第十話 神様の提案
新章に入ったら暗くなると言ったな? あれは嘘だ!
すいません。嘘ではありませんが、そこに入るまでにちょこちょこやります。ならここも前章につけろとか思った人。前話がちょうどいい区切りだったから仕方ないんですよぉ〜。
「脇が甘いぞ!」
「ーーッ! はいっ!」
木製の短剣が俺の右肩を掠める。切れ味は無いが、その速さゆえに肉が叩かれ、痛みが波のように伝わってきた。しかし、この程度では負けられない。
こちらも言われた通りに脇の甘さを修正し、短剣を握り直す。
庭には俺とカンザキの姿が。そして珍しく、玄関先でスティアがこちらをにっこりと見つめている。
ーー親の前でぐらい、良いとこ見せないとな!!
現在、短剣術での模擬戦の戦績は62戦0勝58敗4引き分けである。流石に二ヶ月間勝ち無しでは、俺も焦ってしまう。しかし、その分短剣のスキルが異様に上がってしまっているのも事実。
そのスキルを見せる時が来た。
「交刃斬!」
「なっ……スキルだと?!」
カンザキが驚くのも無理はない。カンザキが教えたのは単発系の技だけであり、交差するように二連撃を与える交刃斬など教えていないのだ。そのため、カンザキの反応が少しだけ遅れる。
が、それをスキルも無しに通常の捌きでいなしてしまうのがカンザキの力量だ。
「驚いたが、まだまだ……」
「それは……こちらの台詞です! 閃打ッ!」
余裕を見せたカンザキの鳩尾に向かって、忍術の技の一つ閃打が決まる。腕に光属性の魔力を流し込みそれを爆発させるという、跳ねるような光という意味の技だ。
予備動作が殆ど無く、バレにくい。そして、これもカンザキが教えた技ではない。
閃打が鳩尾に決まると、カンザキが背中から倒れ、つぶやく。
「……負けだ」
こうして、俺の二ヶ月に渡る短剣、忍術の鍛錬がひと段落ついた。考えてみると、追いかけっこに一週間。片手用の剣術に一ヶ月半。忍術に三ヶ月。短剣術には二ヶ月。忍術と短剣の組み合わせにも二ヶ月。と、中々のスピードクリアだった気がする。
「しかし、閃打か。私が光属性の才を持ってなかったために教えられなかったが、会得したのだな。それに交刃斬すらも」
「はい。全部先生のお陰です!」
実際にそうだ。スキルポイントを貯め、覚えたのは俺だが、そのポイントを貯めるために一緒に努力してくれたのは他の誰でもない。カンザキという女性なのだ。だが、その言葉の意味はカンザキには届かなかったようだ。
「そう言うな。風と闇系統の忍術しか教えれなかった上に、剣術も微妙。私の得物でもある短剣ですら単発系統しか教えれなかったのだ」
「いえ、ですが、一緒に練習してくれたのは先生ですから……」
「それ以上は止めてくれ、師匠として惨めになってしまう」
そう言われ、俺は黙ってしまう。前世、俺は運動部に所属していた。そこで後輩にレギュラーを取られた時はかなり悔しかったものである。今のカンザキはそれと同様。いや、先生として、それ以上の悔しさを感じているだろう。
本気を出したわけではないが、一年も経たずに四歳の子供に超えられたのだから。
「さて……次だが、私から決めさせてもらうぞ?」
「次の鍛錬内容ですか!?」
「次は、実践だ。近くに林があったろう? そこで明日から訓練をする」
あったろう? と聞かれても、ここ一年間ほぼ庭で過ごしていたので分からない。とは、言えずに俺は頷く。
「では、今日はこれにて解散!」
「ありがとうございました!」
◇ ◇ ◇
「次は実践ねぇ。模擬戦じゃないから、倒しても経験値貰えないね」
「あ、そうか。実践じゃ、トドメをささないと……って、神様。また実体化してるんですか」
自室で寝そべって本を読んでいると、神が後ろから話しかけてきた。これで七回目である。最近は神様も暇なのだろうか?
