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くれないのうた  作者: げんめい
第四章~流転 対のメビウス~
29/43

第十五話 幼子の約束/第一接触①

  ◆



「みかは戻ってくるから」


 顔をくしゃくしゃにした少女が、呟いた。


 石碑の前で、少年が泣いている。

「泣かないで、いたるくん。お母さんもかなしむよ」

 その少女もまた、止め処ない涙を抑えきれないでいた。


 少女は、自分のトートバッグからあるものを取り出した。

 二冊の、本だ。

 表紙はオレンジ。全て手書きされている。表紙には、「せんねんざかのしろいおに」と記されていた。


「おかあさんがね、死んじゃう前に描いてくれたの。いたるくんと、みかの分」


 少女は、持ってきたカッターナイフで、自らの親指に傷を付けた。年端も行かぬ少女らしからぬ行為が、少年の眼には異常に映った。彼は眼を背ける。


 少女の指を、すぐに鮮烈な紅が滴る。


「前に一緒に作った消しゴムハンコだよ。本に、押しておくね」


 そう言うと彼女は、その血の一滴を取り出した消しゴムへと塗り、少年の目の前で印をした。

「……うん、完璧」

「……よめないよ」

 少年が、呟く。

「ここが『み』、これが『か』だよ。『ほ』は難しかったから……うん、ちょっと読めないね」

 少女は、涙を拭って笑った。


 少年は、ポケットから絆創膏を取り出して少女に手渡す。


「ありがとう、いたるくん」

 代わりに少女が手渡す手書きの絵本を、少年は大切そうに両手で受け取った。


「みかちゃん、また戻ってくるんだよね?」

「うん、約束。かぐちゃんとも約束したよ」

「あきらも約束するって言ってた。また、ここで会おう。その時、この本を持ってくよ」

「……うん……」

 少女の顔が、悲しみで歪む。

「……行きたくないよぉ……離れたくないよぉ……」

 そう言いながら、慟哭する少女。その景色が歪む。少年の眼もまた、涙で溢れていた。



  ◆


 ……眼だ。巨大な眼が見える。

「お前は、何が目的なんだ……」

 

 俺は全ての恐怖を内包したその眼に、縦に引き絞られた瞳孔に問う。


「死だ。私は死そのものだ。そして、お前も」

 男とも女とも付かぬ声が、直接脳の奥に響く。


「やっと届いた……三千回目の、翼。これで、全てを迎えられる。さあ、共に行こう」


 俺の身体を、青白い無数の手が掴む。その眼の方向へ引き摺りこもうとしている。


「死だ。死だ。死だ」

 何処までも漆黒な場所へ、俺の身体はどんどん沈んでいく。

 もがけば、より深みへ。

 叫びは届かず、息は出来ず。身を捩るような恐怖に俺は耐え切れずに手を伸ばす。


 自分の手の先には、何かが見えた。


 その光景が、まるでフラッシュバックするかのように目の前に映し出された。


 それは――自分の心臓を貫く手の映像。自らの、死ぬ瞬間のビジョン。月。泉。大樹。そして――光る、眼。

 抗えぬ、未来の映像だった。



「うあああっ!!」

 俺は叫びながら飛び起きた。急激に、意識が引き戻される。眼が熱く、とても気持ち悪い。手で口を押さえて、俺はぐっと堪えた。


 自分が、死ぬ瞬間の映像が見えた。

 

