表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
くれないのうた  作者: げんめい
第三章~特異点 惹かれあう者達~
25/43

     瞳子の自我②

 その異音は、続いていた。周囲を見渡すが何かが居る訳ではない。その聞いた事の無い不気味な声に、俺は耳を塞ぎたくなる。


 終末。つまり世界が終わるって事だ。戦争でも、天変地異でもない。蛇神の出現が、徹底的に何かを壊してしまう。そういう事なんだ。


「……瞳。どうしてそんな話を俺に?」

 俺は彼女を見て、単刀直入に尋ねる。彼女は、俺の眼をじっと見詰める。その両手はスカートを握り、言うべきか、言わぬべきか躊躇しているように思えた。

 少しの沈黙の後彼女は口を開く。


「……貴方は、違うと思いました」

「違うって……何が」

「今までに出現した者達と、違うんです。蛇神が出現する度に、貴方のような説明のつかぬ力を持った人が現れました。都度、そういう力に蛇神は消滅させられてきました」


「……俺の力は、その為に生まれたのか?」

「はい。恐らくは。逆を言えば、蛇神が貴方を求めるために、出現しているとも言えます。蛇神に関わる事はレコードに記載されていません。なので、断定が出来ませんが……ですが、貴方は……命を落とすでしょう。それが今まで、三千回。延々と、繰り返されてきたのです」


 瞳は、眼を伏せて下を向く。


 俺は、死ぬ。目の前の人物が、ハッキリとそう告げた。

 運命は(あらかじ)め決まっている。彼女はそうも告げた。レコードの存在が本当ならば。つまり、俺が死ぬ事は変えようのない事実なんだ。

 目の前が、暗くなるのを感じた。

 だが、すぐに俺はくれないを握る手に、力を込めてその刀身を見詰めた。


――こいつは、運命の外だ。まだ、足掻く時間は、ある筈だ。

 


「私がお伝え出来る情報は、以上です」

 そう言うと彼女は、踵を返して校門へと歩き始める。


「ちょっと待った」

 俺はその背中に声を掛けた。

「?」

「お前は何故俺にそれを伝えた? 独断で動いているって、最初に言ってたよな」

「……先ほどもお話しました。貴方が今までの者と違うから、と」

「そうじゃない」

 俺がそう言うと、彼女は口を噤んだ。俺は続ける。


「俺に鬼の情報をくれたのも、この町の郷土史を貸してくれたのも、何か目的があったんだろ? それもフェインとやらの差し金か?」


 俺の問いに、瞳はゆっくりと首を左右に振った。


「最初は、単なる興味。貴方が夢に悩まされている時に、奇妙な精神フィールドが展開されていたのを感知したのがはじまり。そして兜屋炎児との戦いの後の、あなたに宿った不思議な力を感知して、フェインは貴方を特異点と認定した」

「俺が学校再開して、すぐに近付いて来たのはそのためか」

「そう。兜屋との接触後、何故か鬼を調べ始めた貴方に興味がわいたの。だから、手伝ってみたくなった。ただ、それだけの筈……でした」

「興味……それだけが理由だったのか?」

「貴方の手にアレが出現するまで、貴方はただの特異点だった。蛇神の異能者との接触を続けるうちに、徐々にエネルギーの揺らぎは増大しました。まさか、貴方が対のメビウスだなんて、思わなかったから」


