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アフィニア日誌  作者: 皇 圭介
第一部 ジンバル王国編
12/50

10.5話 「姫さまが我が家にやって来た<最終日>」

「・・・・・・ん」

「アフィニア様、アフィニア様・・・起きて下さい」

「ん~、あと5分だけお願い・・・」

「ふふっ。まったく・・・アフィニア様は昔から寝ぼすけさんな所、変わりませんね・・・」


 文句らしき事を言っているものの、彼女は満足そうな顔をしている。そう、明らかに世話を掛けられる事が嬉しくて仕方ないようだった。

 彼女はシャーリーオール、アフィニアがシャーリーと呼ぶアフィニア専属のメイド。綺麗な褐色の肌と長く伸ばした銀色の髪を持つ闇族の少女。

 ところでゴフンとは何なの?


 朝、昨日に続いて朝寝坊したアフィニアを彼女とともに2人で起こしに来た。布団が引っ剥がせば早いとは思うものの、昨日散々文句を言われたので様子見をしている所なんだけど。

 なんていうか、アフィニアの専属メイドは甘々だ。


 甘やかす事が自分の幸せといった所?


 『王女』などという立場な私にも当然ながら専属メイドはいるし、甲斐甲斐しく世話もしてくれる。だが、彼女達はあくまで仕事なのだ。はっきり言ってしまえばお金のためだ・・・別にそれは悪い事ではないのだが。

 しかし、このシャーリーというメイドは何か違う感じがする。


「さっさと起きて早朝鍛錬するわよ。オクスタン卿は今朝はいないけれど、ねっ!!」


 結局今日も布団を引っ剥がす事になった。





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「ねぇ、あなたって普通のメイドっぽくないわね?」


 早朝鍛錬後、早々にバテたアフィニアはお風呂へと向かった。シャーリーも彼女の後に付いて行こうとしたのだが、このメイドと話がしたかったので庭に残ってもらった。


「まだ3年目ですので、至らない所は多いと思います。何か私はお気に障る事をしましたでしょうか?」

「していないわ。・・・なんていうか、私の専属メイドとかとかなり雰囲気が違うから、ちょっと話を聞いてみたかったの。ここで働いてる人たちは皆明るいけど、それともまた違うみたいだったしね」

「私のアフィニア様に対しての態度が変、という事でしょうか?」


 私の聞きたい事を理解してくれたようだ。まあ実際、昨日やその前の晩にも私とアフィニアのお風呂に乱入してきたりしたし、アフィニアに対して何らかの感情はあるのだろう。

 だが、アフィニアが男なら理解できるのだが、女なんだぞ?


「シャーリーは実は男だとかいう事はない?」

「いえ、女です」


 うん。昨日もお風呂で見たから、そんな事はないのは分かってるのだけど。


「セラフィナ様は、アフィニア様が女性であるのにも(かかわ)らずに、私が抱いている気持ちが変だと思われているのですね?」

「変というか・・・女同士でしょう?」

「私はアフィニア様が好きです。男であろうと女であろうと関係ありません・・・アフィニア様だからお慕いしているのです」

「そ、そう・・・」


 うーん、あんまり深入りしない方がいいか。・・・アフィニアはやっと手に入れた貴重な友達、そして味方なのだ。多少、性癖が歪んでいても気にしないようにしよう。それがいい。


「姫、お風呂出たけど入らないの?」

「入りますわ」


 アフィニアがお風呂から戻ってきた。まあ、シャーリーとは話はまた次でも出来るか。私は立ち上がってお風呂場へと向かうのだった。





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 朝食後、アフィニアはちっちゃな家らしきものを作り始めた。聞くと見たまんま犬小屋だという。


「モルドレッドをここで飼うんだ」

「そう」


 そのモルドレッドはそこの庭でのんびりと横になっている。

 虎を飼うのに犬小屋なのか。イマイチよく分からないが、アフィニアがそう言うのだからそうなんだろう。

 しかし上手いものだ。作業を見ていると次々と魔法のように組み上がっていく。


「手慣れたものね。今までにもこういった物を作ったことがあるの?」

「うん、何度かね。前に飼ったのは犬だったけれど」

「・・・犬、ですか?アフィニア様が動物を飼われるのは初めてと聞きましたが・・・」

「・・・・・・シャーリー、誰に聞いたの?」

「奥様ですが・・・」


 アフィニアの顔がクルクルと変わって面白い。青()めてみたり悩んでみたり。


「・・・僕の勘違いだった。うん、動物を飼うのは初めてだった。いやー、勘違いってよくあるよね?」


 いや、それはあからさまに怪しすぎる。そしてあまりにも苦しい言い訳ではないだろうか?

