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第九話 決め手の技能《スキル》

「妊娠ですか」

「そうだ。妊娠だ」


 力強く、ガウェインが頷く。


「お父様は、いつから出張で?」

「八日後だな」


 約一週間。その間にスティアが出産することは……もちろんありえない。お腹の大きさもいつもとほぼ変わらないため、まだ数ヶ月しかしていないことが分かる。


「どうしても外せない出張なんですか?」

「リア。お前の言いたいことは分かる。確かに母さんが大変な時に夫である俺がいないってのは酷だ。だけどな、こればっかりは無理なんだ」


 ガウェインの仕事の大切さも分かる。しかし、スティアの不安そうな気持ちも伝わってしまう。俺がどうこう出来る問題ではなかろう。


「分かりました。お母様とはしっかり話し合ってください。僕はどのような結果になろうとも最善を尽くします」

「ありがとう。リア」


 その日の晩、出張時の対応などがリリシアやクラウスにもあったらしい。スティアも納得してくれたらしいし、カンザキも手伝うと言っていた。ガウェインはとても良い人間たちに囲まれているな。と、改めて実感した。


『誰かに必要とされて、誰かを必要としている……か』

『珍しいね。心の声は最近念話と使い分けれてたのに、だだ漏れだなんて』


 神様が俺に話しかけてくる。どうやら、神様が言う通りに心の声が念話に出てしまったようだ。


『いや、ちょっとね。何か引っかかるんだ。何か大切な気がして』

『………………そうだね。必要とされることは大切さ。ボクだって神様として崇められ、必要とされているからこの神の仕事をしている。キミもボクに必要とされて生きて、家族のみんなに必要とされている筈さ』


 そうなんだろう。俺は神様にも家族にも必要とされている。だけど……


 ーー俺は家族を……みんなを必要と思っているんだろうか……。


 その日の夜は、すごく冷え込んだ。


 朝になり、朝食を終え、外に出る。基礎訓練をし、追いかけっこ。昼ご飯、そして極秘任務。次は書斎で本を読み、隙を見て魔法を行使する。暫くすると晩御飯を食べ、神と話をして就寝。

 そんな毎日が一週間続いたとある日の午後。極秘任務をまたも失敗し、書斎に行く前にスキル確認をしていた時だった。


「これは……!」


 神を呼びかけようとしたのだが、つい勢い余って声を出してしまった。だが、神様はそれでも呼ばれたものだと理解し、反応する。


「一体なんだい?」

「いや、このスキルを見て……って、お前なんで実体化してんだよ」


 後ろを振り向くと、何と神様が居た。最初に出会った時と変わらず、ベレー帽のようなものを被ったボーイッシュな服装だ。


「ちょっとね、神様の方の仕事がひと段落して休んでた時に呼ばれたからついでに出てきたの」

「その言い方だといつもは仕事しながら俺の対応してるの?」


 そう考えてみると、少しだけ罪悪感が生まれる。そして、親切心に感謝したくなってしまう。


「そうだよー。もっと敬うがよい!」


 訂正、罪悪感も感謝もありません。寧ろこれからはもっと呼んでやります。仕事の邪魔します。


「まぁ、そんなことはどうでもいい。このスキル、見てみ」

「んー? あぁ、なるほどね。新スキルか……効果(パフォーマンス)技能(スキル)の神速と隠密か……ん? 隠密?」

「隠密がどうかしたのか?」

「ま、まさか……あの極秘任務でこのスキルを取ってしまうとは……キミどんだけ全力でやりこんでるんだよ。どんだけパンツ欲しいんだよ」


 この時ほど神を殴りたいと思ったことはなかった。


 しかし、それと同時に隠密というスキルを取れたことには感謝した。神速に関してはステップ時の速度上昇や通常時の速度上昇などがあるため、カンザキの練習の成果と思われる。そして隠密は神様のおかげなのだ。理由が不純でも感謝は生まれる。

