40話 「執念」
一応念のため、ギルドで冒険者どうしの揉め事について聞いてみた。
あの駆け出しの3人組と戦ったりしたらどうなるのかを。
結果は問題ない、だ。
たとえ俺たちが彼らを皆殺しにしたとしても、ギルドからのペナルティは無いそうだ。
恨みは買うかもしれないけれど。
まあ、国の法律はちゃんとあるのだから、あきらかな犯罪行為の場合は捕まるのだが。たとえば、金品を奪うために殺害するなどの行為だ。
ただ、「冒険者」というのは登録した瞬間からそういった死の危険もある、ということだ。
だから依頼書を吟味する事も必要だし、もし契約にない事を要求されたら断わることも出来る。
「でも、護衛の依頼なのに日時が書いてなかったよね。あの依頼書」
「ああ。だがあの3人組はすぐに受付に依頼書を持っていったから、恐らく今日中には来ると思う」
結局、昨日慌ててギルドから家に戻った俺たちだが・・・エゴールは来なかった。
でも今日は来るだろう。それが俺たちの認識だ。
半日の拘束で1020シラの報酬なのだ。依頼主と3人組が会えばすぐにでもやって来るだろう。
問題があるとすれば、的外れな事を俺たちがやっている可能性だ。
あの時は雰囲気で、ついそう思ってしまったのだが・・・あの依頼が必ず、このリーゼロッテさんのお店に関係があるとは限らないのだ。
ミュウに脅された→用心棒を雇って嫌がらせ。
後で考えてみたら、この図式はあまりに単純だったかもしれない。今頃、あの3人組はどこか他の場所でエゴールさんの護衛の依頼をこなしているかも。
そう思っていた俺だが・・・世の中は思ったより単純に出来ているらしい。
部屋の窓からエゴールと3人組の駆け出し冒険者の姿を認めて、俺は杖を手に階段を駆け下りた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ええい、何だこの凶暴そうな虎は!?」
俺がそこに辿り着いた時、エゴールは俺の使い魔に怯えて庭に入れないでいた。
モルドレッドはただ小屋の外で眠っているだけにすぎない。だが、1mにもなる虎が鎖も付けずに放し飼いになって庭の入り口を塞いでいるのだ、怖くて近寄れないのも無理はない。
「こんな時のためにお前たちを雇ったのだ。さっさと倒すのだ!!」
「ええっ!?絶対無理ですよ!!」
「こいつ剣歯虎って言って中級ランクの魔物なんですよ! 何でこんな所にいるのかは分からないけど、俺たちが勝てる相手ではないです!」
「使えない奴らめ・・・」
どうしよう。出て行った方がいいのだろうか?
放っておいても帰りそうな感じなんだけど。
「何をやっているのですの?さっさと行きますわよ!」
「ミ、ミュウ」
「そこの悪党ども!! 成敗ですわ!!」
「ええっっ!?ちょ、ちょっと待ってミュウ!?」
ミュウはいきなり現れると、エゴールの前に飛び出していく。
慌ててミュウを抑える俺。・・・駆け出し3人組は本気で困惑顔だ。
「駄目だよミュウ。まずは話し合いからだよ!」
「そんな必要はありませんわ! 一度ゴツンとやって差し上げれば素直に言う事を聞くようになりますわ!」
「駄目、それ駄目だから」
ミュウが本気で殴ったら人死にが出るから。
「いいかい?ミュウ。このパーティーでは、僕が交渉担当でミュウが暴力担当でしょ?役割をちゃんと守ってもらわないと」
「そ、そうですわね・・・??何か、今、失礼な事を言われたような気がしますわ・・・」
「ソンナコトナイヨ」
こほん。目の前で漫才をやられて呆けている4人の前に歩み出る。
とりあえずは挨拶から。
「おはようございます」
「あれっ?君はギルドにいた娘じゃないか?」
「ええ、そうです。1日振りですね」
「な、なに!?貴様、冒険者だったのか!?」
「はい」
わざとらしく杖を見せる。エゴールは特に驚いている。
逆に駆け出し3人組の方は安堵ムードだ。中級ランクの魔物を飼ってるヤツだ、どんな恐ろしいのが出てくるかと思ったら、地方から出て来たばかりの初級冒険者。しかも女だ。
「こいつらは強いのか?」
「いえ。まだ成り立ての初級冒険者ですよ」
「そ、そうか・・・む?仲間が出てきたようだな」
エゴールさんの声を聞き、後ろを振り向く。
