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アフィニア日誌  作者: 皇 圭介
第二部 諸国冒険編
45/50

42話 「トラップ」

「この迷宮は生きている・・・って事?」


 俺は小声で呟く。いやまて、結論を急ぐな。

 だが、どうやら広域知覚(ワイドセンス)の魔法を封じられた事だけは確かなようだ。

 レーダー全てが光っていては、生き物の反応など分かるはずもない。


「とりあえずは地図を頼りに進んでみようか」

「そうだな。まあ、先程も別なパーティーが入って行ったし・・・魔物(モンスター)がそうそういるとも思えないが」

「もうあらかた退治されちゃってるかな」

「たぶんな」


 まあ、その方が楽でいい。ミュウはとっても不満そうだが。

 いくつかの扉をこえ、通路を進み、地下1階への階段を発見する。

 地下1階に下りても状況は変わらなかった。


「地図通りだな」

「魔物も出ないしね・・・」

「まったく面白味がありませんわ!!」

「あ、待って姫。その扉は(バツ)マークがついてる」


 地図を確認すると、その何の変哲もない木製の扉に(バツ)マークが。

 数は多くないが、地図の中に何ヶ所かはある。


「そうか」

「罠、なんですの?」

「そうみたい・・・ちょっと待ってね」


 扉を調べる。うーん、別におかしな所は無いような気がするのだけど。

 ノブを軽く回してみる。

 開いてる・・・。

 カギは掛かっておらず、扉はなんの抵抗もなく開いた。


「あれぇ?」

「私にも見せてください」


 俺の代わりに今度はシャーリーが確認する。

 5分ほど時間をかけて彼女は扉を調べ終えるとこちらを向いた。


「カギを開けようとして鍵穴に針金を入れると、小さな矢が飛び出てくるワナだったようです」

「当然のように、すでに解除されてるわけか。鍵も掛かってないし」


 むう。この(バツ)マーク意味無い。


「罠が無いのならそれでいいじゃないか。先へ進もう」

「わたくしが先頭になりますわ!」


 それからも何の問題も無く進んでいく。

 これだけ何も無いと、緊張のネジがゆるんでも仕方ないと思う。

 次に問題が出たのは真っ直ぐな通路だった。


「通路の真ん中に(バツ)マークだけど・・・」

「上にも下にも何も無いぞ?」

「どうせもう解除されていますわ!」

「あ! ミュウ!」


 問答無用とばかりに突き進むミュウ。その真下に突然ぽっかりと四角い穴が開く。

 それに反応できたのはミュウだからだったのだろう。彼女は穴が開く瞬間に飛び退いていた。

 一瞬でも遅ければ、今頃穴の底だろう。


「あ、あ、危なかったですわ・・・・・・」


 胸に手を当てて、動悸を鎮めているミュウ。


「大丈夫ですか?ミュウ様・・・」

「うわー。穴の底が見えないよ・・・」

「勝手に閉まっていくな・・・自動で動く罠か。こういったのはまだ作動しているようだな」


 姫の言う通り、落とし穴は勝手に閉まってしまう。今はもうどこにあったのか分からない程だ。

 怖い。迷宮怖い。


「気を付けて進もう」


 姫の言葉に、激しく同意する俺たちだった。





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 通路の奥からカチカチカチ、という音が近づいてくる。

 それは地下2階に降りて長い一本道を少し進んだ頃の出来事だった。


「何の音・・・かな?」

「少なくとも、知り合いが訪ねて来たわけではないようだ」

「何を馬鹿な事を言っていますの」


 カチカチという音とともに現れたのは、キャリオンクローラーが2体。巨大いもむしだ。

 口から何本も触手が生えていて、ウネウネ動いて気持ちが悪い。

 姫が長剣(ロングソード)円盾(ラウンドシールド)を構える。


「横道も無いし戦うしかなさそうだ」

「ええと、この冊子によれば・・・触手に麻痺毒あるって」

「あるって言われても・・・あなた、毒消し魔法使えるんですの?」

「ごめん。無理」

「・・・・・・触手にさえ当たらなければいいのですわ!!」


 まずはシャーリーの魔法が発動する。


電撃(ライトニングボルト)


