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アフィニア日誌  作者: 皇 圭介
第一部 ジンバル王国編
33/50

30話 「ユニコーン」

「実は僕はね・・・・・・・・・神様なんだ」

「・・・」

「・・・」

「ここは笑うところですの?」


 言うんじゃなかった。


「あー。僕は新魔法を作るのが趣味なんだ」

「・・・それで納得しろと(おっしゃ)いますのね?」

「うん、それでお願い。いつか、本当の事話すから」


 あれ?姫のさっきまでの心配するような視線が、今はなんか責める様な感じになってない?

 えーと。


「いいですわ・・・。あなたが話してくれるのを待っておりますわ!」

「ありがと、ミュウ」


 にっこりと笑ってみせる。するとミュウは真っ赤になってしまった。

 ふふ、やはりこの体のスペックは高いな・・・あれ、姫どうしてこっちに来るの?

 なんでそんなに作ったような笑顔なの?


「痛い痛い痛い、やめてよ姫」

「ふん」


 姫にほっぺを思い切り引っ張られてしまった。きっと、ほっぺが真っ赤っ赤になってるね、これは。

 まあいいや。姫の焼き餅は可愛いしな。

 たぶん親友が取られそうとか、そういう意味だろうけど・・・・・・そうだよね?


 可愛い姫を見られて、俺はとても満足だ。


「まったく、あなた方は。今がどういう時か分かっていまして?」

「う、すまないミュウ」

「ごめんよ、ミュウ」

「あなたは反省していませんわね」

「・・・」


 なんとなく、ミュウの俺の評価が下がった気がする。





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「ええと・・・姫、ミュウ。なんか森の奥の方に入って行ってない?」

「・・・どうだろうな?」

「そんな事はありませんわ! ちゃんと村へ向かっているはずですわ!」

「そうかなぁ・・・」


 俺たちは今、絶賛遭難中だった。

 さすがは魔の森、噂どおり恐ろしいところだ。

 本当に迷うとは。


 早朝出発してから何時間が経ったのか。

 時計も携帯もない状態では今何時かは分からない。

 昼にはまだなっていないと思うのだが。

 まあ、ミュウが保存食を持って来てくれたので、2、3日なら飢えて死ぬ事はないだろうが。


 かなり不味い状況なのかもしれないが、昨日からの危機の連続で少々麻痺しているのかもしれない。

 それでもそれに気がついた時、さすがに能天気に笑ってはいられなかった。


「姫、ミュウ、前方に何か沢山いるよ」

「沢山とは、どれぐらいだ?」

「んー、7・・・8、かな」

「多いな」


 この生命に満ち溢れた森で、広域知覚(ワイドセンス)に一々引っかかる生き物を警戒していては先に進めない。魔法で探知を続けながらも半ば放置状態であったが。

 さすがにこれほどの反応が1度にあったのは初めてだ。


「どうする?迂回(うかい)するの?」

「小動物でも反応するのでしょう?この程度で迂回(うかい)していては日が暮れますわ!」

「そうだけど」


 拳を握り締め、どんどん先に進んでいくミュウ。

 1人で行かせるわけにはいかない。姫と顔を見合わせ、ミュウの後ろに続く。


「馬?」


 森の中で多少開けた空間。

 そこにいたのは8頭の馬だった。

 頭に1本、角の生えた。


(ユニコーン?)


 そこには純白の一角馬(ユニコーン)を中心に、栗毛とか黒鹿毛とか7頭が集まりこちらを注視していた。

 一角馬(ユニコーン)といえば中心にいる1頭のように純白のイメージだったが、こちらの世界では色々いるらしい。

 それに・・・どうやら、もとの世界の一角馬(ユニコーン)とはやはり違うのかも知れない。

 俺はこの幻獣には対して特に悪いイメージは持っていなかったのだが・・・・・・未だに姫とミュウが剣を構え、拳を握り締めたまま警戒態勢を解かないからだ。


「ええと、危ない相手なの?」

「中級ランクの魔物(モンスター)ですわ! 戦えない相手ではありませんけど、これほどの数ともなれば・・・少々厳しいかもしれませんわね」

「ああ、逃げても無駄だろうしな」

「でも、おかしいですわ! この魔物(モンスター)は単独で行動すると聞いた事がありますのに」


 よく分からないが、どうやら危機(ピンチ)らしい。

 俺も一応、杖を構えていつでも魔法を使えるようにする。

 無くても使えるけどな。


一角馬(ユニコーン)は、汚れなき処女(おとめ)に弱いと聞くけど」

「なんですのそれは?」

「・・・本に書いてあった」

「わたくしは知りませんわね」


 書いてあったのは俺の世界のファンタジー本だけどな。


『昔はその様に言われていた事もあるがの』

「え?」

「「!」」


 今、頭に直接聞こえた!