 彼女は俺の方を向かぬまま、そう続けた。

 対のメビウス。蛇神を滅する者。片割れ。今の俺は、瞳や別世界の誰かからそういうものに認定されているってことか。


 別の次元の監視者に芽生えた自我……って所か。

 ふと思った。こいつは本当の任務を抱えたまま、一体どれくらいこんな事を繰り返してきたんだろう。


「お前はさ、どうなるんだよ。俺には秘密にしなきゃいけない事だったんじゃないのか?」

「……それが貴方に関係ありますか?」

「いいから答えろよ。お前はもしかしてその、フェインだっけ? に怒られたりしねえのかな、って思ったんだよ」


「全てを報告すれば、貴方の監視任務はこれで終了するでしょう。私はまた時空の狭間に消えていきます」


「そうか。だったら少し待ってくれ。俺も一緒に言い訳してやるから、まだ行くなよ?」


 瞳はやっとこっちを向く。その眼は、驚きに満ちていた。

「私の心配をしているのですか?」

「ん? まあそんなとこかな」


「貴方は、もっと冷酷な人だと思っていましたが……」

「え、何でだよ」

「時任美雨音との戦いの時に、言っていました」


 自分が何か言ったかと思って記憶の底を探ってみる。


 ……ああ、美雨音に、お前の親の事なんか知らないって、確かに言ってたかも知れない。


「いや、そりゃあ……悪いけど、見ず知らずの人間がどうなろうと俺は知らない。別にどうでもいい」

 それを言うなら、世界中の子供達が飢えていたり、子供が銃を持つ世界だってあるだろ? 俺はそんなことまで杞憂するような、慈愛に満ちた人間じゃない。


「では、何故私の心配を?」

「え? だって友達だろ?」


 そう言うと瞳は、眼を見開いた。

「今の話を聞いて、何故未だ友達だと思うのですか」

「今の話を聞いて、なんでお前を嫌うと思ったんだよ」

 俺は逆に、聞き返してしまった。

「そ、それは……」


「お前は、どうしたいんだ」


 ずっと疑問だった質問を、ぶつける。

 俺に突然近付いて、朝迎えに来るわ、妹を無表情で挑発するわ。すげえ変なヤツだったけど、何だか憎めなかった。

 ずっと自分の役割をこなしてきたんだろう。さっきの話しを聞く限り、蛇神が最初に出現してからその消滅までの二千九百九十九回。全て見詰めて来たのかもしれない。俺が同じ役割なら――葛藤の連続だ。


「……私は」

 彼女は、一回言葉を切ると、俺の眼を見詰めて言う。

「私は、観測と報告が任務です。それ以上の事はありません」

 そう、いつになくハッキリとそう告げる。 


「……倒せばいいんだろ? 蛇神を。今度は、もう起きて来れないように完璧に、だよな?」

「それは不可能です」

 彼女の表情が、険しくなる。

「やってみなけりゃわかんねえだろ。俺に握られているものは何だ? お前もよく分からん力を秘めた物なんだろ? やってやるよ。俺は、心底腹が立ってるんだ」

 

「――怖く、無いのですか?」

 彼女の問いに、俺は迷いなく頷く。


「何が、貴方を動かすと言うの……?」


 その問いを受けて、俺は少し考え込む。


 そして、答えた。



 俺の言葉を、彼女は黙って聞いていた。

 俺の言葉が終わると、彼女は毒気を抜かれたような表情で、呟く。


「……そんな、理由で?」


「え? 命を賭けるには、十分な理由だろ?」


「ぷっ……くくく……」


 突然、堪えきれない笑いを噴出す瞳。


「あっはっはっは!! 貴方、変! 絶対に変!」


「な、何だよ……」


「貴方、最初から全然ブレて無かったのね」


「悪かったな、単純なんだよ俺は」


 俺は少し恥ずかしくなって、横を向く。だが、彼女を見て、続けた。

「そんな笑い方も、出来るんだな」


 そう言うと彼女は慌てて、最初の真顔に戻る。そして口を開いた。


「……ですが、私の独断でここまで情報を開示してしまった事を、フェインは許さないでしょう。ファイタルフェインはそういう人格です」


「アホ。報告しなきゃいいんだよ」

「……え?」

「まあ、バレたら一緒に謝ってやる。安心しろ」

「……本当に、変な人ですね」

「褒め言葉だよな?」


 瞳が指をパチンと鳴らす。

 一気に周囲の風が動き始めた。時間が、動き出したようだ。

 倒れていた彰と、凛子さんが頭を振りながら周囲の様子を伺っている。


 見ると、周りにはまだ沢山の魑魅魍魎が蠢いていた。


「ああ、最初の目的を忘れる所だった、瞳、彰の体力を回復させたり出来ねえか?」

「無理です」

「時間を戻したり出来ないのかよ」

「それは不可能です。私に出来るのは、時間に関わる素粒子の速度をコントロールするだけです。それはエントロピーによって絶えず一方向へ流れ続けており、逆行させる事は出来ません。それに私の力はとても小さいので……」