 それで納得する人間がどこにいるというのだ。


「・・・そうでしたか。勘違いは誰にでもよくあります」

「それで納得するんだ・・・」

「・・・」

「なんでもないわ」


 犬小屋を作る作業に戻るアフィニア。シャーリーと2人、再びそれを見守る。


「姫は今日の昼過ぎには王都に帰るんだよね?」

「そうよ。また憂鬱な時間が始まるのですわ」

「・・・」

「・・・?」


 いつのまにかアフィニアがこちらをジッと見ているではないか。私は何か見られるような事をしたか?


「姫。普通の言葉で話してもいいんだよ?」

「何の事を仰っているのですか?」

「いや、だから言葉使い。姫はたまに言葉使いが無理して丁寧になるよね?まあ、公式の場とかでは気を付けなければならないんだろうけど、僕と2人きりの時ぐらいはさ?」

「アフィニア様、私もいるのですが」

「・・・僕とシャーリーの前ぐらいはいいんじゃないかな。普段の言葉使いで」

「・・・・・・」


 驚いた。なるべく気をつけていたつもりなのに、どこでミスしたのかな・・・?まあいい、そう言うのならば遠慮なくそうさせてもらうだけだ。

 それは凄く魅力的な事なのだから。


「分かった。じゃあ、これからはアフィニアとシャーリーの前では気楽に行かせてもらう事にするから。・・・時々だけどね」

「そうそう」

「だったら、その犬小屋作りを私にも手伝わさせなさい。何か見てて面白そうだもの」

「姫の馬鹿力だと壊れそうなんだけど」

「か弱い姫君である私に向かってどういうつもり・・・!?」


 モルドレッドがフワァと大きな欠伸をした。





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 そして昼食後。


「それでは・・・レディ、短い間でしたがお世話になりました」

「また何時でもいらしてくださいね。私たちは姫様のお越しをいつでも歓迎しておりますから」

「ありがとうございます」


 挨拶が終わり、馬車に乗り込む。来た時と同じく護衛としてオクスタン卿が付いている。来た時と同じでないのはアフィニアがいない事だけだ。やっぱり付いて来させた方が良かったかな。

 今から4時間の間、1人というのはあまりにも退屈だ。だが、だからといってアフィニアを同じ目に遭わせるのは可哀想だ。今度は王都から帰る時にアフィニアが1人になる。


 馬車がゆっくりと動き始める。

 ・・・でもこの3日間は面白かったな。久しぶりにノビノビ出来た気がする。

 本当に城にいると息が詰まるのだ・・・3人の王子たちは底意地が悪いし。特に一番上の兄王子は物理的に絡んでくるから始末におえない。

 もう1度ため息をつこうとした時、急に馬車が止まった。


「何・・・?何かあったの!?」


 そして馬車の扉が乱暴に開けられる。そこから顔を出したのは・・・。


「!!」

「はは、姫・・・来ちゃった」


 入ってきたのは息を切らしたアフィニア。まあ考えてみれば、この馬車の護衛に付いているのは王国で3本の指に入る剣豪であるオクスタン卿なのだ。滅多なことがそうそうある訳もない。

 争うような声も無かったし。


「アフィニア・・・私を驚かせた罪、簡単に許してもらえるとは思わないでよ?」

「それは、王都までの姫の寂しさを紛らわせてあげる事で許して?」

「さ、寂しい訳がないでしょ!?退屈だっただけなのよ!?」

「うんうん、分かってる分かってる」

「アフィニア、全然分かってない。これは王都までじっくりと教えてあげないとならないようね」


 そう、王都に着くまで。

 たった4時間の間だけだけど、この楽しい時間が続くのが今は凄く嬉しい・・・。

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