 俺は、周りをキョロキョロと見回す。姫やミュウも聞こえたらしく、同じようにキョロキョロしている。


『わしだ。人間よ・・・』


 また聞こえた。でも今度は分かった。

 あの真ん中にいる、純白の一角馬(ユニコーン)だ。

 姫やミュウも分かったらしく、驚きの顔で見ている。


「魔獣が(しゃべ)るなんて・・・ありえませんわ!!」

(しゃべ)ってないよ。テレパシーだよ」

「て、てれぱしー?」

「ああ、その言葉の意味はわからないが・・・確かに喋ってはいないな。心に直接響いてくるようだ」


 姫はなんというか、あっさり受け入れているようだが・・・ミュウは大混乱だ。

 認めません、ありえませんわ、などとブツブツ言っている。

 まるで危ない人だ。


『これ以上行けば、森から出られなくなるが・・・よいのかの?』

「ええと、その・・・迷子になりまして」


 他の7頭はどうだか分からないが、あの白いのとは話しが出来るようだ。

 ミュウは魔獣とか言っていたが、目には知性を感じられるような気がするし。


『迷子か』

「はい、誠にお恥ずかしい限りです」


 俺たちの会話(?)を聞いて、姫は剣の構えをとく。

 ミュウは思考がまだどこかにいったままだが。


「私たちは戦うつもりはありません。見逃していただけませんか?」

『・・・・・・』


 姫も俺を見習ってか話し始める。


『よかろう。だがそれは、わしの用件が終わってからじゃ』

「用件?」

『昨日の事だ。とても・・・懐かしい波動を感じた』

「波動ですか?」


 姫が、波動ってなんだ?という顔をしている。俺にも分からないが。

 だが、白いのは説明する気はないようだ。


『その波動を辿り、わたしは森深くからやって来たのじゃ』

「はあ」


 正直「はあ」としか言いようが無い。


『その波動を発したのは・・・お前じゃな?』

「え?僕?」

『1500年前と同じ波動だ・・・。間違いない』


 いきなり当事者になった俺。まったく訳が分からない。1500年前ってなんだ?

