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アフィニア日誌  作者: 皇 圭介
第二部 諸国冒険編
40/50

37話 「王都コルネリア」

 ノアの王都、コルネリア。

 ジンバル王国の王都クリスタに比べれば規模では小さい。

 小さいが、やはりそこは王都だった。

 街壁の上からチラリと見える王城の尖塔(せんとう)


「ずいぶん高い街壁だね、クリスタの2倍ぐらいありそう。頑丈そうだしね」

(つね)魔物(モンスター)の脅威にさらされているからな」


 街と外を隔てる街門。

 そこには街に入ろうとする人達の順番待ちの列が出来ていた。一番最後尾に並ぶ俺たち。

 並んでいる人たちにも冒険者風の者達が多い。

 ここから徒歩で2時間程度のところに『深き迷宮』があるのだ。そんなに奇妙なことでもないか。


 しばらく待つ事、1時間。

 ようやく俺たちの番がやって来た。


「コルネリアにようこそ。こちらにはどんな目的で?」


 門番らしき若い兵士が尋ねてくる。


「冒険者ギルドに登録しようと思いまして」

「女性4人でですか。それは珍しい」

「ええまあ」

「では、馬車の中身を確認させてもらいますね?」


 そういって兵士は、遅れてやってきたもう1人の兵士と2人がかりで調べ始める。

 馬車の中で眠っているモルドレッドを見た時はさすがに怯えていたものの、「ペットです」というと「そうですか」と言ってそれ以上は突っ込んでこなかった。

 1m近い剣歯虎サーベルタイガーを見ればな。

 いや、どちらかといえば動揺が少なかった方か?


魔物使い(モンスターテイマー)の方に会ったのは初めてですよ」

魔物使い(モンスターテイマー)?」

「ええ。違うんですか?馬も1頭はツノが生えていますし」


 どうやら世の中には魔物使い(モンスターテイマー)という職業があるらしい。

 俺がそれなのかどうかは知らないが、わざわざ否定する必要も無いだろう。


「違わないです」

「ああ、やっぱり・・・握手してもらってもいいですか?」

「はい」


 何故かは分からないが握手を求められる。魔物使いというのは、それほどのステータスなのか。

 別に構わなかったので、その若い兵士と握手を交わす。


「冒険者に登録というと、しばらくはこの街に滞在するんですね?」

「そのつもりです」

「ええと、ぼくはオレクと言います。何かあったら、何でもぼくに相談してくださいね」

「えーと。あ、ありがとう・・・アフィニアと言います」


 何故か自己紹介をされる。

 視線が熱いんだが。

 尊敬の視線なのか。それとも興味を持たれているのか?