「そう言わないでよ〜。キミが寂しがると思って来てあげてるんだよ〜?」
「何が、だ。別に寂しくねぇよ!」
無視して本を読む俺を邪魔するように、頬を突いてくるので若干きつめに怒ってしまった。すると、神様が少しだけしょんぼりとする。
「あ、いや、別に……寂しくはないけど、来てくれて嬉しいぞ?」
「…………そうかぁ、そうやって女の子を落とすんだね。これが天然ジゴロだね!」
「違うし、男のお前を落としてどうするし、そして、抱きつくなっ!!」
「おと……ん? まぁ、いいか」
ベタベタしてくる神様を払いのけ、本を閉じる。流石に話し相手をしてあげなければ、神様も可哀想だ。
俺はベッドに腰掛けたまま、神様に向き直る。
「で、何の用なの?」
「用とかはないんだけど」
「……じゃあ、本読む」
「ごめんごめん、用ある。すごい用あるから、待って?!」
すごい用って何だよ、と思いながらも神様との話を続ける。
「あれから模擬戦で何度か勝ったおかげで、四歳児でレベルは10になったんだよね?」
「あぁ、そうだったな」
模擬戦では、システムを用いて勝負するために経験値が入る。それも微量らしいのだが、いかんせん、俺とカンザキのレベル差があり過ぎて、その微量が微量ではすまなかったのだ。
「それに、スキルもボクの祝福と片手用直剣、短剣、隠密、神速、忍術、を覚えたわけだ」
「そう……だな。それがどうしたんだ?」
改めて能力値を確認されたが、それに意味があるのか。と考える。しかし、勿論だが答えは出ず、神様が先に答えた。
「この世界では、レベル10と20、そして40、80、160……という10を二倍ずつにしていったレベルで職業を選べるんだ…………と、さっき聞いた」
「聞いたのかよ……で、その職業とやらを選ぶと何の効果があるんだ?」
「えっと…………ちょっと待って、もらってきたガイドブック読ませて」
「……」
話す内容ぐらい最初に確認しとけ、とは思うがここは黙って聞いてやる。恐らく、ここまで自信満々にいうのだから良い効果なのだろう。と、勝手に当たりをつけて待つ。
紙をめくる音が何度か聞こえると「これだ!」と言って神様が回れ右をする。
「職業を選ぶとその職業に見合った能力を得る。そして、成長の方向もその職業にあったものになる。だってさ」
「ようは、能力が上がるのと、上がりやすくなる。ってことか」
「そうだね」
簡単にまとめた内容に神様は肯定した。
「それで、普通なら教会で行うんだけど、ボク神様だし、ここでやろうと」
「タイム」
「え?」
ここで俺はタイムをかける。考えなければならないことがあるのだ。確かに職業をつけるのは良いことずくめだが、一つだけ問題がある。
「そもそも、俺は年齢に見合ったレベルをしてないわけだ。まぁ、これは鍛錬で上がったことだから、何とか誤魔化せる。けれども、五歳の時点で俺は教会に行かなくちゃいけないんだ」
「それが?」
「……教会では、ステータスを確認するんだ。その時に職業に就いててみろ。疑われる」
それに、スキルに全能神の祝福などという大層なものまでついているのだ。これと職業を結びつけて、俺の近くに神がいる。と考える輩もいるかもしれない。
そう伝えると、神様がなるほどと頷く。
「そこまでは考えてなかったな……」
「普通は考えるんだよ……つーわけで、やるとしても職業選択は五歳の誕生日以降な。それにそこまではレベルも上がらないだろうし」
「ん? 誕生日が来たらレベルが上がるだろう?」
俺の言葉に、神様が小首を傾げて質問する。どうやら、ステータス画面をしっかり見ていなかったために理解できてなかったらしい。
「えっとな。俺は本来なら四歳だろ? つまり四レベル。で、四レベルから五レベルに上がるには1500の経験値が必要なんだ」
「…………う、うん?」
理解が追いついていないようだが、話をまとめる。
「俺は今、一日に約4の経験値を手に入れている。4かける一年は、まぁ、大雑把に見て1500なわけだ。つまり、年齢に合わせた経験値が入るせいで、レベルが見合わない俺は誕生日にレベルが上がらないんだよ」
「取り敢えず、誕生日にレベルが上がらないってこと? それなら、良いか」
やはり、理解はしていないようだ。これで神様と呼ばれるものだから、本当に世も末である。ここでは無く、この神様が作った世界であるが。
「でも、一応聞くけど俺が就ける職業は?」
「そっか、それだけでも教えておけばいいんだね。一つはカンザキと同じ、暗殺者。盗賊もあるけど、暗殺者の方は上位互換だからそっちを薦めるよ」
職業にも上位のものがあるのだな。と少しだけ驚く。というか、この職業の判断基準とはなんなのだろうか。スキルや能力値、そして努力だろうか? 流石にこの質問は、この神様では答えられないだろうから質問はしないが。
「それと、剣士、拳士、魔導師、賢者。あと、魔剣士だね。上位職の賢者や暗殺者、魔剣士がオススメかな?」
「何とも将来有望そうな職業一覧だこと。あ、そう言えば職業にあれってある?」
「あれ?」
この世界で職業と言えば、あれである。俺が気になっている、人類最強である称号。
「英雄」
「本には確か……英雄は書いていたよ。けど、世界で同時にその称号を持てるのは、七人までだから」
「確か残りは……水と風と、不明か。風が一番得意だから、狙うとしたらこれかなぁ……」
ちなみに、不明に関してだが、これは不明としか言いようがない。火、水、地、風、闇、光、以外の魔力。現代では誰も観測できない不明の魔力が、最後の英雄の候補らしい。
だが、そんな観測不能の魔力の英雄など、俺がなれるはずが無い。
「じゃあ、早速風属性の魔法の練習かい?」
「そうだね。風球の練習だ」
午後からは、魔法の練習をしっかりと行うことになった。