 あれは、四翼の淨天眼。抗えない未来の光景だ。


 重い頭をすぐに持ち上げて、俺は周囲の様子を伺った。

「……家じゃない」

 ここは、病院の一室だ。東郷医院の病室のようだ。時間はまだ昼間。壁の時計は十一時を指している。


 遠くで、何か異様な音が響くのが分かった。


 痛烈な印象で、最初におぼろげに見ていた幼少期の夢が咄嗟に思い出せなくなってしまった。

 直ぐに、呼吸を落ち着けるよう努力する。胸の辺りを掴み、深呼吸をした。


「お兄ちゃん」

 気が付くと、すぐ横に神楽が座っていた。その顔は真剣で、額には汗が浮かんでいる。 


「……神楽」

「大丈夫? 驚かないでね」

 彼女はそう言いながら、(しき)りに周囲を見渡していた。


「驚く? 何を……。俺は一体どうしたんだ?」

 以前入院していた部屋の筈だ。

 その入り口を見て、俺は眼を見開いた。


 入り口を守るように立つ、胴着姿の少女が眼に入ったのだ。


「至様、ご注意を」

 それは弓華の背中だ。こちらを見ずに、部屋の入り口を見たまま構えている。その手には、長大な武器が握られていた。長刀だ。


 異常なのは、その彼女の髪が真っ白だった事だ。

 昼間の陽光を受けて、それは銀色に輝いていた。


「……朝に倒れて、それで」

 俺が呟く。

「うん。みか姉ちゃんがチャイムを鳴らして教えてくれたんだよ」

「……お前、知ってるのか、彼女を」

「お兄ちゃんは忘れてたもんね。それも悪い神様のせいなのかな……? 私も、あの絵本を見るまで忘れてたけどね」

 以前神楽が、俺の机に置いてあった絵本を見て、何か考えていたのを思い出した。

「約束。覚えてる」

 神楽が夏祭りの時に、あの大樹前の舞台で呟いた言葉だ。


「約束……」

「再会の約束だよ。私はまだ小さかったからあまり覚えてないんだけど、彰お兄ちゃんは覚えてるかな……」

 そこまで言ってから、俺には聞こえない何かを呟き、そして神楽は真剣な表情で俺に改まる。

「お兄ちゃん、今の状況を説明するね」


「状況……」

 神楽は俺を守るように病室に居て、その入り口を弓華が護っているように見える。

「……何か、起きているのか?」

「うん。今朝、突然お母さんが両眼から血を流したの。すぐにお父さんが病院に連れて行くって言っていたら、外でもお兄ちゃんが倒れてた。みか姉ちゃんも手伝ってくれて、車で病院まで来たんだよ」


 母さんが……?


「フィルは?」

「お姉ちゃんは『気になる事がある』って言って、すぐに出かけちゃった。お父さんが、先生の話を聞いていたんだけど……」


 神楽がそこまで言った時、弓華が叫ぶ。


「来ます!!」


 ガンッ!! 突如響く音。部屋のドアは、いとも簡単に破られた。


 部屋から浸入してきたのは、魑魅魍魎の一体だった。


「昼間だぞ!?」

 俺が驚愕の声を上げると、弓華が長刀を横薙ぎに一閃する。

 瞬時に霧散する異形。びたりと長刀を止め、再び構えに戻る弓華。その髪は白いままだった。

 神楽は、俺に掴まりその光景に怯えていた。


「副会長も、一階にて奮戦しております。わたくしはここの守りを仰せつかりました」

 肩で息をする彼女が、そう話す。


「神楽、続きを」

 俺が慌てて言うと、神楽は頷いて続ける。


「うん。病院に落ち着いたと思ったら、何だか病院全体が変な空気になって、今の変な生き物が出てきたの。直ぐに弓ちゃんが戦ってくれて、彰お兄ちゃんも来てくれたんだけど、数が凄いみたい」

「嫌な予感がして、着替えて長刀を用意しておりました」

 弓華がそう続けた。


「正影さんは? 母さんは?」

 俺が尋ねると、神楽は潤んだ瞳で俺を見る。

「……分かんないの。彰お兄ちゃんが、任せろって、言ってくれたんだけど」


 寝ている間に、そんな状況になっていたなんて。


 病院は神社のすぐ近くだ。白草の神籬で、魑魅魍魎は近付けなかった筈だ。

 それが、この異常発生。

 窓の外を見ると、先日の学校の時のようにうじゃうじゃと芝生の上を這っている。昼間に見るこいつらは、不快感をより強いものにする。


 この病院だって、何人も入院している筈だ……。


「くれない……」

 俺が呟き眼を瞑ると、すぐ横から音が響いた感じがして視線を移す。

 ベッドの横の台の陰に、立てかけてあったようだ。その台の上に、俺の携帯電話があるのも見える。俺はそれを掴み、ポケットに突っ込んだ。

 

