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アフィニア日誌  作者: 皇 圭介
第一部 ジンバル王国編
18/50

16話 「お誕生会」

「姫、誕生日おめでとうー」

「「「おめでとう」」」


 俺の言葉に、みんなの声が重なる。この第9女子寮に住む姫と俺を除く5人(プラス)1人の声だ。

 双子さんやキュレさん、クレアさんも快く了承してくれたので、寮での誕生会と相成(あいな)った。


「みんな、ありがとう」


 姫はとってもうれしそうだ。

 (とう)さまと(かあ)さまに聞いてみたところ、今回は寮で親睦を深める方がいいだろうと言う事になった。

 さすが(とう)さまと(かあ)さま。


「まあ、ミュウが来るかもしれないとは思ってたけどさ」

「仲間外れは酷いですわ!」

「仲間って。今回は寮のメンバーだけでのお祝いなんだけどな」

「まあまあ、いいじゃないかい。一緒に祝ってもらおうさ」

「さすが寮母さんは人間が出来ていますわ!」


 いやまあ、さすがに追い返すつもりは無かったけどさ。


 大きなテーブルの真ん中に、デンとおかれた真っ白なホールケーキ。

 赤や、紫など色とりどりの果物で飾り付けられている。

 本当なら、誕生日ケーキに蝋燭(ろうそく)とか立てたかったのだが、こちらにはその風習は無いようで断念した。

 だが、みんなの視線は俺の作ったケーキに釘付けだ。

 特に食べた事がない、ララサさんやササラさん、ミュウやキュレさんの視線は熱かった。心なしか寮母のクレアさんも。今までホイップクリームなんて、見たことはないだろうから。


