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二つのハロウィン――トリックアンドトリート

作者: フィーカス
掲載日:2012/10/31

「My Possessed Day~彼女に取り憑かれた日」のハロウィンでのひとコマ。

本編を読んでもらったほうがキャラの特徴がつかめると思うのですが、読んでいなくても何とかわかるようにしているつもりです。

「トリックアンドトリート!」

 終業のホームルームが終わった直後、佐渡明さどあきらは、帰り支度を始めた彦野亜留ひこのあるに、肩を叩きながらそう言った。

「明、突然何をするんだよ」

 亜留は不機嫌そうに席を立った。

「何言ってるんだ。今日はハロウィンだぜ?」

「ああ、そういえばそうだね。ところでハロウィンならTrickおかしをくれ orなきゃ Treatいたずらするぞじゃないか?」

 亜留が教室から出て行こうとすると、明も後を付いていく。

「いつもそれじゃ面白く無いじゃないか。だからTrickおかしも andもらうし Treatいたずらもするぞなんだよ。欲張らなくちゃ!」

「あぁ、こういう奴にはお菓子はあげたくないし、いたずらしてきたらフルボッコしたくなるな」

 はぁ、と一つため息を漏らし、亜留は教室を出た。



 放課後もがやがやと賑わう教室を出ると、廊下は数人の生徒が帰り道や部活へ向かっていくのが見えた。

 途中、ホームルームが終わったのか、ガラガラと椅子を引きずる音が隣の教室から聞こえた。

「お、天川だ。おーい」

 明が声を掛けた先には、亜留の幼馴染の天川沙織てんかわさおりが、別の女友達と話している姿があった。

「あ、亜留君、佐渡君」

 亜留たちに気が付いた沙織は、話していた女友達と別れ、亜留たちの元に向かった。

「ほら、亜留、ハロウィンなんだから、さっきの言葉、天川に言ってやれよ」

「何で俺なんだよ。お前が言えばいいだろ?

