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アフィニア日誌  作者: 皇 圭介
第一部 ジンバル王国編
13/50

11話 「入学」

 モルドレッドは。

 オスの剣歯虎(サーベルタイガー)だった。

 名前は一緒でも、たぶん元の世界の昔にいたのとは違う物なのだろう。魔獣だし。


 彼は、俺の使い魔となったあの日から、ずっと屋敷で飼われている。

 彼は屋敷でも賢いと評判なのだ。まるで人の言葉が分かっているようだと。


(実際、分かっているんだけどね)


 使い魔契約(ファミリアー)の魔法によって、体の中まで変質したのだ。

 言葉を喋る事は出来ないものの、こちらの言ったことは理解できているし。

 秘密だが、呪符さえあれば簡単な魔法すら使用できる。

 ただ、あまり大きくなられても困るので、体の成長には抑制が掛けられている。

 そのため、2年経ったというのに未だに70cmほどだ。


 そう、あれから2年たった。

 当時から状況はあまり変わってはいない。姫の周りも、俺についても。

 だが、もうじき11歳になればクリスタ王立学院に入学する資格が得られるのだ。

 そうなれば、王立学院図書館で調べ物をする事が出来る。


 そこで何らかの手がかりを見つけられれば・・・、俺の目的に少しでも近づける・・・、はずだ。





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「姫」

「あら、アフィニア。お久しぶりね」

「姫・・・、何か怒ってる?」


 今、俺と姫は王城にある庭の一つにいる。

 白鷗(はくおう)の庭園とかいう大層な名前がついているが、そんなに大したものでもない。


「姫。前に言ったとおり、僕はもうすぐ学院に入るんだから、準備とかね。色々とね。」

「そんな事は分かっています」

「姫もあと二ヶ月もしたら入るんでしょう?」

「二ヶ月も後ですわ」


 仕方ないじゃないか。11歳の誕生日を迎えないと、入学できないんだから。


 こちらの世界の・・・。少なくともクリスタ王立学院に関しては個別入学になっている。

 元の世界のように、4月に一斉に入学式とかやらないのだ。


 11歳を過ぎている、それなりに地位のある者の子弟、才能が有ると認められた平民だけが入学対象となる。

 入学は義務ではなく、また、休学も自由だ。

 自分の好きなときに学生となり、飽きたら休学する。

 ただし、学院の生徒でいられるのは20歳までの最大10年間と決まってはいるのだが。


「先に入って、姫に案内出来るようになっておくよ」

「期待してますわ」

「っと」


 庭園に入ってくる複数の人影。

 姫は露骨に嫌な顔をする。


 入ってきたのは、全部で5人。

 3人の王子殿下と、その知り合いらしい貴族2人だ。


 第1王子レノックス殿下は、大柄で、その見た目通り腕力や権力にものを言わせるタイプ。

 第2王子ヴォルフ殿下は、少し線の細そうな、眼鏡をかけたナルシストな学者タイプ。

 第3王子レオノール殿下は、小柄で、第1王子の後ろでコソコソ謀略をはりめぐらすタイプ。


 もともと嫌いな事もあって、良い感想は浮かんでこない。

 あくまで姫の話なので、王子たちの性格が本当かどうか分からないが。

 2人の貴族は・・・、よく見る腰巾着だ。


「・・・姫、移動する?」

「・・・そうですわね。私の部屋にでも行きましょう」


 確かに、それはいつもの事だった。

 王子たちを見つけた姫が逃げ出すのは。


 だが、それは今日に限っては揉め事を引き起こす事になってしまった。


「おい、俺たちを無視すんじゃねーよ」


 移動しようとした俺たちを邪魔するように、第1王子レノックス殿下が立ち塞がる。

 それは、何か・・・たまたま虫の居所が悪かっただけなのかもしれない。

 それとも、仲間内で揉めたのかも。

 どんな理由があったのかは分からない。だが、レノックス殿下の敵意の矛先は、今、姫に向いていた。


「・・・おい、おまえ! おいっ!」

「・・・・・・」


 姫は無視する事に決めたようだ。

 彼の巨体に見下ろされると、それだけで緊張する。


 ・・・いつもだったら、こんなに(から)んで来る事はないのだが。

 他の王子たちも、貴族の腰巾着も止めようとしない。

 むしろ、面白がってさえいるようだ。


「無視するなと、言ってるだろう、がっ!」

「姫っ!!」

「!・・・邪魔すんじゃねえ!!」


 第1王子の伸ばされた腕から、姫を庇うのに間に入り。

 次の瞬間、横殴りの衝撃がきた。

 一瞬、頭が真っ白で・・・、痛みは後からやって来た。


「・・・・っっ!」


 凄まじく痛いんですけど! この馬鹿力め・・・!