「わかんねえ」

「今から数百年後の概念です。今理解出来たらノーベル賞ものです」


 彼女は、俺からすっと離れて笑顔を向けた。


「新堂至。一緒に、謝ってくださいね」

「おう、約束してやる。ここは危ないから行けよ」

「うん」

 そう言った表情は、いつもの清水瞳だった。彼女は、何も言わずに校庭の奥へと走っていく。魑魅魍魎は、彼女を標的にはしなかった。


 俺は息を吸い込む。

 眼を見開き、そして神籬を展開させた。

 くれないに意識を集中させると、眼が熱くなると同時に再び刀身に炎が纏われた。……コントロール出来る。


 俺は叫んだ。

「彰!」

「お、おう」

 彼が立ち上がり、そして俺の隣へと走ってくる。


「凛子さんを、車まで誘導するぞ。肩貸してやってくれ」

「分かった、お前は、大丈夫か? しかし何だその力は……?」

「後で説明する、一刻を争う。キツイだろうけど、俺もやる、一緒に頑張ってくれ」

「ああ、分かってる」


「……大丈夫なのか、至」

 凛子さんの声を受け、頷く。そして俺は二人へと話した。


「今回の一連の事件で、分かった事がいくつもある。これが終わったら俺の家に集合だ。とりあえず凛子さんは車へ、乗ったら少し離れた所へ走ってください。今度は、貴女を襲うような事は無いと思います」

 俺が指差したその先のフェンスの向こうに、デカイ車が止まっているのが見える。

 凛子さんもそれを見てから、俺にゆっくり頷いてから口を開いた。

「……分かった。佐鳴、頼む」

「はい」


 くれないの炎を恐れてか、魑魅魍魎は俺に近付いて来ない。遠巻きに俺たちを取り囲んでいる。

 こいつらの大量発生の原因は、瞳は話さなかったな。後でフィルの意見も聞かなければならない。彼女は無事だろうか……。


 彰は神籬を展開し、凛子さんの家の運転手に気付かれないように、凛子さんを車まで送り届ける。


「中は安全な筈です、俺達が離れたらすぐに乗って離れてください」

「ああ、君たちは、どうする?」

「俺と彰が何故学校に来たか、忘れてましたよ」

 俺は笑いながら答える。


「あ、そういやそうだったな、まだ一仕事残ってた」

 肩で息をする彰が思い出したように屋上を見上げた。


「こいつら全員、お仕置きしてやります、そこで見ててください」


 俺が笑うと、彼女は少し驚いた顔をしたあと、車の窓を開けて真剣な顔を向ける。


「……気をつけて。至、ちょっと顔を貸せ」

「?」


 俺が彼女に顔を近付けると、いきなり胸倉を掴まれて――彼女の唇が、俺の口に触れた。


「ちょっ」

 俺が慌てて離れると、彼女は顔を真っ赤にして窓を閉めてしまう。

「負けたら許さないぞ!」

 そう叫んだ。


「……分かってる、神楽ちゃんには言わねえよ」

 彰が、ぼそっと呟いた。

 小さく裏切り者め、とも。


「い、行くぞ彰。大丈夫か?」

「ああ、何だか身体が軽くなった――行こう、俺とお前なら、出来る!!」


 頷き、そして再び俺達は校舎へと走る。


 今度は一気に駆け抜けた。

 彰は一度神籬を解くと、今度は違う雰囲気の空間を発生させた。神籬には違いないが、今度は威嚇、挑発と言う様な、ザラザラとして言いようの無い感覚が周囲を包み、近くに居た魑魅魍魎全てがこちらへと走ってくるのが分かった。……誘っているんだ。


