第十二話 鈴の音
今回は少し短めですが、それなりに重要です。
あ、それとタグのメインヒロイン不明ですが、決まりそうです。
灰になってしまった魔物の亡骸の前で、俺は立ち尽くしていた。流石にこれ以上の魔物は出てこないだろうから、索敵をしていれば安心。というのもあるが、もう一つ、考えることがあって立ち止まっていた。
神様が返事をしない。
いつもならば、仕事が忙しくとも話しかければすぐに返事をしていた。だというのに、先程から一切の反応がない。最後に見せた反応は確か、俺に時間を伝える時であった。
ーーと、なると、やはり一番に考えられる要因はこの濁った空か……。
上空を見つめ、そう考える。それ以外に異変らしい異変はなかったため、神様側に異常がなかった場合はそうとしか考えられない。しかし、要因が分かっても、対処出来ない。光属性を全て回復にまわしているため、唯一使える光属性の技。光球も熟練度マックスで使えなくはないが、この空を全部覆うような大規模な魔法ではない。
ーー万事休す……。
一応、途中から考えて元来た道を歩いてはいるのだが、二時間近く歩いて移動した距離はすぐには戻れない。いや、実際は加速を使って走れば戻れるのだが、途中にリリシアやカンザキが居た場合を考えて歩いている。
「…………」
しかし、何もない。
いつも通りに暇があれば、本を読んでいた。いや、本を読むのも億劫だった時は、神様が俺の話し相手をしていてくれた。常に俺の周りには誰かがいた。寂しい思いをしなかったのは、そのためだったのだ。
失ったわけではないが、失って改めて分かることがある。
俺は周りの人間を必要としていた。
前に、みんなには必要とされているが、俺は誰かを必要としているのか? と、言ったが、俺は必要としていた。例え、俺が剣を学び、体術を学び、魔法を学んで、強くなっても結局それだけだ。力は強くなっても、心は強くなれない。
今の俺は、凄く。
ーー心細い……。
その時、音がした。
静寂の中に、一つ、遠くまで凛と響く鈴の音。
チリン。と。
「何の音だ……?」
視界の端で、白い何かが動いた気がした。そちらを振り向く。何もない。しかし、もう一度チリンと、涼しそうな鈴の音が響く。
その時俺が思ったことは、前世の知識だった。森で熊に出くわさないために、鈴を持ち歩くという話だ。音に反応して、熊が逃げていく。異世界でそれが当てはまるかは知らないが、その音がした方向に先ほどの白の正体があるわけで。
そもそも、心細かった俺はその音を頼りに駆け出した。
「待って……」
チリン。
「待ってってば……!」
チリンチリン。
「くっ……!!」
チリンッ!
光が射した。
そして、体が抱え込まれた。突然の圧迫感に驚くも、顔を見上げると即座に安心感が芽生える。
「リア様!」
「リリ……」
俺は異世界に来て、初めて泣いた気がした。
精神年齢であれば二十歳を超えているであろう俺は、盛大に泣きじゃくった後に事の顛末について話を聞く。もちろんこちらからも、大牙狼の話をする予定だが、相手側の話を先に聞いて考えることとした。
「つまり、リリと先生の目の前で僕がいきなり消えたってこと?」
「はい。七体目でしょうか。それぐらい倒した瞬間に、忽然と」
俺が暗闇に囚われた瞬間とほぼ同じタイミングだ。しかし、疑問が残る。俺は森から消えて、暗い森に居たというのに、暗い森から走ると元の森の外に出てきたのだ。普通に考えておかしい。
だが、そこは闇の魔術に関して知識があるカンザキに頼るとして、こちらの話をする。
暗闇の森について、大牙狼のことについて、鈴の音について。
「大牙狼を倒したのか。流石、というかなんと言うか……リア殿には実践など必要なさそうですね」
呆れられた。
「しかし、森に異常が起きているのは確かです。ギルドに初心者の森の出入りを禁止させ、任務として調査を頼みましょう」
「はい、そうですね」
俺は返事する。しかし、リリシアが話の途中から、ずっと一点を見つめて動かない。
「リリ? リリ、どうしたの?」
「…………暗い森……あの時と……血塗られた……」
何かを呟いているようだが、小声すぎて途切れ途切れにしか聞こえない。それよりも、反応がないのが不安である。
「リリ?!」
「ーーッ!! はい?! なんでしょうか?」
「いや、話、聞いてたかな? って、思って」
常に凛とした態度を取っていたリリシアだからこそ、余計に不安感を煽ってしまう。
「すいません。少々放心してました」
「そう? 取り敢えず、この森に関しては暫く近付かないようにしようね?」
「…………はい」
彼女にしては、実に歯切れの悪いものだった。
その後、俺とリリシアだけが屋敷に戻り、カンザキはギルドに報告をしに向かう。二人で帰る時も、リリシアは浮かない顔であった。
そして、昼ご飯が終わって自室に入ってからすぐにソレが現れた。
「神様!」
「あぁ、リア。すまない。今戻った」
「戻った……? ということは、さっきまで俺のところに居なかったのか?」
「そうだ。だから、何があったか。教えてもらえるか?」
神様が俺から離れてどこかにいることなど、ありえるのだな。と思いながらも、先ほどまであったことを伝えた。そして、伝え終わった後の神様の反応は。
「ボクも大牙狼の戦闘見たかったぁぁぁ!!」
「いや、知らねぇよ。勝手にそっちが消えたんだろ……」
まぁ、人生をプレイしているわけだから、その考えも分からなくもないが。俺は前世のゲーマーとして伝える。
「いいか神よ! 貴様の先ほどの行いは、オートプレイにしてボス戦を行わせ、勝ったにもかかわらずに文句を垂れるゲーマーとして最低な行為だ!」
「ガーン! そんな……ボクは……なんてことを……」
そんなこと、実際は思っていないのだが。というより、口でガーンって言うのか。漫画の読みすぎだ神様。
俺は、この神様とのどうでもいい会話をただただ、楽しんだ。
失っていた、数分の時間を取り戻すように。
◇ ◇ ◇
数時間前の話だ。
暗闇の中で、とある男が一人の少年を見ていた。銀色に輝く、綺麗な髪と静かに燃える蒼炎の瞳の少年。ストーリア・グローリーを。
暗闇の中でこそ、より一層輝きを増す少年に男は大層惚れ込んだ。同性であることや、幼い子であることすら無視し、ただただ、純粋に感動した。
「まさか……大牙狼の上位である幻大牙狼を、幼児体とは言え、倒すとは」
幻大牙狼は、大牙狼が魔力を浴び過ぎて、突然変異したものを指す。普通の魔物であれば、許容量を超えると耐えきれずに四散するのだが、たまたましなかったものを幻獣種と呼ぶ。その幻獣種を、子供の狼とは言え倒したのだ。
人の子がなせる技ではない。
その答えに至った瞬間に、男はとある可能性に気がつく。
「彼もまた……俺と同じ異端者か……」




