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アフィニア日誌  作者: 皇 圭介
第一部 ジンバル王国編
15/50

13話 「ミュウ・イアリー・エリヤ・クラウド」

「アフィニア、あなた、第2王子にプロポーズされたらしいわね?」

「・・・・・・」

「今、学院中がその噂で持ち切りよ?」


 さあ、昼食を食べよう。

 今日はなにかなー。


「まあ、誤解だとは思うけど、何があったのか話してくれない?」


 誤解・・・、誤解なんだけど。


「男・・・、男にプロポーズされたなんて噂が立つとは・・・」

「男って?・・・、女にプロポーズされたりする方がおかしいでしょう?」

「・・・」


 ここは学院にある食堂だ。

 貴族の子弟が通ってる学校だけに、メニューも豊富だ。

 俺と姫、シャーリーは4人掛けテーブルにて現在食事中だ。


「食べよう。食べて忘れるんだ」

「そうするといいわ」


 これはスパゲッティ、それともパスタというのか? トマトソースがかかっている。

 それなりにおいしい。

 姫とシャーリーは、肉をはさんだサンドイッチらしきものを食べている。


 らしきもの、とか面倒だな。あれはサンドイッチだ。


「・・・多分だけど、探りを入れてきたんだと思う」

「本妻にはなれないわよ?」

「・・・・・・姫」

「ごめんなさい。で、探りって?」


 ふむ。あごに手を当てて考える。


「・・・目的はどちらかまだ分からないけど、探る理由なんて1つしかない」

「それは何?」

「僕の力に気付いた」

「僕の力って・・・、何か色々出来るってだけでしょう? 城とか吹っ飛ばしたり出来るならともかく」


 いや、お城吹っ飛ばしたら不味いだろう。

 

「セラフィナ様、それは違います。力は使いよう、アフィニア様の力は使い方しだいでは一国さえ滅ぼせます」

「すごいわねー」


 シャーリーは不満そうだ。

 でも仕方ないと思う。姫は力=目に見える物だからな。

 裏でコソコソ洗脳したり、暗殺したりする力というのは、力のうちに入らないのだろう。

 俺の使う補助魔法とかも「ふーん」で済ますしな。


 火球(ファイアボール)とか、電撃(ライトニングボルト)とかなら認めてくれそうだが。


 俺にはまだ使えないが。あれ、中級~上級なんだよな。


「アフィニア、3時限目はどうするの?」

「図書館に行こうと思ってます」

「またなの?」


 またと言われても、こればかりは譲れない。

 時間は有限なのだ。


「こちら、よろしいですか?」


 ん? 誰だ?

 初めて聞く女の声。


「失礼いたしますわ!」


 いや、確かに椅子は余ってたが、返事なんかしてないぞ?

 彼女は、俺たちのいる席に強引に着いた。

 えーと。

 金髪縦ロールだ。いやまあ、金髪縦ロール以外にも、今からパーティーですかと聞きたくなる黒の豪華なドレスだったり、同色のドレス用長手袋(ロンググローブ)をしていたりとか特徴はあるのだが。

