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くれないのうた  作者: げんめい
第四章~流転 対のメビウス~
27/43

     黄泉②★

挿絵があります。お嫌いな方はオフにしていただきたいと思います。


「新堂。今朝、兜屋炎児の死亡が報道された」

 唐突に、美雨音が言う。

「え……ええっ?」

 俺が驚いて立ち上がると、彼は淡々と続ける。


「自殺らしい。何か意味不明な事を叫んで、頭を壁に打ち付けたそうだ。あと、この町中で発生した謎の事件で、町の外は報道陣だらけだぞ」

 彼が言うには、昨晩この町で謎の傷害事件、窓やドアの破壊、交通事故が多発したらしい。


 ……昨日大量に発生した、魑魅魍魎の仕業に違いない。町にもそんなに影響が出ていたって事か。

 と、言う事は、恐らく学校の被害も、それと同じものとして取り扱われるだろう。

 奇しくも警察の追及は逃れられるかも知れないが、釈然としない感じがした。


「続けよう。昨夜、お前がその能力……水や火を使ったであろうその時、僕も奇妙な喪失感に襲われた。それは僕の力だ! 突然そう叫びたくなったんだ。もし僕に『水の精霊(ウィンディーネ)』の力が残っていなかったら、あるいは自殺をしていたかもしれないな」

「……じゃあ、兜屋はそれで?」

「わからない。あくまで可能性の一つだ」


 心が、黒くなっていく感じを受けた。神楽の表情も硬くなっている。つまり、俺があの力に目覚めたがために、兜屋は死んだかも知れないんだ。

 

 眼を瞑る。

 他人の事なんか、どうでもいい筈なのに。

 あいつは、神楽の命を一度奪ったというのに。

 何もかもを飲み込み、俺は強くなったつもりでいた。

 だが、自分に関わった人間の――死。

 それがこんなにも、重く、黒く、真綿のように自分の心を締め上げていく。

 俺は神楽を見る。

 潤んだ瞳で俺を見上げる彼女。神楽も俺と同じ気持ちを抱いているに違いない。もし、本当に彼女を失っていたら俺は――俺の心は、無事でいられたというのだろうか。


 ……だが。

 それでも俺はこの力を使いこなさなければならない。全ては、蛇神を止めるためにだ。


 瞳の前で俺は言ったんだ。自分の命は、惜しくないと。

 それは、そうありたいという俺の希望。本当の俺の気持ちだったと思う

 俺は美雨音を見てから、ハッキリと告げる。

「美雨音。悪いけど、この力は……使わせてもらう。間違った使い方は絶対にしない。いいよな?」


「ああ。もう僕のものではない。だが、多用はするな。今の話しだと、その力を使い続ければお前は……」

「ああ」

 俺の精神が、壊れるかも知れない。美雨音は、神妙な顔で続ける。

「だが、すまない。出来れば……蛇神を倒して欲しい。沢山の人が死んだ。僕もその原因の一つだ。そうしなければ、僕も進めないんだ」


 キャスケット帽を脱ぎ、彼は眼を閉じて頭を下げる。

「……安心しろ、約束する」

 俺の声を受けて、彼は僅かだが微笑んだ。


 菊池さんも心配だ……と考えて、そう言えばあの風使いの事を忘れていた事に気付いた。


「フィル、あの風使い……風鳴はどうなったんだ?」

「ああ、あのあと、ぬしを吹き飛ばした風の塊はわしが滅した。人間の方は気を失っておったがな、引きずって道路に捨て置いたらパトカアが来て拾っていきおったわ」

「そうか……生きてはいるんだな?」

「うむ、問題はなかろう」

 少し、安心する。


 フィルはその後、残る二箇所に散らした自らの力を吸収し、千里眼で俺の無事を確認したあと、一度白草の所へ向かったらしい。


「あれだけ魑魅魍魎が発生したからの、どこかに穴が開いたと思うたのじゃ」

「穴……。鬼様、それは」

 弓華の問いに、フィルは頷いて答える。

「うむ、黄泉(こうせん)じゃ。魑魅魍魎があふれ出る場所など、各地に散らばる黄泉への入り口しか考えられん。他の場所はその地の『神』がそれをはばんでおるが、今のこの地はそうもいかんでな。白草と共にそれを探ったのだが、(つい)ぞ見当たらなかった」


