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アフィニア日誌  作者: 皇 圭介
第一部 ジンバル王国編
20/50

18話 「モルドレッド」

「久しぶりですね、屋敷にお戻りになるのは」


 ワイアールさんのお店新規開店計画が進む中、俺はシャーリーをともなって屋敷に戻る事になった。

 別に学院を辞めたとかではない。

 (かあ)さまから顔が見たい、アフィニア成分が足りないなどと言われたこともあるが・・・。主な目的は、使い魔であるモルドレッドを迎えに行くためだ。


 入寮して以来、寮母のクレアさんとずっと交渉していたのだ。その結果、世話をきちんとする事、何か問題が起きたら責任を全部取る事、で寮で飼ってもいいことになったのだ。

 この寮は学院の敷地内にあるため、クレアさんにはかなりの無理を言ったのだろうと思う。


 まあこれで、モルドレッドの訓練も出来る。


「今夜は家に泊まって、明日学院に帰ろうと思う」

「旦那様と奥方様が大変お喜びになると思います」


 揺られる馬車の中から、小さな芽をつけ始めた木々を見つめる。

 元の世界なら、春が来たとでも言うのだろう。


「学院に入ってからもう2ヶ月半か。時間が経つのは早いなあ」

「アフィニア様・・・」


 我が家に着くのは昼過ぎになりそうだ。





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「お嬢様、お帰りなさいませ!」

「ただいま。フィオレさんはお変わりないですか?」

「はい、おかげさまで」


 懐かしい我が家だ。ずいぶんと離れていたような気がする。


(とう)さまと(かあ)さまは?」

「旦那様はお城へ行っておられます。奥様は居間(いま)でお嬢様をお待ちになっておられますよ」

「ん、分かった。行ってみるよ」


 ぺこぺこ挨拶しているシャーリーを連れて、母さまがいるという居間へと向かう。

 屋敷の中は、あまり変わっていないようだった。まあ2ヶ月半で大幅に変わっていたら驚くが。

 居間への扉をゆっくりと開ける。


「ただいま帰りまし・・・・・・」

「お帰りなさいっ! アフィニアちゃんっ!!」


 挨拶の途中で(かあ)さまに抱きつかれる。


「ちょ、ちょっとお待ちください、母さま!」

「ああ、アフィニアちゃん。お母さんね、とおっっっても寂しかったのよ!?」

「・・・っ!・・・!」



 未だ母さまの胸ほどにしか身長の無い俺の顔は、2つの暴力的な膨らみに埋もれてしまう。

 見なくても、今、俺の顔は真っ赤になっている事だろう・・・。

 うれしい。うれしいのだが・・・同時に恥ずかしい。


「アフィニアちゃんを堪能(たんのう)したわ~」

「・・・ううう」


 ひとしきり抱きしめて満足したのか、母さまはにっこりと笑って放してくれた。

 一緒に来たシャーリーはといえば、その様子をまるで微笑ましいものでも見るように眺めている。

 まあいいさ、次はシャーリーの番だろうから。


「シャーリー、今度はあなたを堪能(たんのう)させてね?」


 ほらね。



 母さまがシャーリー成分をたっぷりと補給した後、やっと談話タイムとなった。

 シャーリーの顔は赤いままだったが、いつもの事ではある。

 基本、シャーリーは家族に飢えているところがある。・・・昔の事を考えれば当たり前だと思うのだが、同時に彼女は母さまの養女にならないか、との誘いを断り続けてもいるのだ。

