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アフィニア日誌  作者: 皇 圭介
第一部 ジンバル王国編
17/50

15話 「ヴォルフ殿下との会談」

「初依頼成功に、乾杯!!」

「「「乾杯!!!」」」


 俺の乾杯の掛け声に、みんなもグラスを掲げ乾杯を唱和する。


 初めての冒険を成功で終わらせた俺達は、街の料理屋に繰り出していた。

 本来ならば酒場なのだろうが、飲酒は16歳からなので残念ながら誰も飲めない。

 飲んだ事がないので、少しばかり興味があったのだが。


「でも正直な話、ミュウにはびっくりしたね」

「なに、また馬鹿にするつもり?」


 ジロリ、と睨んでくるミュウ。


「ドレスで来たのを見たときは、こいつ大丈夫か、なんて思ったのは本当だけれど」

「やっぱり悪口ですわ!」

「いいから、最後まで聞いて? あの戦いを見たら、そんな感想は吹っ飛んだよ。実際の話、姫も相当強いと思っていたけれど、ミュウも同じくらい強いんじゃない?」

「・・・え、と・・・」


 (うつむ)いて真っ赤になるミュウ。こいつやっぱり、褒められ慣れていないな。


「うん。ミュウは強いな。武術科の中級クラスというのは分かっていたけれど、あそこまで強いとはね」

「セラフィナ・フォースフィールド、あなたまで・・・」


 ますます赤くなるミュウ。


「一度、手合わせしてみたい程だ」

「・・・・・・」


 シャーリーは我関せずとばかりに、黙々と食事を続けている。

 チームワークとか、なんかバラバラだよな。


「あ、そうだ」

「どうした? アフィニア」

「僕、ミュウに未だに名前で呼んで貰ってないんだよね。姫は逆にフルネームだしさ」

「ふむ、それは確かに」


 ミュウは話の流れ的に嫌そうな顔をしている。


「ね、ミュウ。僕の事名前で呼んでみて? ほら『あ・ふぃ・に・あ』」

「・・・・・・」

「仲間なのだから呼んでやったらどうだ? 。私もセラフィナ、と名前だけでいいぞ?」

「ア・・・ア、アフィ・・・・・・」


 まるで、生まれたばかりの小鹿が立つのを応援している気持ちだ。


「アフィ、アフィ・・・あ、あなたなんか、あなたで十分ですわ!!」

「えー・・・。がっかり。がっかりだよミュウ」

「うむ、それは無いな」





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「お兄様が2人で会いたい、と(おっしゃ)られていますわ!」


 ミュウ・イアリー・エリヤ・クラウドがそう言い出したのは、冒険に初めて行ってから2週間後の事だった。

 

 あの後も3回ほど4人で依頼をこなしはしたが、やはり学生の本分は勉強である。

 調べなければならない事もあるしな。

 そう思って、今日は図書館にやって来たのだが・・・調べ物を始めた矢先、突然ミュウがやって来て冒頭の台詞(せりふ)を聞かされた、というわけだ。

 

 図書館なんだから静かにしろ! 常識の無いヤツめ、と言いたい。


「言っていますわ!」


 あれ?言ってた?


「まあまあ、今のは心の声だから気にしないで。で、ヴォルフ殿下が僕に会いたいと言っていた、でいいんだよね」

「そうですわ」

「会うのは構わないのだけれど・・・いつ? 場所とかは?」

「聞いてませんわ!」


 つ、使えねー。


「はい。回れ右」

「な、何を」


 肩を持って、くるんと180度回転させる。


「さ、もう一回ヴォルフ殿下のとこ行って、場所と時間を聞いてきて。寄り道しちゃ駄目だからね」

「子供のおつかいですわ!?」


 文句を言いながら彼女は行ってしまった。

 毎回見て思うが、まったく見事な金髪縦ロールだ。


 しかし、何だかんだといっても、最後にはこちらの言う事を聞いてくれるのだから・・・ちょろい。


「ヴォルフ殿下か。いつか接触を図ってくるとは思っていたけど、早かったな」

「私も付いて行きましょうか」

「2人で、という事らしいからね。ま、危険は無いさ」



 ミュウに聞いてもらってきたところ、時間も場所もこちらが決めてよかったらしく、再び彼女に伝言を頼むことになった。あの、切れ者っぽい王子殿下にしては間の抜けた話だが、単にミュウが王子の話を聞かなかっただけかもしれない。