「ケーキは食事の後でね」

「は、はい」


 今日の料理はクレアさんがいつもより手間暇(てまひま)かけて作ってくれたものだ。

 鳥の丸焼きや魚料理、シチューなどがテーブルに所狭しと並べられている。


「クレアさん、今日はありがとう」

「たまにはこういうのもいいさ。あんたたちの歓迎会以来だねぇ」

「そうですね」


 みんなが食事をしているのを眺めるのもそれなりに楽しい。

 何より1人1人個性が出ていて面白い。

 姫は見かけによらず豪快に食べる。ちまちま食べても美味しくないとの事だが。

 一口一口をかみ締めながら食べる()もいれば、ちびちび食べているはずなのに、すでに周りの皿が空っぽになっている()もいる。


「・・・アフィニア、食べないのなら、私が食べてあげるよ?」

「キュレさん。僕の皿まで狙わないで」

「・・・日頃、ろくに物を食べてないから・・・」

「いつもおかわりしてますからあなた。むしろ僕より食べてますから」

「・・・ケチ・・・」


 いや、こんなことでケチとか言われても。あなたの家、金持ちでしょうに。

 まあ、いつもの事なのでみんなスルーだが。


「食べ過ぎて、ケーキが食べられなくなっても知りませんよ?」

「・・・おお、それは由々しき事態。腹六分目で止めておこう」

「私もそうするとしよう」


 キュレさんも姫も、そんだけ食べてまだ腹六分目なのか。

 いったい体のどこに消えているんだろう。


「それなら、そろそろケーキを切り分けるとしましょうか」

「おお」

「待っていました!」


 大きなホールケーキを、温めたナイフで切り分けていく。

 丁度八等分か。狙ったわけではないが、切り分けやすい人数になったものだ。


「ちょっと大きくなったから、これ、姫にね」

「ありがとう」

「反対側のやつは、今日の料理を頑張ってくれたクレアさんに」

「おや、あたしも貰えるのかい?」

「どうぞどうぞ」


 その後も、キュレさん、ララサさんとササラさん、シャーリーと配り・・・最後にミュウと俺。


「それじゃあ、どうぞ食べて」

「では遠慮なく」


 一斉に食べ始めるみんな。口の周りが、ヒゲのように白くなっているのはご愛嬌だ。


「こ、これは・・・食べた事ない食感だね。ふわふわで・・・甘い」とララサさん。

「ええ~。ふわふわ~」とはササラさん。ふわふわなのはあなたもです。

「・・・これは至高の一品と言わざるを得ません・・・」とキュレさん。

「口の中でサーっと溶けていくよ。どうやって作ったのか興味があるね?」

「わたくしは、ええと、ええと」


 最後に寮母のクレアさんと、感想が出てこなかったミュウ。

 無理に料理評論家のようなコメントは要らないのだけど。

 それを、姫とシャーリーが頷きながら笑っている。

 女の子は甘い物が好きだということだったが、こちらの世界でも同じだろうか。


「そうだ!! これよこれ!!」


 突然、いつもとまったく違うテンションで叫ぶキュレさん。


「な、何?」

「これは、あなたが考えて作った物?」

「ええと・・・まあそうです」

「料理のアイデアの天才である、あなたにお願いがあります」


 料理のアイデアの天才・・・。本当の事を言うと、俺が発明したのではないのだが。

 少しばかり後ろめたい。


「私の知り合いの店なんだけど、協力してあげてほしいの」





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 キュレさんから相談を受けたものの、その3日後には姫の本当の誕生パーティーがあった。

 俺や父さま母さまもお城にお呼ばれしているのだ。2人に久し振りに会えるので楽しみだ。

 それに、俺達で既に祝っているとはいえ姫の本当の誕生日なのだ。たとえ、話をする機会がなかったとしても万難を排して出席するのが友達というものであろう。


 そんな事をしているうちに1週間が経っていた。俺がふとした時に、相談の事を思い出したのでキュレさんに聞いてみたのだが・・・どうやら、本人も忘れていたっぽい。

 俺の話を聞いたとき、『あ』と口をぽっかり開けていたからな。


 それで寮で詳しく話しを聞いてみる事になったのだが。

 彼女の話はつまりこういう事だった。


 キュレさんのいとこに当たる、ワイアールという今年20歳になった男性。彼は男爵家の三男という立場であり、家を継ぐ事は出来ない。だが、だからといって騎士になる才能も意欲も無かった。