 くれないの鯉口を切り、弓華に並んだ。

「至様、よくぞご無事で」

「その髪は?」

「四翼本来の血によるもので、華京院の巫女は皆このようになります。『灰髪(はいぐし)』と言いまして、魑魅魍魎を前にした時に変わります」


 弓華は冷静のようだ。先日の大量発生の際も、長刀で戦ったと言っていた。


 直ぐに這って来た異形の一体。

 俺が出るのを見てか、弓華は一歩下がった。

 飛び掛る異形の腹から頭へ、切り上げて分断する。

 霧散する異形を見て、弓華は「お見事です」と言った。


「見えるんだな」 構えに戻って俺が問うと、彼女は首を振る。

「華京院は淨眼を持っておりませぬ。感じる、と言った方が良いでしょうか」


 入り口から二体同時に入ってきた魑魅魍魎を、今度は弓華がまとめて屠った。


「至様。こちらはわたくしにお任せあれ。副会長と、お父様、お母様をお願い致します」

 彼女は入り口を見詰めたまま、言う。


「……分かった」

 古い病院のため、廊下は入る光が少なく電灯が点かなければ薄暗い。

 俺は意識を集中させ神籬に包まれる。

 周囲が異常に明るく見え始めた。


「お兄ちゃん……」

 神楽の声が、背中にかかる。

「気をつけてね……」

 俺は神楽を一瞥し、そして廊下へと進み始める。



 突如考えなければならない事が増えた。

 比良坂美香穂。

 ……彼女は蛇神じゃないのか?

 幼少期に、ぽっかりと、記憶に空いた穴がある。


 意識を集中させる。神籬のお陰で、生きている人、魑魅魍魎の場所などがある程度把握出来るようになってきた。

 彰は……現在俺の真下くらいに居る。

 病院は三階建てで、その上には魑魅魍魎の気配が少ない。俺が居るのは二階だ。

 キィキィと言いながら這ってくる魑魅魍魎に、一足飛びで突きを見舞って散らした。

 幸い、この建物も内部構造は熟知しているつもりだ。

 地の利は俺にある。


 だが、俺はその考えをすぐに改めなければならなかった。


 階段をゆっくり上がってきたのは、制服に身を包んだ警官だったのだ。

 歩き方が、一目で分かる程に異様。強いて言うならば、糸で操作する操り人形。


――魅了されている。


 そして、その右手に握られている物を見て、俺は一瞬で背筋が凍りついた。


 拳銃だ。


 その眼は虚ろ。がくがくと震えるように手を持ち上げて、その手はびたりと俺の方向を向く。


 パンッ


 乾いた音が、ただ響いた。


 数々の戦いを経て、未曾有の魑魅魍魎を調伏出来て――俺は、思い上がっていたんじゃないだろうか。


 人は、簡単に命を落とす。

 その覚悟を、どこかに置いていたんじゃないだろうか。

 目の前にあるあの武器は、俺の手に握られているものは何だ。

 それらは、簡単に人の命を奪うものだ。

 俺は大馬鹿野郎か。俺は今、命のやり取りをしているんだぞ……!!


 その銃弾が俺の頬を掠め、更なる銃弾が打ち出されようとする。


 この眼で動体視力が上がっているとは言え、今の銃弾の軌跡を見る事は出来なかった。壁にめり込む銃弾。一気に変な汗が出た。


 だが、目の前の、『何者かに操られた警官』は無慈悲にも、瞬時に三回の引き金を引く。

――何の躊躇いもなく。


 息を飲む。

 だが、その時異変が起きた。

 周囲が、急に静かになったように感じた。明らかにその銃弾の動きが遅くなる。ぎゅうっと濃縮されたような空気に包まれ、俺の脳裏には昨夜の出来事が思い出された。


 そして突如耳元に響く囁き。

「コントロール完了。体感時間で四秒です」


「……!!」

 直ぐに理解し、俺は一気にその警官へと走り寄る。

 飛んでくる銃弾を目視で回避しつつ、俺はくれないを持つ手に力を込めた。


 その異様な力のみ、斬って捨てるっ……!

 強く思え――!!