 ちなみに感謝したら「もっと敬え」と言ったので蔑んだ瞳で見つめてあげた。


 その日はスキルを身につけ、本を読んだ。

 次の日の朝。


「ガウェインさーん。迎えに来ましたよー!」


 俺が特訓のために外に出ようとすると、見知らぬ男女がいた。

 どちらも若く、男は金髪に青空のような蒼穹の瞳。女は青髪に海のような瑠璃色の瞳。

 金髪の男が話しかけてきた。


「お、もしかしてリア君!? 俺はルフレ! そうそう、ガウェインさんの後輩で仕事仲間なんだ! それでこっちの奴がエヴァな! あとは……いでぇぇ!!」


 急なマシンガントークに俺が怯んでいると、エヴァと言われた女性がルフレにチョップを食らわす。そのお陰でルフレはその場でしゃがみ、静かになった。


「ごめんね、ストーリアくん。彼も悪気があったわけじゃないんだけどね。ガウェインさんはまだかな?」

「父なら、あと少しで来ると思います。暫くお待ちください」


 そう言って俺がお辞儀をすると、エヴァが目を見開く。確かに四歳児にしては礼儀が良すぎるか。今度は年相応な対応をするよう心がけよう。

 暫く待つと、ガウェインでは無くリリシアが現れた。


「リア様。お客様で……あぁ、ルフレ様にエヴァ様。お久しぶりです」

「お、リリか。あの時以来だな、やっほー!!」


 口癖なのかルフレが、また「お」っと言いながらリリシアに話しかける。どうやら知り合いらしい。


「はい。あの時は大変助かりました」

「おう、気にすんなって。あればっかはしゃーねーさ。ダークエルフの奴未だに狙ってるらしいし、あんま外には出んなよ?」

「恐れ入ります」


 ーーダークエルフ?


 初めて聞く名前である。名前から察するにエルフの種族だとは思うのだが、ダークエルフという単語は前世ならまだしも今では歴史書にすら書いていない。全く初めて聞いた名である。


「ん、もしかしてリアにはダークエルフの話ししてないのか? なら、気をつけるわ」

「今更何を気をつけるのかしら……」


 エヴァの呆れも頷ける。ダークエルフという名前を出してる時点でもう気をつけるものも何もない。


「ルフレ、エヴァ。待たせたな!」


 と、そこでガウェインの登場である。一年間の出張の割に軽装備の男は、ポーチ以外には三本の剣しか持っていない。


「んじゃ、みんな行ってくるからな〜!」


 お別れは呆気ないものであった。ちなみに後で聞いた話だと、スティアの前ではかなり別れを惜しんでいたらしい。




「さて、と……」


 俺は基礎訓練を終え、わざとらしく声をかけた。


「今日は朝から賑やかで、訓練が遅くなったな。基礎訓練も終わったわけだ。さぁ、構えろ」


 カンザキがいつものように、模擬戦のコールをする。そして俺がYesを選択した。


 ーーさぁ、新スキル。魅せてやるぜ!


 勝負が始まった。


 ◇ ◇ ◇


「いつもより、一つ一つが大雑把だぞ!」

「くっ!」


 その大雑把な理由が、神速スキルで速さが上がったがためだとは流石のカンザキでも知ることは出来なかったようだ。その間にも俺はこの速度の勘を掴み始めている。


 ーー基礎的は速度に関してはさっきの練習で分かった。そして、ステップ時の速さ。慣れるのには時間がかかった。けど!


