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くれないのうた  作者: げんめい
最終章~くれないのうた~
37/43

     カミウタ/第二接触③

「待て、至」

 そう言ったのは、さっきまで沈黙を守っていた彰だ。彼は静かに語る。


「……俺はあの警官を見て確信したんだ。あの力……『魅了』は脅威だ。魑魅魍魎のそれとは根本から違う。もし俺やお前が操られた時――互いの手を知り尽くしていた場合、不利に働いてしまう可能性がある」

「どういう事だ?」

「俺はお前が最近手に入れた力を良く知らない。魅了を受けた者に対しては、お前の持っている日本刀で解除出来る。そう考えていいな?」

「ああ、くれないは概念を斬る。魅了も斬り捨てる事が出来た」


 風鳴(かぜなり)の時に、それは上手く行っている。病院で警官の魅了を斬った時もそうだ。

 彰が昏倒させた警官に関しては、魅了が切れずに暴れていたのを覚えている。


「お前が操られても、俺はお前の動きを封じる事は出来る。その自信がある。手足を折ってでもな。だけど俺が操られる可能性だって、ゼロじゃないだろ?」

「そう、だけど……」

「お前にはブランクもある。本気でやった時、俺から一本取る事がどれだけ難しいかはお前なら分かるよな? 自慢じゃないぞ。事実だ。だから、お前が持つアドバンテージは、俺は全く知らない方がいい。いざというとき、その力を有利に使って俺の中の魅了という概念を斬り捨てて欲しいんだ。それは、お前にしか出来ないんだからな」


 彰が魅了された俺を止めるのは容易だろう。何年も研鑽を重ねてきた結果だ。

 ここに居る彰以外の人が魅了されたとしても、俺は容易くそれを解除出来る。今までの経験を踏まえてもそれは間違いない。


 だが、彰が操られ、今の剣の技術で襲ってきた時……それは想像を絶する戦いになるのは明白だった。

 俺が彰を止めるとなると、彼の言うとおり困難を極める。


 俺の能力を全て知っていれば、彰ならばいとも簡単に対処出来てしまう。彰の器用さを考えれば当然の結果とも言える。三年のブランクはそれだけの差を生んでしまうものなのだ。


「……分かった。お前には話さないようにしとく」

「ああ。何よりまずは魅了を受けない事が重要だ。何とか神籬と淨眼で自分の身を守れるように、互いに気をつけよう」

 頷き合い、笑って見せる。


 頼りになる。こいつが親友で本当に良かったと思う。


「そういうことなら佐鳴は退場いただこう。至が様々な力を手に入れたというなら、それを有効活用出来る方法を考えようじゃないか」

 凛子さんがそう語り、彰を二階に行くように指示する。

「多用は避けろよ至。精神が代償だという事を忘れたら駄目だからな。んじゃ、俺はちょっと神楽ちゃんの様子見て、その後お前の部屋で漫画でも読んでるからな。何かあったら呼んでくれ」

 彰はそう言いながら二階に上る。


 そこから一時間程、実際に力を使わず、どんな反応を引き起こせるかを考慮しながら、凛子さんのレクチャーを受け続けた。


 火災旋風、吹雪、蒸気によって視界を奪う方法。真空を利用し剣速を上げる方法。水を利用したレンズ効果など。いずれも咄嗟に使えなければ意味がないが、知っていると知らないとでは大違いだ。氷の壁などは使用する精神力が桁違いに多いので、多用は避けるべきと言われた。僅かな力を組み合わせ発生可能な自然科学現象を利用し、あくまで優位に立ち回るための手段として利用する。くれないを最大限に生かすために、その力を少しだけ使う事が重要である事を。

 

