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アフィニア日誌  作者: 皇 圭介
第一部 ジンバル王国編
36/50

33話 「森の救出戦」

 俺は満足だった。

 もうすぐ・・・そう、もうすぐ王の座が手に入るのだから。

 だから、レノックスとの話し合いに応じてやったのだ。

 ヤツの悔しそうな顔を眺めるのも悪くは無い。


「レノックス、そろそろ話をしようか。私の王位を認める条件について」

「・・・ヴォルフ、いい気になるなよ」


 負け犬の遠吠えというヤツだ。もはや、俺の優位は(くつがえ)されない。

 王城の一室、周りには俺の信頼のおける部下達。


 レノックスにとって完全にアウェーな状況で対話する。

 この部屋を選んだのは自分(おれ)。護衛も俺の息がかかった者たち。暗殺対策も完全だ・・・もし目の前の第1王子が自棄(やけ)を起こして俺に襲い掛かってきたとしても対処できる。

 2人、テーブルの上のワインを黙って飲む。

 このワインも毒見はちゃんとしている。

 だが。


「ぐ、ぐぐっ! ぐああああああっっっっっ!!!」

「な・・・!?」


 ワインを飲んだレノックスは突然苦しみだし・・・血を吐いてテーブルに突っ伏した。


「な・・・ん・・・?」


 何故。そう何故という思いしかない・・・俺もレノックスも同じワインを飲んだのだ。

 どうしてレノックスだけが?

 もしかして、ワイングラスか?いや、そんな初歩的な失敗はしない。


 何故。何故。何故。

 だが、これだけは分かっている。


 王の座が、今、自分の手の中からこぼれ落ちていったという事が。





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 寮への侵入。

 これは学院内にあるとはいえ、意外と簡単だった。

 問題だったのは住人たちだった。


「あんたたち、大丈夫なのかい?」

「大丈夫と言っていいのか・・・」


 寮母のクレアさんだ。

 誰にも見つからずに寮への侵入を果たした俺たちだが、さすがに寮生に見つからずに、というのは無理だったようだ。寮に入った瞬間、クレアさんに見つかってしまった。

 そうなれば、ララサさんササラさんの双子やキュレさんに見つかるのは時間の問題だった。

 集まってくる寮のみんな。


「ええと、こんばんわ・・・」

「・・・無事だったのね。良かった・・・」

「どうするの~?ミュウちゃんは追われてるし~、セラフィナちゃんは城に捕まっているんでしょう~?」

「ああ。もし私たちの力が必要なら・・・」


 次々に声を掛けられる。よほど心配してくれていたようだ。

 とても嬉しい。

 だが、彼女たちまで巻き込む訳にはいかない。


「駄目です・・・皆さんは大人しくしていてください」

「でも」

「大丈夫、僕がなんとかしますから。でも・・・もうここには帰ってこれないかもしれません」

「・・・そう。でも、何か手伝える事があったら言う・・・今でなくても・・・」

「ありがとうございます、皆さん」


 俺は感謝の気持ちを込めて頭を下げた。

 この寮での生活も悪くは無かったな・・・今日で終わりかと思うと残念だ。

 楽しい事しか思い出せない寮だ。


「あんたたち、軽く弁当でも作ってあげるよ。今すぐ出るわけじゃないんだろ?」

「ええ、荷物を運ばないと。あとモルドレッドも・・・そういえば、ミュウについて何か知りませんか?」


 姫は城に捕まっている。だったらミュウは?

 小声で話し合う双子とキュレさん。


「ミュウか・・・学院内にいた事は分かってるんだが」

「恐らくですけど~学院の裏手にある森のどこかでしょうね~。・・・建物の中にはいないと思う~」

「ええ。・・・夕方だけど騎士たちの姿をそちらでみたわ・・・」

「すまない。助けてはやりたかったんだが」


 うなだれるララサさん。

 いや、国家相手にそんな事したら捕まりますから。


「大丈夫です、僕が見つけますから。では少し出てきますので・・・シャーリー、後を頼む」

「はい。御武運(ごぶうん)をお祈りいたします」


 寮から出た俺は、ササラさんたちの言っていた学院の裏手にある森へと向かう。

 同時に魔法を再び起動。辺りを調べる。

 結構深い森だからな、ここは。

 ・・・広域知覚(ワイドセンス)に掛かるのは今のところ2人か。

 2人一緒に行動している以上、ミュウではないはずだ。


 追っ手、恐らく正規の騎士。真正面からやりあう事になれば負けるだろう。

 それにこの人数しかいない、とは限らない。すでに知覚外まで行ってる者がいるかもしれない。

 

(だったら、ミュウとの合流が先だ)


 広域知覚(ワイドセンス)増幅呪文(ブースト)を掛ける。それによって効果範囲を広げ、騎士たちより先にミュウを見つけるのだ。


増幅呪文(ブースト)