 姫や、復活したミュウも俺を見つめている。


「せ、1500年前ですか・・・ずいぶん長生きなんですね」

『わしは“始まりの獣”の一体じゃからな』

「・・・」


 はい、また訳の分からない言葉出ました。


「ええと、よく分からないのですが・・・説明していただけると嬉しいのですが」

『本当に懐かしい。・・・だが、まったく昔と同じという訳ではないようだ』

「あの・・・」

『そうか・・・どうやら封じられているようじゃな』


 駄目だ、こっちの話を聞く耳持っていない。

 彼(こう呼んでいいんだろうか)は一方的に話すばかりで、その内容もよく分からない昔話だ。

 他の7頭の色付き一角馬(ユニコーン)もきっと迷惑そうに聞いているに違いない。

 「ああ、お爺ちゃんがまた昔話しを始めたよ」とか言って。

 まったく動きがないので分からないが。


「すみません!!!」

『な、なんじゃ。急に大声を上げるでない』

「ええと、僕たちは森から抜けたいんです。出来ればキオ村の方に」

『キオ村・・・聞いた事があるような』


 馬たちが顔を見合わせている。心の声とかは伝わってこなかった。


『あの、山近くの小さな集落じゃな』

「たぶんそれです」

『ふーむ、なれば道案内をさせよう。XXXよ、こちらに来い』


 あれ?今、聞き取れなかった。

 でもその言葉で7頭のうちの1頭、真っ黒い一角馬(ユニコーン)が白いのの近くに歩いてくる。


『XXXよ。この者たちを森の外まで送り届けるがよい』


 まただ。たぶん名前だと思うんだけど。

 真っ黒い一角馬(ユニコーン)は、首をコクリと動かした。


『その後は・・・よいな?』


 もう1度、コクリと首を動かす黒いの。

 まあなんでもいいや。この迷子から開放されるのなら。

 俺はもう、そう思う事にした。ミュウからの視線が冷たい。



 それで現在、俺たちは黒い一角馬(ユニコーン)の後をついて歩いているという訳なのだが。

 村の方向がまったく逆だったというのはともかく。

 この馬は割りと紳士で・・・ちなみにオスだ。とにかく俺たちの方を時々見て、歩く速度を変えてくれたり待ってくれたりするのだ。

 ただ、どれだけ話しかけても答えてくれない。

 話す気が無いのか、それとも、もしかしたらあの純白の一角馬(ユニコーン)しか喋れないのか。

 喋るというよりテレパシーか?

 特別みたいな事言ってたしな。確か、“始まりの獣”だったか。


「・・・納得いきませんわ!」

「あきらめろ、ミュウ。目の前にあるのが現実だ」


 姫とミュウが2人話し合っている。

 ミュウには、魔獣が喋った事、こうして道案内をしてくれる事がどうしても認められないようだ。

 こちらをキッと睨んでくる。


「あなた、帰ったらちゃんと説明してもらいますわ!」

「さっきの事は、僕にだって分からないよ・・・親切な魔物もいるって事でいいのではない?」

「あなた、今回もそれで済ます気ですの!?」

「ミュウはもうちょっと大人になった方がいいね。世の中、納得のいかないことなんて腐るほどあるよ」

「・・・」


 あ、怒った。まずいな、もう少し考えて喋ろう・・・ミュウはつい、からかいたくなるな、何故だろう。





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「外だ~!」

「ああ、やっと出られたな」


 森を抜けられたのは次の日、28日の昼過ぎだった。

 恐らくだが急げば、今ならまだララサさんとササラさんに追い付けるだろう。

 シャーリーにも心配かけたな。


「ありがとう、一角馬(ユニコーン)。おかげで帰ってこれた」

「うむ。助かったよ」

「い、一応、礼は言っておきますわ!」


 俺に続いてみんなも礼を言う。斜面を転がり落ちて約2日間、大変だったがなんとか戻れそうだ。


「よし、急いで合流しよう」

「分かりましたわ!」


 真っ黒な一角馬(ユニコーン)に手を振ってキオ村へと急ぐ。

 だが。


「ええと、付いて来るんだけど」

「村まで送ってくれようとしているのではないか?」

「そうなのかな・・・よし。ええと、もういいよ?後は僕たちだけで大丈夫」

「・・・まだ付いて来ますわよ?」

「うーん」


 俺は、馬のつぶらな瞳を見つめる。・・・駄目だ、俺には心を読み取るスキルは無いようだ。


「気に入られたのではないの?」

「そうかな?」

「まあ、角以外ほとんど馬だし飼ったらいいですわ・・・」


 ミュウが投げやりに言う。もうどうでもよくなったらしい。


「ねえ、本当に付いて来る気?」

「・・・」


 コクリと(うなず)く馬。言葉は通じているようだ。本人(?)がそれでいいなら俺としては別に構わない。

 ・・・名前がいるな。昨日の白いのが使っていたテレパシーでは名前が分からなかった。

 推測だが、たぶん人間には発音できない名前なんだろう。だったら、新しい名前をつけてやろう。


「名前・・名前・・・」

「こいつの名前か?」

「姫。そうだよ、名前がないと不便(ふべん)かなと思って」

「そうか・・・」


 姫と2人、名前を考える。ミュウも考えているようだ。


「シェーンアルガというのはいかがでしょう。古代の英雄ですわよ?」

「・・・駄目のようだな」

「だね・・・」


 ミュウの告げた名前に、首を横に振って答える馬。


「よし、アリオンというのはどうだろう」

「・・・」


 俺と馬の視線が交わる。しばらく見詰め合った後、コクリと首を縦に振る。

 う~ん。今の間だと気に入ったのか気に入らないのか微妙だな。

 俺が飼い主になるのだから我慢したとか。


「本当にアリオンでいいの?」

「・・・」


 (うなず)く馬。まあいいや・・・それなら。


「今日からおまえはアリオンだ。よろしく頼むね」

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