 だが、彼には夢があった。自分の店を出す、という夢が。


「素敵ではないですか」と、シャーリー。

「・・・そうなんだけどね」とキュレさん。


 学院生である間に一生懸命働いて、お金を貯めてお店を出すところまでは漕ぎ着けたそうだ。

 だが、そこで悩む事になった。

 彼はどんな店を出していいか分からなかったのだ。店を出す夢はあれど、どんな店にするかという事までは考えていなかったらしい。


「ええと」

「それは駄目だろう・・・」


 姫のため息。いやまあ、俺も同感だが。

 それで、手伝いで料理屋で働く事が多かったとかいう理由で、料理屋を出店したそうだ。

 だが、そんな考えで上手くいくほど世の中は甘くはなかった。


「で、泣き付かれたと」

「・・・ええ。悪い人ではないのだけど・・・」


 出店費用でお金も余り残ってないらしいし、親に助けてもらうわけにもいかないそうだ。

 俺は、どうしようか、と周りのみんなを見渡した。

 姫。シャーリー。キュレさんになぜかいるミュウ。


「放っておくのが本人の為ですわ!」

「呆れる気持ちは分かるけど・・・助けてあげられないかな・・・?」


 ミュウとキュレさん。シャーリーはいつもの通り、俺の判断に従うだけだろう。


「姫は?」

「そうだな、アフィニアさえよければ、助けてやってもいいのではないか? 少なくとも、親に頼らず店まで出した努力は認めるべきだろう」


 姫は努力とか根性とか好きだからな。それに、姫にそう言われてみれば納得できる所もある。


「女の子からのお願いでもあるしね」

「・・・女の子って。・・・私はもう17よ? まあ、あなたに言われると違和感はないのだけれど」


 不思議ね、とキュレさんは独りごちた。

 姫とシャーリーは、面白くなさそうな顔をしている。その意味がわからない程、俺は鈍くない。


「大丈夫、姫とシャーリーにも手伝ってもらうから。仲間外れになんてしないよ?」

「わたくしは!?」

「・・・ミュウか。何かの役に立つの?」

「まったく失礼ですわ!!」

「・・・まあ、味見ぐらいかな・・・」


 ミュウが「まー! まー!」と怒っているが放っておこう。・・・何故か姫とシャーリーが小さくため息をついたような気がしたのだが、気のせいだろうか?

 とりあえず翌日に店を見せてもらう事になって、その日は解散となった。





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇ 


 その店は、通称『旅人通り』の裏通りにあった。

 店を初めて見た感想はといえば・・・「狭い」。料理をする厨房スペースと、カウンター席が4席。あとは4人掛けテーブル席が2つだけという、こぢんまりとしたお店だった。

 そこでキュレさんに紹介されたのは、なんというか頼りない、という言葉がぴったり合う人だ。


「ワイアールといいます。今回はその、苦労をかけるね。おれが不甲斐無いばかりに・・・」

「アフィニアと申します。ええと、この3人は友達のセラフィナとシャーリーとミュウです」

「セラフィナ・フォースフィールドです」

「シャーリーオールと申します」

「ミュウ・イアリー・エリヤ・クラウドですわ!」


 3人も自己紹介が終わる。さすがに、ミュウの実家の名を聞いたときにはびびっていたが。


「とりあえず、料理の腕が見てみたいです。何か作ってもらえませんか?」

「うん、分かった。何でもいいんだね?」


 ワイアールさんの料理の腕を知らなければ始まらないからな。


「自信とかあるのかな」

「料理屋で手伝いとかしていたのでしょう?」

「わたくしは、味にうるさいですわよ」

「食べてみれば分かる事だ」


 俺の言葉に、シャーリー、ミュウ、姫が答える。

 だが何故かキュレさんは黙ったままだ。

 もしかしたら、もう食べた事があるのかもしれない。


「とりあえず、牛肉のワイン風煮込みとパン入りスープだけど」


 しばらくして出てきた料理を、5人で食べる。

 だが、食べたのは最初の一口、二口で、みんなスプーンを置いてしまう。


「ええと、なんていうのか」

「普通ですわね」

「けっして不味いわけではないのだが・・・」


 そう、不味いわけではないのだ。だが・・・普通だった。とにかく普通だった。

 不味いわけではないが、特別美味しくもないのだ。


「ええと、正直に言います。これ以上に自信のある料理はありますか? 無ければ料理屋は無理です」

「や、やっぱりそうか・・・」

「キュレさんは分かっていたようですね」

「ええ」


 この現状を分かった上で、この俺に相談してきたということか。

 ワイアールさんの料理の腕を上げる。だが、一朝一夕(いっちょういっせき)にそれは無理だ。

 だとすれば、アイデア料理。しかも料理の腕がそこそこでも出来る料理ということか・・・。


「難問を持って来ましたね、キュレさん」


 てへっ、とかやっても誤魔化(ごまか)されませんからね。可愛いけど。


「ワイアールさん、料理にこだわりとかありますか? 他には、店についてこれだけは譲れない、とか」

「特別なこだわりはないけれど・・・」

「では、好きにやらせてもらってもいいですか?」

「よろしく頼むよ」


 何とかやってみるとしよう。俺一人では無理でも、力を合わせれば何とかなるだろう。


「姫、シャーリー、キュレさん・・・そしてミュウ、とりあえずサポートよろしく」


 みんなは、コクリ、と頷いてくれる。


「目標は王都一の繁盛店だな」

「いや、姫、それはちょっと無理だってば」

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