「俺が言っても面白く無いからさ。ささ、早く」

 何故か明は亜留の背中を押す。

 なにやら怪しい雰囲気に、沙織は首をかしげる。

「や、やぁ、沙織。えっと……」

 不思議な顔をする沙織に、言葉が詰まる亜留。だが、思い切って声を出す。


「と、トリックアンドトリート!」

「な……」


 何故か驚いた顔をした沙織は、急に怒り顔に変化していく。

「と、『幼女誘拐トリックからのアンド接触行為トリート』ですって!? 亜留君、ついにえっちが度を越して変態になったのですか?」

「何だよその曲解しすぎた妙な解釈は」

 ぷんすか怒っている沙織と謎の解釈で誤解を量産している亜留を尻目に、明は後ろを向いて笑いをこらえている。



 玄関に向かう途中も、亜留は必死に誤解を解こうとしていた。

「だから、何でそういう意味になるのさ。僕は明にそう言えといわれただけで……」

「亜留君のえっちのオーラが、人々の思考をマイナスに換えるんです!」

 何故かさらに誤解を量産する亜留。さらに笑いをこらえるのに必死の明。


「あ、重菜ちゃん、今帰り?」

 玄関にたどり着くと、ちょうど靴を履き替えるところの船出重菜ふなでしげなと出会った。

「あ、彦野君に沙織、それに明君、みんなも今から帰るの?」

 三人に気が付くと、重菜はにこりと笑顔を返す。

 が、亜留と沙織が言い争っているのを見て、少々あせりを感じた。

「ほら、亜留、重菜ちゃんにも言ってみなよ」

「いや、船出さんにこそ明が言うべきだろ」 

 こそこそ言い合う二人。後ろでは謎の怒り心頭の沙織、前には何やってるんだろう、と不思議がる顔をした重菜。

「やれやれ、俺が言ったときの顛末がどうなるか、とりあえず見ておけ」

 そう言うと、明は重菜に向かって言った。


「やあ重菜ちゃん、トリックアンドトリート!」


 重菜は一瞬不思議な顔をしたが、すぐに反応した。


「あ、えっと、明君、トリックオアトリート!」


 重菜は顔で「明君、間違ってるよ」と伝える。それを感じ取り、明は「なっ」と亜留につぶやいた。

「まあ、重菜ちゃんはこういう反応だから、多分大丈夫だ」

「お前の目的はわからんが、言って気が済むなら言ってやるよ」

 あまり気が進まないという感じで、亜留は重菜のほうに向かう。相変わらず、重菜は何がやりたいんだかわからない様子である。


「えっと、船出さん、その、トリックアンドトリート!」

「えっ……」


 亜留が話すと、重菜は驚いた顔を見せると同時に、何故か徐々に顔が赤くなっていった。

「え、えっと、あの、こんなところで『愛という名トリックの罠でアンドかわいがってあげるトリート』って言われても、その、何て返せばいいか……」

 重菜は恥ずかしがって俯いてしまった。じっと見ていると、頭から湯気が見えそうなほどである。

「ちょ、あ、亜留君、重菜をかわいがるって、一体どういうことですか!?」

「いや、何で今度はそういう解釈になるんだよ」

 後ろでは相変わらず明が笑いをこらえるのに必死になっていた。



 校門辺りには数人の生徒が誰かと待ち合わせをしている姿が見られた。

 しかし、大半はそのまま校門を通り過ぎ、家路についている。

 暖かい日差しに冷たい風。秋という季節は全く良くわからないものだ。

「よし、今日は甘いものでも食べに行こうぜ!」

 少し離れた自転車置き場にたどり着いた瞬間、明が突然提案を上げた。

「甘いもの? いいわね、行きましょ」

「そうね、たまにはえっちな亜留君にも役に立ってもらわないと」

 沙織と重菜は、明の提案に乗り気である。

「お前も甘いものが好きだよな。またあそこか? えっと、ミルキーウェイ?」

「違う違う、ミルキーキャニオン。ケーキがおいしいので有名なんだぜ」

「単に行きつけの店なだけだろ。とりあえず、センタータウンに向かおうか」

 明が自転車に乗ってこぎ始めると、他の四人も後についていった。



 星海せいかい市星海センタータウンは、スーパーや専門店が集合したショッピングタウンである。

 ほとんどの品物がここに集結しているため、星海市の住人の買い物はほとんどこの場所で行われる。

 特に一番大きなデパートは、夕方になると夕食の買い物に来る主婦で賑わっていた。

 そのデパートの近くに、小さな喫茶店、「喫茶 ミルキーキャニオン」はある。

 デパートの駐輪場に自転車を止めた四人は、その小さな喫茶店に向かった。

 看板にはオススメメニューと、「ハロウィン企画」というものが書かれていたが、大して読む暇も無く、四人は店内に入った。


「いらっしゃいませ、あら明君、いらっしゃい」

「こんにちは、今日は友達をつれてきました」

 四十代くらいの店員が出迎えると、「こちらにどうぞ」と窓際の四人席に亜留たちを案内した。

「何だ、名前まで知られてるのかよ」

「母さんの知り合いの店なんだよ」

 亜留と明、沙織と重菜が隣同士に座る。先ほどの店員が水を持ってきたタイミングで、


「おばさん、TrickケーキをくれandそしてTreatいたずらさせてよ!」


 明が店員に言い放った。

「えっと、明君? いくらお気に入りだからと言っても場所をだな」

 亜留が言いかけた瞬間、その店員の目が光り始めた。気がした。

 何故か背景からゴゴゴ、と何かが召喚されるような幻聴が聞こえたかと思うと、店員が明に向かって言った。


TrickそのケーキでwithいたずらでもTreatしかけてきな!」


 突然の圧力に圧倒される亜留。が、直後、その店員は普通に手に取った伝票にオーダーを書き始めた。

「え、さっきの、何?」

「なんだ亜留、看板見てなかったのか?」

 そういわれて、看板のことを思い出す。

「えっと、ハロウィーンキャンペーンってのをやってて、たしか『注文時にトリックオアトリートと言ってもらえれば特別メニューを提供いたします』だったかな」

 亜留が答えると、明はチッチッチ、と指を動かした。

「亜留、その看板の最後のところを読んできな」

 そういわれ、亜留は外に飛び出し、早速看板を読んでみる。


「えっと、注文時にトリックオアトリートと店員に言うと、特別メニューを提供! っと。やっぱりあってるじゃないか」

 なんだ、と思ったが、さらに小さな文字で続きが書いてあるので、気になって読んでみた。


「ただし、『オア』を別の接続詞や前置詞にすること」


 慌てて席に戻ってきた亜留。

「何だよ最後の一文、別の接続詞で」

 明に問い詰めると、店員がフフッ、と笑って答えた。

「これね、いつもトリックオアトリートじゃおもしろくないでしょ? だから、他の言い回しを聞きたかったのよ。でも、ちゃんと読んでないお客さんは毎回『トリックオアトリート』って言っちゃうのよ。仕方ないから、普通のケーキセットを出しているんだけどね」