 踏み抜き、構えから一気に右斜め上へと切り上げるその刃。

 警官の身体をすり抜け、くれないは『何か』を切断する。


 一滴の血も流す事無く、警官は崩れ落ちた。直ぐに、その手に握られていた拳銃を蹴り飛ばす。極度の疲労感に包まれ、俺は止まっていた呼吸を思い出した。


「はあっ……はあっ……」


 肩で、息をする。突如襲ってくる恐怖に手が震える。

 蛇の魅了は、もう一般人にまで及んでいるという事実。俺は寒気が止まらなかった。

 この国で拳銃が放たれるなんて……大事件になるだろう。


「異常は?」

 先ほどの囁きの主が、問いながら俺へと走り寄ってくる。

「……助かった、瞳、ありがとう」


 俺の目の前には、制服姿の清水瞳が立っている。

 二度目の銃弾が放たれるその刹那。

 どこからか現れた彼女が持つ、時間を遅くする能力が周囲を包んだ。

 銃弾が、まるで子供のキャッチボール程度の速さへと落ち込んだお陰で、助かったのだ。


 ……彼女が現れなかったら、死んでいたかも知れない。


「現状は把握しています。フィルセウルはすぐ近くの白草の場所に赴いています」

「あそこか。何か分かったんだろうか……。瞳、蛇神が何処にいるのか、誰なのか、分かったか?」

「それはやはり不明です、申し訳ありません。独自に、先日の魑魅魍魎の出現箇所を探ってみたのですが、分かりませんでした」

「……そうか」

「ただ、今朝の出来事は完全にレコードの記述外のものです」

 今朝の出来事。

 ……彼女の事だ。

 俺は、さっきの夢、子供の時の話を思い出す。


「……瞳、比良坂美香穂は……?」

「はい。あの絵本を、持っていましたね……」

「じゃあ、やっぱり彼女が蛇神なのか?」


 俺の問いに、瞳は顎に手を当て、暫く考え込む。


「彼女が別の町からこの町へと移動する事に全て正当な理由が存在していました。人間としての生活は確かに送られていたようです。そのヒストリーから蛇神である可能性は低いと、判断されています」


 それを聞いて、少しだけ安心する。

 蛇神は復活した。既に一般人をも巻き込み、俺を殺そうと画策している。

 だが、俺の前に突如現れた比良坂美香穂は蛇神では無かった。彼女は、約束を守っただけだ。

 ……酷い事をしてしまった。謝らなければならない。


「瞳。比良坂はどこに居るんだ?」

「この病院内に居ると予測されます。……現在佐鳴彰と行動を共にしているようですね」


 そこまで言って、俺は瞳の表情が優れない事に気が付いた。

「大丈夫です。時間のコントロール、特に限定使用に関しては多用は出来ません、それは覚えておいてください」

 心を読んだのか、彼女は直ぐにそう答える。

「……便利な力だが、万能って訳じゃなさそうだな、分かった。今みたいに操られている人は、他にいるか? 患者や従業員の被害は?」

 俺の問いに、彼女は首を左右に振る。これも、運命の外の出来事って事か……。俺は瞳の肩に手を置いて言う。

「助かった。お前は神楽と合流してくれ。弓華が居るから安心だと思う」

「貴方は、どうするのですか?」

「決まってんだろ、こいつら全部、あの世に送り返してやる」


 瞳の背中を見送ってから、俺はくれないを構えて大きく息を吐く。

 ナースステーションはどうなっているんだろう。ここの看護師達を未だ一人も見ていない。


 取り敢えずさっきの警官が持っていた拳銃を拾っておく。ずしりと重たく、異常な冷たさだった。

 まだ弾が残っているかも知れない。S&WのM37……拳銃なんて本物を見るのは初めてだ。クラスメイトの須川が拳銃マニアで、モデルガンをよく触らせて貰った。日本はニューナンブかこれが使用されている……って言ってたっけ。これの犠牲者は警察官が多く、理由はこめかみに当てやすいから……という笑えない豆知識まで披露していた。

 周囲を警戒しながらサムピースを押し下げ、シリンダーをスイングアウトして弾を取り出す。硝煙の独特の臭いが鼻についた。別々にしておけば、新しい被害者は出辛くなるはずだ。と言ってもさっきので計四発撃っている。残りは一発しか無い訳だが。

 念のため警官の脈を確認し、鼓動を確認してから俺は弾を近くのゴミ箱に、銃を廊下の窓を開けそこから落とす。

 こんなクソ重たい物を持って歩けば、日本刀の扱いに支障が出る。俺の武器はこれがいい。

 その柄の握りを確かめ、俺は通路の先を見る。

 すぐそこに、ナースステーションがあるはずだ。


 ナースステーションでは、看護師の全員が倒れていた。周囲を警戒しつつ入る。より強い消毒液の臭いがした。

 その首に手を当てるが、きちんと拍動が確認出来る。


 ……院長のタケルさんは居ないのだろうか。この事態だ、もしかして一緒に倒れているのかも知れない。


 この様子だと、患者も皆意識を失っている可能性がある。

 一体何が起きているんだ。納得の行く説明が欲しいと……心から思った。

 

