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アフィニア日誌  作者: 皇 圭介
第一部 ジンバル王国編
8/50

07話 「新たな出会い」

 元の世界に戻るための作業を。

 どうやったか、どこまで進んだかということを書くつもりで日誌と名前をつけた。


 だが、今、見ているとこれは日記かもしれないと思う。

 代わり映えの無い日々のハズだったのに。

 毎日書く事が多くて困る。

 

 さて。最近読み返してみて、先輩の事について記載が少なくなっている事を感じた。

 この世界について学ぶために忙しかったのもあるし、この家での暮らしが楽しかったのもある。

 だが、初心忘れるべからず。

 

 意味は違うかもしれんが、ここで敢えて先輩の事について書いておこうと思う。


 先輩の名前は 館林(たてばやし) 亜美乃(あみの)

 出会ったのは部活動で。

 友達に誘われるまま入った、新入部員の歓迎会だ。


 先輩は美人だった。かわいいよりも美人のほうがしっくりくる。

 当然、美人なので周りを男どもに囲まれており、残念ながら俺の出番はなかった。

 ただ、ずっと寂しそうにしていたのが印象的だった。

 

 まあ、一緒にいた友達は「そうだったか?」と言っていたので本当にそうだったのかわからないが。


 友達とそれなりに遊び。

 部活動をそれなりにやって。

 先輩と、何回か話しも出来た。

 そして。

 夏休み前のある日、いきおいで告白したのだ。


 結果は玉砕。

 今年に入って19人目だそうだ。


「あなたのこと知らないから」


 先輩は少し寂しそうな顔をした後、こう言った。


「考えてみて。君は私を本当に好きだったのかどうかを」


 振られる事が当たり前の告白だった。

 最初から、高嶺の花だった。

 ダメージだってそんなにないはず。


 だけど、考えてみた。

 先輩の事を。


 とりあえず考えて考えて。

 一晩考え続けて。

 そうして先輩の事が頭から離れなくなった。

 きっかけは告白。それで本当に好きになった。

 とっても可笑しなお話。


「先輩の事好きになりました。ですから、あなたが俺の事知らないのなら、知ってもらいます」


 その時の先輩は少し、ほんの少しうれしそうだったと思う。

 勘違いかもしれないが。


 



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 残念ながら、俺には剣術の才能は無かったらしい。

 俺の読んでいた異世界召喚モノの定番だと、チート能力を駆使して戦ったりしてたと思うが。

 そう都合よくはいかないものだ。


 考えてみれば、この体は生贄の()のものだしな。

 文句を言っていいものではない。

 ただ教師が良いため、才能が無いなりの動きは出来るようになった。

 筋力が無いため、(とう)さまの持つような片手半剣(バスタードソード)は持てないが。

 