 右腕が伸びる。あと数センチという、すんでのところでカンザキが避ける。その表情に余裕はない。


「中々いい……動きだな!」

「さっきと……言ってることが……真逆ですよ!」


 カンザキの褒め言葉に、若干の嫌味を返す。今の俺にはそれぐらいの余裕があった。

 右手を伸ばせば、カンザキが体の角度を少しだけ変えて避ける。足払いをすれば、最少限度のジャンプで避ける。

 全部避けられているが、いつもよりカンザキの身体の動きが小さい。つまり、今の俺の動きに合わせたレベルがこれなのだ。スキルとはいえ、自分の成長の結果が見て取れる。


「先生、この上の速度……僕にやる気ですか?」

「いいや……これがこの試練の……最高速度……だ!」


 要は、手加減の最後。この速度で最高レベル。勝つなら、このレベルなのだ。

 俺は攻撃のやり方を変える。

 先ほどまでの右手メインの攻撃から、次は左手。慣れてきたと思ったら足払いで仕切り直し、右手を。

 だが、それだけではカンザキは消耗してくれない。


「打つ手無し……か?」

「……」


 ーー考えろ。考えるんだ。パターンを変えてもダメ。速度はこれ以上上げられない。だとすれば、何をすれば勝てる……。


 その時、神が囁いた。


『ボクはキミの成長を知っている。何と共にキミは成長をしたんだい?』

『何と……共に……』


 勿論それは先生であるカンザキだろう。カンザキは俺に神速というスキルを結果的に身につけさせた。それが俺の成長を促したはずである。

 声に出さずとも神が先を読んで俺に話しかける。


『いや、キミの成長は神速だけじゃない。さぁ、魅せるんだろ? キミの力を!!』


 そうだった。俺は神速の他にもう一つ覚えたものがあった。そう。それは努力で手に入れたもの。


 誰にも覆せない確かなもの。


 神が、俺に伝えた。


 大切な……



「あ! 先生のパンツが干されています!」



「なっ!?」


 パンツだった。


『いや、違うだろ……』


 何か今聞こえた気がしたが、一切気にせず俺はカンザキに詰め寄る。今の反応でカンザキは動けない。俺は手を伸ばす。先へ、先へと…………!!


「きみの勝ちだ。リア殿」


 それはとても暖かい言葉だった。


「勝った……?」


 衝突と同時に地面に叩きつけられた俺たちだったが、自分の右手に伝わる温もりから勝利を感じ取った。


 ーーん、温もりって……。


「きみの勝ちだ。だから、早く降りてもらえないだろうか?」


 その声に促され、上体を起こすと俺の手があらぬ方向へと向かっていた。


 カンザキの胸である。


「す、すびばせん!?」


 俺は大慌てでその場から退却した。勝負に勝って、思わぬ形でご褒美も手に入れてしまったがこれは少しまずい。ただでさえ最近極秘任務のせいで不信感を抱かれているのに、これだと確信を持たれてしまう。

 いや、俺がしたくてしているわけではないので確信というより誤解なのだが、今は関係ない。


 カンザキの上から除けてその場で正座をしていると、彼女が立ち上がり背中についた砂を落とす。地面は草地ではなく、乾いた土だったのだ。これは痛かっただろう、そう考え俺は土下座のような姿勢に移る。


「すみません、背中痛かったですよね?」

「え? あぁ、いや。全身に硬化術をかけたからな。別に痛みは無かったぞ?」

「あ、だから胸を触っても硬かった……何でもありません!!」


 何気ない一言でカンザキがジト目でこちらを見る。胸の話はタブーのようだ。


「取り敢えず、リア殿。これにて追いかけっこは終わりだ。次からは剣術に入るぞ」

「はい!」


 俺は先生の言葉に強く頷いた。


 その後、隠密をマスターした俺が極秘任務を成功したことは言うまでもない。


 ◇ ◇ ◇


 半年以上の月日が過ぎた。

 その間に俺は本来の目的でもある剣術のスキルを身につけることに成功した。スキルを手に入れた、とカンザキに言ったとしても意味が通じる訳がないのでその成果は前回と同様に実践で見せつける。

 それも手加減はされていたものの、勝利し、更に俺の希望で短剣の扱い方と忍術。要は身体強化魔法について学ぶことにした。

 忍術は一子相伝。通常ならば教えるものではないらしいのだが、弟子も子供もいないカンザキは快く教えてくれた。


 ちなみに、スティアだが、お腹も膨れ妊婦さんらしい体つきになってきた。この中に自分の弟か妹がいるとなると今から楽しみである。


 そして、平穏な日常は唐突に終わりを告げた。


 最悪な事件が始まる。


 昔起きた鮮血の悪夢を彷彿させる、最悪な事件。


 この事件がのちになんと呼ばれたか、それは、


 血塗られた森(ブラッディフォレスト)の再来と。

 次の話から新章に入ります。


 血塗られた森の再来編です。少しだけ暗い話になるかもしれませんが、お付き合いください。

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