 なんだか嬉しそうに言う店員に、亜留はなんともいえない脱力感を覚えた。


「ということで、皆、店員さんにメニューを注文して」

 そう言うと、沙織と重菜はメニューを見始めた。

「えっと、私は……」

「おいおい、さっき言った事を忘れたのか? この特別メニューは今日限定なんだぞ? 何のために今日ここにつれてきたと思っているのさ」

 くくっ、と明は怪しい笑みを浮かべる。

「え、明君、私たちもあれ言わなきゃ、ダメ?」

 重菜は慌ててメニューから目を離し、明に尋ねる。

「いや、無理はしなくてもいいけど、せっかくだからなーって。まあ、恥ずかしいなら俺一人で堪能するけど」

 さてどうする、と明は全員の顔を眺める。

 が、すぐさま重菜が手を上げた。


「あ、あの、店員さん、と、Trickケーキをくれ norなくてもいたず Treatらはしないよ!」


「あらあら、優しい子ねぇ」

 そういいながら、店員はオーダーを書く。

「えっと、わ、私も!」

 次に沙織も手を上げる。


「えっと、そうね……Trickおかしのように likeあまい Treatいたずらを!」


「どんないたずらかしらねえ。文法的にはともかく」

 恥ずかしさで赤くなる沙織をよそに、店員はすらすらとオーダーを書く。

「さて、後は亜留だけだが……?」

「うむ、そうだな……」

「お前、英語苦手だったよな?」

 明が指摘すると、亜留はぴくりとし、顔にあせりを浮かべる。

「な、何を言うんだ。よし、だったらみんなが驚くような英文を作ってやる」

 そういうとしばらく亜留は考え込んだ。

 そして、ぽん、と手を叩いて言った。


Trick!わなこそが Innovationかくしんてきな Treatよろこびだ!」


 一瞬にして静かになる店内。ぽかんとする沙織と重菜。そして明が後ろを向いて必死に笑いをこらえている。

「フフッ、君はやぱり英語が苦手みたいね。まあいいわ、今回はおまけ」

 そういうと、店員はオーダーを書き、キッチンへと向かった。



「ふむ、今日の亜留はいつも以上に笑わせてくれる」

「余計なお世話だ」

 笑う明の隣で、亜留はふてくされて水を一口飲む。

「亜留君、今年のハロウィン、それきっと流行るよ」

「流行らなくていいって」

 沙織は亜留のふてくされた顔を見て、クスクスと笑った。

 傾いてきた夕日が窓から差し込んで眩しくなる。ちょうどそのとき、他の店員が窓のブラインドを下ろして光をさえぎった。

 しばらく亜留の言う、革新的な喜びをもたらす罠について話していると、先ほどオーダーを取った店員がトレーを持ってやってきた。

「はい、お待たせ。今日限定のハロウィンセット四つね」

 まずはデザートを一人一皿ずつ配膳する。

 かわいいお皿の上はパンプキンケーキ一切れとアイスクリーム、そしてジャック・ランタンをかたどったチョコレートとイチゴが乗せられていた。

 そしてその隣に、淹れ立ての紅茶を置く。置かれた瞬間、香り高いダージリンの香りが鼻をくすぐった。

「それじゃ、ゆっくりしていってね」

 店員が一礼すると、亜留たちも軽くお辞儀をした。


「あ、おいしい」

「今日だけなんてもったいないね」

 沙織と重菜が一口パンプキンケーキを食べると、同時に賛辞の声が上がる。

「この前もここのケーキを食べたけど、明が言い張るのもうなずけるよな」

「だろ? ということで、今後も喫茶ミルキーキャニオンをよろしくお願いします」

「お前が宣伝してどうするんだよ」

 亜留と明のやり取りを見ながらクスクスと笑う沙織と重菜。

 客が少ないながらも笑いに満ちた店内には、ゆっくりとした時間が流れていった。


「でも、たまにはこういう企画もおもしろいかもな」

「そうだろ? あんまり日本って、こういうイベントないからな」

 ミルキーキャニオンを出た四人は、先ほど食べたパンプキンケーキの味を反芻しながら、自転車置き場へと向かった。

 暗くなりかけた空の下、客足の途絶えないデパートだが、自転車置き場は来たときよりも空いていた。

「んじゃ、最後にハロウィンらしい一言で締めようか」

「そうね、そうしましょう」

 明を筆頭に、全員が声をそろえる。



「「「Trick! Innovation Treat!」」」



「……お前らやめろよはずかしい」


 亜留がぼそりとつぶやいたのを皮切りに、四人はそれぞれの家路に着いた。

「Trick! Innovation Treat!」


来年のハロウィンでは流行るといいですね(流行らないですが(←

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