姫とシャーリーが武器を手にやって来る・・・そして、リーゼロッテさんも。
モルドレッドは1度片目を開けてこっちを見たが、またすぐに寝てしまった。
どうなってんだ俺の使い魔。
「おお。リーゼロッテ、出てきたか。今日こそはちゃんとわしの言う事を聞いてもらうぞ」
「おととい来なさい」
「エゴールさん。ちょっと待ってください・・・どうしてあなたはこのお店にこだわるんですか?あなたは商人ギルドの副代表なんでしょう。そんなにお金に困っているとは思えないのですが?」
「うるさい、黙れ黙れ! ここはわしのもんだ! おい、おまえたち。少し痛い目にあわせてやれ!」
「え、えーと」
戸惑いながらも武器を構える3人組。それに対抗するように姫が剣を構え、ミュウが拳を握り、シャーリーが杖をかざす。俺・・・は、いいか何もしなくて。
俺は1歩下がり、みんなに場所を譲る。
「はっ!」
姫の先制の一撃が、先頭にいたダニイルの剣をいとも簡単に弾き飛ばす。宙に舞う剣と、目を見開き呆然とするダニイル。それと同時にシャーリーの「蜘蛛の網」がもう1人を絡め取り、最後の1人を背後に回り込んだミュウが首筋へと当身を入れ気絶させる。
すべてはほんの一瞬の出来事。
だが、これは当然なのだ。・・・実力にあまりにも差がありすぎるのだから。
「う、嘘だろ・・・こんな・・・」
「あ、・・・う・・・あ・・・」
エゴールさんはあまりの状況に唖然としていた。まあ、リーゼロッテさんもなんだが。
3人組は(1人は気絶しているが)ガックリと肩を落とし戦意喪失している。
これでいいか。俺はエゴールさんの前に行き、下からだが顔を覗き込んだ。
「まだやりますか?」
「ひ、ひいいぃぃ!?」
「蜘蛛の網」
弾かれたように逃げ出した彼を、俺の魔法が絡め取る。クモの糸にがんじがらめにされ、身動きが取れなくなって倒れるエゴールさん。
「話、聞かせてもらえますね?」
「う、・・・・・・分かった・・・」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「この店はわしが貰うはずだったんだ・・・」
「まだ言うか」
「ち、違う、死んだ父親に貰う約束をしていた、という事だ・・・」
「はぁぁぁ?なに作り話してんの!?」
「ちょ、ちょっとリーゼロッテさん。とりあえず最後まで話聞きましょうよ・・・」
なんでうちの大家は血の気が多いいんだ。
ああ、イゴールさんの目が遠くを見るようになっている! 昔語りの時間だ・・・。
「あれは・・・まだわしたちの父親が生きていた頃の話だ・・・」
賢兄愚弟。イゴールさんはずっとそう言われて生きていたらしい。兄、つまりリーゼロッテさんのお父さんは何でも出来る人で、「将来は冒険者になる」とか言ってたようだ。
イゴ-ルさんの将来の事を心配した父親は、イゴールさんに店を譲り、「将来はお前がわたしの跡を継げ」と言ったそうだ。だが、彼らの父親はそれを第三者に言う前に事故で亡くなってしまったのだ。
そして法律によって店は長男であるリーゼロッテさんのお父さんに渡され・・・今となる。
「・・・はぁ、そうなんですか」
「そうだ。だから、この店はわしの物だ!」
「いえ、今の話が本当だろうと嘘だろうと、もうこの店はリーゼロッテさんの物ですから」
いえ、そんな愕然とした顔されても。
「わ、わ、わしは・・・諦めんぞおおおおっっ!!」
「あ」
とっくに魔法の効果時間は過ぎていたので、イゴ-ルさんは走って逃げてしまった。
どちらにしても・・・説得は無理か。
「また来そうですね」
「だから言ったでしょ、いつもの事だって」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「いやー、すごいですねセラフィナさん」
「そ、そうか?」
「いえ、俺の剣を弾き飛ばしたあの一撃、全然見えなかったですから」
イゴ-ルさんが逃げ出した後、駆け出し冒険者3人組の治療をお店の中でした。とは言っても、怪我らしい怪我はミュウが放った首筋への一撃ぐらいのものだろう。
だが、ダニイルは負けて興味が出たのか、姫に妙にまとわり付いている。
姫も褒められる事は満更でもないのか、さっきからニコニコしている。
くっ、俺って結構、焼きもち焼きだったのか!?