 金髪碧眼は王族や貴族に多い。こんな格好をするのは、それら以外に無いと思うが・・・。


 うん。どうやら姫は知り合いらしい。嫌そうな顔をしている。


「なに、この金髪縦ロール」

「・・・ええと」

「そこ、こそこそ喋らないでくださいます!?」


 女は居住まいを正すと、コホン、と咳払いをした。


「わたくしは・・・」

「ヴォルフ殿下のいとこよ」

「ちょっと!? セラフィナ・フォースフィールド! 貴族の名乗りを邪魔するとは何事ですか!」


 今のやり取りで分かった。

 この()、すごく面倒くさそう。


「僕、食べ終わったから行くね? 後はごゆっくり」

「私もご一緒いたします」


 姫が「逃げるのか!」と視線で責めてきているが・・・、気にしないようにしよう。


「お待ちなさい。わたくしが用があるのは、あなたですわ!」

「えー」

「こほん。わたくしの名はミュウ・イアリー・エリヤ・クラウドですわ!」

「アフィニア・オクスタンです」


 一応の礼儀として、自分も名乗っておく。


 しかし、クラウドの姓を名乗る以上、クラウド侯爵の正統な直系である事は間違いない。

 クラウドとは、クラウド侯爵領を治める直系だけが名乗れる姓であり、家を出た者は名乗る事は許されない。

 クラウドとは土地の名でもあるのだ。


「それで? 僕に用だとおっしゃいましたが?」

「お兄様を(たぶら)かしたとかいう女を、調べに来たのですわ!」


 調べに来たとか言われても。

 だいたい、本人に言ってどうするというのだ。

 あと、ですわですわ五月蝿(うるさ)い。


 なんで、語尾の『わ』だけ音が上がるんだ。


「ああ、それなら誤解でしょう。プロポーズなどされてませんよ?」

「そ、そうなんですの?」

「ええ、殿下に聞かれれば分かると思います。では僕はこれで」


 なんか、納得いかなそうな顔をしていたが、ここは放っておく事にした。

 面倒事は、逃げられなくなってからでいい。





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 毎回思うが、王立学院図書館に眠る蔵書の数はとんでもない。

 しかも、それがろくに整理もせずに置いてあるのだ。


 検索できればいいのに。


「んー、やはり難しいね」

「アフィニア様が仰るような召喚魔法、というのは聞いた事がありません」

「神の召喚とかでもいいんだけど。そもそも神様っていうのが、実在してるのか疑わしいし」

「はい。神を信仰する神殿は数あれど、神の奇跡というのを見た人はいません」


 創世(そうせい)の時代、12体の神がいた、とされてはいる。


「神殿で行われている怪我や病気の治療も、呪紋の色と形を変えてるだけで魔法だし」


 そしてあの、こちらの世界に来た時に聞いた『エメランディス』という名。

 手がかりとなる物はあまりに少ない。

 

 (とう)さまは邪神『終末の破壊神』と言っていたけれど。

 でも詳しくは知らなかった。そもそも神話なども聞かされただけらしい。

 邪神を信仰する狂信者たちが『終末の破壊神エメランディス』を召喚して世界を破滅させようとしている、と。


 エメランディスについてなら、いくつか記述は見つかっている。

 世界の終わりに現れ、太陽を飲み込み、月を飲み込み、最後に大地を飲み込む。

 ここなどは、父さまから聞いた情報通りだ。

 だが、この邪神は創世(そうせい)の12体の神に関係があるのかさえ分からない。


「アフィニア様。ノア王国にある、深き迷宮の一番底に異界への門がある、と言われているようです」

「詳しく分かる?」

「いえ。これは、伝聞を集めただけの本のようで」

「ノア王国に、深き迷宮ね。今度詳しく調べてみよう」


 少ない手がかりだ。有効利用しなければならない。


「たまには気晴らしをされてはいかがですか? 最近は図書館に通いづめでしたし」

「だけど・・・」

「今日、明日でどうにかなる物ではありませんよ?」

「そう、だね。買い物にでも出かけてみるか」


 最近は姫の事もほったらかし状態だったからな。

 姫を誘って王都に繰り出すとしよう。





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 王都クリスタは、高い街壁によって周囲をぐるっと囲まれた城塞都市であり、王城とその南にある『城門前広場』を中心にして、街を東西と南北に貫く2つの大通りが十文字状に交差している。

 この2つの大通りは、そのまま東西南北の街門に繋がって、さらにそのまま街道に繋がっている。


 王都クリスタは交通、交易などの要所だ。

 東の街道は、遠く隣国アーリスの王都ルーカンまで伸び、西は海に面した港湾都市ガヴァナに続いている。

 南は王国第2の都市、エーヴィンを通って隣国ノアに抜け、北は大森林の側を通ってテューレへと向かう。


 港湾都市ガヴァナは天然の地形に恵まれた、この大陸でも有数の港であり、他大陸との貿易の中心地だ。

 このガヴァナがあるからこそ、この国ジンバルは栄えているといえる。

 そのためか、ここクリスタには他国(よそ)では見たことのないような物も多く店先に並べられるのだ。


 学院で馬車を出してもらい、俺たちは王都にやってきた。

 姫を誘ったら即了承だったので、姫とシャーリーとミュウ・イアリー・エリヤ・クラウドが一緒だった。


「まあ、いまさらだけど。何でいるのコレ」

「仕方ないじゃない。付いて来たがったんだから」

「聞こえていますわ! まったく失礼ですわ!」


 やっぱり、ですわ五月蝿(うるさ)い。


「お兄様にお聞きしましたら『さあ、どうだろうね』と、意味深な事をおっしゃっていましたわ! ですので、あなたが側室とはいえ、お兄様に相応(ふさわ)しいかテストさせてもらいますわ!」