 あくまで彼女は、使用人としての立場を崩そうとしないのだが。


「今日は泊まっていけるのでしょう?」

「はい、そのつもりです。学院に帰るのは明日の昼からにしようと思ってます」

「それなら今晩はひさしぶりに私が腕を振るおうかしら」

「それは楽しみです」


 母さまの料理は美味しいからな。

 母親の手料理。小さな頃からの夢の一つであったものだ。


「ですが、母さま。まずは夕食よりも昼食です。何か用意していただけると嬉しいのですが」

「そうね、忘れていたわ。さっそく用意させましょう」


 チリンチリン、とベルを鳴らす母さま。

 すぐに扉が開き、メイドの一人が入ってくる。


「奥様、何か御用でしょうか?」

「この子たちの昼食を用意してあげて欲しいの」

「食堂で今、用意しているところですよ」


 ああ、俺達待ちだったか。母さまとの話が、どれだけかかるか分からないからな。

 先に昼食を食べて、それから俺の使い魔に会うとしよう。


「シャーリー、食堂に行くよ?」

「はい。アフィニア様」





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「モルドレッド~、元気にしてたか?」

「がうっ!」


 屋敷の庭に作った、犬小屋ならぬ虎小屋でモルドレッドと再会の抱擁を交わす。

 少しばかり大きくなったようだが、それも仕方ない。体の成長を抑制するためには、こまめに魔法を掛けなければならないからな。

 これも、モルドレッドを寮で飼いたい理由のひとつだ。


「モルドレッド、お久しぶりです」

「がう、がう!」


 モルドレッドはシャーリーに特に懐いている。当然といえば当然かもしれない。

 命の恩人である事を、こいつも良く分かっているのだろう。


「モルドレッド、おまえも学院寮に住める事になったぞ」

「がう!(やった!)」


 うむ。喜んでくれているようだ。精神感応とかないし、動物と話をする能力も無いので想像だが。


「久しぶりに訓練しようか・・・行くよ?」

「がうっ!」

「お付き合いします、アフィニア様」


 いつもの場所に向かう。屋敷の敷地内にある、近くの森なのだが。

 そう、こいつを拾った森だ。

 ここで来るべき時に向けて、戦闘訓練を続けてきたのだ。


「よし、ここらでいいかな。モルドレッド、Go!」


 その声に反応して、モルドレッドが走る。

 次々出される俺からの指示で、飛んだり跳ねたり曲がったり、止まったりを繰り返す。


「うん、良い感じだね。2ヶ月も訓練してないから、少しは(にぶ)っているかと思ったんだけど」

「アフィニア様が前に考えられたメニューを、ちゃんと実践していたのでしょう」

「そうみたいだね。・・・よし、モルドレッド、あの岩に向かって炎の矢(フレイムアロー)

「がうっっ!!」


 その指示でモルドレッドは立ち止まり、気合の入った吠え声を上げた。

 同時に首輪の一部が光り・・・、モルドレッドの眼前(がんぜん)に炎の矢が3本出現する。

 ドシュドシュドシュ、という音とともに発射された炎の矢は、近くの岩に当たって砕け散った。


「続けていくよ?、火球(ファイアボール)


 前回と同じように、吠え声に続いて首輪の一部が光り・・・今度は紅蓮の大きな火球が出現した。

 ドンッ、という音がして、直後に起きる大爆発。


「うわ!」

「きゃあっ!」


 意外にかわいい、シャーリーの悲鳴。

 爆発の衝撃波に閉じていた目をゆっくり開けると、先程の岩は跡形もなく砕け散っていた。

 凄い威力だ。

 

「うん、完璧。シャーリーに作ってもらった呪符も問題なさそうだね」

「ありがとうございます」

「いや、礼を言うのはこちらなんだけど・・・」


 まあいいか。


「モルドレッド。後、メニューを3回程こなしたら、帰って食事にしよう」

「がうっ♪」


 おお、張り切ってる張り切ってる。エサのパワーは凄いな。

 何か、さっきよりも動きがいいような感じがするし。


「アフィニア様」

「ん? 何だい、シャーリー?」

「あそこに」


 シャーリーの指差す方向に目をやると、そこには一匹の野ウサギがいた。

 向こうもこちらに気付き・・・一瞬視線が(から)んだような気がした。

 逡巡(しゅんじゅん)はほんの数秒。野ウサギは文字通り、脱兎の如く逃げ出した。


「野ウサギか、母さまが喜んでくれる。・・・モルドレッド、Go!」


 夕食の席にウサギの肉がのぼったのは言うまでもない。





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 翌日の夕方頃、学院寮に戻ってきた俺たちを出迎えたのは、ミュウの満面の笑顔だった。