 その代わりといっては何だが。

 (かあ)さまの教えてくれる魔法。

 こちらのほうに俺の才能はあった。


 (かあ)さまが教えてくれる魔法は、初級から中級ランクのものだが。

 俺はこの魔法という物にすっかり魅せられてしまった。

 元の世界には無いものではあるし。

 それが使えるのだから、興奮するなというのは無理な話だ。


 これを研究するうちに、いくつかの情報がわかった。


 まず呪紋だが、これは正確な形さえ知っていれば、必要な魔力量を満たしているならば誰にでも描ける。

 子供にだってだ。

 だが、これだけでは魔法は発動しない。

 呪文がいる。


 最初はただ「呪文の名前」を唱えるだけだと思っていたが、実はこれが重要だった。

 ある程度、想像できなければ使えないのだ。


 火球呪文(ファイアーボール)ならば、でっかい火の玉を頭に描きながら呪文を唱え。

 明かり(ライト)であれば、眩しい光を思い浮かべ。

 回復呪文(キュア)であれば、怪我が治って元気になった姿を脳裏に描く。


 それによって魔法は発動する。

 明確に想像できなければ使う意志は伴わないのだ。


 だからこの世界の魔法には、時間や重力などを扱う呪文は存在していないようだ。


 だが、俺はイメージ出来る。


 呪紋さえ作り出せば、未知なる魔法を使う事が可能になるのだ。

 俺は夢中になって呪紋の研究に勤しんだ。


 呪紋は魔法の設計図だ。

 だが、簡単に相手に読まれてしまっては不味い。

 だから、基本の設計図の部分に(プラス)して相手がすぐに真似できないよう、ゴテゴテした偽装がくっついている。

 必要な部分と不必要な部分がごっちゃになっているのだ。

 これが、呪紋の形を複雑化させ、描いたり覚えたりする事の障害になっている。


 俺が新魔法を完成させたとして。

 魔法の効果を見られてしまうと、相手もその魔法のイメージが出来るようになる。


 なんとか、呪紋を相手に見られない手段を見つけなければならない。




 ・・・そして俺はもうすぐ9歳になる。

 元の世界へ帰る方法はまだ欠片も見えない。





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


(とう)さま、初めて参りましたがすごい所ですね。気後れしてしまいそうです」

「おまえがそれほど殊勝であれば、わしも苦労はないのだが」

「か弱い一人娘にあんまりなお言葉」


 お約束、というやつだ。

 何年も一緒にいる(とう)さまだ。

 どれだけ猫をかぶったところで、本性はバレている。

 それでも愛してくれているのだから、望外の幸せだと思う。

 さすがに男だとは、バレていないと思いたい。



 今、俺がいるのは王城である。

 ジンバル王国の王都クリスタの中央に位置するこの城は、白大理石がふんだんに使われた、周辺諸国でもっとも美しい城とのこと。西洋風の城の中身なんて見るのは初めてだ。

 何故こんな所にいるかというと、王様に呼び出されたからだ。

 (とう)さまだけでなく、何故かこの俺まで。

 こんなドレスめったに着る事ないぞ。

 自分の姿を一通り眺めて嘆息する。


 黒っぽい青色のストレートの髪を腰まで垂らし、同色の瞳は儚げな印象を周りに与える。

 外出は多いが、まったく日に焼けることのない真っ白い肌。

 顔のパーツのバランスは見事というしかない。

 そして今は、明るい青のドレスで完全武装。

 元の世界でも、これほどの美少女はなかなかいないと思う。


 今の王、ボールスⅢ世ことボールス・グリフィズ・クリスタは現在42歳だという。

 まさかとは思うが、俺の美貌を聞きつけたか?

 それは冗談にしても何の用だろう。


(とう)さま、今回の事何か知っておいでですか?」

「・・・いや」


 心当たりぐらいはあるようだ。

 だが、心配するような事ではないらしい。


 しばらく廊下を歩いたのち、部屋に通される。

 燭台とかあるし豪華に見える部屋だったが、謁見の間とかを想像していた俺にとってみれば。

 しょぼい。


「よく来てくれた」


 部屋のなかには40後半とみられるりっぱな顎鬚の男性と。

 そして同年代ぐらいの少女が純白のドレスを着て座っていた。

 ウェーブのかかった金色の髪、逸らされてはいるが意志の強そうな翠色の瞳。

 王様(たぶんそう)そっちのけで目を奪われてしまう。

 容姿だけみれば、西洋人形のような、という言葉が合うのだろう。だが、その強すぎる瞳の光が印象を裏切っていた。

 

「いえ」


 父さまが礼儀正しく一礼する。

 ふむ、次は俺の番だな。


「本日は、お招きに預かりましてありがとうございます」


 スカートの両端をちょっとつまんで挨拶。

 うむ、完璧。


「今日は非公式なのでな。そう固くならんでくれ」


 手振りで真っ赤なソファーを勧められた。

 父とともに対面に座る。

 おおー、何かすげーやわらかいんですけど。


 しかし、この()は誰なんだろう?

 今現在の王族に、自分と同年代ぐらいの女の子がいるとは聞いた事がないが。

 王子が3人だったはずだ。


「・・・この()の名は、セラフィナ・フォースフィールド・クリスタ。わしの娘じゃ。最近までは市井(しせい)におったがの」


 つまりは隠し子ということか。


「・・・母親が先日亡くなっての。急遽引き取る事になったのじゃ」


 今になってもまだ、女の子の視線は外されたままだ。

 敵意すら感じる。


「・・・わしからの願いなんじゃが、この()の友達になってやってほしいんじゃ」

「なるほど」

「卿の娘は、わしの娘と同い年と聞く。どうじゃな?友達になってやってはくれんか?」


 (とう)さまは、何となく言われる事がわかっていたらしい。

 どうやら彼女の事も知っていたようだし。


「王子殿下の後ろには、この国最大貴族であるバエル公とクラウド侯がおります。あの方々の息のかかってない者というと限られるでしょう」

「・・・貴族どころか、一介の冒険者が母親ではな。血筋を重んじる彼らには、受け入れてもらえんようじゃ」


 (とう)さまはこちらを(うかが)ってくる。


「・・・友達になるのにやぶさかではありません」

「そうか・・・、ではすまぬが、娘に忠誠を誓ってやってくれぬか」


 これって、断れなくない?

 しかし友達になってくれ、のお願いなのに忠誠か。

 王族と対等な友人関係があるとは思わないが。


 いやまあ、かわいい()と仲良くするというのは歓迎なんですけど。

 未だに視線すら合わせてもらえませんが。


「アフィニア、王女殿下に忠誠を誓いなさい」

「はい」


 ここで初めてセラフィナさんがこちらを向いた。


「少しお待ちください。お父様」


 初めて声を聞いたが、悪くない声だ。

 鈴を転がすような声とでも言えばいいのか。

 

「強制されて得た忠誠など、何の意味もありません」

「・・・う、うむ」


 王様も娘には弱いようだ。


「どうか、2人で話をささせてほしいのです」


 これが「あとは若いもの同士で」というやつか。

 ・・・違うのは分かってるけどな。


「わしはかまわんが」

「そうですね・・・、アフィニアは良いか?」

「はい」


「着いてきなさい」


 そう言うと、さっさと部屋を出て行くセラフィナさん。

 王様や(とう)さまの表情を窺うと、あまり以外に思ってはいない様子。

 ・・・ふむ。


「では陛下、失礼いたします。父さま、行って参ります」


 一礼して部屋の外に出るとセラフィナさんが待っていた。

 彼女に付いて長々とした廊下を歩く。


「ええと・・・、どちらに向かわれているのですか?」

「・・・」


 無言だよ。どうすればいいのー?


「ここよ」


 大きめの観音開きの鉄扉だ。

 正直、悪い予感しかしない。


 扉を開けてなかに入る彼女。

 その後に続く俺が見たものは、騎士たちの鍛錬場だった。



 ちょっと王女さま。


 話をするんじゃなかったの――――――!!??

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