 2匹を巻き込むように青白い稲妻が走る。

 そしてダメージを受けた2匹に対し、1対1で攻撃を仕掛ける姫とミュウ。


 姫はとにかく触手を盾で防ぎながら、回り込んで後ろから攻撃。ミュウは一撃離脱を心がけている。

 俺は姫の、シャーリーはミュウの援護だ。姫とミュウが魔物から離れたら魔法の矢(マジックアロー)の魔法をぶつけてこちらに注意を向けさせる。

 そして出来た隙に、姫とミュウが背後から攻撃するのだ。


 虫だけに体力だけはあったが、やがてそれも尽きて倒れた。


「けっこう時間、掛かったね」

「ああ。毒が怖いな」

「セラフィナ・フォースフィールド、あなたはまだいいですわ! わたくしは素手なんですのよ?」


 むう。やはり回復系の魔法は必須か・・・。

 だが、回復系は作るのが難しいのだ。しかもテストは人体実験になるし。

 毒消しの魔法なんて、毒を自ら飲んでそれが魔法で回復したかどうか確認しなければならない。

 自分でするのは嫌だし、シャーリーにもさせたくない。


 どうしよ・・・。


「ブギィ」


「・・・ん?何か言った?」

「いや、魔物(モンスター)だ」


 魔物(モンスター)?姫の言葉に顔を上げると、通路の先、折れ曲がっているところに「それ」がいた。

 まだ距離はあるが、2mは楽にありそうな巨大イノシシ。

 冊子によれば・・・って載ってないよ! だが攻撃方法なら見なくても分かる・・・突進だ。

 そいつはイライラと地面を足で小突く。


「・・・不味いな、突っ込んで来る気みたいだぞ」


 イノシシの突進力は凄い、と聞いた事がある。しかもあれだけの巨体ともなれば・・・。

 キバも長くて大きいし。

 真っ直ぐの通路だ。避けることも難しい。


「扉、扉ですわ! あそこに入ればよいのですわ!」


 確かに、俺たちの前方に扉はある。けれど。


「待って、ミュウ! そこ(バツ)マークが・・・」


 だが、ミュウは構わず扉のノブを回す。


「・・・痛っ!!」

「ミュウ!?」


 手を押さえるミュウ。

 何があった!?

 だが、今は見ている暇が無い。とりあえずは突っ込んでくる魔物(モンスター)の対処の方が最優先事項だった。


 ドドドドドドドッ!!!


 地響きとともに走って来るイノシシ。その姿が見る間に大きくなる。

 避けるのが無理なら、受け止めるしかない。

 俺は巨大イノシシに対抗する魔法を選択、実行する。

 

「「空気の壁(エアウォール)!!」」


 声がシャーリーとハモる。そして、空中に描かれた呪紋も同じ・・・。

 俺たちの前方に分厚い空気の壁が出来る。しかも2重!!


 ドカンッ!!!という、激しい衝突音と衝撃波。

 凄まじい衝撃に俺はその場から後方に数m、吹き飛ばされてしまった。打ち付けた背中が痺れるように痛い。


「ま・・・さか、空気の壁(エアウォール)が壊されるとは・・・ね」

「・・・はい。あれほど凄まじい破壊力だとは予想外でした・・・」


 痛む体を我慢して立ち上がる。


「アフィニア、シャーリー、ミュウ・・・無事か!?」

「姫こそ大丈夫なの!?」


 姫は唯1人、あの衝撃波を耐え切ったようだ。剣を真っ直ぐに構えている。


 そして姫の正面に相対するもの。・・・突進を止められ、頭から血を流しながらも闘志を失わない巨大イノシシの姿がそこにはあった。キバも片方が折れ、通路にゴロンと転がっている。

 さすがにあの空気の壁(エアウォール)X2とぶつかっては、無傷とはいかなかったようだが・・・。


「・・・まだやるのか?」

「・・・・・・・・・ブギィ」


 姫と睨み合うこと数秒、ヤツは少しフラフラしながらもクルリと踵を返し立ち去っていった。

 ほっと、息を吐きながらも残り1人の事を思い出す。


「ミュウ?・・・大丈夫、ミュウ!?」


 ミュウが倒れたまま起き上がってこない。


「どうした!?頭でも打ったのか!?」

「いえ、違うでしょう。先程、ミュウ様がノブを触ったときに悲鳴を上げたような気がします」


 そういえば、右手を押さえていたような気がする。

 俺は、うつ伏せに倒れているミュウを抱き上げヒザにのせた。


「・・・!」


 ミュウの右手は赤茶色に腫れ上がり、まるでゴム手袋のようにパンパンになっていた。「ミュウ」と呼び掛けてもすでに返事は無い。

 

「ミュウ様!」

「これは・・・出血毒・・・意識が無いところをみると神経毒もか」


 毒。姫は毒と言った。・・・やはり罠?それともキャリオンクローラーの毒が今頃?