 いつ帰って来るかなど、彼女には伝えていなかったはずなのだが。


「ええと、姫?」

「どうやら版画とやらの下絵が完成したらしいのだ」

「ええ、わたくしの最高傑作ですわ!!」


 なるほど。絵が完成したので、取りも直さず寮に駆け付けたと。


「姫はもう見たの?」

「いや、私はまだ見せてもらってないが。どうやら、アフィニアに最初に見てもらいたいようだぞ?」

「ふふ。自分の才能が恐ろしすぎますわ!」


 どうやら絵を見ない限り、玄関から中へ入れさせてもらえないらしい。

 ミュウだから仕方ない。


「シャーリー、馬車の中のモルドレッドをお願い」

「裏庭でよろしいですか?」

「うん。家から持ってきた小屋は、後で設置するから」


 シャーリーが立ち去る。とりあえず彼女に任せておこう。


「それでは、見せてもらえる?」

「ええ、よろしいですわ!!」


「・・・へー。うん、良い感じに出来てると思うよ?」


 ミュウの持ってきた版画の下絵は、意外にうまく描けていた。

 本人が言うように、最高傑作だとか自分の才能が恐ろしいとかは言い過ぎだと思うけれど。

 しかし一度しか食べてないのに、このクレープ美味しそうに描けてるな。


「もっと褒めるがよろしいですわ!」


 ミュウは放っておいて、この下絵を元に版画を完成させるとしよう。

 チラシの他には、店の宣伝で良い計画は無いだろうか?

 俺は思考に沈みながらも姫とともに自室に向かった。


「何を悩んでいるんだ?」

「これ以外に何かいい方法がないかと思ってね」

「・・・ずいぶんと入れ込むんだな」


 確かに、ただ寮の先輩に頼まれただけにしては、入れ込み過ぎているのかもしれないな。

 姫は何か、とても言いにくそうに言葉を続ける。


「その・・・何だ。アフィニアは・・・」

「どうしたの? 姫らしくないね」


 竹を割ったような、という言葉がぴったりな姫らしくもなく、めずらしく言いよどんでいる。

 だが、やがて踏ん切りがついたかのように質問してきた。


「アフィニアは!・・・年上が好みなのか!?」

「ええっ!?何でそんな話に!?」

「いや、なんと言うか、いつになく親身になっているような気がして。だから、アフィニアはキュレさんのような人が好みなのかと思ったのだ」

「ええと、好みか好みでないかと言われれば・・・、年上は嫌いじゃないけれど。たぶん、そう言う事ではないんだと思うよ?」


 何となくだが、今は分かっている。


「たぶんだけど、姫やシャーリー、寮の先輩たち。みんなで一つの事に取り組むのが楽しいんだと思う」

「そ、そうなのか?」

「あと、ミュウもメンバーに入れてもいいよ?」

「付け足しはいりませんわ!」


 部屋の扉をバン、と開けて入ってくるミュウ。

 まあミュウが付いて来てるのは知ってたが。・・・今まで扉の外で、部屋の中に入ろうか悩んでいたようだ。

 強気なようでいて、ミュウは案外弱気というか、臆病なところがある。


「部屋ぐらい気にせず入ってくればいいのに」

「2人の雰囲気が甘々過ぎて、入るに入れなかっただけですわ!・・・お友達の部屋に入るのは初めてですの」

「後半、声が小さくて聞こえなかったんだけど」

「うるさいですわ!」


 本当は聞こえてたんだけど。まったくミュウは・・・こういうのもツンデレとか言うのか?

 正直「え?友達だったの?」とか言ってみたい衝動に襲われるが。

 空気は読むべきだろう。

 あと、姫。甘々・・・とかつぶやきながら、恥ずかしがらないで。


「ふう。ワイアールさんのお店の新規開店も近いし、もう少し考えてみよう?」

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