は、気持ちの良い。揺りかごの中にでもいるような安心感。
次の考えは、何をしているんだろうという疑心感。
最後に分かったことは、敗北の二文字。
俺は、勢いよくベッドから起き上がった。
「どこだ……ここ?」
「私の借りている宿だ」
凛とした声が部屋に染み入る。その声に聞き覚えがある。すぐに俺は声のした方を振り向き、彼女を見つけた。
「いや、すまんな。当たりどころが悪かったらしくて、今の今までリア殿が目覚めなかったのだ」
「今は……」
何時だと聞こうとして、カンザキとは反対方向を見る。窓の先にある景色は、黒と仄かに見えるオレンジの灯火。どうやら、俺は夜になるまで寝ていたらしい。
「クラウスさんはどこへ?」
「クラウス殿は家に帰宅された。リア殿は明日、私が連れて行くという約束でな」
ということは、今日はここに泊まるということだろう。
ーーん? 泊まる?
声を漏らしたわけでもないのに、俺の考えを読んだ神様が目ざとい反応を示した。
『こんな綺麗な女性と一夜を共にするだなんて、あぁ、ボクはなんて幸せ者なー…………よう、ムッツリ』
『ムッツリじゃないし、少し黙ってろ』
人がいる時の念話はタブーである。
「さて、リア殿も起きたことだし……風呂に行くか……」
「あ、はい。いってらっしゃ……」
「一緒に」
ーーえ。
神が俺にムッツリ。とまたも呟いてきた。
私の中ではお風呂場イコールエロ展開。
では無く、腹を割って話をする場所と解釈しています。すいません。次回もエロ展開は無いんです。ただ、私の普通をエロと思う人間がいるかもしれないだけなんです(
それと微妙にスランプです。