 街に入る諸々の手続きを済ませ、俺たちは高い街壁を見上げながら王都に入るのだった。


「モテモテだな」

「・・・姫」

「滞在許可証か、ギルドの登録カードがあれば、今度から並ばなくてもいいということだが」

「言ってたね」


 門番さんの話によれば、そのどちらかがあれば街門はフリーパスになるとの事。

 確かに、街の外に出る度に長時間待たされるのではやってられないか。


「ギルドカードか。前に作ったのがあるにはあるが・・・」

「さすがに見せるわけにはいかないよね、追われている身としては」

「毎回、街に入る度にこんなに待たされるのは困る。なるべく早めに登録に行ったほうが良いだろうな」


「それで、今からどうする?」

「そうだね。・・・とりあえずは、今日の宿の確保かな」

「そうか。あまり時間も無いか」


 姫の言う通り。王都コルネリアに入れたのは昼の3時ぐらいだった。

 あまりもたもたしていると野宿する羽目になりそうだ。


「冒険者ギルドへは行かれないのですの?」

「明日でいいと思う」


 おすすめの良い宿など知らないので、通りに面した一軒の宿屋を選ぶ。

 『青鹿(あおじか)亭』というその宿屋は、3階建ての立派で小奇麗な宿屋だった。

 馬車を店前に止め、扉をくぐる。


 そこは食堂だった。

 宿屋の1階部分は食堂になっており、宿屋部分は2階より上なのだろう。

 まだ中途半端な時間のためか、食事をしている客はまだ誰もいなかった。


「いらっしゃい・・・食事だけかい?それとも泊まりかい?」


 カウンターで俺たちを迎えたのは、30代ぐらいの男性。立派な宿屋に相応しく、身なりも良かった。


「泊まりでお願いします」

「部屋はどうするね?別々に泊まるか、全員一緒にするかだが?」


 皆の顔を見る。


「どうする?」

「みんな一緒でいいですわ!」

「別々にする必要など無いだろう」

「・・・アフィニア様と同室がいいです」


「全員一緒で」

「だったら4人部屋だな。夕食込みで320シラになるが」


 微妙に高い。店からして良い宿っぽかったから、これぐらいの出費は仕方ないか。

 長旅で疲れてるしな。体を洗いたいし、ベッドで寝たい。


「では、それでお願いします」

「では、馬車は裏の方へ回してくれ。そっちに預ける所があるからな」

「はい」


 あれ・・・?そこまで話をしていて気付いた。

 大事な事を忘れていた。


「あの」

「なんだい、食事なら・・・」

「いえ、そうではなく。・・・ここ、ペットとか大丈夫ですか?」

「あまり歓迎しないが、多少なら融通もできる。どんなペットだい?」

「ええと」





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「こうなるよね」


 頼んでみたが、やはりモルドレッドは無理だった。

 「これです」と見せたら、怯えて涙ながらに「勘弁してくれ」と言われた。

 それをすでに3軒目だ。

 不味い。もうすぐ日が暮れるんだけど。


「今日は諦めたらどうだ?」

「わたくしはベッドで寝たいですわ!」


 姫とミュウが言い合っている。

 俺だってお風呂には入りたい。体を拭くだけではやっぱり物足りない。


「もう1軒だけ、もう1軒だけですわ!」

「いいだろう」




「ええと、どうされたんですか?」

「いえ、世の中の冷たさを実感している所です」


 辺りはもうすでに暗くなり、夜になろうという頃、俺たちは門番のオレクに質問を受けていた。

 今度は入るのではなく出るためだ。

 出るには許可はいらないのだが、どうしても気になって話しかけてきたようだ。


「もうすぐ門も閉まりますよ?夜間は門は開きませんから・・・街から閉め出されますよ?」

「それも分かってるんですけどね」

「何か問題が?」

「いえ、ペットと一緒に宿泊出来る宿がないんです」


 俺のいた世界ならば、それを売りにしている宿さえあったぐらいなのだが。

 この世界は遅れているな・・・。7~8百年ぐらい?