 俺は心の中でだけ、レノックスに罵詈雑言(ばりぞうごん)をを浴びせた。

 ・・・どうやら、力任せの平手打ちを貰ったらしい。


「アフィニア!!」


 姫の悲鳴が聞こえる。

 駄目だ、冷静にならないと。

 くそ。・・・でもここは撤退の一手しかない。


「大丈夫、何でもありません!」

「ア、アフィニア!?」

「姫、大丈夫ですから! 早く行きましょう!」

「でも・・・!」


 腕を掴んで引っ張ろうとするのだが、姫が抵抗する。

 相手は王子殿下。揉める事にでもなれば、父さまや母さまにも迷惑が掛かる。

 ここは、ぐ・・・っと我慢なのだ。


「ち、クズ風情が庇い合いか? まったく麗しい友情だな?」

「何ですって!」


 だから、姫。挑発に乗ったら駄目だって。冷静になろうよ。

 ・・・はぁ、無理か。

 ならば、仕方が無い。


「レノックス王子殿下―――――」


 視線に魔力を込める。呪文でもなく、魔法でもないが・・・、視線の圧力を増す事が出来る。

 呆然とするレノックス殿下。


「もう、行ってもよろしいでしょうか―――――?」

「あ・・・、ああ。・・・行ってもいいぞ・・・」

「行こう、姫」

「え、ええ」


 姫の腕を掴んでこの場からさっさと逃げる。

 王子殿下が正気に戻る前に。


 後ろで「面白いな」と、聞こえた気がしたが、とりあえず無視した。





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 クリスタ王立学院入学を明日に控え、今日はゆっくりする事に決めた。

 学院は全寮制だ。

 国中から入学してくるので当然ともいえるが、入ってしまえばそうそう帰れないだろう。

 だから、父さまや母さまと一緒に過ごすのも(しばら)くお預けだ。


「お前の事だ。何も心配していないから思うようにやりなさい」

「私も心配なんてしてないわ。でも、たまには帰ってきてね」


 父さまも母さまも、目が潤んでいるのはお約束というものだろう。


「シャーリーも、アフィニアの事頼んだわよ?」

「はい、奥様。お任せ下さい」

「でも、ほんとにいいの? 養女にならなくて」

「苗字がほしいわけではありませんから。私は、アフィニア様のお世話をするためにいるのですから」


 それは違うと言っても、シャーリーは聞いてくれない。

 今度のクリスタ王立学院入学の事でも、シャーリーは本当なら1年以上前に学院に入れていたのだ。

 それを、俺の世話をしたいと言って今日まで屋敷にいたのだ。


 自分の道を見つけてほしいのだが。

 まあ、そう言うと「アフィニア様の世話をするのが私の道です」とか言うんだよな。


「モルドレッドも、父さまと母さまの事、ちゃんと守ってよ?」

「ガウッ!(まかしとけ)」


 なんか目と目で通じ合った気がしたぞ。


 そうして夜は更けていった。




「それで、何で姫がここにいるの?」

「ちょっとだけ、お父様にお願いしたの。権力って便利ね」


 ちっとも悪びれない姫。

 学院に、早期入学認めさせたのか・・・。


「こんな所にいつまでもいても仕方ありません。学院長に会いにいきましょう」


 正門の前で立ち止まっていては、さすがに目立ち過ぎるか。

 ここにいても始まらないからな。

 姫の手を取り、シャーリーの後を追うように門をくぐる。


 ・・・結構広いな。


「立派な建物だな。たくさん建っているし」

「たくさんの専科があるからね。あの塔みたいなのが魔法科よ?」


 姫が指差した建物を見る。

 俺は魔法を主に習うつもりなので、あの塔のような建物に通う事になるのだろう。

 まあ見るのは後でも出来るか。どうせ見飽きるほど見る事になるのだろうし。

 とりあえずは入学するのが先だ。


「学院長室ってどこだろうな?」

「それなら、正面の建物の1階にあります」

「シャーリーは頼もしいな」


 気のせいか、シャーリーは得意げだ。・・・前もって調べてきたとみえる。

 だが逆に姫はつまらなさそうにしている。

 何で?


