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アフィニア日誌  作者: 皇 圭介
第一部 ジンバル王国編
3/50

02話 「家族」

 この家にお世話になるにあたって、ひとつ注意しなければならない事がある。

 それは俺が、俺であることを気づかせてはいけないという事だ。


 なぜならば、彼ら騎士たちは儀式が失敗したと思っている。


 よく聞いてみれば、やはりあの黒ローブどもは邪神を信仰する狂信者たちで、邪神を召喚することによってこの国を、延いては世界を破滅させようとしていたという。

 呼び出されるはずだった邪神の名は『終末の破壊神エメランディス』。

 世界の終わりに現れ、太陽を飲み込み、月を飲み込み、最後に大地を飲み込むのだとか。


 どれだけでかい口だよ、とあきれるが神話に文句をいっても仕方がない。

 どちらにしても俺は破壊神ではない。

 親戚にそんなおかしい人はいなかったし、地面とか食べる人もいなかったはずだ。

 

 とにかく自分は破壊神とかではない。

 では何か。

 おそらく・・・、単なる想像に過ぎないが、あの黒ローブたちの儀式自体は成功していたのではないだろうか。

 そして最後の最後に、まちがい電話をかけてしまったのではないか。

 破壊神さんの自宅ではなく、この俺に。


 そして俺はこの世界に呼ばれてしまった。

 魂だけで。


 この体の持ち主の魂は、あまり考えたくはないが、俺がこの体に入った衝撃で弾き飛ばすか押しつぶすかしたのだろう。別に俺のせいではないはずだが・・・罪悪感を感じる。


 とにかく、もし俺が俺であることがばれてしまったら命は無いだろう。

 事情を話した所で、納得などしてもらえそうにない。

 だいたい何と言えばいいのだ。


「私は破壊神ではありません、別の世界の善良な一市民です。単なる間違いで呼ばれただけで、ちっとも邪悪ではないですよー」


 とでも言えばいいのか?

 自分で言ってて無理だとわかる。


 なので俺は、無害な一少女を装う。

 背中がむずがゆくなるが、こればかりは仕方ないだろう。


「クリシュティナさん、おはようございます」

「おはよう。昨日は良く眠れた?」

「はい、ありがとうございます。おかげ様でぐっすり眠れました」


 まだベッドから立ち上がれない俺に、甲斐甲斐しく世話をしてくれる。

 

「いいのよいいのよ、気にしないで。アフィニアちゃんはしばらくこの家で暮らすのだし遠慮なんかしちゃ駄目でしょ?」

「いえ・・・でも・・・」

「うん、まだ遠慮があるわね。あの・・・ね、お母さんって呼んでみない?クリシュティナさんって呼び方、なんとなーく余所余所しいでしょ?」

 

 いや、余所余所しいもなにも他人だと思う。


「いくら覚えてないといってもご両親が亡くなられたばかりだし、不謹慎だと思うけれど」


 でも出来れば呼んで欲しいな。

 言葉には出さないが、何か圧力を感じる。


「お・・・お・・・、おか・・・、おか・・・」


 小さいころに母親を亡くした身としては、母親経験値が不足ぎみなのだ。

 レベルが高すぎる。


「おか・・、おか・・・か、(かあ)さま」


 何が違うのかはわからないが、この言い方なら俺の中の羞恥ゲージの上昇が低い。

 『お母さん』は無理だ。


「んー、それでいいと思うの」


 OKが出た。


「そのかわり、(とう)さまの事も、(とう)さまと呼ぶのよ?」

「・・・」

「そのかわり、(とう)さまの事も、(とう)さまと呼ぶのよ?」


 今、二回言ったよね。

 なんというか、・・・か、(かあ)さまは押しが強い。

 いつもニコニコして争い事とか避けて通りそうなのに。

 騎士の嫁っていうのは、押しが強くなければなれないものなのだろうか。

 それとも、なったから押しが強くなったのか。

 卵が先か、にわとりが先か。


「・・・と、(とう)さま」


 はい、よくできました。


 柔らかい手で頭をなでなで。

 なんという幸せ空間・・・!駄目だ、抵抗(レジスト)しないと。


(俺には、元の世界に帰って先輩とイチャイチャするという野望が・・・!)


