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アフィニア日誌  作者: 皇 圭介
第一部 ジンバル王国編
14/50

12話 「学院の平穏な日々」

 クリスタ王立学院には、元の世界でいうところの学級・組というものが無い。

 つまり眼鏡の似合う、三つ編みの学級委員などいないのだ!


 ごめん違う。


 学級という固まりで行動するのではなく、個人で習いたい教室に行って学ぶのだ。

 専科(せんか)という名前のシステムらしい。


 この専科というのは、専門に扱う教室が複数入った建物の事をいう。

 専科には色々あり、代表的な所でも魔法科、剣術科、武術科、芸術科、歴史科、神学科など多岐にわたる。

 生徒はこれを自由に、好きなだけ選ぶ事が出来る。

 そして専科ではないが、基本的な計算・国の経済や、文学なども教える、必須となる教育科。


 教育科も含め、専科には4つの等級(クラス)があり初級、中級、上級、至高となる。

 等級(クラス)を上げるには、その等級(クラス)の教師に修業証書をもらえばいいのだ。

 初級を全て修めたならば中級に、中級を全て修めたならば上級に行くのだ。


 卒業はどうやったら出来るかって?

 卒業するためには必須である教育科の、最低でも初級クラスの教師と、専科の上級クラスの教師に修業証書をもらってくればいい。

 それがあればクリスタ王立学院卒業済み、という資格が手に入るのだ。

 資格を貰った後でも至高クラスという道もあるしな。


 まあこの学院は、国に役に立つ人材を育てるところだからな。

 全てを学ぶ必要は無いのだ。


 そもそも学院に来るのは義務ではないし。





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「相も変わらず朝が弱いのね」

「どうも朝はね。目覚まし時計を3個掛けてもダメだったしね」

「え、ええと・・・め、めざ? ・・・か、かける?」

「・・・・・・さあ、朝食にしようか」

「ねえ、今の何? 教えなさいよ!」


 しまった。つい、昔のクセが。

 まあ『こぼれたミルクは戻らない』。言ってしまった事を嘆くより、再発を防ごう。

 どうせ、言葉の意味など分からない。


 寮母のクレアさんは、俺と姫が食堂に来たのを見て、朝食の準備をしてくれる。

 今日も俺が最後らしい。

 本日の朝食は硬めのパンと玉ねぎのオニオンスープ、そしてミルクだ。

 シャーリーはいつものように、クレアさんを手伝っている。


 食堂には寮母のクレアさん、俺、シャーリー、姫以外に3人いる。

 この寮には、寮母さんを入れても、たった7人しか住んでいないのだ。


「「おはようございます」」


 まずは1階に住んでいる双子、ララサ・パルテノ、ササラ・パルテノの姉妹だ。

 2人とも茶色の髪と目の、身長低めの13歳の女の子だ。

 顔立ちは同じなのだが、ララサの方が姉でショートの髪型で剣術科、ササラの方は腰まであるロングのふわふわウェーブの髪型で神学科を専門にしている。

 まったく雰囲気の違う2人なのに、挨拶など言葉や動作のタイミングがぴったり合うから不思議だ。


「ずいぶんと、ごゆっくり、ですね~」

「早寝早起きは、規則正しい生活への第一歩だよ?」


 挨拶は一緒なのに、続く言葉が違うのはいつも通りだ。

 そして、ララサが場の空気を読まないのも。


「・・・ごめんなさい。遅寝で・・・」


 ララサは俺に言ったのだろうが、答えたのは別の人間だった。

 キュレ・リ・ククル。2階の3番目の部屋に住む最後の1人だ。

 2人部屋を1人で使う彼女は、やはり上級貴族の子女でククル伯爵家の次女らしい。

 ストレートの黒髪をヒザ裏あたりまで伸ばしている、いつも眠そうな17歳の女性だ。

 実際、夜遅くまで研究しているらしい彼女は、なんと魔法科の上級クラスだ。


 これが、この第9女子寮のメンバーだ。


「い、いえ。キュレさんの事を言ったわけではなく・・・」

「・・・いいの、本当の事だしね・・・」


 これもいつもの事ではある。

 キュレさんは寮生の中で最年長なのだが、人をからかって遊ぶ悪癖がある。

 困ったものだ。

 犠牲になるのは主に、ララサと姫なのだが。


 この事を姫に言うと、何故かいつも、じっとりとした視線を向けてくるのだが。


「この寮もやっと賑やかになってきたね・・・」


 感慨深く語る、寮母のクレアさん。

 空き部屋もあと一つあるしな。


「そういえば、あの1階の空き部屋はどんな人が入ってくるのですか?」

「予定は無いね」


 あれ?


「だいたいの人は、第1~第8女子寮の方に行っちまうからね。あっちの方が大きくて立派だし」

「でも姫が入寮するぐらいだから、由緒ある建物とか」

「ないね」


 どういうこと? 俺ら、わざわざこのボロい寮を選んで入ったって事?

 実はうちの家って、貧乏だったってこと?