 階段を下りると警官の制服が見えた。俺が倒した時と同じように倒れている。恐らく彰の仕業だろう。


 直ぐに、彰の神籬を感知する。

 俺は、階下へと叫んだ。


「彰あっ!」

「――至か!」

 遠くから、そんな声が響いた。

「今階段だ。合流するぞ!」

「そうか、分かった!」


 言いながら、俺も階段を下りていく。階段から上へと上がる魑魅魍魎が少ないのは、その殆どを彰が倒しているからなのだろう。

 神籬の質を巧みに変えて、時に跳ね除け、時に呼びつけ、自分の戦い易いように事態を組み立てている。

 俺なんかより、ずっとやつらと戦い慣れているんだ。

 

 直ぐにその背中に追いつく。彰の背後には、朝の――比良坂美香穂が、立っていた。

「あ、至君! 無事だったかー、よかった!」

 破顔する彼女。だが、予期せぬ出来事に巻き込まれた為か、額には汗が浮かんでいる。

 未だに制服姿だった。


「至、すまん彼女を頼む」

 私服姿の彰が、そう俺を見ずに言う。

「あ、彰君。大丈夫?」

「俺は大丈夫だよみかちゃん。頼む至、じいちゃんが、この病院に居るんだ」

 ……そうだった。じいちゃんは足を折ってここに入院中だ。


「俺も行くよ」

 そういう俺を、手で制す彰。

「敵の数から言って、もうそう多くはない。神楽ちゃんの話では、お前のご両親もどこかに居る筈だ。そっちを優先してくれ。俺は正直一人の方が動き易いし、単純な力で言うならお前の方が強い。彼女を護りながら外来の院長の診察室まで向かってくれ。多分お前の両親もそこだ」

 

 ……この奥か。

 俺は後ろに立っていた、比良坂へと声を掛ける。

「すまん、付いてきてくれ」

「う、うん……」


「敵は引きつけながら倒していく。お前らに危険は及ばないように何とかするよ」

「彰、そこの警官だけど、銃をぶっ放したか?」

「そうなる前に倒したよ。峰打ちだけど骨はイっただろうなぁ……。さっきの上の乾いた音は、もう一人居たって事か?」

「取り敢えず、弾と銃は別々に処理しといた。気をつけてくれ」

「そっか……そうだな」

 彰は、腰の拳銃ホルダーから銃を取り出し、俺がしたのと同じように弾を外す。

「んな、なんでそんなに慣れてるのよ……」

 比良坂が言う。

「え? 普通だよな?」

「普通だ」

 俺と彰が頷き合い答える。


「じゃあ、頼んだ。俺は二階に戻る」

 そう言う彰が、誘引の神籬を展開し、階段を駆け上がる。


 俺の横に居る、比良坂美香穂を見る。


「い、至君。大丈夫、だよね……?」

 いきなり切っ先を突きつけた事に、恐怖を覚えているようだ。

「……ごめん。俺が悪かった比良坂。俺の勘違いだった」

「う、うん。やっぱり私の事は、覚えてないかぁ」

 安心した顔と、少し寂しそうな顔を同居させて、彼女は真っ直ぐ俺の顔を見た。


「彰君からも聞いたよ。信じられないけど、あの鬼伝説が本当で、そして今、妖怪の類がそこら中に出現してる。合ってる?」

 

「概ね合ってる」

「ふーん……」

 比良坂は、俺の顔をじろじろと見る。

 目の前で見る彼女。

 さっき見た夢と同じ面影はある。髪型は大きく変わったが、その眼は確かに同じだ。

「まあいいわ。信じてあげる。ただし、条件があるわ」

「条件……?」

「一つ。私の事はせめて名前で呼んでよ。昔みたいにみかちゃんでもいいけど」

「分かった……」

 全く覚えてない人をいきなりみかちゃん呼ばわりは避けたい。

「二つ。約束、覚えてないんだったら説明するから、今度時間取って貰うよ」

 指を立てながら言う彼女。ちょっと怒ってるのか、眉が釣り上がっている。

 意地でも思い出さねばいかん約束のようだ。


「それも分かった」

「それでチャラ! 行こう、おじさんもおばさんも待ってるよきっと」

 そう言って彼女――美香穂がにぱっと笑う。


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