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アフィニア日誌  作者: 皇 圭介
第一部 ジンバル王国編
16/50

14話 「冒険者デビュー」

「えっ。シャーリーより年上だったの?」

「ええ。もう14歳ですわ! (うやま)うがいいですわ!」

「胸がな・・・。いや、落ち着きがないから同い年ぐらいかと思ってた」

「し、し、失礼ですわっ!!!!」


 冒険者ギルド。

 教師に聞いてみたら、自由だと言われた。

 もちろん、自己責任で。


 学院としても、生徒の経験がそれで上がるのなら、その方がいいとの事。

 ここ十数年ほど戦争が無いといっても、いつそれが始まるのか分からないのが現状のようだ。


 この国は豊かすぎる。

 他の国々は、港湾都市ガヴァナを欲しがっているのだ。


 一応、寮の皆にも話してみたが、ララサとササラの2人はもう登録して、他の人と組んでるらしい。

 「どこかで会えるといいね」と言っていた。

 キュレさんは・・・興味がないそうだ。



「ここですわ!」

「ふーん、けっこう立派な建物だね。冒険者ギルドって儲かるのかな」

「アフィニア様、もう少し小さな声で」


 俺は今、姫、シャーリー、ミュウとともに王都にやって来ている。

 もちろん冒険者ギルドで登録するためだが、あわよくば簡単な依頼でもやってみようと思っている。

 そのため、服は実戦向きだ。


「お前意外だがな」


 俺やシャーリーは、元々軽装だし魔法使いだ。最悪、杖さえあればいい。姫も今日は革製鎧(レザーアーマー)を身に着けている。だが、ミュウだけは普段着のままなのだ。

 今日は全体に刺繍をあしらった、青の豪華なドレスだ。

 いや、これを普段着と言ってもいいのか。お前、今から舞踏会(ダンスパーティー)かと言いたくなる。

 今からパーティーを組むのだと思うと、皮肉が効いているとしか言いようが無い。


(こいつは一応、冒険者の経験ありだしな。こんなのでもいいのか?)


 ギルドの建物は街を南北に貫く、通称『旅人通り』の南側にあった。(ちなみに東西に貫く街路は、ガヴァナに繋がるためか『大海の道』と呼ばれている)

 ジンバル王国中にある冒険者ギルドの本部らしく、3階建ての大きな建物だ。


(ああ、そういえば、昔ここでエルフの冒険者を見たな)


 感慨にふけっていると、先に歩いていたミュウに「さっさと来なさいよ」と怒られた。

 苦笑して、姫とシャーリーとともに、開け放たれていた両開きの扉をくぐる。


 建物の中は、意外といっていいのか小奇麗だった。

 カウンターがずらっと並んでいる様は、銀行とかを連想する。


「ええと、1階に依頼の受付、掲示板があって・・・登録は2階かー」

「とりあえず、2階に上がればいいのね?」

「何でわたくしに聞きませんの!?」


 姫と案内板を見ていたら、ミュウが怒り出した。

 カルシウム足りてないのか?

 ・・・しかし、先程から視線を多く感じるが・・・。美少女が4人もいれば仕方ないのか。


「よろしくお願いします」


 2階に上がり、受付の女性の職員に挨拶する。


「4名様ですね」

「いえ、あちらの派手な()はもう登録してあるそうですので3名で」


 ミュウから睨まれたような気がした。ま、いいけど。


「それでは、こちらの方に必要事項を記入してください」


 俺たちに3枚の紙が渡される。

 あまり正確な記述は必要ないらしい。元の世界と比べるとアバウトというか・・・。

 そこの所を聞いてみると、身元を明かしたくない人とかいるからだとか。なんか犯罪に繋がりそうだが、あまりに目に余る行為があるようだと、ギルドから討伐依頼とか出るらしい。


「名前と、年齢と・・・住所。これは、学院寮でいいのかな?」

「それでいいのではない? 私はそう書くわよ?」

「私も書けました。後は・・・指印(しいん)ですか」


 元の世界の拇印(ぼいん)のようなものか。でも朱肉なんて無いが。


「これは、こうやるのですわ!」


 ミュウは自慢げに言い、左手の親指を軽くナイフで切るとそれを紙に押し付けた。

 ・・・血判?