 俺はとっさに回復(キュア)を唱えた。腫れは多少治まるものの、すぐに元通りに腫れ上がる。


「駄目だ! 解毒(キュアポイズン)でないと!!」

「すみません。私も使えません・・・」

「くそ、こうなったら迷宮の外まで抱えて走るしかないか・・・!!」


 確かに迷宮前に冒険者はたくさんいた。だったら、解毒(キュアポイズン)が使える神官がいるかもしれない。

 姫がミュウを抱え上げ、俺は姫の剣と盾を預かる。


「最短距離で行くぞ」

「うん。魔物(モンスター)が出ても僕たちが戦うから、姫は真っ直ぐ地上へ」

「サポートはお任せください」


 だが、正直なところ・・・助かる可能性は少ないと思ってもいたのだ・・・。


「くそ、不味いな・・・ミュウの呼吸が乱れてきた・・・」

「あの――――――」

「急ごう、姫!」

「・・・助けてあげましょうか?」


 その言葉で、そばに人影があることに気付く。

 ひょろりと背の高い男――――――。だが、それよりも目に留まるのは、輝く太陽を象ったシンボル。

 それを身にまとうことが出来るのは赤の神の神官だけ。

 だったら。


「どうか助けてください! お願いいたします!! ・・・大切な友達なんです!!!!」


 俺は(すが)り付いて頼み込んだ。





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「まあ、要するにだ」


 迷宮の外、ちょっとした休憩所のような所で俺たちは疲れた体を休ませていた。

 ミュウはあの後、嘘のように回復し今ではいつもどおりだ。

 解毒(キュアポイズン)すげえ。


「私たちには足りない物があるという事だ」

「セラフィナ様。・・・そうですね、私もそう思います」

「それが揃うまでは、この迷宮に入るのは止めておかないか?」

「・・・その方がいいかもしれないね」


 姫の言葉に俺は頷いた。シャーリーも頷き、ミュウは自分が死に掛けたのもあってバツが悪そうだ。

 あの時、神官があそこに偶然来てなかったらどうなっていたか分からない。

 偶然というか、あの風の障壁(ウィンドバリア)とイノシシの激突音に驚いて様子を見に来たらしいが。


 とにかく、ひょろりと背の高い赤の神の神官は、ミュウの治療を引き受けてくれた。

 報酬は、あのイノシシの折れたキバ。あのイノシシ(ブラックボアとか言うらしい)はかなりのレア魔物(モンスター)だったらしく、そのキバは高く売れるのだとか。だが、俺たちにとってはミュウの命に代えられる物ではない。

 即座に渡し、ミュウに解毒(キュアポイズン)を掛けてもらった。


「やはり回復系魔法は、絶対必要だね」

「あとは迷宮などを専門とする盗賊だな」


 この2つは、この深き迷宮を探索するためには絶対必要だ。


「回復系魔法の方は、僕がなんとかする」

「どうするつもりだ?」

「ササラさんに手紙ででも教えてもらうよ。最悪、ヒントさえあればなんとか出来ると思う」

「アフィニア様、この街の盗賊ギルドも覗いてみましょう」

「そうか。・・・ならば、それらが何とかなるまでは冒険者ギルドでの依頼に専念する事にしようか」


 よし、やる事は決まった。

 ササラさんに書く手紙の内容を考えながら、俺は帰り支度を始めるのだった。


「帰りは乗合馬車だよね?」

初めての感想を頂きました。もっと良い文章を書く参考にする為、こういった感想はありがたいと思います。これからも気になる所がございましたら教えていただけると嬉しいです。もちろんですが、良かった所もあれば教えてください。

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