 さっき鍵を開けたスライドドアを開け、一気に廊下を走る。

 飛び掛る異形どもを一撃で切り伏せながら、俺達は屋上を目指した。


 一気に四階分の階段を駆け上がり、屋上に至るドアへと近付く。心臓は凄まじい勢いで鼓動し、校舎の暑さで汗が流れ落ちていく。

 その踊り場で、数秒だけ息を落ち着かせる。


 見ると、そのドアは施錠してあった。

「どうする?」

「任せとけ」

 彰はそう呟くと、ガコンと音が響いた。

「おい副会長」

「緊急事態だ、言うなよ?」


 ドアノブを、ぶっ壊しやがった。


 ドアを蹴り、突入する屋上。

 そこにはまだ異形はおらず、俺達を追ってきた連中が徐々に屋上を埋め尽くしていく。


「神籬の質、って言ってたな、彰」

「ああ。呼び寄せればいい。考えろ」


――来い。俺達はここだ。

 俺はそう、頭の中で考える。

 神籬の色が変わる。さっきとは比べ物にならぬ速度で、魑魅魍魎が屋上へと集まり始めた。


 ぞわぞわと蠢くさまざまな形をした異形が、一気にこの場を埋め尽くす。屋上から落ちて絶命する者もいた。


 俺は再び刀身に炎をまとわせる。

 その力を見ると、異形はすぐに襲っては来ないようだ。


「……うわーすげえ数だな、きもちわりい」

「だが、これを一掃出来れば、暫くは安泰だろう」


 彰はそう言いながら、いつもの構えを取る。そしてニヤリと笑って、彼は俺にこう告げた。


「一回やってみたかったんだ。合わせろよ」

 そう言うと、彼は大きく息を吸い込み、そして叫んだ。


「――祓魔翼神(ふつまよくしん)流、佐鳴彰!!」

 ニッと笑って、俺を見る彰。


「お、いいねえ……テンション上がるねえ」

 俺は答えながら、水月の構えを取って、同じように叫ぶ。


「――祓魔翼神流!! 新堂至!!」


「参る!!」二人の声が重なる。


 互いに別方向へ、飛び掛る。突き、凪ぎ、一歩踏み返して立ち位置を入れ替える。

 何度も、何度も練習した型。流れるように回転し、それはまるで踊っているかのようだ。


 そうだ、剣舞だ。歯車がかっちり噛み合ったような、自然な動き。

 二人とも真剣でやっているにも関わらず、躊躇も何もない。身体がそれを覚えている。


 周囲の三十体程を倒し、彰は背後で俺に言う。


「じいちゃんはさ」

「ああ」

「必ずお前が戻ってくるって言ってたんだ。あいつには才がある。剣は、あらかじめ通り道が決まっておる。あやつの道もまた、決まってるってな」

「……じいちゃん、容態はどうなんだ」

「足を怪我したが、大丈夫の筈だ。見舞い、来てくれよな、きっと喜ぶ」

「ああ、必ず行く」


 俺は、刀を正眼に構え、意識を集中させる。

 炎。氷。水。恐らく風も。これらを使う事に代償があるのかどうか分からない。異能者達が使っていた時と、俺が使っている方法も全く異なっている。

 だが、来るべく蛇神との戦いに向けて、俺はこの力を使いこなさなければならない。


 炎を出した刀身に、風をイメージする。

 上がれ。燃え上がれ。全てを焼き尽くせ。頭に思い描くと、俺の眼がどんどん熱くなるのを感じた。


 その炎は風に煽られて徐々に大きくなり、巨大な火柱になった。その炎は回転し、刀身を中心に渦を描いている。


「うおおぉお、すげえ」

 彰が驚き、魑魅魍魎が後ずさる。こいつらはこの力を恐れている!