「ま、まあいいや。でもやり方教えてくれたのはいいけど、もう1枚、用紙を貰って来ないと」





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「それでは、アフィニア・オクスタン様、セラフィナ・フォースフィールド様、シャーリーオール様、ご登録が終わりましたのでカードをお渡しいたします」


 3人とも黒っぽい金属製のカードを渡される。名前など、さきほど書いた情報が載っているようだ。


「カードはあくまで、冒険者ギルドの一員である、という証明のためのものです。失くさないでください」

「失くした場合、どうなりますか」

「再発行にはお金がかかります。そしてもし犯罪に使われた場合、賠償金が発生することもあります」


 それは怖い。失くさないよう気をつけよう。


「最初は初級ランクからのスタートとなっております」


 ここらは学院と似ていた。初級から始まり、依頼をこなす事によって点数(ポイント)をため、それが一定になると上のランクになれるのだ。依頼にはそれぞれ点数(ポイント)が設定され、難しい物ほど点数(ポイント)が高い。

 初級は初級ランクの依頼を、中級は初級と中級のランクの依頼を。上級は全ての依頼を受けられるらしい。これは、この大陸どこの冒険者ギルドでも同じなのだそうだ。

 ただし、点数(ポイント)は中級ランクになると中級の依頼だけしか付かないらしい。これは、中級ランクがちまちま初級の依頼をこなして上級になるのを防ぐためだとか。

 

 それ以外に、依頼の受け方や、依頼を達成出来なかった時のペナルティ。そしてその後の他の冒険者への依頼の引継ぎの仕方など、事細かに教わった。


「パーティー申請はされますか?」

「申請すると・・・、どうなるのですか?」

「特別な意味はありませんが・・・。たとえば、支援などがあればパーティー単位で受けられますし、後、他のメンバーが個人で依頼を受けている時でも、どんな依頼なのか、ギルドに尋ねることも出来ます」

「なら、申請いたします」

「わ、わたくしも、わたくしもですわ!」


 仲間外れにされると思ったのか、あわてるミュウ。やろうとは思ってたけどな、冗談で。


「では、ミュウ・イアリー・エリヤ・クラウド様も含めて4人でのパーティー申請、受け付けました」

「さっそく、掲示板でも見てみましょうか」


 姫はとってもやる気だ。

 俺たちは連れ立って1階に下りる。


「しかし、ミュウは本名で登録してるんだな」

「当然ですわ! わたくしには、何一つとして隠すような事などございませんわ!」


 いや、隠せよ。おまえ、上級貴族だろうが。


「姫はさすがに隠したね」

「もともと王女だと分かるまでは、セラフィナ・フォースフィールドだけだったから。違和感は無いわね」

「そうなんだ」


 さて、掲示板はと。

 でっかい掲示板があった。そこには所狭しと、数々の依頼の紙が貼られている。

 見たところ、初級から中級までの依頼だけで、上級ランクの依頼は別の所にあるようだ。


「初級の冒険者というと、ゴブリン退治とかかな」

「ゴブリン・・・ですか?」

「ゴブリンなんて初級の冒険者が倒せるわけないじゃない。騎士団とかが出向くレベルよ?」


 ゴブリンいたんだ。それで、どんだけ強いんだ。


「馬鹿を言ってるのではないですわ! 初級ランクならこれぐらいですわ!」

「まあいいけど。・・・ええと、ダークハウンドの退治。10匹未満か」


 ダークハウンドか、見たことはないが懐かしい。

 点数(ポイント)は2点、報酬は1200シラだ。1200シラというと、一人当たり300シラで銅貨6枚。1シラがおそらく100円前後だと思うから、約3万円か。

 命を賭ける代償として、安いか高いか分からないが・・・。


「これで行ってみようか。場所も遠くないし、行った事あるし」

「面白そう」


 俺たちは、掲示板から依頼書を剥ぎ取ってカウンターに向かった。





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 目的地は王都の北門から出て、街道を馬車に揺られて1時間ほどの所にあった。