「何でしたら今度、俺に剣を教えてくれませんか?」
「いや、人に教えるほどの物ではないからな」
「そんな、謙遜ですよ」
ううう、イライラする。あ、手まで触りやがった・・・。
うううううううううううううう。
ううううううううう。
「・・・お前ら出てけ」
「は?」
「お前ら出てけ!! 出て行かないと火球撃ち込むぞ!!」
「ひっ!! お、お邪魔しました!!」
慌てて店を飛び出て行く3人組。ミュウやリーゼロッテさんもビックリしている。
姫は・・・駄目だ、見れない。
「ど、どうしたのアフィニアさん・・・?」
「何か、変な物でも食べられたのですの・・・?」
顔が真っ赤になる。見なくても真っ赤になっているのが分かる。耳まで真っ赤だろう。
あとミュウ、それ結構失礼だからな。
「な、何でもない! 何でもないから少し寝る!」
うわー。うわー。うわー。
俺は2階への階段を駆け上った。目指すは俺のベッドだ・・・頭から布団を被って寝るのだ。
そうでなければ、この恥ずかしさを誤魔化せない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「少しばかり、やり方が汚くないですか?セラフィナ様」
「そうか?まあ確かに、あざといやり方ではあったが・・・効果的だったのも事実だ」
アフィニアが2階に上がった後、シャーリーが話しかけてきた。
今のはミュウやリーゼロッテさんには意味不明だろうが、私にとっては意味がある。
そう、あいつを私に惚れさせるためだ。
今はまだ、センパイとかいう女に私は勝てていない。今、帰る手段が見つかったなら、アフィニアは酷く悩むかもしれないが・・・恐らく帰る、という選択をするだろう。
だから、私を強くアフィニアに意識させる。
やり過ぎるのは不味いが、「嫉妬させる」というのも武器になるだろう。
「怒っているのか?シャーリー」
流れるような銀色の髪。綺麗な褐色の肌。そして人より長い耳・・・付き合いの長い友人ではあるが、私にとってみれば彼女もライバルの1人だ。
私よりも遥かに女らしい。
「怒ってはいません。私はアフィニア様のメイドであり、杖であればいいのですから」
「それは言い訳だと私は思うけれど?」
「事実です」
「そうか・・・ならアフィニアは私が貰うからな」
宣戦布告。そういえば、シャーリーにはまだしていなかった。
「出来るのならばどうぞ。私はアフィニア様の付属品です・・・どこまでも付いて行くだけですから」
「・・・」
「・・・」
「やめよう。シャーリー、お前も私の大事な友人の1人だからな」
「僭越ながら、私もそう思っております」
シャーリーと2人、笑い合う。まあどういう形にしろ、アフィニアが好きな事には変わりがない。
ミュウが私たちの笑い顔に気付き、こちらにやって来る。
「セラフィナ・フォースフィールド! さっきのアフィニアは一体どうしたのですの?そして何故、あなた達2人は笑っているのですの!?」
「さあ、何故だと思う?」
ではアフィニアの顔でも見てくるか。
どうせ頭から布団を被って、ふて寝しているのだろう・・・まだ耳まで真っ赤のままなんだろうか?
思わずこぼれる笑みを抑えながら私は2階へ上がるのだった。