 今の俺の力は、噴火や竜巻など、気象や天災を操る程の力は無いだろうという結論に至った。

 それらは神や竜の領域だとフィルは語った筈だ。蛇神がそういった力を持たない事を祈るばかりだった。


 アイデアが出し尽くされた頃、家のチャイムが鳴る。

 俺が玄関へ出ると、そこには弓華が立っていた。


「無事に帰って参りました!」

 胴着、長刀(なぎなた)持参の彼女が息を切らせて立っていた。午前中には一度着替えを持っていく予定でもあったんだが、意外な行動力に遅れを取ってしまったようだ。

 一晩の休息で、彼女は体力の全てを取り戻せたらしい。

「悪い、言ってくれれば迎えに行ったのに」

 俺が言うと、彼女は「とんでもございません!」と叫んだ。

「至様の手を煩わせるなど言語道断! わたくしは至様の妻として、至様に一切の面倒などかけさせはいたしませんわっ」

「妻っ!?」

「妻っ!?」

 凛子さんと美香穂が同時に叫んだ。よし、逃げよう今すぐ。


 俺は振り返りもせず階段をダッシュで駆け上がり、自分の部屋へと避難する。

 入ると彰が俺のベッドで寝息を立てていた。……ここはお前の家じゃないぞ。


 俺は思い出し、親に電話をする。正影さんの携帯には直ぐに繋がった。

 神楽が熱を出したこと。弓華が帰って来た事を告げる。

「無理を掛けるがすぐ帰るからな。母さんの容態は落ち着いてる。意識も戻った。お前も無理するなよ」

 そう念を押されて、電話を切られた。

 仕事の関係もあるので、今日の夜には一度帰るとの事だった。

 母さんの意識が戻った。俺は、体中の力が抜けるような思いだった。


「……じいちゃんさ、言ってたよ」

 突如、すぐ横から彰の声が響いた。

 彼はベッドに横になったまま天井を見詰めている。


「あ、悪い起こしちまった、か?」

「お前は、生き急いでいる……ってな」


 彰はベッドから勢い良く起き上がると、眼鏡を中指でくっと上げてから続ける。

「生き、急いでる……?」

 確かに、先日の出来事は褒められたものではない。怒りに任せて魑魅魍魎を屠り続けた。じいちゃんはその事を言っているんだろうか。


「無茶なんだよ。毎回一人で何でも解決しようとしやがって。聞けば今までも随分無茶してきたみたいじゃないか」

 彰は怒気を孕んだ口調でそう告げる。

「……悪い。全部信じて貰えるような話じゃないと思ってたし……昨日の病院の件では、キレててそこまで頭が回らなくて……」

 そこまで言うと、彰はニッと笑って続けた。

「お前の性格は分かってるよ。だけど、もうこれはお前だけの戦いじゃない。この町の危機は、俺も祓いたい。ずっと一緒に、戦う事を覚えてきたじゃないか。お前の目に魑魅魍魎が映っているのを知った時。こんな世界に入っちまったお前の不幸を呪ったよ。でも、同時に……嬉しかった。今までじいちゃんと二人だけで戦い続けてきた。これからもそれが続くと思っていた道に――親友であるお前が加わってくれると思ったら、感動で身体が震えたのも事実なんだ」

「彰……」


「いいか、死ぬなんて考えるなよ。そんときゃ俺が殴ってでも止めてやる。苦しくても生きて、生きて、生き抜いて、そして将来、じいちゃんみたいな歳になって。嫌味言ってさ、憎まれてさ、それから……病気か老衰で死のう。笑って死のう。俺は、そうありたいと思っている」

 彼は目を伏せてそう、語った。

「……そうだな。そう、ありたいな」

 