「私は、アフィニアと一緒のほうが楽しいと思ってここにしたわ」

「シャーリー?」

「あちらには1人部屋しか空いていませんでしたので」

「・・・」


 ・・・釈然としない感じだけどまぁいいや・・・。

 さっさと食べて学院に行くとしよう。





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 学院は王都の中にあるのではない。

 王都郊外の丘陵地帯(きゅうりょうちたい)を整備して造ったもので、周りをぐるっと高い(へい)によって囲まれている。

 寮も、この塀の内側に存在する。

 当然、と言えよう。

 この学院に通っているのは、貴族の子弟たちなのだから。


 まかり間違っても、不審者などの侵入を許してはならないのだ。


「私、こっちだから」

「姫、昼食は一緒に食べよう」

「いいわ、また後でね?」


 姫と別れる。

 姫は剣術科なので、あの大きな円筒形の建物なのだ。

 寮の皆で登校してきたが、後、ここで別れるのは双子のララサさんとササラさんだ。

 ララサさんは姫と同じ剣術科、ササラさんは神学科に向かう。


「ちゃんと授業を受けるんだぞ」

「さよ~なら~」


 ララサさんはともかく、ササラさんはふわふわし過ぎて心配になる。

 今もふわふわ手を振ってるしな。


「早く行かないと、1時限目に遅れてしまいます」

「おっと危ない。行くとしますか」


 授業は一回に約2時間あり、休憩を挟んで朝2回、昼から1回ある。

 それらを、1時限目、2時限目、3時限目と呼ぶ。


 キュレさんとも、塔のような建物に入った後に別れる。

 彼女は上級、俺は初級だ。


「間に合ったか」


 教室に入ると見知った者も何人かいるようで、軽く会釈してから中に入る。

 男が何人か、顔を赤くして視線を逸らしたが・・・うん。

 適当に空いている席に座る。シャーリーは俺の左隣。

 この教室が自分の組というわけではないのだから、決まった席などあるはずがない。


 さて、魔法というと、とってもファンタジーなのだが。

 授業としてやることといえば、とっても地味だ。


 魔法は、呪紋を描き、呪文を唱える事によって発動する。


 魔力云々は、使っていれば増えるらしいし、呪文に意志を込めるといっても授業で習うものでもない。

 では、何を習うのかというとだ。

 呪紋の描き方と、その図形を覚えることだ。


 延々と図形を描かされ、それを、そらで出来るようになれば合格なのだ。

 正直、これはキツい。


 英単語を覚える時以上のキツさだ。


「憂鬱な時間が始まる・・・」

「アフィニア様は、呪紋の記憶が苦手ですよね」

「単なる図形だからね。どこが尖っているとか丸いとか重なるとか、もうわけわからないし」


 そしてこれが、最大の誤算だった。

 オリジナル魔法をも制作して使いこなし、膨大な魔力を誇る俺は、まあ至高クラスは無理にしても、上級クラスのレベルなんだとすっかり思っていたのだ。


 俺は、肌に描かれた、見えない刺青『呪紋』を使って魔法をかけている。

 本来ならば、この刺青には常に魔力が流れ消費され続けるため、自殺行為になってしまう。

 しかも、必要魔力は2倍~3倍だ。

 廃れてしまったのもむべなるかな。


 でも俺は、肌に流れる魔力をON・OFF出来るのだ。