「早く行きましょ」

「・・・そうだね」


 広い校庭を歩き、 校舎の玄関をくぐって。

 ようやく辿り着いた重厚な両開きの扉を開けると、風格のある初老の男性が待っていた。

 勧められるまま、ふかふかのソファーに座る。


「事前に提出していただいた書類には、不備は見当たりませんでした」


 学院長も、机を挟んだ対面のソファーに座る。

 厳格(げんかく)そうな人だ。

 あのりっぱなヒゲに教育者としての矜持(きょうじ)を表しているような気がする。


「では、セラフィナ・フォースフィールド・クリスタ、アフィニア・オクスタン、シャーリーオールの3名を当学院の生徒として認めます。ご入学おめでとう!」


 俺たちはそろって頭を下げる。

 その後はいくつか確認事項とか聞かれたのだが、酷く緊張する時間だった。


「肩が凝ったわ」

「同意だね。・・・さて、寮の部屋を確認しておく? 僕はもう、荷物は送ってもらってるから」


 わたしもよ、と姫。


「私とアフィニア様は同室です」

「姫は1人部屋なの? やっぱり」

「私は2人部屋でも良かったんだけど、一応王女だから・・・。いつでも遊びに来て」

「うん、お邪魔させてもらうよ・・・って、あそこにいるの第1王子じゃないの?」

「・・・そうね、レノックス殿下ね」


 遠く、校庭をどこかに向かって歩く王子殿下。

 周りには、腰巾着の貴族数人を引き連れている。


 でも、確か第1王子はもう、22歳になっているはずだ。

 この学院では21歳の誕生日を迎えたら、放校処分になるはずだが。


「なんで居るんでしょうね」

「あれでも王族の一員ですからね。あなたが教えてくれた、無理を通せば道理が引っ込むって事でしょうね」

「その使い方、合ってるかな? まあ、11歳の誕生日が来る前なのに、ここにいる姫が言えることではないね」

「酷い言われ様だわ」

「いえいえ」

「あなたが好きだから一緒にいたいだけなのに・・・ってなんで赤くなってるの?」


 姫、そんな誤解させるような事、言わないで下さい。

 分かってますけどね。そう、友情です、友情。


 姫はたまに不意打ちをしてくるから困る。

 本人はまったく、そんな気などないだろうがな!





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「意外に小さい寮だね」

「お屋敷に比べたら小さいでしょうが・・・、寮としては普通・・・なのでしょうか?」


 姫も含めて、俺たちが入る寮は小さかった。

 2階建ての小ぢんまりとした建物だ。

 今の時期、ここしか丁度開いてなかったというだけなのだろうが。


「これ、ギュウギュウでも10人が精一杯だと思う」

「寮の中は立派かもしれませんし、入ってみましょう?」


 うん。大きなお屋敷に慣れすぎたかもしれない。

 日本の家屋はこれで普通なんだよ! これでも大きいほうなんだよ!


「お邪魔しまーす」

「お邪魔いたします」

「失礼するわ」


 寮の扉を開ける俺たち。


「おお、遅かったね。あたしがこの寮の寮母のクレアだ。よろしく頼むよ」


 出迎えてくれた少し小太りな中年の女性が、俺の背中をバシバシ叩いてくる。

 あの・・・、力加減間違えてませんか?

 いや、いい人そうなんだけどね。


「部屋に案内するよ。ついておいで」


 2階への狭い階段を上る。姫も同じ2階らしい。

 外からの見た目通りの建物のようだ・・・。


「2階に3部屋、1階に2部屋と食堂と風呂と管理人室があるよ。あたしはだいたい管理人室にいるからね」


 なにかあったら、遠慮なく言うんだよ、と言ってガハハと笑う。

 

「廊下がギシギシいってます」

「そ、そうだね」

「ここが姫さんの部屋で、こっちが2人の部屋だ。確かめてみな、荷物は入ってる。もう一つの部屋は・・・今は出掛けてていないみたいだから、夕食の時にでもまとめて紹介しようかね」


 何年お世話になるか分からないが・・・まあ、住めば都と言うしな。


「クレアさん、よろしくお願いしますね」

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