 知覚できる範囲が一気に広がり、眩暈(めまい)と吐き気を(こら)える。

 あー、くそ。想像以上にキツい。

 魔力の消費も多いしな・・・。


 1、2、3・・・、9。・・・全部で9人か、多いな。二人一組で行動している中、1人だけ単独で行動しているのがいるから、これがミュウの可能性が高いが・・・。

 行ってみるしかない、か。


 俺は真っ暗な森の中へと歩き出すのだった。





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「真っ暗で何も見えないな・・・」


 夜、しかも森の中だ。月の光さえ届かない。

 俺は使える魔法を頭の中で検索し・・・昔作った魔法を思い出した。


「そういえば、作ったはいいが使う機会がなかったな・・・これ。・・・“暗視(ナイトビジョン)”」


 視界が緑色に染まり、周りがはっきりと見えるようになる。

 うん。やっぱり視界が緑色ってのは雰囲気でるな。これでこそ暗視(ナイトビジョン)だろう。


 テストした後、使うのは今日が初めてだ。

 なにしろ野営をしたのも、ついこないだが初めてだからな。

 夜の冒険なんて今までする事がなかった。だが、これからは多用する事になるかもしれないな。

 クリアな視界の中、騎士たちの場所を避けながらミュウのもとに向かう。


「・・・不味いな、もう接触しそうだ」


 広域知覚(ワイドセンス)のイメージはレーダーだ。

 頭の中に魔法の効果範囲の平面図が浮かび、そこに生き物の反応である光点が映る、という感じの認識だ。

 その光点の2つが、1つだけの光点に向かって進んでいく。


「間に合うか?・・・・・・無理だな。だったら不意打ちで2人とも倒す」


 加速(クイック)レベルAの魔法を使い、1.5倍の速さを得る。

 緑色の視界に程なく見える、ミュウと・・・2人の騎士。

 使用魔法の選択は一瞬。


「喰らえ、眠りの霧(スリープミスト)


 小さく唱える。

 効果範囲の中にいる相手に眠りを与える魔法。


 そしてこれも俺の強みなのだが・・・。

 魔法は呪紋を空中に描く、という特性から普通は呪紋を描き切るまで移動が出来ない。

 必ず一ヶ所に立ち止まらなければならないのだ。

 だが俺の呪紋無し魔法なら、移動しながら魔法が使える。


 騎士たち2人の真ん中に突然現れる霧。

 周りに一瞬だけ広がって・・・消える。

 だが、その効果は劇的だった。

 騎士たちは1度頭を振ると・・・まるで糸が切れた人形のようにぱたり、と(くずお)れていく。

 成功したか?・・・だが、2人の内1人が倒れる寸前で踏みとどまった。


「嘘!?抵抗(レジスト)した!?」


 つい言葉に出してしまう。

 こちらを振り返る騎士。そして、その顔に驚愕が浮かぶ。

 俺も驚いた。だって見知った顔だったから。

 父さまの部下の・・・新米騎士のカインさん。


「え・・・?アフィニアちゃん・・・!?」

「あ」


 だが、彼と話をすることは無かった。決定的な隙を見せたカインさんの右頬に目掛けて、ミュウの右ストレートが打ち込まれたからだ。くるくると回転しながら大木に叩き付けられるカインさん。