 初めてこの世界にやって来た時、魔力がぐちゃぐちゃになってベッドから動けなかった。

 それを治すために、徐々に魔力の手を伸ばして身体の機能を把握していった。


 そのおかげだろう。俺は魔力の大半を一箇所に集中させる事もできる。

 俺って凄い、だ。


 だが、この便利さに慣れ過ぎて、呪紋そのものを覚えるのを怠ってしまったのだ。

 使わないと忘れてしまうし。

 昔覚えたはずの魔法の盾(マジックシールド)や、魔法の矢(マジックアロー)の呪紋が(えが)けなかったときは、本当にヤバいと思ったものだ。


 絶賛落ちこぼれ中である。

 シャーリーは中級クラスの実力はあるので非常に心苦しい。


 「中級クラスに行ってもいいよ」、とは言ったのだけれど。


 仕方ないよな。呪紋、覚えて損はないからな。

 頑張るしかないな。


「・・・ん?」


 教室がざわめいていた。

 最初は教師が来たのかと思ったが、どうも違うようだ。

 思考に沈んでいる間に、何かあったのだろうか?


「シャーリー、何かあった?」


 彼女を見ると、目を丸くして何かに驚いている。


「隣、いいかい?」

「ええ、どう・・・ぞ・・・?」

「ありがとう」


 俺の右隣の席にいたのは、第2王子ヴォルフ殿下だった。


(ヴォルフ殿下は魔法科専門だけど・・・上級のはずでは!?)


 確かに、上級クラスが初級クラスに来ては行けないと言うことは無いが・・・。

 魔法科の初級クラスなら、ここ以外にも2教室ある。


 これは・・・、俺が目的だよな。


「授業を始めるぞー。さっさと席に着けー」


 入ってきた教師の声で、静まる教室。

 その教師は、王子殿下がいるのに驚いたものの、職業意識を動員したのか何も言わなかった。


(俺・・・王族とか貴族って苦手なんだよな)


 昔読んだ小説で、王や貴族がいない、つまり身分制度の無い世界から来たという設定の、そういった身分にまったく(こだわ)らない主人公がいた。

 彼は相手が誰でも差別なんてしないし、奴隷であっても優しく手を差し伸べていた。

 たとえ権力者相手であろうとも、当たり前のように啖呵を切る彼はかっこよかったと思う。


 だが、いざ自分がそうなってみると、王族とか上級貴族とかの側にいるだけで萎縮してしまう。

 あいつら何かのオーラでも出してるのだろうか。

 

(仕方ないよね? あいつら、お前コレねと言いながら首を掻っ切るポーズとるだけでいいんだから)


 それで、俺の明日は無くなってしまうのだ。

 やっぱり力がないと、権力者に逆らうのなんて無理。


 授業はさっぱり頭に入ってこなかった。



「それで、一体何の御用でしょうか?」


 授業の後、俺はヴォルフ殿下に尋ねる。


「そうだね・・・」


 中指で、眼鏡の位置を直す殿下。

 ちくしょう、様になっているのは認めてやる・・・!


「君に興味があった、では駄目かな」


 教室に残って、成り行きを見守っていた女たちが黄色い声を上げた。

 男どもは悔しげな顔。

 

 だけど。

 まるで値踏みするかのようなヴォルフ殿下の視線。


 これ、絶対に恋とか愛とか関係ないよ!?

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