 オレクは妙に納得した顔だ。


「なるほど。確かにあの虎は無理かもしれませんね」

「馬小屋の片隅でもいいから貸してくれれば、とは言ったんですが」


 馬が怯えるから駄目だそうだ。


「宿は無理そうだから、一軒家でも借りますよ・・・明日」

「あはは・・・頑張ってください」

「ええ、では」


 再び門をくぐる。

 今度は外に向かってだ。

 俺たちは馬車に乗り込んで、野宿できそうな所を探しに行く。


「納得いきませんわ!」

「仕方ないだろう。不満なら、1人だけ宿に泊まってもいいんだぞ?」

「そ、それは・・・」


 一瞬迷う素振りを見せるミュウ。

 しかし1人で、というのは嫌だったようだ。

 肩を落として俺たちと行動をともにする。


「明日は絶対ですわ! 明日はベッドで寝るのですわ!」

「そうなるといいな」

「セラフィナ・フォースフィールド! あなたという人は・・・」

「あ、待ってミュウ」


 そういえば、気を付けなければならない事があった。

 言葉を遮られたミュウは不満そうだが。


「ミュウ、今度からみんなの事は名前だけで呼んでね?もちろん自分もだよ?」

「はぁ?なんでですの?」

「いや、なんでって・・・姫やミュウは追われている身なんだよ?」

「それがどうしたのですの?」


 えー。ミュウが分かってくれない。

 姫に目をやるとコクリ、と頷いてくれた。


「名前だけならともかく、家名を出しては不味いだろう。本当なら偽名を使いたいところだが」

「確かにね。でも僕は偽名で呼ぶのは失敗しそう」


 姫の言う、偽名を使うというアイデアは良いと思う。

 でも偽名を使ってても本当の名前を呼んじゃいそうだが。


「だからミュウ、今までみたいにフルネームでの名乗りとか無しにしよう」

「ですが貴族の誇りが・・・」

「ミュウ。私たちはもう貴族でも王族でも無いぞ?」

「・・・」


 さすがは姫。ミュウが反論できずに黙っちゃった。

 ミュウもさすがにこの一言は(こた)えたのか、ガックリと落ち込んで肩を落とし(うつむ)いていた。・・・と思ったら短時間で顔を上げた。


「よろしいですわ! 今は雌伏(しふく)の時ですわ!」

「そ、そうだね」

「恥辱に耐え、いつか誇りを取り戻してみせますわ!」


 ミュウがガッツポーズを取る。

 たかだか苗字を名乗らない程度の事なのに。

 そんなに大袈裟(おおげさ)に言う事かな。・・・まあそれでミュウが納得できるのならいいか。

 俺はミュウの満足そうな顔を見てそう思うのだった。

 姫も呆れていたけれど。





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「き・ょ・う・は、絶対にベッドで寝るのですわ!」


 ミュウは朝から元気だ。

 何とか今日中には住む所を見つけないとね。


 朝一番と言う事もあって、街門に並ぶ人は今はあまりいなかった。

 待たされる事なく門に着く。


「またお世話になります」

「ああ、無事だったんですね。おはようございます」


 昨日の若い門番オレクと挨拶する。

 この国では野宿というのは結構危ないものらしい。

 ジンバル王国よりは治安も悪そうだし、魔物も多いらしいからな。


「すみません。家ってどこで借りられるんですか?」

「ああ、家ですね」


 不動産屋とかあれば簡単なのだが。


「それなら、商人ギルドに行くのが一番いいでしょう」

「商人ギルドですか」

「ええ。まあこの街は、冒険者ギルドが大きいのであまり目立ちませんが」

「では、行ってみる事にしますね。ありがとう」


 俺は若い門番に手を振って別れた・・・顔を赤くしていたように見えたが。

 俺の外見は黒髪の美少女だから仕方ない。


 昨日も歩いた通りを馬車に乗らずに歩く。

 早朝という事もあってか、あまり人通りは多くない。


「とりあえずは、その商人ギルドに行くんだろう?」

「うん。寝床の確保が最優先だからね」


 目的地の商人ギルドは街の中心にあるとの事。

 この王都コルネリアでは、ジンバルの王都クリスタとは違い王城は街の北にある。

 その代わりに街の中心にあるのは、大きな広場とそれを囲むように存在する各種ギルドの建物。更に神々を(まつ)る神殿などがあった。


「ここでいいんだよね?」

「そうだな。ここで間違いはなさそうだ」


 看板が出ているのだ。間違いがある(はず)がない。

 ただ、確認したかっただけなのだ。心情的に。


 その商人ギルドは小さかった。近くにある冒険者ギルドと比べると特に。

 あちらがどこかの役所のような4階建てのしかも大きな建物であるのに対し、こちらは2階建ての、下手をすれば昨日の宿屋のほうが立派なぐらいの建物だった。


「私は馬車で待たせていただきます」

「うん。シャーリー、お願い」


 ギルドの前に馬車を置いて、姫とミュウとともに建物の中に入る。


「おはようございますー」

「いらっしゃいませ。私どもに何か御用ですか?」


 商人ギルドの中は内装もそれなりに品がいいし、狭いという以外はそれほど悪くは無かった。

 受付にいるのは眼鏡を掛けた頼りなげな男性。

 奥にも何人かいるようだが。


「家を借りたいんですけど」

「家ですね」


 男は棚をゴソゴソ探すと、紙の束を持って戻ってきた。

 もしかして・・・あれ全部か?


「どんな感じの家が(よろ)しいですか?」


 俺たちは自分の思う条件を告げていく。途中、無茶な事を言い出したミュウを姫と2人で黙らせる、という一幕もあったが。

 頼りなげな、という印象に反してこの人は優秀だった。

 紙の束の中身をある程度は把握しているのか、俺たちの言う条件に合わせてペラペラめくっていく。


「なるほど。馬車が置けて、馬小屋があって。大きなペットを飼えて・・・4人が住める・・・」

「ええ、それで」

「難しいですね。あるにはあるのですが・・・これぐらいの家賃になります」

「高っっ!」


 自分で言ってて無理っぽく感じていたのだが、彼の提示した家賃はとても払えるような物ではなかった。

 全て1万シラを超えているのだ。

 1、2ヶ月分ならば大丈夫、払えるぐらいは持っている。だが、家賃が払えなくなってせっかく借りた家を追い出されるような羽目になるのは困る。


「ええと、もっと安いとこありませんか?」

「・・・女性4人というなら、リーゼロッテちゃんとこはどうだ?」

「いやしかし、アレは」


 奥から声が掛かり、もう1人男が現れる。

 何か、こちらに分からないような事を相談している。一応の決着がついたのか、こちらに向く2人。


「君達の誰か、料理の得意な()がいるかい?」

「一応、僕が得意です」

「レベルとしてはどれぐらいかな?」

「お店が出せるレベルですわ!」

「ふむ、ますます好都合だ」


 むう。何の話だ。

 

「ああ、すまなかったね。君達のいう物件に1つ当てがあるんだが・・・」

「・・・」


 何か、ものすごく揉め事の気配がする。

 ここまであからさまだと仕方ないと諦めてしまうぐらいに。


「これから行ってみないかい?」

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