 町中が神籬(ひもろぎ)で包まれたあの瞬間の事だろう。


「なら何故、あれだけの魑魅魍魎が発生したってんだ?」

 酷い量だった。思い出すのも嫌なくらいの、夥しい数の異形たち。

 あいつらがどのように出現し、何を目的としているのか。昨日の戦いの最中では何だかどうでも良くなってしまっていたが、それは突き止めておきたい。フィルの言葉を待つ。


「わからぬ。信心、すなわち神力の多い所には魑魅魍魎は少ないと聞く。わしよりも、ふつまの少年の方が詳しいかも知れぬな」


 祓魔の少年――彰の事だ。あれだけの量が発生した事は無いと言っていた。じいちゃんなら知っているだろうか。

 タケルさんに俺の幼少期の話しを聞かねばならない事も含めて、一度は病院へ行かねばいけないようだ。


 そうして、重い空気のまま晩飯が終了する。


 食事の味はあまり分からなかった。


 蛇神の動向が分からない以上、どういう対策も立てようがないのが事実だ。

 幸い明日から夏休みに入る。学校に行っているよりは時間も取れるし、家族の動向も分かり易いだろう。


 だがいくら時間があっても、それが準備に足りるのか分からないもどかしさがある。

 瞳や彰も、凛子さんも交えてきちんと話し合わなければならない。

 何か解決の糸口が見つかればいいけど……。


 食器を片付け、俺は和室へ戻りくれないを掴んだ。そのまま自室へと上がる。


 机の上に、俺の携帯電話が置いてあった。一枚のメモも付随している。

 どうやら美雨音が見つけてくれていたらしい。助かる。高い所から落としたのではないようで、ヒビなどは見られない。問題なく電源も入っている。


 見ると、着信が何件もあった。美雨音のものから始まり、今日の昼過ぎになってから彰、知らない番号から数件、と続いている。


 直近で掛かってきていた知らない番号に、リダイヤルをしてみる。

 すぐに出た人物は、凛子さんだった。


「至か? 無事か? 怪我はないか? その後の様子はどうだ?」

 矢継ぎ早に話し掛けてくるので、返事をするタイミングが見当たらなかった。言葉が切れたタイミングで、自分の言葉をねじ込んだ。

「大丈夫です、凛子さん、心配かけてすみません」

「良かった……君が意識を失った時は、心臓が止まるかと思ったぞ」

 彼女はそう言うと、一瞬黙り込んでしまった。

「すみません、運んでくれてありがとうございました。足は大丈夫ですか?」

「礼を言うのは、こっちの方だ……。ああ、足は心配ない。義足はちょっと古いものを無理やり使用していったよ。夏休み中に新調する。気にしないでくれ。君は今日休んだからな、終業式の事を教えておこうと思ったんだ」


 凛子さんが言うには、警察は町中の被害が大きすぎて、学校の被害は確認のみに留まったらしい。彼女は「最後まで残っていたのは自分だったが、説明の付かぬ事態であった」と伝え、それに教師陣は全員が納得したとの事だった。

 町に被害が出た故に、こちらに余計な容疑が掛からなかった。不幸中の幸いとは正にこの事だ。


「それ以外の被害は少ない。生徒にけが人も出なかった。君のクラスに季節はずれの転入生が来たくらいだが、明日から夏休みだし余り関係ない話だろう」

「この時期に転入か……大変ですねそりゃ……」

「あ、あとだな、ええと」

 突然、彼女の口調が途切れ始めた。

「?」

「と、突然あんなことして、ごめん」

 そんな事を話し出す。

 あの突然のキスを思い出して、俺は顔が熱くなるのを感じた。

「君の気持ちを無視していた。本当に、ごめんなさい」

 彼女らしからぬ口調。

 ……くそ、可愛いな。

「いえ、何ていうかその、けして嫌な事なんて無くてですね、むしろ嬉しかったというか」

 俺もしどろもどろになって返す。

「う、嬉しかった? 本当か?」

「むしろ俺なんかが、貴女の唇を奪うなんてのは、もうなんていうか逆に申し訳ないというか」

 そんな事を言うと、彼女が声を荒げた。

「君は私のヒーローだ! そんな事を言うな!」

「ええっ」

「あああ、いや、私もどうかしてる。今まで恋愛経験なんて皆無でな、その、どうしていいか分からないんだ」

「そ、そうですか」

「……」

「……」


 暫く押し黙ってしまう二人。気まずい。


「と、兎に角! 事態が収束したら、改めて決着を付けさせてもらうからな!」

「は、はい」

 彼女の迫力に押されて、ついそんな返事をしてしまった。

「私の知識も君の役に立てれば嬉しい。また君の家に行くよ」

「……分かりました。番号は登録しておきます。彰にも声をかけておきますので、その際は宜しくお願いします」

「もちろんだ。ああ、華京院が君の家に居候する話しは聞いている。手を出してもいいが、佐鳴も狙っている筈だ、あまり喧嘩になるような事はするなよ?」

 手は出してもいいんだ?


「連絡待ってる」

 そう言い残して、彼女は電話を切ってしまった。


 何だかどっと疲労感が押し寄せて来て、俺はベッドに倒れこんだ。

 凛子さんの電話の向こうのころころ変わる表情を想像して、悶え転がってしまった。


「至様!」

 すぐに自室のドアがノックされて現実に引き戻される。今の声は弓華のものだろう。


「宜しいですか? お風呂のご用意が出来ました」

 そう言いながら、ドアを開ける彼女。

「あ、ああ」

「あら、お顔が赤くなっております、お熱でも……?」

 そういうと彼女は、躊躇なく顔を俺の額に近付けて来た。

「うおお、何!?」

「お熱を測ろうと思いまして」

 額と額を合わせるあれか?


「だっ、だめえええ!」

 突如、神楽の叫びが聞こえた。

「キ、キスしようとしてたでしょ! 弓ちゃん! お兄ちゃんに近付かないでよぉ!」

「む! 神楽さん! 邪魔しないでください!」

挿絵(By みてみん)

「いきなり出てきたくせに変な事しないでよ! お兄ちゃんは私に待っててくれって言ったの! お兄ちゃんは惑わされないんだから!」

「なっ! わたくしはもう至様に全てを見せているんです! とっても深い仲なんです!」

「ぐぬぬ……わ、私だって一緒にお風呂入ったし……!」


 聞いてるこっちが恥ずかしくなるわ!

 なんて(かしま)しさだ。


「……神楽、弓華、取り合えず出てってくれ」

 俺はそう言うと、布団へ倒れこんだ。

 疲労感がピークだ。丸一日寝ていたそうだが、まだ眠り足りないのだろうか。

 

 俺は、電気も消せずに布団の中で急激に眠りに落ちてしまった。

 神楽と弓華の繰り出す喧騒ももう、子守唄にしか聞こえない。





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