 帰るために情報を集めるどころか、まだ満足に体も動かせないのですが。


(今はとにかく、動けるようになるのが先決か)





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「まさか、こんなにかかるとは」


 あの後、結局時間をかけて押し切られてしまい、正式な養女になってしまった。

 幼女の養女だ。


 ごめん。物を投げないで。


 彼女を・・・。クリシュティナさんを、(かあ)さまと呼んでから1年。

 自由に動けるようになるにはそれだけかかってしまった。


(もう先輩、俺の事なんて忘れてるだろうな)


 告白OKした日に相手が失踪だなんて、どう思われているだろうか。

 いや、わずか、本当にわずかの可能性だが、元の世界とこちらの世界では時間の流れが違うという可能性がある。希望を捨ててはいけない。

 それが例え、ほんの小さな可能性であろうとも。


 まあいい。

 しかし、ここまで回復に時間がかかるとは予想外だった。

 病気とか、体力がないという話ではない。

 医者の説明によると、体内の魔力が色々ぐちゃぐちゃになっていたそうだ


 魔力・・・魔法。

 火球(ファイアーボール)とか隕石召喚(メテオストライク)とかもあるんだろうか。


 あんなのもあるのか。

 あるんだろうな。魔力があるんだから。

 話が逸れた。


 とにかくそのせいで、体の意思伝達システムが麻痺していたらしい。

 その上あまりにも複雑になっていたため、自然治癒しかないといわれたのだ。


 これはあれか。

 俺の魂のせいか。


 何しろ、自分は破壊神なんぞではないとわかっているものの、少なくとも間違われるぐらいの存在。

 10分の1、いや100分の1だとしても、この娘の体にとっては途轍もない負担だったのだろう。

 だから、本来の魂を弾き飛ばした上、こんな体になってしまったのだろう。


 あくまで予想だが。


 動けないのならば、と言う事で、(かあ)さまや(とう)さまに色々教わることにした。

 知っておいて損はないだろう。

 俺には目的があるのだし。

 ベッドの上で寝たきりでもやれる事はあるはずだ。


 たとえばこの国の事。今いる場所の事も知っておかなければ。

 

 母さまの話によれば、この国の名は『ジンバル王国』。

 海に面した、それなりに大きく豊かな国という事だ。

 国境を接する国は3つ。

 テューレ、アーリス、ノアの3国。

 ここ10年ほどは戦争も無い。

 平和な事だ。


 平和万歳。


 話が逸れるが。

 ここ一年、ベッドに寝たきりで分からなかったのだが。


 こちらの世界にはお湯につかる、という習慣は無いらしい。

 普通は湯で体を拭くか、水風呂のようだ。

 川が近ければ、それで済ます人も多いのだとか。

 たしかに、お湯を沸かすというのは大変な仕事かもしれない。


 気候的に、この世界は総じて凍死するほど寒くならないので、それで問題ないという事だ。

 元の世界ではシャワーが中心だった俺でも、入れないとなるとお湯を張った湯船がほしくなる。

 これはなんとかしないといけない。


 寝たきりの間はどうしていたかって?

 (かあ)さまに、湯に浸した布で拭いてもらっていたさ。

 羞恥プレイだが、動けないので抵抗はあきらめた。

 家族のスキンシップだ。


 トイレ?聞いてくれるな。



 そういえば学ぶなかで知ったのだが。

 なんとエルフやドワーフといった種族もいるらしい。

 俺が勝手に言ってるだけで、エルフやドワーフといった名前ではないが。

 耳長族とか、小人族とか言うらしい。

 魔獣とか魔法生物とかいるらしいし、ファンタジーだ。


 さあ行こう、夢と魔法と冒険の世界へ。


 もう来てるけどね。

 ただ、俺にかなりの魔力がある事を知った(かあ)さまが、魔法の訓練をしてくれることになった。

 その方が治りが早いらしい。


 今使えるのは初級も初級、明かり(ライト)の呪文だ。

 はじめて成功したときには感動したね。

 魔法だよ、魔法。

 母さまによると、俺は筋がとってもいいそうだ。

 

 なんでも話によると、母さまは魔術の研究施設に勤めていたらしい。

 実践よりは研究メインで、大魔術士とかではないそうだが。

 そこで当時、警備主任の騎士だった父さまと知り合ったとか。

 

 のろけられた。


 まあでも、その話を聞く内に予想が当たっていた事が判明した。

 やはり、(とう)さまと(かあ)さまには子供がいないらしい。

 それも、生まれてから亡くなったのではなくて、もとからいないのだ。


 どちらかだろうとは思っていたのだが。


 するとこのアフィニアという名前は、いつか子供が出来たときのためにずっと温めていた物なのだろうか。・・・母さまに秘密を持っているのはとても心苦しいが、打ち明けられるたぐいの物ではない。

 

 元の世界に帰るのは決定事項だが、はたして俺はこの新しい両親と笑って別れられるのだろうか。


(かあ)さま、今日は新しい呪文を教えていただきたいのですが」

明かり(ライト)はもう完璧だし、そうね、加速(クイック)レベルCなんかはどうかしら?」

「どんな呪文なのですか?」

「対象は自分だけだし、短時間だけど1.2倍のスピードで動けるようになるのよ。腕とか」

「それはすごいです」


 その時にならないと分からない事だし。

 ・・・考える必要は無いのかもしれない。



 今は、まだ。

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