「将来か……。至さ、進路とか決めてないのか?」

 彰は唐突にそんな事を聞いてくる。

「え、決めてないな。そんな先の事、想像も出来ねえしなぁ」

「俺たちも高二の夏休みだぞ? そろそろ漠然とでもいいから、考えないとな」

「……副会長らしい、真面目なご意見だな」

 一学期の中ごろに、職業体験なるもので色々行かされたのを覚えている。だが、警察と病院関連には行ったが何だかピンと来なかったのも事実だ。

 学校の成績は幸い上位の方だ。彰には遠く及ばないが、半分より落ちた事はない。きっと俺にだって、様々な未来が待っている事だろう。


「適当に大学入って……なんて考えるなよ。人とは違う力を俺たちは持って生まれた。この先も、きっと色々な事がある。俺たちは人とは違う経験をしたことを活かし、そして次の世代に受け継ぐ義務もあるんだ」

 彰のその言葉を受けて、俺は押し黙る。

 受け継ぐ、か……。

「……彰。四翼の血は俺で終わりだよ。こんな力、無い方がいいだろ?」

 その答えに彰は表情を変えず、俺の方をじっと見たまま続けた。

「……その辺は、出来ればお前の母さんも交えてよく話し合って欲しい。俺たちは、血で繋がっている。これが子々孫々受け継がれていく絆となるならば、俺は四翼の血を絶やすべきではないと考えている」

 胸に手を当て、彼はそう告げた。

 四翼と祓魔は、元は同じ血だ。何年も脈々と続いてきたその血統を潰やす事がどれだけ無責任な事かは分かっている。

 四翼の先代がどれだけ一族の事を案じ、そして俺の本当の父親暁と母奈央を結びつけたのか。俺なんかが計れない何かが、あったのだろう。


「……何かあったら相談に乗るよ」

 彰は、それだけ伝えて部屋から出て行く。


「…………」

 俺は、さっきまで彰が寝ていたベッドへと仰向けになった。


「……瞳」

「ふぁぃ」

 大福をほおばったままの瞳が、正座で俺の横に出現する。

「……美味しいですね、これ」

 飲み込んでからそう言った。

「さっきの彰の話、どう思う?」

「私には判断致しかねます。四翼の血を絶やすという事は、貴方は子を残せないと言う事になりますよ?」

「そうだな……」

「人の営みがどのようなものか、歴史が証明しています。脈々と……脈々と、人はその生息域を延ばしてきました。今や人の手や目が入らない場所は、この地上にはありません。自然な事は、自然なように。私がアドバイス出来るのはそれだけですね」

 そう言って、彼女が笑う。


「提案です。比良坂美香穂と共に、『約束の場所』へ赴いては如何でしょう?」

 瞳はそう続けた。

「いや……でも、神楽を置いては行けないだろ?」

 彼女は熱で寝込んでいる。家を空けたくは無い。


「大丈夫です。華京院弓華が現在事情を聞いている所です。直ぐに階段を駆け上がってくるでしょう。看病のために」

「……根が真面目だからなぁ」

 言っているうちに、ドタドタと慌てた音が響いた。直ぐにその足音は俺の部屋の前を通り過ぎ、神楽の部屋へと続いていった。


「幼少期の貴方たちの『約束』に関して、フェインは何故か規制をしています。今の貴方なら、当時の呪詛を退ける事も可能でしょう。記憶が復活するなら、その部分の補完が可能となります。比良坂美香穂からのリーディングと一致するかを確認したいと思います。蛇神に接触したのがその時であるなら、何か解決の糸口が見つかるかも知れません」