 ミュウにはよくある事だからな。困ったドリルだ。


 場所は放課後、初級の魔法科の教室で、となった。

 誰も来ないよう、シャーリーに教室の外で見張りを頼むつもりだ。

 姫には昼食の席で話をしたが、「気をつけて。終わるまで待ってるから」との事。


 何が出るか。


 扉の開く音がして・・・、シャーリーが顔をのぞかせた。


「おいでになりました」

「ありがとう」

「少しばかり待たせたようだ」


 入って来たのは、眼鏡をかけた細身な男。中指で眼鏡の位置を直す格好が、いかにもキザっぽい。

 彼は椅子を移動させてきて、机を挟んだ対面に座った。


「では、シャーリー、見張りお願い」

「任せて下さい」


 扉が閉まる。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


 ヴォルフ殿下はいつかのような、まるで値踏みするかのような視線を向けてくる。

 先に沈黙に耐えられなくなったのは・・・俺だった。


「ええと、2人で会いたい、との事ですが・・・何の御用でしょうか?」

「そうだね。君に聞きたい事がある」

「僕に答えられる事でしたら」

「君は・・・どこから来たんだい?」


 ええと、この()の・・・この体の出身地って事だよな。


「昔の事は、よく覚えてません」

「ふむ。覚えていない、か。生贄の儀式のショックらしいね」

「・・・・・・」


 そこまで知ってるか。父さまが、あの事件の関係者を口止めしているとはいえ、完璧ではない。


「邪神召喚の書」

「!?」

「60点だね。よく感情が表に出ないよう訓練してると思うけど。突発的な事には弱いようだ」

「そ、そんな事は」


 自分でも何を言いたいのか分からない。だが、とりあえず動揺を抑えなければ。

 一つ、深呼吸をする。


「何の事を(おっしゃ)っているのか分かりません」

「へえ、もう立て直したのか。・・・腹の探りあいをしていても仕方がない、単刀直入に言おう」

「・・・何でしょうか?」

「私の部下になってもらえないか? 君の能力が欲しい」


 それは予想していた言葉だった。

 その答えなら用意してある。


「僕には、大した能力はありませんよ。魔法科の落ちこぼれですよ?」

「ああ、誤魔化(ごまか)さなくてもいい。いつだったか、セラフィナ王女が君の家に泊まりに行った事があっただろう。その時何か、そう黒ずくめの男と会わなかったかい?」


 こいつの差し金か!

 やはり、息の根を止めておくべきだった! ・・・無理だったと思うけど。


機会(チャンス)があれば、君達に接触するように命令していたのだけれど。・・・なんらかの反応があれば面白い程度に考えていたが、彼はずいぶんと役に立ってくれたよ」

「・・・」

「大昔の魔法使いが使えたと言われている、精神干渉系魔法。まさか、使い手に出会えるとは思わなかった」


 知られてはならない情報を握られている。

 だが、どう対処すればいいのだ。


「私は君の望むものを、ある程度は提供できる」

「・・・お、俺は・・・」

「いきなり答えは難しいだろうが、よく考えてみてほしい」


 正直俺は混乱していた。何もかも知っているような口振りだ。

 何を知っているのか、どこまで知っているのか。

 それともはったり(ブラフ)か。


 思考に沈んでる間にヴォルフ殿下はいなくなり・・・、シャーリーが心配そうな顔で立っていた。





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 寮への帰り道。姫とシャーリーとともに歩きながら、俺はずっと考えていた。


 いつから、と。

 いつからヴォルフ殿下は俺に興味を持っていたのか。


 姫と接触した頃・・・9歳前後か? だが、邪神召喚の書の事も知っていた。あれは、生贄の儀式のときに失われてしまったし、それを知っているのは父さまと、新米騎士のカインさんだけだったはずだ。