「えー」


 しかも側室決定なんだ。

 姫とシャーリーの方を見るが、2人とも苦笑いするばかりだ。


「はっきり言いますが、結婚なんてしませんよ?」

「だまされませんわ! お昼もそうやって逃げましたわ! 逃がしませんわ!」

「いやだから」

「うるさいですわ! 連れて行けばいいのですわ!」

五月蝿(うるさ)い黙れ」

「あ」

「あ」


 あ、つい頭(たた)いちゃった。

 いや、そんなに強く叩いてないよ?


「まー! まー!」

「ご、ごめん」

「アフィニア、その()武術科の中級クラスなんだけど」


 それを早く言っといてください。


「えーと、でもね・・・、叩かれたのに何でそんなに嬉しそうなの?」

「・・・・・・」


 もしかして、M?


「その()、友達いないから」

「えー? 上級貴族なんだから、取り巻き無駄に引き連れてるもんじゃないの?」

「しっ、失礼ですわっ!!」


 何故だろう。貴族なんて苦手なはずなのに。

 まさか、これが恋!?


 いやまあ違うのは分かってるけど。


「あー。そうだねテストだね。連れて行ってあげるから泣かないようにね?」

「泣きませんわ! 本当に失礼ですわっ!!」

「ええと、楽しんでいるのは分かるけど・・・、そろそろ行かない?」


 周りから、変な目で見られてるしね。


「ミュウのせいで笑われたじゃないか」

「呼び捨てですわ!?」





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「へー、冒険者ね」


 城門前広場には、たくさんの露店が連なっている。

 他大陸からの貿易品、他国からの品を扱っている露店。めずらしい食べ物を売っている屋台など。

 職人たちが作ったアクセサリーを、きゃあきゃあいいながら手に取るのを横目に見ながら俺は暇だった。

 やはり、女の買い物は長いようだ。


「そうですわ! やはり、実戦に勝る修練はありませんわ!」

「そうなんだ」


 なので、ミュウを話し相手に時間を潰している。

 彼女はテストにこだわっているらしく、俺の側を離れようとしないからだ。


「何の話?」

「いや、ミュウは冒険者ギルドの登録カード、持っているって」


 戻ってきた姫たちに説明する。

 冒険者ギルド。小説ではお馴染みの施設だが、この世界のも仕組みは同じだろうか。


「登録カードね。持ってる人、剣術科の生徒の中にも何人かいたわね」

「魔法科には、多分いなかったと思います」


 剣術科や武術科の中には、力試しと小銭稼ぎのために冒険者ギルドに登録する人はけっこういるらしい。

 とくに、下級貴族や平民からの特別待遇生徒などに多いとの事。

 魔法科は・・・、研究肌が多いからな。


「わたくしは、今までにも何度か依頼を受け、成功させておりますわ!」


 自分の胸に手のひらを当て、すごく自慢げに話す彼女。


「すごいねー。ミュウはもうパーティーとか組んだ事あるんだ」

「・・・・・・」


 どっちのトラウマだろう。微妙な顔になるミュウ。

 組んでた仲間に見捨てられたか、そもそも組んだ事がないか。


「この学院の学費も安くないし、稼ぐのもありかもね」

「ええ、あなたもやってみるべきですわ!・・・て、手伝ってあげても・・・」

「え、何? 後半聞こえなかったけど」


 考えてみれば、(うち)はあまり裕福ではなかった。

 学費や遊ぶ金ぐらい、自分で稼ぐべきだろう。


「ありがとう、ミュウ。いいことを教えてくれて」

「礼には及びませんわ!」


 ふむ。みんなを順番に見ていく俺。


「姫はどう?」

「力試しも面白いかもね」

「シャーリー?」

「アフィニア様に付いていくだけです」

「ミュウ?」

「手伝ってあげますわ!」


 なら、やってみるとしようか。

 冒険者を。

 

「姫、シャーリー、3人で冒険者やってみない?」


「仲間外れは酷すぎますわ!!!!!」


 冗談だってば。

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