「危険は無いか? 重大な何かの切っ掛けになってしまう可能性があるんじゃ……?」

「貴方なら、それを退けられると信じています」

「……分かった。夢で見たような気がするんだ。彼女との約束。一回、その場所へ行ってみようと思う」


「はい、お気をつけて」

 瞳の姿がまた掻き消える。


 すぐにドアがノックされ、弓華が入ってきた。

「至様、神楽さんの状態は安定してきましたよ」

「お、ありがとう。下では……喧嘩にならなかったか?」

「お二人とも怒っておりました」

 そう言って笑う弓華。

 強いな。あのメンツの中ではっきりと自分の意思を告げる芯の強さは、真似出来ないレベルだ。


「……ごめん、見舞いに行けなくて」

「先ほども申し上げました。お気になさらないでください」

 彼女は俺の手を取って、真っ直ぐに見詰めながら言う。

「……父が来ました」

「お父さんが?」

 華京院遊楽と言ったか。彼女に勘当を言い渡した、現華京院の当主。彼女が俺の家に居るのは知っているのだろうが、心配の一つもしなかったのは気になっていた。

 遠い親戚であるなら、今までに何らかの接点もあったに違いない。

 俺たちが本家、四翼の血のものと知っているのだろうか。


「……心配されました。今まで済まなかったと、謝罪を受けました」

「そ、そうか」

 胸を撫で下ろす。親子が憎しみ合って良い筈がないと、心の何処かで思っていた。

 だが、彼女の表情はどこか切なそうだった。


「至様。巫女の仕事が如何なものかは、ご存知なのでしょうか……?」

 彼女はそんな事を言う。

「……いや、ゴメン分からないな」

「左様で御座いますか……。華京院の家の最奥に、鬼様の腕がお奉りしてあったのは以前お話した通りです」

「ああ。君の家に行った時、聞いたよな。覚えてるよ」

「鬼様の力は、その御神体に宿っておいででした。わたくしは、鬼様の力や魑魅魍魎の出現を受けると、髪が白く変化致します。灰髪(はいくし)と言う現象です」

「……うん」

「三月に一度。わたくしは身を清め、自ら鬼様の力を受けて灰髪となり、それを三日間続けねばいけませんでした」

「み、三日?」

「はい。先祖より続く、正式な巫女の苦行で御座います」

 彼女は、巫女の仕事が嫌いだと言っていた。灰髪である時間が長ければ、先日のように体力を著しく消耗してしまうと、そう聞いている。現に一日の入院を余儀なくされたというのに。


 それを、三日も?


「その間は全て死装束で過ごし、一切の娯楽を禁じられます。食事は豆数粒と水分のみ。勤めを終えれば体重が五キロは落ちてしまいます。鬼様の力を自らの白い髪に反射させ、増幅させて家や土地を護るのです。お陰で、学校を含む華京院家周辺に関しては、魑魅魍魎の出現を抑える事が可能でありました」


「……それは、どの巫女も同じだったのか?」

「各々の巫女がどのように勤めを果たしたのかは、秘伝とされていたそうですので分かりません……」


 そんな事が、何年も繰り返されてきたっていうのか。


 新しい文化が取り入れられ、様々な技術が革新した昨今。古い風習を嫌う若い世代が出てきた事により、四翼の血は今潰えようとしている。

 本来四人いる筈の巫女が、今は華京院のみ。

 その負担は、著しいものだっただろう。死装束を強いられると言う事は、その最中に命を落とす者だって居たのかもしれない。


「父は、頑なに勤めを強いて参りました。わたくしも子供だったのでしょう。そんな父に、強い不信感を抱えておりました。母は……家を出て行きました。もう顔も覚えておりませぬ」


「そう……だったのか」

「わたくしは本家に嫁ぎます。父にはそう告げました。悲しそうな顔をしておりました。わたくしはここに来て、初めて他の家の普通の家族が……どんなものであるかを……どんなに温かいものであるかを……」

 彼女は口に手を当てる。その声は、だんだんと涙声に変化していった。

「……ご迷惑は承知しております……。鬼様が居なくなり、わたくしの巫女の勤めが無くなったと思った時、わたくしは……心の何処かで、喜んでしまいました。気が抜けてしまいました。あんなに鬼様は優しかったのに……。本当に、優しかったのに……」

「……弓華……」

 鼻を真っ赤にして、彼女は俺を真っ直ぐ見詰める。


「……華京院弓華は、酷い人間です。鬼様の消滅を喜び、父から逃げるため、至様を利用しました。本当に、申し訳ありませんでした」

 彼女は、その場に正座をし、深々と頭を下げる。


 根が真面目だって?