「行けええええ!!」


 俺は一歩踏み抜き、それを真横に凪いだ。

 狙った方向全ての魑魅魍魎が、一瞬で焼き尽くされた。

 すぐに煙か、水蒸気のようなものになって消えていく。一気にその場に居た半分が片付いた。それでも階段からは、次から次と沸いてくる。だが、全く恐怖心はない。


 まるでいつまでも戦い続けられるような奇妙な自信と高揚感。戦え。戦え! この力がそう叫んでいるかのようだ。こいつらがどうやって発生しているのか、何故出現するのか。もうそんな事は考えていなかった。

 飛び掛る者を風で吹き飛ばし、逃げる異形の足元を凍りつかせ、その頭に燃える刀身を振り下ろす。集まってはその命を散らせる炎に魅入られた蛾のように。その命は次々と潰えていった。


「――いたる!!」


 突如上空から声が聞こえ、俺は空を見上げた。


 空から、ポニーテールの金髪美女が突如振ってきた。


「――フィル!!」


 どしん、と屋上が揺れ、彼女の足元のコンクリが抉れた。

 一体どんな高さから飛んできたというのだろう。


「すまぬ、無事じゃな?」

「ああ、そっちは?」

「全ての力を集めておった。ぬしが無事だと分かっていたからの、すまぬ、後回しにしておった」

「いいよ。全員無事だ」


 フィルは彰の方を見る。

「……ふつま、じゃな? 理由は後じゃ、心せよ」


「大体飲み込んでますよ、貴女が千年坂の鬼ですね。成る程……怖くない」

 彰はそう言って構える。


 背中合わせで、三人が周囲を見渡す。

 異形は全く数が減る気配がない。次から次と、屋上へと入るドアからあふれ出てきている。


「いたる、ふつま。良いか、ひもろぎを出して、こいつらを滅する事だけを考えよ」

「何か手があるのか?」

「ある。ぬしら次第じゃ」


 俺と彰が同時に目を瞑る。

「良いぞ、おもえ。つよくおもえ。壁をつくるのじゃ」


 俺の眼には、彰の神籬と合わさってどんどん濃い空間が発生しているのが分かる。


「良いぞ。――白草!!」


 フィルが叫ぶと、再びあの大樹から、強い力を感じた。


 それと同時に、フィルが手を翳す。突如、屋上が眩い光に包まれた。


「くっ……!」

 俺も彰も、眼を開けていられない。

 手で眼を隠すと、数秒で――光は収束した。



「……魑魅魍魎が、いない」

 彰の呟きが聞こえる。見ると、一匹も残っていない。綺麗さっぱり、その場から消滅してしまっていたのだ。


 煙のような残滓が残り、それもやがて消えてしまった。どうやら全て、倒せたらしい。


 フィルはその光景を、笑いながら見ている。

「みごとじゃ。白草の慈愛の光じゃ。わしで増幅し反射させ、ひもろぎの中で一気にドカンじゃ」

 そう言いながら両手を持ち上げる。どこで覚えたんだそのリアクションは。


 屋上から町を見下ろすと、そこら中にいた魑魅魍魎が居なくなっていた。


 フェンスの向こうに、車から降りた凛子さんが見える。


 俺はそれに手を振り、振り返った。


「フィル、彰。一回俺の家に行こう。蛇神が、近くに出現したらしい」


「なんじゃと……?」

 フィルが険しい表情を向けた。

「分かった。少し情報を整理しないとな」

 彰が日本刀を鞘に戻し、そして俺に並ぶ。

「ふー、ヤバかったぁー」

 彰はそんな事を言う。そして俺を見て、ニッと笑ってこう続けた。


「ようこそ、バイオレンスの世界へ」

「眼鏡があったらべったり指紋を付けてるとこだぜ」


 拳を、互いにコツンとぶつけ合う。


 終業式を明日に控えた夜。俺達の戦いは、一先ずの終着を迎えた。




  ◆



「レンズからフィルムへ」

「   」

「特異点に異常はありません。メビウスは先ほどの報告通り、発生したと思われます」

「   」

「いえ、対のメビウスに特に変わった事はありませんでした。アンノウンの動向も含め、観測を続けます」

「   」

「分かっています。ですが、その件につきましてレコードの開示を要求します」

「   」

「それは……知りたいのです。ダメでしょうか」

「   」

「……了解しました」



 少女は、唇を噛んだ。

「……私に何が出来るって言うの」


 そう、彼女は一人ごちる。


 そして、走り出した。右手にはカメラ。彼女は千年坂を目指す。



  ◆


感想などお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