 えっと。・・・・・・完全に気絶、してる・・・。

 ごめんなさい。


「ミュウ!」

「あなた、助けに来るのが遅いですわ!!」

「遅いって・・・」


 勝手なミュウの物言い。

 だが、俺はそれに文句を言うことが出来なかった。

 その目に涙を浮かべていたから。


「お兄様が殺されて・・・わたくしは・・・」

「え・・・と・・・」


 ここにこうしているのは不味い。先程の騒ぎを聞きつけていないとも限らないのだ。

 だが、ボロボロと泣く女性を前にして、そんな理屈が通るだろうか。

 はっきり言って無理だ。

 自慢の金髪は乱れ、ドレスも今は薄汚れて所々破れている。


「ミュウ」


 騎士たちが落とした松明(たいまつ)の明かりが照らす中、俺は彼女を抱きしめた。

 そして優しく背中を撫でる。


「不安だったんだね・・・」

「そう、ですわ・・・ずっと、ずっとずっと不安で、寂しかったですわ・・・」

「そっか。でももう大丈夫だよ。僕がいるから」

「・・・はい・・・」


 自分より背の高い女性を抱きしめて慰めるなんて・・・周りから見たらどう映るだろうな。

 女だからそう変でもないか。

 俺はミュウを慰めながら、頭の中では広域知覚(ワイドセンス)に映る光点との距離を冷静に(はか)っていた。

 もうそろそろ不味いな。

 俺はいったんミュウを離し、両肩を持ち彼女の目を見つめて言う。


「ミュウ。今から安全な所に行くよ?」

「行くって、どこにですの?」

「最終的には国外だろうね。もうこの国にはいられないと思う」


 ミュウはもう犯罪者だ。捕まれば恐らく処刑されるだろう。

 それは駄目だ。

 だったら連れて行くしかない。


「行くよ、いいかい?ミュウ」

「・・・・・・分かりましたわ!」


 しばらく(うつむ)いて何かに悩んでいたようだが、顔を上げた時にはいつものミュウに戻っていた。

 うん、いい返事だ。

 ・・・カインさん、手当て出来なくてごめんなさい。





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 真っ暗な森の中だ。

 位置を正確に把握し、昼間と変わらない視界を持つ俺にとっては残りの騎士たちなど敵ではなかった。


「こんなところか」


 騎士たちの包囲網をあっさりと抜け、森の外へ出る。

 あの後、カインさんたち2人組と戦った後は1度も戦闘はしていない。

 そう、逃げるが勝ちだ。

 実際の話、端役(はやく)の騎士たちと戦ったところで得る物などないのだ。

 戦って勝てるとも限らないしな。


 学院の外、隠してあった馬車まで行くと、すでにシャーリーが待っていた。


「アフィニア様、ミュウ様、よくご無事で」

「シャーリーオール。ありがとうですわ・・・」

「荷物はもう積み込んだ?」

「はい、必要と思われるものは」


 シャーリーのやる事だ。確認する事もないだろう。


「ミュウ、何がどうなったのか、何故ヴォルフ殿下が暗殺犯になってるのか・・・教えてもらえる?」

「・・・わたくしも詳しい事は知らないですわ。人づてに聞いた話でよければ話しますわ」

「まったく僕には情報がないから、お願いできる?」


 それは昨日の夜の事だという。

 ヴォルフ殿下の元へ、第1王子レノックスから会見の申し込みがあったのだそうだ。

 「ヴォルフ殿下を王と認める、その条件について話し合いがしたい」と。


 ヴォルフ殿下はこれを受け、話し合いの場を設けた。

 レノックスに対する警戒もあり、暗殺される可能性なども考慮に入れ厳重な警備がヴォルフ殿下の手で行なわれた。だが、絶対に起こるはずがないその状況で、毒殺事件が発生したのだ。

 死んだのはヴォルフ殿下ではなく、第1王子レノックス。


 ヴォルフ殿下が疑われるのも無理はなかった。そこにいたのは全員ヴォルフ殿下の部下だったのだから。


 その事件が起こった後、待ち構えていたように行動を起こしたのが第3王子レオノール殿下。ヴォルフ殿下を第1王子毒殺犯として捕らえ、そのまま処刑したのだ。

 すでに彼は王として振舞っているという。


 皆が何かおかしいと思いつつも、すでに権力はレオノールの手にある。


 ミュウの話を聞き終え、俺は考える。

 人づての話、という事で正確かどうか分からない。

 だが、それではあまりにもヴォルフ殿下が間抜けすぎる。


 結果から見れば、レオノールの陰謀であった事はほぼ間違いはないだろう。第3王子である彼が王位に就くためには、第1王子と第2王子の両方とも消える必要があったのだから。

 この状況は、第3王子にとってあまりにも都合が良すぎる。 


 簡単に考えてしまえば、ヴォルフ殿下の部下の中に裏切り者がいたという所だろう。

 だが、それをあの切れ者のヴォルフ殿下が見逃すか?

 そもそもヴォルフは90%、いや100%王位を手に入れていた。そのヴォルフを裏切る意味があるのか?


「分からないな・・・」


 まあいい、どうせ会わなければならないのだから本人に聞くのも一興だろう。

 こういった殺人事件の種明かしは犯人が嬉々としてする物なのだから。


「ミュウ、もう1つ。姫は城のどこにいるか分かる?」

「城の中の事は分かりませんわ。でも、自室で監禁されているか、牢獄に繋がれているかですわ」

「自分で探すしかないか・・・」

「あなた・・・城へ忍び込むつもりですの?正気なんですの?」


 ミュウの驚く声。

 でも。・・・あのレオノールの濁った目を思い出す。

 あいつの元に姫を置いておく?冗談じゃない。


「正気だよ。このままいけば・・・明日にも姫は殺されるかもしれない。今この瞬間にも危ないかもしれない。だったら助けに行くしかないよね?」

「・・・・・・分かりましたわ。わたくしも協力いたしますわ!」


 決意を込めてミュウがこちらを見た。

 でもミュウにはシャーリーを守ってもらいたいし。それに。


「駄目。ミュウはシャーリーと一緒に隠れていて」

「どうしてですの!?」


「色々やらないといけない事があるから。1人の方がいい」

もう少しで第1部完です。

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