 俺はどうかしていた。

 彼女は、普通の十六歳の女の子だ。きっと色々な事をしたかっただろう。きっと様々な場所に行きたかっただろう。

 全てを押し殺して親の言いなりに過ごさねばいけなかった日々は、容易に想像出来るものではない。

 誰が彼女を認めてあげた?


 だが、恐らく彼女の父親は気付いたのだろう。今まで彼女が行ってきた事の意味を。

 そして、彼女がどれだけ自分の中で大切であるかを。


 俺は、しゃがんで彼女の肩に手を乗せた。

「良いんだ。君が抱えていた苦悩、全て俺の胸に仕舞っておく。俺が同じ立場なら、きっととっくに心が折れていたに違いないよ」

 彼女の肩が、小刻みに震えている。

「……今まで、この町を護ってくれてありがとう。一緒に戦ってくれてありがとう。本当の気持ちを教えてくれて、ありがとう。君は酷くなんかない。立派に、自分の仕事を全うしたよ。きっと君のお父さんも、それに気付いて、謝ってくれたんだと思う」

「い、いたるさま……」


 彼女は、俺の胸に飛び込んでくる。

 そして――大声で、泣き始めた。

 俺は彼女の艶やかな髪を撫でながら、更に続ける。


「俺達はまだ子供だぜ? 親に反抗、当然じゃねえか。言ってやれ。言いたい事全部言ってやれ。それでも、君の家はきちんとあそこにある。君のお父さんは、あの家にいる。これから本当の家族として、やり直す事だって出来る。もちろん辛くなったら、いつでもここに来い。俺も神楽も正影さんも……母さんも、歓迎する。必ずだ」

 弓華は、ただ俺の中で頷き続けた。


 胸が、温かい。

 彼女の涙が、温かい。

 俺は彼女の気が済むまでずっと……彼女の髪を撫で続けた。


 フィルは今の話しを聞いて、何て思うだろう。人在らざる力は、人間の生活のどこかに歪みを生んでしまう。四翼の千里眼も、巫女の役割も。

 それでも、この地が鬼を信仰し、魑魅魍魎を遠ざけてきたのも事実だ。

 フィルがここに落ちてきた意味は、必ずあった筈なんだ。


 暫くして泣き止んだ彼女が、俺から静かに離れた。ポケットからハンカチを取り出し、鼻をかむ。

 振り返った彼女は、気丈にも微笑んで告げた。

「ご迷惑をおかけしました。一度、家に帰ろうと思います」

「……うん、それが良いよ。ただ、少し頼みがある」

「はい、何なりとお申し付けください」

「……正影さんは夜には帰ってくるんだ。その間、家の事少し任せてもいいかな? 神楽の事も。帰りは正影さんに送って貰えると思う。疲れてる所悪いんだけどさ」

「分かりました、お任せください。どこかへお出かけですか?」


「行かなければならないんだ……約束の場所へ」





 俺は、神楽の部屋のドアをそっと開ける。

 彼女は、赤い顔のまま目を閉じていた。彰の買ってきてくれたペットボトルも口を付けているようだ。


 神楽の横に座り、その張り付いた髪を撫で告げる。

「ちょっと、行ってくるよ神楽」

 少し、彼女の表情が柔らいだ。


「……お前の気持ちに、何て答えてやったらいいか分からなくて、ゴメンな」

 俺がそう呟くと、神楽の目がゆっくりと開いた。

 彼女は横を向き、そして小さな声で呟く。


「弓ちゃん、大丈夫だった?」

「すまん、聞こえてたか?」

「ううん、何となく、分かる」

 神楽が微笑んだ。そして、続ける。


「昨日の事は、いいんだよ。私、待ってるからね。ずっと、待ってるから」


 はにかむ様な、笑顔。いつか彼女が言った台詞が、心に染み渡った。


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