 まさか、あの当時からというわけはないだろう・・・。


 考えても分かるはずがない。俺はヴォルフ殿下ではないのだから。

 とりあえず、今回は俺の負け。

 ヴォルフ殿下のお誘いも今は保留だ。


 何より姫に、心配そうな顔をさせたままでいたくはない。


「姫。もう大丈夫。もう心配いらないよ?」

「本当にそうならいいのだけれど。私の事で済まない」


 姫は自分のせいだと思っているようだ。

 王子たちに目を付けられたのは自分に関わったせいだと。

 これは・・・俺がどんなに否定しても、姫が納得する事は無いだろう。

 なら。


「姫。笑う笑う。笑顔の姫の方が、僕は好きだな」


 姫のほっぺを、むにーと引っぱる。真っ赤になって(うつむ)く姫。


「そ、そうか。そうだな、笑顔の私が好きか」

「うん」

「では、ずっと笑顔でいるとしよう」


 にこり、と笑う姫。俺も釣られて笑顔になる。

 姫はやはり綺麗だ。


 ズキン、と胸が痛む。でも、俺には先輩がいるんだから、この気持ちは勘違いだよね?


「どうやらお話は終わったようですね。早く寮に帰って夕食を食べましょう」


 シャーリーが面白くなさそうに言う。

 そうだな。うまい物を食べれば悩みなんて消えるだろう。逃避だとしても。

 あ、でも・・・うまい物といえば。


 最近、故郷の食べ物が無性に食べたくなる。

 無理だが、お米や味噌、醤油味のものが食べたい・・・。

 醤油ってどうやって作るんだ!?





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「姫、今回の誕生日も城でパーティーするの?」

「ああ。だれも祝いたくはないだろうが、お父様がな」


 姫の誕生日を迎えるのは、これで3度目だ。

 出会ったばかりの時と、去年、そして今年。でも、姫はお城で誕生パーティーをするため当日には無理だ。

 上級貴族が集まってくるパーティーだからな。

 一応、出席はするが姫と話す事すら難しい。


 なので変わりに、誕生日である金の17日の3日前に祝ってあげる事にしているのだ。


「だけど、場所が問題だよね」

「なにが問題なんだ?」

「家に帰って祝うか、寮で祝うか・・・という事」


 いつもだったら屋敷で祝う以外の選択肢は無いけれど。


「まだ、入学して2ヶ月経ってないからね。家に帰るのはまだ早い気もするし」

「ですが、旦那様と奥方様はもう、そのつもりで用意されているかもしれません」

「寮で祝う、というのも中々いいかなと思ったんだけどね」


 ララサさんとササラさん。キュレさんに寮母のクレアさん。

 彼女たちと親睦を深める、というのも悪くない。


「私としてはどちらでもうれしい。だが、いつものアレは食べたいな」

「アレ? 誕生日ケーキのことかな?」

「そうだ。ケーキだ」


 我が家で、初めて姫の誕生日を祝ったときに俺が作ったのだが、姫はすっかりケーキの(とりこ)になってしまった。それ以来、誰かの誕生日があるたびおねだりされている。

 

 卵と小麦粉と砂糖を使い、スポンジケーキを作ろうとしたのだが、元の世界の物ほどにはふっくらとは膨らまなかった。小麦粉の種類が違う可能性もある。

 それでも、今、この世界にある他のケーキよりは口当たりが柔らからしい。ケーキ作りは空気を含ませる事が大事だったはずなので、おそらく自作の泡立て器のおかげだろう。

 その上に、生乳から取り泡立てた生クリームと果物で飾り付けたものだ。


 この世界にもチーズケーキや、甘いパンはあるとの事。

 姫は食べた事があるそうだが、チーズケーキといっても俺の知ってる物とは違うようだ。


「大丈夫、それはちゃんと用意するから」

「期待してる」


 とりあえずは、(とう)さまと(かあ)さまに聞いてみるとしよう。

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