「アルミナ湖だ、懐かしい・・・」

「私はここは初めて」

「私もです」


「わたくしは何度も来た事がありますわ!」


 俺以外は来た事がないようだ。

 昔、ここで魔獣に襲われた時の話とかをしてみる。


「魔獣かー。戦ってみたいわね」

「あの時の話ですね。・・・あの時は、とっても心配したんですよ?」

「ごめん、ごめん。反省してる」


「・・・ちょっと、わたくしの話も聞いてくださいませ!」


 うん。さすがに可哀想だから相手をする。


「ええと、ギルドの依頼で来たことがあるとか?」

「そ、そうですわ!」

「1人で?」

「・・・グランドは一緒に来ましたわ」

「・・・・・・」


 ここまで乗って来た、馬車の御者であるグランドさん。この人はクラウド侯爵家に仕えている御者さんで、昔はそれなりに名の通った冒険者だったとか。

 利用出来る物は利用してしまおうと、今日は朝からずっと連れ回しているわけだが、ちっとも嫌な顔をしない人格者なのだ。

 ・・・ミュウのお世話係でもあるようだが。


「さて、ではどうやって探す?」

「湖周辺に出る、との事だから・・・ぐるっと一周してみる?」


 反論はないようなので、湖を一周する事に決まった。

 馬車はグランドさんがいるから大丈夫との事。彼に手伝ってもらった方が早い気もするのだが。

 ・・・それは意味がないか。


「では、行って来ます。後は頼みますね」

「お気をつけて」


 俺たちは、多少警戒しながらものんびりと歩いた。

 ミュウはやっぱりドレスだった。


 ダークハウンドに遭遇したのは、およそそれから30分後だった。

 10匹未満との事だったが、それよりは多く16匹。

 だが。

 所詮大きいだけの犬の魔物(モンスター)、俺たちの敵ではなかった。正確に言うと、姫とミュウの敵ではなかった。


「もう1匹!」


 ぎゃうん、と悲鳴が聞こえる。姫の血に濡れた長剣(ロングソード)が、ダークハウンドの頭を叩き割る。

 さすがというべきか。父さまの教えを2年間も受けたのだ。

 剣をたたきつけた反動を利用し、目標を次々と変えながら連続で斬り付ける。


「あなた、中々の腕前ですわ!」


 対抗するように、ミュウは飛び掛ってきたダークハウンドの攻撃を(かわ)しつつも蹴りで打ち上げ、落ちてきたところに掌底(しょうてい)突きを決める。

 そいつは、空を錐揉(きりも)みしながら飛んで・・・べちゃり、と木に叩きつけられた。


「あー。武器とか持っていないと思ってたけど、やっぱり素手だったか・・・ドレスなのに」

「なんというか、セラフィナ様も凄いですけど・・・彼女は凄まじいですね」


 素手なのだから間合いは狭いはずなのだが、ひらりひらりと(かわ)しながら肘、蹴り、掌底(しょうてい)突きを叩きこんでいく。

 最初は俺やシャーリーも魔法を使って攻撃していたのだが、なんか途中から必要なくなってしまった。


「なんか、火薬庫の上で火遊びをしてた気分だ」


 自重(じちょう)なんてしないが。


「あぶない、アフィニア様!」


 電撃(ライトニングボルト)! シャーリーの声が響く。

 青白い稲光(いなびかり)が呪紋から一直線に走り、俺に背後から襲いかかろうとしたダークハウンドを撃ち倒した。


「ありがとう、シャーリー」

「はい。・・・まだ油断しないで下さい」

「・・・でも、もう終わりそうだけどね・・・」


 姫とミュウの一方的な殲滅戦は、どちらが多く倒すかを競い合い・・・早々と終わろうとしていた。


 えーと。もしかして、俺、一番役に立ってない?

いつも読んでいただいてありがとうございます。まだまだ続きますので、よろしくお願いいたします。

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